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secret*days


【secret*days】

 

「誤射に注意しろよ、ルーク」
「は、はい…」

GIGNの射撃場に居るのはGIGNの軍医であるギュスターヴ・カテブことドクと、その相棒である恋人であるジュリアン・ニザンことルークである。

ここ最近、射撃の腕が落ちてしまったルークはドクに射撃の練習を見てもらうことにした。

本来であれば専門外のことではあるが恋人からの頼みであれば断れるはずもなく、ドクはルークと共に射撃場に居たのだ。

「…それにしても何処が下手なのか私には分からない。ルーク、充分に君は射撃の腕はいいと思うが…」

銃のメンテナンスをしているルークにドクが声をかければ、ルークは銃のメンテナンスをやめてドクの顔を真っ直ぐと見つめる。

「貴方に何かあった時に守れないのが嫌なんだ」

青い瞳は力強さと輝きで煌めいていた。ドクを見つめるルークはいつだってドク自身を愛しげに、そして大切そうに見ていた。

「私だって君に何かあったら嫌なんだ。だからその為にきつい訓練だって乗り越えて来たんだ。ルーク、君は自身が弱いと卑下するが私から見たら君は強くて逞しい。充分に努力をしている姿を私は知ってる、だから…」

「…ギュスターヴ、今は仕事中なのに…」

ルークはドクの名前を愛しげに呟けば彼の腕を掴んで己の身体に閉じ込めてしまう。

…じわりとルークの体温がドクのアサルトスーツ越しに伝わってくる。それと同時に穏やかな鼓動と彼の匂いに包まれていく。

ドクはルークの背中にそっと腕を回して彼の耳元で囁いた。

「…ジュリアン、私は君の努力している所や一生懸命な所、そして優しい笑顔が大好きだよ」

「…うん」

「毎日一生懸命、みんなが帰った後も訓練したり銃のメンテナンスをきちんとしたり、何かに一生懸命になっている君を私は見て来た。そんな君だから私は惚れてしまったんだ。だから、少しは自分に自信を持ちなさい。それとも私が君を好きなことは君の自信にはならないかな」

ドクの言葉を聞いたルークはより彼を強く抱きしめて呟いた。

「…貴方にそこまで想って貰えているのに俺はまだ弱い。だけどギュスターヴ、貴方が俺を想って好きと言ってくれたことはその、正直に嬉しくてたまらない。相棒以上の関係から恋人になれた時は夢だと思った。ギュスターヴ、俺は貴方に見合う存在か?」

ルークの言葉を聞いたドクは彼の瞳を真っ直ぐ見つめて簡単にだが言葉を返した。

「…君に価値なんかつけられない。私にとってジュリアン、君は最高の相棒であり恋人なんだから。だからジュリアン、自信を持ちなさい。そしていつも見たいな笑顔で居てくれ。私の幸せは君の幸せだから、ね?」

「ギュスターヴ、貴方に出会えて本当に良かった。俺、少しだけ辛かったんだ。銃の腕が落ちて貴方を守れなかったらどうしようとかそんな不安ばかり抱えていたけどもう大丈夫。貴方の言葉と気持ちが俺の支えだ。…愛してるよ、ギュスターヴ…」

「うん、私も君を愛してる」

射撃場には二人きり。

夕焼けが射撃場で抱きしめ合う二人を淡く照らしていく。やがて唇が重なり合うころ、夕焼けは沈み、夜になるだろう。

どんな事があったとしても二人の想いが潰えることはない。

お互いを大切にし、そしてかけがえのない毎日を共に過ごしているのだから。

儚くも、お前は…

【儚くも、お前は…】


朝、目を覚ませばベッドに有った温もりが消えており、フューズの背中には冷や汗が流れていた。

(…カプカン…?!)

ベッドから出てリビング、そしてテラスへ足を伸ばせば夜明け前の空と同調するかのように、カプカンはテラスで煙草を吸って空を切なげに見上げていた。

「…フューズか、どうした?」

「…お前が勝手に居なくなったのかと思って焦った。カプカン…、お前は…」

「煙草くらい、自由に吸わせてくれよ。後、勝手に居なくなったりはしないから安心しろ」

煙草を消しながらカプカンはフューズに儚げな笑みを向ける。フューズはそれに惹かれるようにテラスへと足を進め夜明け前の空を見上げた。

フューズとカプカンはかつて、ただの身体の関係…、『愛人契約』を結んでいた。お金を払いカプカンを抱くだけのフューズと、お金を受け取り抱かれるだけのカプカン。

二人を結んでいたのはお金と欲だけだった。

しかし一番最初にフューズに惚れたのはカプカンだった。気がつけば快楽ではなく欲していたのはフューズの心、そして愛情だった。

『お前に抱かれるのはこれが最後だ』


半年前、何も言わずにフューズの目の前から居なくなったカプカンをフューズは決死の思いと覚悟で探しだし、自身の手元に留まるように説得したのだ。

『あんたを心から愛したい、身体だけなんてごめんだ…』

『…それはこっちの台詞だよ、カプカン…』

二人が本当の意味で結ばれてから早くも半年が過ぎていた。フューズが眠っている間にカプカンがベッドから抜け出すと、未だにフューズは不安に駆られてしまう。

…二人で見る夜明け前の空は儚くも綺麗だった。夜空と始まりの朝日が混じり合ってコントラストを生んでいく。

「…なぁ、フューズ」

カプカンは小さくフューズと呟いた。フューズは隣に立ち並ぶカプカンの横顔を見つめて彼の肩を抱き寄せる。

「どうした?」

「俺がお前の隣に立ち並ぶのは奇跡だと、ずっと前にお前は言ったよな?俺が勝手に居なくなるんじゃないかと、お前は不安に駆られているんなら…、それは余計な心配だよ」

カプカンはフューズの唇にそっと顔を寄せて自ら唇を重ねて目を瞑った。フューズはそっとカプカンの唇に舌を割り込ませて絡ませていく。

熱い吐息はお互いの唇から漏れていく。


「…カプカンっ…!」

「俺は自分自身の意思でフューズ、お前の隣に居るんだ。だから余計な心配はするな、お前だけを見てるんだ、ヨソ見はしていない。安心しろ」

「…この幸せが本当に続くのか心配だった。俺の隣に居ることでお前が不幸になっているんじゃないかと不安だった。…だけどそれは余計な心配だったみたいだな」

儚げな空は朝を迎えるためにキラキラと空に輝きを帯び始めていた。まだ外は寒い。フューズはカプカンの腕を掴んでベッドルームへと彼を連れていく。

「…何するんだ?」

「寒いだろう、温めてやる」

「…はっ、まったくお前には敵わない」

フューズはカプカンをベッドに沈めて優しく唇に口付けを施していく。儚げな笑みを浮かべていたカプカンの表情は何処か嬉しげで。

やがてカプカンはフューズの広い背中に腕を回し、与えられる快楽に身を任せていった。

 

 

 

 

 

 

俺は俺自身の意思でお前の隣に居るんだ。

フューズ、俺を見つけてくれてありがとう。

俺はお前をー・・・

海賊の恋人


【海賊の恋人】

 

「ほら、そんな不機嫌そうな顔をするなよ。お前は何が不満なんだ?囚われの身でここまで待遇を良くしてるのに。何でお前はそんなに俺を嫌う?」

海賊のキャプテンであるバンディットに囚われて早くも一年。海軍の下っ端であるイェーガーはバンディットに何故か気に入られ、人質の身でありながらも比較的自由が許されていた。

満月の夜、海にぷかりと浮かぶ船の上でバンディットを睨みつけるようにイェーガーは彼を見つめる。

「…俺はお前を殺す為にこの場所に潜入したのに。なのにお前は俺を所有物のように扱ってここに置いてる。バンディット、お前は何で俺に執着するんだ。…ただの下っ端海軍である俺に執着する理由はなんだ?」

月明かりがバンディットの顔を淡く照らす。古い傷跡と整った顔立ちをより端正に映し出す。

「俺がお前に執着する理由?…簡単さ。イェーガー、お前が初めてこの船に乗り込んで俺を殺しにかかってきた事を覚えているか?その時のお前の『瞳』に惹かれたからだ。俺を殺そうとして来たお前の『瞳』が綺麗だった。それにお前は一つ勘違いをしているぜ」

バンディットはイェーガーを背後から抱き締めて静かに呟いた。

「…執着なんてもんじゃない。イェーガー、お前を人質にして一年も経ってるけど俺がお前を殺さず俺の隣に置いてるのはお前に惚れてるからだよ。敵対している事には変わりないがイェーガー、俺はお前が大切なんだよ」

穏やかな潮風は二人の頬をふわりと掠めていく。バンディットの体温が背中越しに伝わるのを感じたイェーガーは顔を赤らめながらそっとバンディットの手を握りしめた。

「…お前は悪趣味過ぎるぞ、いつ俺がお前を殺すか分からないのに。俺は下っ端でも海軍だ…、惚れてるなんて馬鹿だろう…」

イェーガーはバンディットを殺す為に彼の海賊船に侵入した。しかしバンディットは直ぐにイェーガーが敵だと勘づき彼を人質として軟禁したのだ。

しかしバンディットはイェーガーに惚れ込んでしまった為に彼をずっと手元に置き続けている。

「お前に俺は殺せない。…お前だって俺を好いているだろう?知ってるんだぜ、お前が俺を思って一人で慰めたりしてることとか色々な」

「…っ…!それはお前が俺を抱くからだろう?!お前のせいで俺はお前無しじゃ生きられなくなったんだ…」

「じゃあもっとお前に教え込んでやらないと。イェーガー、俺がどれだけお前に惚れ込んでいるか。船内に戻ろう、お前を抱きたい…」

静かに揺れる瞳には情欲の炎が点り始めていた。イェーガーは静かに頷いて正面からバンディットを抱きしめ返した。

 


「んっ、んぅっ…」

「相変わらずお前の中は狭いんだな…、俺だけしか受け入れた事がないってのが良くわかるぜ…っ」

船内にある一番大きな部屋は船長室、すなわちバンディットのプライベートな空間だ。誰も入ることが許されないこの部屋のベッドの上でバンディットはイェーガーを抱いていた。

「あ、当たり前じゃないかっ…、俺は男だ、女じゃない…!」

「そんなの分かってる、お前が初めて受け入れてくれたのが俺で嬉しいんだよ…、はぁ、お前の中は熱くて気持ち良いよ。イェーガー、中で動いていいか?」

「か、勝手にしろよっ…、んっ、あぁっ…!」

バンディットはイェーガーの華奢な腰を掴んで彼の中に自身の熱を押し進めて行く。直に伝わるバンディットの熱にイェーガーは苦しげに涙を浮かべながら呟いた。

「馬鹿っ…、少しは小さくならねぇの…?」

「好きで好きで堪らない奴を抱いているのに萎える奴が居るか?…残念だが俺はイェーガー、お前に惚れ込んでるから悪いけど小さくなんてならないぜ」

「んっ、くぅっ…、そうかよっ…」

中で動いては自身の感じる所をピンポイントで攻めてくるバンディットにイェーガーは抵抗すら出来ずにいた。

イェーガーはバンディットの顔に手を伸ばし、彼の顔に残る傷跡を指で撫でた。そう、バンディットを殺そうとした時に付けた傷跡だった。

イェーガー自身が彼の側にいて逃げ出さないのもこの消えない傷跡を彼の綺麗な顔に残してしまったからだ。

「…イェーガー、何を考えてる?」

「お前の綺麗な顔に消えない傷跡を残しちまった。っ…、だから、俺は贖罪の為にっ…」

「贖罪の為にお前は俺に抱かれてるのか?」

切なげに歪むバンディットの表情は酷く苦しそうだった。イェーガーの胸はぎゅうっと締め付けられる思いでいっぱいだった。

「…違っ…、俺も本当はお前を…っ、バンディット、お前のことっ…!」

「良いぜ、お前の気持ちを俺だけに聞かせてくれ。イェーガー、お前の『本当の気持ち』を俺の顔を見ながらちゃんと教えろっ…!」

バンディットの瞳は少しだけ緩く弧を描いてイェーガーを優しく見つめる。その表情を見た瞬間、イェーガーは瞳に涙を浮かべながら彼の熱をぎゅうと締め付けた。

「っ、す、好きっ…、バンディット、バンディットっ…!お前が好きだっ…、苦しいんだ、お前を想うたびに、お前を好きになって行くたびに…、心が…苦しくなるっ…、んっ、あ、あっ…!バンディット、好き、大好きっ…」

「…可愛いなぁ、本当に」

バンディットはイェーガーの瞼に口づけを施し、彼の中で達する為に身体を揺らした。愛しげに細められていく瞳を見つめながらイェーガーは意識を手放していった。

 

 

穏やかな太陽の光が波に反射して船長室の窓に光が射し込んで行く。バンディットに抱き締められたまま、イェーガーは身動ぎをする。

「…あれ、もう朝…」

「起きたのか?」

「っ…!起きちゃ悪いかよ…」

「もう少しだけ眠っても良いんじゃないのか?イェーガー、お前って子ども体温で熱いんだな。心地良くて離したくない…」

珍しく甘えてくるバンディットにイェーガーはバンディットの胸に顔を寄せて呟いた。

「…お前は俺を一生手離すつもりはないんだろう?」

「…そうだな、出来ればずっと一生一緒に居たいと思ってるぜ。まぁ敵対者同士だから叶わないんだろうけど…」

「なぁ、バンディット、お前の配下に付く奴らは皆タトゥーを入れているよな?この海賊船の海賊旗の紋章を…」

「そうだな、しかしそれがどうしたんだ?」

不思議そうに尋ねてくるバンディットにイェーガーは小さな溜息を吐きながら呟いた。

「…俺は海軍だけど、海賊であるお前の…その、なんだ。恋人なんだろう?だったら俺もお前に誓いの印を付けてもらいたいと思っただけだ!嫌ならいい。直ぐにでもここを出て行く…」

「イェーガー…!!」

「んっ、んっ…は、あっ…」

バンディットはすぐさまイェーガーの唇を強引に塞ぎ、舌で彼の口内を弄ぶ。息苦しくなったころ、ようやくバンディットはイェーガーから唇を離した。

「…イェーガー、誓いの印を付けて欲しいなら毎晩付けてるだろう?所有の跡をお前の身体に沢山付けてるじゃないか。お前はもう、一生俺から離れられない。いいや、絶対に手離さない。こんなにも愛しくて大切にしたいと思える奴はお前が初めてだから…」

バンディットは愛しげにイェーガーの身体を抱き締めた。イェーガーもまた彼の広い背中に腕を回して目を閉じだ。

あぁ、穏やかな波の音が聞こえてくる。緩やかな潮風は海賊旗を揺らしているんだろうな。

なぁ、バンディット…。

俺は確かに囚われの身かも知れない。

だけどいつからだろうな。

俺もお前とずっと一緒に居たいと思うようになっちまった。俺は海軍でお前は海賊の船長…、キャプテンだ。

…絶対に手離さないで。

…俺もお前から絶対に離れてなんかやらない。

…バンディット、俺はお前に心も身体も想いも…。

全部捧げる覚悟でお前の隣に居るんだから…。

 


広大な海の上に浮かぶ船の中。

一人の男は一人の男に一生を捧げる誓いを施した。この広い海の世界で誰も知ることのない恋の物語が紡がれていく…。

誰も知らない、たった一つの小さな恋の物語。

 

beginning×lover×night《後》

私の気持ちなんて、絶対に君になんか教えてあげない。

私がどれだけ君に恋い焦がれているかなんて絶対に教えてなんかあげない。

ねぇ、教えて欲しいなら…。

私のことだけを見て?

 

【beginning×lover×night】

 


3.ギュスターヴ・カテブの想い

 

ずっと気になっていたカフェに行くのに誰を誘おうかなんて、初めから決まっていたのだ。

大好きな君。

海のように透き通って、太陽のように明るい君を私はずっと前から思っていた。

だからこそ、私の息抜きを名目にしたお出かけに嫌な顔をせずに付き合ってくれたことが本当に嬉しかった。

大好きな甘い物を、大好きな君と味わうことの出来たこの時間は私にとって最高で最上の時間である。

一生忘れない。

たとえ君が他の誰かを好きだとしても、私は君を思ってる。

大好きなんだよ、ジュリアン…。


***


「いやー、今日はありがとう。君のおかげで息抜きが出来たよ。明日からまた仕事だけど頑張ろうね」

「こちらこそありがとうございます、ドク。貴方も早めに休むといい…」

楽しかった時間はあっと言う間に過ぎてしまった。

もっと君と過ごしたかった。

もっと君と話したかった。

まだ、一緒に居たいんだ…。

気がついたら私はジュリアンの服の袖を摘んで彼を引き止めてしまう。

「あっ…、その…」

「どうかしましたか?」

「…まだ時間はあるのかい?良かったら夕飯一緒に食べない?昨日作り過ぎちゃったから…」

あぁ、もう。

情けないなぁ…。

君と一緒に居たいからって、ただの同僚なんだからしつこく誘ったら迷惑なのに。

「…夕飯ですか?いいですよ、丁度お腹も空いて来たから作ろうと思っていたんです。しかし貴方の作った食事を食べることが出来るなんて嬉しい」

そんな嬉しそうに笑わないで。

こっちまで嬉しくなるじゃないか。

「…ドク?顔が赤いけど…」

「あ、い、いや…!大丈夫!じゃあ私の部屋に行こうか。君の部屋からは少し離れているけれど。昨夜の残り物はシチューなんだけど大丈夫?」

「全然大丈夫です、むしろ好物ですよ。貴方こそ、熱は無い?貴方の体調が心配です」

「私は大丈夫!良し、行こうか…」

心臓が煩い。

私は知ってる。

…こんなにも鼓動が煩い理由を。


***


ジュリアンを自室に呼んだのは初めてのことだった。ただの同僚で、友人として一緒に食事をしたりすることはあっても『片想い』の人として二人きりになるのは初めてだった。

「何か手伝いますか?」

「大丈夫だよ、君は座っていて」

「でも…」

「すぐに用意できるから」

「分かりました」

私は昨晩のシチューとパンをトーストしたものを用意した。あ、あとは飲みたい気分だから赤ワインも用意しなければ。

 


「お待たせ、冷めないうちに召し上がれ」

「いただきます」

「大したご飯じゃないけれど…」

夕飯の用意を終えて席について私とジュリアンは少し遅めの夕飯にありついた。

目の前に座る彼を直視出来ないほど、私は彼に惚れ込んでしまっているんだと、改めて二人きりになると感じてしまう。

…そう、所詮は片想い。

…君は人望もあり、周りから好かれている人気者なんだから…。

私なんかに興味なんて…、

興味なんてないだろうなぁ…。


「ドク?飲むペースが早くないか?」

「え?あ、あー…。今日は飲みたい気分なんだ。私はお酒には強いから安心しなさい。どう?夕飯は口に合ったかい?」

「すごく美味しいし、貴方が用意してくれたワインが良く合います。料理が出来て優しくて、貴方は素晴らしい人です」

ジュリアンも少しだけワインのせいでか色白な頬が赤く染まっていた。いつもよりも饒舌になる君がこんなにも可愛くて仕方ない。

…きっと君には好きな人がいる。

…だから、私の心に秘めておくだけ。

こんなこと、絶対に君に面と向かって言えるわけない。

報われないと、分かっているのだから…。

お酒と食事は進んでいく。

君がつけば食器の中のシチューは空っぽで、ワイングラスに一口分のワインだけが残っていた。

ジュリアンも丁度食事を終えたのか、青く透き通る瞳で私を真っ直ぐ見つめてくる。

「…ドク、今日は貴重な休みにお出かけに同行出来て楽しかったです。普段見れない貴方が見れて何だか新鮮だった」

「わ、私の方こそ貴重な休みに付き合わせて悪かった。ルークが一緒に来てくれたお陰で食べたかったケーキも食べれたし。ありがとう」

「…いいえ、礼には及びませんよ」

「…あ、あぁ…」

何とも言えない空気が私とジュリアンの間に漂い始める。もう少しだけ。

…もう少しだけ一緒に居たい…。


「…明日も早いから俺は部屋に戻ります、ご馳走さまでした」


ジュリアンは椅子から腰を上げて部屋を出て行こうとする。

…まだ一緒に居たい、お願い…。


「…嫌だ…」

「え…?ドク…?」

「まだ君と居たい、まだ時間はあるだろう?部屋にまだ戻らないで、私の隣に…」

気が付けば部屋に戻ろうとするジュリアンの腕を掴んで引き止めてしまった。

分かってる、分かってるんだ。

これがどんなに無駄なことかってことくらい、私だって十分理解しているんだ。

「…貴方って人は何処まで俺の心をかき乱すんだ。ドク、どうしてそこまで俺を引き止めたがるんですか?」

…その言葉の真意を。

…君に伝えてしまっても…。

良いのだろうか…?

 

「…ルーク…、君が好きなんだ…。だからもう少しだけ一緒に居たい。君がずっとずっと好きだったんだ。いきなり過ぎてごめん。君を恋慕の相手として好きなんだ…」

口に出してしまえば簡単に言葉として紡がれていくこの想いは君に伝わるか分からない。

分からないけれど…。

「…嘘じゃないよね」

気が付けば君の腕の中に私は閉じ込められていた。

「….私は嘘と偽善が嫌いだよ、全ては本意であり君を想って過ごして来た日々はかけがえのない日々ばかりだった」

…どうして君は私を抱き締めてくれるんだ?

…どうして君はそんなに顔を赤くして私を見てくれるんだ?

…どうして?

 

「…ドク、俺も貴方をずっとずっと…」

 

ーーあぁ、君って人は本当にー・・・

 


「貴方をずっとずっと想って来ました。大好きです、ドク。俺も貴方を慕ってます。貴方に恋い焦がれて毎日を過ごして来ました。何度貴方を想って来たことか。これからはもう、ずっと貴方の隣に居れますね」

…臆病だった片想いが、両片想いになり、そして両想いになったこの瞬間を私は一生忘れない。


…小さな温もりがそっと、落ちてきた。

 

4.始まりの恋と朝

 

朝、目を覚まして食堂に足を運べば大好きな君がすでに席を確保してくれていて穏やかな笑みを浮かべて私を見つめてくる。

「おはようございます、ドク」

「…おはよう、ルーク」

「今日はちゃんとサラダと炭水化物も盛り付けて有るんですね、偉い偉い」

「ちょっ…!私を子ども扱いするのはどうかと思うが…」

「俺に頭を撫でられるのは嫌いですか?俺は貴方が好きなんだけれど…」

「私だって、ルークが大好きさ。ただこういう事は二人きりの時にして欲しい。周りには仲間だっているし、恥ずかしいじゃないか」

「恥ずかしがる貴方もまた可愛い」

「…まったく君って人は…」

席について食事を始めれば、片想いの時とは違った光景が目の前に広がっていた。

「ドク、今日の夜は時間ありますか?」

「…うん、時間なら幾らでもあるけれど何か用事でも?」

「一緒に夕飯を食べませんか?貴方とこれからの話をしたいんです、休みの時の予定とかこれからの未来の話を。相棒として、恋人として」

「それはたまらなく楽しそうだね、ジュリアン、君の作った夕飯を食べれるなんて私は幸せ者だね。君の隣に居れる毎日に感謝しないと、ね…?」

「…ドクっ…!名前呼びは不意打ちですよ!もう仕事が手に付かなくなる…」

「ふふ、君って人は本当に可愛いんだから。仕事頑張ろうね、ジュリアン」

「…えぇ、頑張ります。ギュスターヴ、好きです」

もう、ほら。

…君だって不意打ちじゃないか。

両想いになって初めて君と迎える朝はこんなにも幸せだとは思わなかったんだ。

ジュリアン、君を想って恋い焦がれた時間は無駄じゃなかったんだね。

これからもどうか私の隣に居てください。

…大好きな、君の隣で笑って居たいのだから。

 

 

風邪引きワンコとお医者さま

【風邪引きワンコとお医者さま】

 

「ほーら、ルーク!風邪引いてるんだから起きちゃ駄目じゃないか。お粥は食べれるか?口を開けなさい」

「え…?あ、あーん…」

「はい、良く出来ました。まったく君は若いからって無茶をするんだから。今日は一日私が看病してあげる」


ジュリアン・ニザンの風邪が発覚したのは昨晩のこと。いつもより顔色が優れないことに気がついた恋人のギュスターヴ・カテブはすぐにジュリアンの看病を始めた。

処置が早かったために高熱は微熱まで下がったが、普段から健康優良児であるジュリアンにとって、微熱ですら辛いものだった。

ギュスターヴが作ったお粥をジュリアンは彼自身に食べさせて貰いながら彼の瞳を見つめた。

「…何だか恥ずかしい」

「そうか?私は何だか楽しいけれど。君には早く元気になって欲しいんだ。じゃないと…ほら、ね?」

何だか意味深な言葉を呟いたギュスターヴをジュリアンは数秒遅れて顔を赤くしながら睨んだ。

「あ、貴方って人は…!」

「君だって私を抱けないのは辛くないのか?…私は辛いよ、大好きな君になら毎日抱かれたいと思ってるんだから。…こんな私は嫌い?」

ブラウンの瞳は微かに揺れている。

…ほのかな欲情の色がちらちらと。

 

「…風邪、移っちゃう」

 

我慢を知らない軍医は大好きな恋人を求めるかのように、そっと彼に手を伸ばして囁いた。

熱で言うことを聞かない身体を無理やり起こしてジュリアンはギュスターヴの身体を抱き寄せた。

 

「貴方はお医者様なんだから、風邪なんて引いたら…」

 

「…その時は、君が看病して?ね?」


ギュスターヴはジュリアンをゆっくりと押し倒して首筋に舌を這わせていった。


***


「熱が有るからこんなに反応しているの?ジュリアン、気持ちいい?」

ベッドの上でギュスターヴはジュリアンの熱に舌を這わせながら彼を上目遣いで見つめた。

ジュリアンは口から熱い吐息を漏らしながら一生懸命自身を咥え込むギュスターヴの頭を優しく撫でる。

「んっ、うんっ…、貴方は本当に、本当にっ…」

「すごいね…、いつもより濡れてる。私が舐めてることに興奮してくれてるのか?…風邪引きの身体には酷かも知れないけれど、一回出しなさい…」

ギュスターヴはジュリアンを熱を歯で甘噛みしながら喉奥まで咥え込み、そして愛しげに吸い上げた。

「っ…、出るからっ…」

「………っ、熱いな…」

ジュリアンから吐き出された白濁を惜しみなく飲み干すギュスターヴはジュリアンの顔を愛しげに見上げた。

官能的に濡れた唇の赤、
僅かに羞恥に染まる頬、
…この人は本当に可愛い。

「ギュ、ギュスターヴ…?」

「出したばかりなのにまた反応してる、若さってすごいね。ジュリアン、君は何もしなくていい。私が勝手に動くから…」

「あっ…!ちょ、ちょっと…」

「静かにしないと身体に響くだろう?」

ギュスターヴは自らジュリアンに跨り、そっと腰を沈めていく。

ジュリアンの熱は意図も簡単にギュスターヴに飲み込まれていき、そして包み込まれて行く熱と快楽にジュリアンは甘い声を漏らしてしまう。

「あっ、あっ…、ギュスターヴっ、ギュスターヴっ…」

「熱のせいか?…いつもより君のがすごい大きいよっ…、ジュリアン、私は君が大好きだから…、だからこんなにも君を求めてしまうんだ、こんな私は嫌い?」

….嫌い?

…いいや、むしろ…。

…むしろ、愛しくてたまらないんだ。

ジュリアンは快楽に溺れながらギュスターヴの腰を掴んで彼の奥深くまで自身を押し込んでいく。

「貴方を嫌いと思ったことなんて、一度も無い。俺は貴方が大好きだっ、ギュスターヴ…」

「うっ、んっ…、ありがとう、ジュリアンっ…、はっ、あぁ、ん、すごいよっ、ジュリアン…!君のが私の良い所をっ…」

「締め付けないでっ…、貴方の中に…!」

「良いよっ…、君が欲しい…、好き、大好きっ…」

ジュリアンは小さく身体を震わせながらギュスターヴの中に熱を解き放つ。愛しげにジュリアンの唇にギュスターヴは小さく口づけを施していった。

 

***


朝日がちらちらとカーテンから覗きこむ。

「ん…朝?」

昨夜からの倦怠感は無くなっており、熱も引いていた。ジュリアンは目を覚ませば隣で眠るギュスターヴの顔に優しく触れた。

「まったく貴方は…本当に…」

昨夜の情事を思い出し、一人で顔を真っ赤にするジュリアンに気がついたのかギュスターヴもぱちりと目を開けてジュリアンの顔を見つめた。

「おはよう、ジュリアン…」

「…おはよう」

「熱、大丈夫か?」

「俺は大丈夫…、まあ今日も休みだからゆっくり寝るよ。そういうギュスターヴは風邪移ってない?」

「私は大丈夫だよ。…それにしても、熱を出した時の君は狼のようだった。君は覚えていないだろうけど、私の身体中、赤い跡だらけだ…」

ジュリアンは一度ギュスターヴの中で達したあと、記憶が無くなるまでギュスターヴを抱き潰したようだった。

「ご、ごめん…」

「いいよ、君が元気になったならそれが一番だからね。ジュリアン、私が風邪を引いたら君が看病してくれるんだよね?」

「あ、当たり前じゃないか!」

「…寒いからもう少し寝よう、ほら、風邪の前兆かも知れないから。ジュリアン、抱き締めて?」

「まったく貴方って人は可愛いんだから」

もう一度眠るためにジュリアンはギュスターヴの身体を抱きしめながらベッドに横たわる。

心地良い体温がじわりと互いの身体に溶け込んでいく。歳上の愛しい恋人の穏やかな寝息が聞こえてくる頃、ジュリアンはギュスターヴの頬に口づけを施して瞳を閉じていった。

beginning×lover×night 《前》

貴方が好き。

貴方が恋しい。

誰よりも何よりも。

…苦しいくらいに恋をしている。

貴方を想って超えた夜は何度目だろうか。

これは俺の、臆病な恋の物語。


【beginning×lover×night】

 

1.ジュリアン・ニザンの想い人

 

朝、宿舎の食堂で顔を合わせる時間に俺の鼓動も時計の秒針と同じように刻まれていく。

レインボー部隊に配属されて早くも数ヶ月。様々な国から集まった隊員とも親交を深めていく中、俺が唯一色んな意味で親交を深められていない人物がいた。

「おはよう、ルーク」

「…おはようございます、ドク」

「ふふ、朝から沢山ご飯を食べてるなんてさすがは若さ溢れる隊員だ。私も君みたいにしっかり食べたいよ」

「貴方はいつも少ないですよね、軍医である貴方がしっかり健康管理出来てないと、貴方の背中を守る相棒として毎日心配してしまうじゃないですか」

「本当に君はお人好しなんだね、ルーク、今日は非番なのか?」

そう、俺が唯一色んな意味で親交を深められていないのは片想い中のこのお方…。

ギュスターヴ・カテブさんご本人なのです。

目の前に座って来たギュスターヴはサラダとコーヒーだけ。それに対して俺はパンにサラダにスクランブルエッグに色々なおかずを盛り付けて食事をしていた。

あぁ、恥ずかしい。

「…俺は非番ですけど。ドク、貴方は?」

「私も丁度非番でね。息抜きに付き合ってくれる人を探していたんだ。ルーク、君は甘いお菓子は好きか?」

目の前でギュスターヴはコーヒーを飲みながら俺の顔を見つめてくる。ブラウンの瞳はどんな人間をも魅了する色だとあらためて俺は思ってしまった。

「甘いお菓子は好きです、訓練が終わった後に食べるケーキは最高かと。しかし何故そんな質問を?」

「実は街に新しいカフェが出来てね。何せ女性ばかりが列をなしているものだから行きにくくて。そこのショートケーキは絶品らしい。ルーク、私の息抜きに付き合ってはくれないか?」

貴方の可愛いお願いを俺が拒否する訳ないじゃないか。寧ろ、万々歳…!

「俺で良ければご一緒させてください。ドク、朝食を済ませたら宿舎の入り口で待ち合わせでいいですか?」

「ありがとう…!良かった、君が嫌な顔したら行くつもりはなかったんだが…。この基地に来てから初めてだね、君とのお出かけは」

「そ、そうですね…」

残りのおかずに手をつけながら俺は思う。

俺は目の前の可愛い軍医に恋をしてます。歳上だけど、穏やかで優しい人。

…大好きで堪らない、俺の好きな人。


2.ロイヤルミルクティ


朝食を終えて私服に着替えれば、すでにギュスターヴは待ち合わせ場所に来ており、俺に気が付けばニコニコと笑みを浮かべた。

「ルーク!ありがとう、来てくれて」

「いいえ、俺も非番で暇だったから丁度良かった。ドク、行きましょう。貴方の目的の場所まで。…車、出しましょうか?」

「大丈夫、街までたまには歩いて行って見ようよ。気分転換になると思うから」

「…分かりました」

ギュスターヴは小さな子どものように楽しそうな笑みを浮かべて足を一歩踏み出した。

 

 


宿舎から歩いて約15分、目的のカフェがある街に俺とギュスターヴはやってきた。開店したばかりなのか、普段は行列が出来ているというカフェにはまだあまり人は居なかった。

「ようやく入れる〜…、ふぅ、私一人だと心配でね。ルーク、君が一緒に来てくれて良かった」

「…そりゃあどうも」

「さて、目的のケーキと飲み物を頼んでゆっくり味わおうじゃないか。メニューはこれとこれで…」

,…あぁ、可愛いなぁ。

なんで貴方はそんなにも可愛いんですか?

俺と貴方は同僚と相棒ってだけの関係なのに。

可愛い貴方に想いを伝えられない不器用な俺を…。

…許してください。

 

 

ギュスターヴと俺が頼んだケーキは苺のショートケーキ、飲み物はロイヤルミルクティーだ。ギュスターヴは甘い物が好きなのか、ロイヤルミルクティーに砂糖をたっぷりと加えてかき混ぜていた。

「甘いケーキに甘い飲み物、何だか背徳感を覚える組み合わせだけれど、私にとっては最高の組み合わせなんだ」

ふわふわのスポンジと、真っ赤な苺、そして真っ白な生クリームにギュスターヴはキラキラと瞳を輝かせていた。

まるで宝物を見つけたかのような彼の笑顔に俺の心はぎゅうっと締め付けられる感覚に陥った。

「…食べようか、いただきます」
「うん!いただきます」

俺とギュスターヴは絶品らしいショートケーキを口に含んだ。苺の酸味と、生クリームの甘さが口の中でマッチして美味である。

ギュスターヴは味わうかのようにケーキを切り分けて口にゆっくりと入れていく。あ、ギュスターヴ…。

「生クリーム、ついてますよ?」

「へ…?」

「口の横に生クリーム、ついてます」

「あ、あぁ…、ごめん」

俺は無意識にギュスターヴの唇に付いた生クリームを指で拭って舐めとってしまった。

…そう、全ては無意識に。

ギュスターヴは俺の顔をまじまじと見つめて来て顔を真っ赤にして呟いた。

「な、何を…」

「え、あぁ、貴方の唇の横に生クリームが付いていたから取っただけだけど。何か問題がありました?」

「は、恥ずかしいじゃないか…!まったく君って人は…」

ギュスターヴは砂糖がたっぷり入ったロイヤルミルクティーを口に含みながら俺を睨んでくる。

「唇に生クリームを付けている貴方も十分に悪いんですよ?ドク、貴方は甘い物が好きなんですよね、だったら俺も甘い物が好き。…つまりは貴方と同じ物が好き。ま、ロイヤルミルクティーに砂糖をたっぷり入れることはしませんけど」

「…君ってたまに意地の悪い事を言うよね。ルーク、私との息抜きはつまらない?」

「いいえ、俺にとってはとても有意義な時間です」

「なら良いんだ。…あ、ここのミルクレープもオススメだから頼んでも良い?お代わりのロイヤルミルクティーも追加で」

「…お好きなように。貴方の時間なのだから好きなようにしてください。俺も付き合いますから。でも、飲み物はコーヒーで」

ギュスターヴのブラウンの瞳は俺を真っ直ぐ見つめてくる。そう、俺の大好きな人の視線だ。

キラキラと子どものように楽しそうな笑みを浮かべていた貴方の笑顔も、真っ赤になった貴方の顔も。

今はただ、俺だけが独り占めしているんだ。


…あ、思ったよりミルクレープ大きい。


NEXT・:*+.\*1/.:+

 

 

*1: °ω°

ANSWER.

君と歩んだ道はいつまでも忘れない。

君に愛して貰った時間も、
君の温もりも、
君の笑顔も。

私はずっと忘れないよ。

心から君を愛していた。

大好きだったよ、ジュリアンー・・・。

 

 

【ANSWER.】


海が見渡せる丘に小さなお墓は建っていた。

…そう、大好きだったジュリアンが眠るお墓だ。

生前に私とジュリアンが良く出かけた海が見渡せる小さな丘にお墓を建てたのだ。

安らかに眠れるように提案したのは私自身だった。彼が殉職してから早くも半年が過ぎていた。

「…早いな、君が逝ってしまってから半年が過ぎたんだよ。ジュリアン、私は少しずつだけど立ち直って毎日を過ごしているよ。君と過ごした日々が何だか遠い昔のような気がするね」

彼が眠るお墓に花を手向けて天に祈りを捧げる。

…何度、君がいる所に逝こうとしたことか。

生きる事を決意した葬儀の時、やはり君が居なくなった現実を受け入れるのが私には苦痛以外の何物でもなかった。

だけど、ね…?

ジュリアンの哀しむ顔なんて私だって見たくはなかった。だからがむしゃらに生きて足掻いて今を過ごしているんだ。

「…君が私にくれた最期のラブレター、あれは私にとっての宝物だよ。不器用な君が一生懸命書いてくれたんだと思うと、少しだけ笑みが零れる」

…泣いてばかりいた半年もの間、私を繋ぎとめてくれていたのは君がくれたラブレターだった。

…君が私にくれた最期の贈りもの。

「泣くことも、落ち込んで暗く過ごすことも、もう疲れたんだ。だから私は決めたんだ…」

私が出した答えは『ただ一つ』

「ジュリアン、君のことを一生忘れない。私は泣き虫で弱くて酷く脆い人間だ。だけど君と過ごしたかけがえのない日々を思い出して毎日を強く生きる。君が生き抜いた時間も、君が理想として掲げた平和も。必ず実現させてみせる。だから…だからどうか…」

瞳から流す涙はこれが『最期』

「どうか私を見守っていてくれ。ジュリアン、次に君に会って愛を伝えるのは…そうだな…、私が年老いてそっちに逝く時だ。それまでは待っていて。君以外に私は愛を誓わない。約束するよ。君の隣に立つのは私だけ、そして私の隣に立つのは君だけだから…」

私は背を向けて、丘を下っていく。穏やかな潮風と、優しく照らす太陽の木漏れ日、そして鮮やかな青い空。

まるでそれは穏やかな空間で。

 

…愛した君を連想させるかのように。

 

忘れはしない、絶対に。

君と過ごした時間も、
君と歩んだ道も、
君と交わした愛の言葉も。

『ギュスターヴなら大丈夫だよ』

そんな声が聞こえたような気がした。

 

「,…ジュリアン、また会えるその日まで。しばらくのお別れだ。私の出した『答え』を実現できるまで、どうか私を見守っていてくれ…」

ひらりと一枚の花弁が穏やかな風と共に私の頬を優しく撫でていった。