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R6SNLまとめ

 

【振り向いて貰えないなら僕は】

 


…もし、自分の好きな人に恋人がいたら?略奪するのか、それとも諦めるのか。相手を思うのなら、身を退くべきなんだろう。

だけどそれが出来ないほど恋に焦がれていたら?略奪したいくらい、愛してしまっていたら?

俺は君の笑顔が大好きで、ずっとずっと惹かれていた、思っていた。恋い焦がれていた。…知りもしないだろう、この心に潜む罪深い意識を。…無邪気な笑顔を独り占めしたいという『独占欲』を。

***

 

 

「聞いてくれよ、ブリッツ」

「イェーガー、どうしたんだ?」

休憩中、俺の隣の席に同僚であるイェーガーは腰をかけてきたのだ。彼の顔はどこかソワソワした表情であり、少しだけ落ち着きがなかった。

「…まだ誰にも言っていないんだが、結婚することになったんだ。お前は部隊の中でも気がおける仲間だから先に報告しようと思ってな」

…彼が結婚、という言葉に俺は特に驚くことはなかった。GSG9に所属する隊員のほとんどは30代で、皆結婚して家族がいるか、職業柄独身を貫き通すかのどちらに偏りがちだった。

「そう言えばイェーガーの恋人って、俺の知っている人なのか?誰も付き合っている相手知らないんだろう?」

イェーガーに恋人がいることは知っていたがその相手を俺は知らなかった。きっと部隊とは関係のない人なんだろう。

……そう、思っていたのに……。

「あぁ、隠しても仕方ねぇから言っとく。IQとずっとずっと恋人関係だったんだよ。ようやく結婚しようって決心がついたからプロポーズしたんだ」

「…おめでたいじゃないか、良かったな」

祝福の言葉は偽りであり、心から彼と彼女の幸せを祝うことが俺には出来なかった。

「まあ結婚式にはお前やバンディット、レインボー部隊の皆も呼ぶからさ来てくれよな。…おっと、そろそろ行くわ」

「あぁ、またな」

イェーガーは俺の隣から居なくなり、その場を後にする。俺は自分の心がこんなにも狭くて醜いことを改めて感じていた。

…ずっとずっと、俺はIQを好きだった。彼女を誰よりも近くで見てきたし、思ってきたのに。

どうして自分じゃないんだろうか。幸せにしてあげたかったのに、側にいてあげたかったのに。彼より俺の方が君の隣にずっとずっといたはずだったのに。

「…モニカ……」

一人、彼女の名前を呟いていた。それは何とも言えない虚しい行為に思えて仕方なかった。いつのまにか休憩室には俺一人しかおらず、何だかとにかく孤独感で苛まれてしまった自分がいたのだ。

 

 

***

その日の夜、部屋に戻り疲弊した身体を心を休めるためにすぐベッドに潜り込んだ。瞳を瞑ると、脳裏には大好きなIQ…、モニカの顔と大切な友人であるイェーガー…。マリウスの顔が浮かんでくる。

 

 

…これは、過去の記憶だ。俺とモニカとマリウスはGSG9で同期だった。始めこそ性格はバラバラで仲も良くはなかった。だけど……。

だけどいつだって。いつだって、3人背中合わせで戦ってきた。助け合ってきた。

『エリアス、俺好きな子できた』

『お、イェーガーは真面目で面白い奴だから早く幸せになれよ?』

『おう、絶対に告白して幸せになるぜ。相手はきちんと後で教える。お前は気がおける仲間で親友だからな!』

『ありがとう、マリウス』

…あぁ、この時からマリウスはモニカと。この時にどうして気がつけなかったんだろう。俺が先に君への思いに気がついていたら。そしたらこんなにも辛い思いをしなくても良かったのにな……。

俺だって人間だから嫉妬だって羨望だってする。仲間の前で常に公平で自分から進んで行くのは建前なんだ。本当の自分を。

【臆病な自分】を隠すための建前に過ぎないんだ………。

気がついたら瞳から涙が流れていた。これはこの醜い感情からなのか何なのか。どうしようもないくらい不思議な感情が溢れて止まらない。俺はモニカが好きなんだ………。

……恋に焦がれている、いつだって。誰よりも君が大好きだよ。締め付けれて苦しいこんな気持ちに早く終止符を打ちたい。俺は思う。

この先の未来がどんな風に変わっていくのか、幸せはやってくるのだろうか。

そんな思いを浮かべ、瞳を瞑る。そして今度こそ本当に、眠りへとつくのだ。…夜が更けていく。

 

 

***

昨日の嫌な気持ちに無理矢理蓋をしながら仕事をしていた今日、なかなか仕事が捗らず、本来であれば残業などいけないのだが、今日は仕方なく残業をすることにした。

そんな俺は一人広いオフィスでデスクに向かって書類を作成していると、俺の隣にある女性が腰をかけてきたのだ。

「終わらないなら、手伝うけど大丈夫?」

「モニカ、なんで君がここに…」

俺の隣に座ってきたのは一番大切な人………。愛しい人だ。彼女の顔を今は真っ直ぐ見ることが俺には出来なかった。どうしても伝えてしまいそうなこの気持ちを抑えるのに必死だった。

「たまたま通りがかったらエリアス、あなたが珍しく残業をしていたから心配になったの。仲間が心配するのは悪いことかしら?」

「いや、嬉しいけど…。君の恋人が心配しているんじゃないか?」

俺がそう言うと、彼女の表情は少しだけ驚いた顔になる。

「…私に恋人がいることをどうしてあなたが知ってるの?」

「…イェーガー…、マリウスから結婚することになったって昨日聞いたんだ。それが初耳だったよ、隠さなくても良かったのに」

…俺は彼女から目をそらし、ぽつりと呟いた。俺の声音は心此処に在らず、という状態だったのか、モニカは心配そうに俺の顔を覗き込む。

「例え結婚しても、築いてきた関係は変わらない。私もあなたも、彼も。ずっとずっと…」

「…変わってしまうよ、モニカ」

彼女の言葉を遮るように俺は言葉を吐いた。我慢できなかったのかもしれない。心の中にはモヤモヤした気持ちがジワリジワリと侵食してきてしまう。

「…なんでそんなこと言うの…」

「君がずっとずっと好きだからに決まってるだろ?!俺はGSG9に入隊した時から君をずっとずっと思ってきたんだ、好きなんだよ…っ、こんなに思ってたのに、なんでだよ…、くそっ……」

気持ちの蓋を閉じていたのに。我慢しきれず、蓋から中身は溢れて止まることを知らなかった。

気がついたら俺は彼女を抱き締めていた。それこそ、思いきり。

「…離して、エリアス」

「これで最後にする、君を思うのを最後にするから……。一生の頼みだと思ってくれ」

「私はイェーガーを、マリウスを裏切れない……っ!!離して、お願い………」

彼女を離し、モニカの顔を良く見ると彼女は泣いていた。大切な人なのに、俺は彼女を泣かしてしまったのだ。

「…ごめんな、モニカ。もう君を困らせない、書類は俺一人で片付ける。君を泣かせたくなかったのに、【友人】として最悪だな。早く帰ってあげろよ、マリウスのところに」

モニカは黙って立ち上がり、オフィスを後にする。できれば一生黙っていたかったこの気持ちに俺は蓋をすることが出来なかったのだ。

一人きりになったオフィスで俺は再び書類に向き直る。この紙切れのように無機質でいられたならどんなに楽だったんだろうか、どんなに苦しくなかったんだろうか……。

机に残る書類だけが、虚しさを物語っていたのだ。

 


***

それからしばらくして、俺とモニカは何事も無いように仕事をしていた。彼女とマリウスの挙式の日も決まり、俺も招待を受けてはいた。

…しかし、行けるはずなんてなかった。彼女とは会話こそするが、やはりぎこちなかった。そして、彼女を抱き締めたときからずっとずっと、マリウスとの会話もできるだけ避けてきた。

…彼や彼女に、罪深さしか感じることができなかったから。友人であり仲間でもある彼らを裏切ってしまったのだから。

俺が仕事を片付けて帰ろうとしたときだ。

「ちょっと来い、お前に話がある」

マリウスは少しだけ怒った口調で俺に話しかけてきたのだ。俺は心の中で覚悟を決めていたから、頷いて彼に黙ってついて行くことにした。

 


誰もいない屋上でマリウスは俺の瞳を睨み、そして深いため息をついてくる。その表情は何かに怒っているような、呆れている表情だった。

「エリアス、単刀直入に聞くがお前モニカに何したんだ?最近元気が無いし、これから結婚式だってするのに。お前ら二人の間に流れる空気、バレねぇと思ってのか?」

…これはもう、薄情しなければ。俺は自身の保身よりも、彼らの幸せを優先しなくては。もう、辛いのは嫌なんだ。

「正直に言う、俺はモニカをずっとずっと好きだった。それこそ、お前が好きになる前から…」

「な、何だよそれ!なんでお前は黙っていたんだよ…っ」

「言ったところで俺はモニカと恋人関係になれる訳じゃない。この間、俺は自分の気持ちを彼女に伝えてしまった。もう、我慢できなかったんだよ、俺の心はマリウス、お前に対しての羨望と嫉妬でいっぱいだった。ずっとずっと苦しかった」

マリウスは俺の言葉を聞くと、唇を悔しそうに噛み締め、そして忌々しく呟いた。

「お前の気持ちに気づけなかった俺たちも悪い。…だが、彼女を悲しませたこと、俺は許せねぇ。一発殴らせろ、それでチャラにしてやるよ」

「…あぁ、好きにしてくれ」

俺は瞳を閉じ、マリウスに殴られる覚悟をしていた。それこそ【本当の意味での最後】かと思っていた。

唇を強く噛み締めていると、ぺちっ、と軽い衝撃が頬に伝う。瞳を開くとマリウスは大泣きしていたのだ。

「…俺がお前を殴れるわけねぇだろっ…?! 確かに彼女を泣かせたお前を俺は怒っている。だけどお前の気持ちに気づいてやれなかった自分にも腹が立ってんだ。ずっとずっと親友だったじゃねぇか。畜生っ………」

俺こそ何をしているんだろうか。大切な人には二人とも変わらないのに。親友である彼を傷つけてまで。本当に俺は愚かな奴だ。

「…すまない、自分のことばかり…。俺は結婚式に行くのやめるよ。これ以上お前たちの幸せを邪魔したくないんだよ。…悪いな、本当に。モニカには謝っといてくれ」

俺が屋上をあとにしようとした時だ。マリウスは少し震えた声で俺の背中に声をかける。

「…モニカはお前に来てほしいっていってた。俺も同じ気持ちだ。お前が自分の気持ちに整理がついたらなら。必ず来い、約束だ…っ!」

俺は少しだけほくそ笑みを浮かべて屋上を後にする。

今思えば、彼と彼女の結婚式は明日だった。

…今日の夜は長くなりそうだ。俺はとにかく頭を整理することにした。彼女と彼のために。

***

 

 

今日の天気は結婚式に相応しい晴天だった。青空は雲一つなく、そして澄んでいた。

俺はスーツに腕を通し、二人が式をあげる会場へと向かっていた。最後まで式に出ることを俺は悩んでいたが、マリウスからはメールで「必ず来い」と何度も言われたため来る運びに至った。

 

 

 


結婚式場に着くと、レインボー部隊の仲間たちが花嫁の入場を待っていた。

俺は挨拶を適当に済まし、
自分の席に腰をかける。もう厳かな空気が流れていた。

そして会場のドアが開かれ、そこにから出てきたモニカは純白の白いドレスを纏っていた。その姿を見た俺の瞳からは涙が溢れて止まらなかった。

「だ、大丈夫か?」

近くに座っていたバンディットが心配そうに顔を見つめてくる。

「…あぁ、大丈夫だよ」

これで本当に最後なんだ、俺は君の姿を見れて涙を流した、それは悔しさや羨望なんかを越えた思いからだった。

そして結婚式が進むなか、俺はマリウスとモニカと視線がぶつかった。その視線はいつもの柔和な視線であった。

 

 

友人代表として、俺は彼らにスピーチをすることになっていた。花嫁姿のモニカとタキシード姿のマリウスの横に立ち、原稿を開く。

「マリウス、そしてモニカ。結婚おめでとう。今日は式に呼んでくれてありがとう。俺は二人とは同期であり、ずっと背中合わせで戦ってきた仲間であるエリアス・ケッツと申します。新郎であるマリウスとはGSG9に入隊したときから心おきなく話せる仲だった、彼は非常に快活で、裏表のないさっぱりしている性格なので、俺は部隊で辛いことがあったとき、そんな彼に助けられることが何度もあった。本当に感謝している。そしてモニカ、君は大変頭の切れる女性だ。どんな時も冷静さを失わない。君の性格は俺を明るく照らしてくれた、ありがとう。二人がこの先どんな困難があったとしても、【親友】として支えて行きたいと思う。本当におめでとう、この先もどうか末永く幸せでいてください。…ご静聴いただきましてありがとうございました」

俺が話を終えて頭を下げると、拍手が鳴りやまず、そしてモニカとマリウスを見ると二人は涙を流していた。

…あぁ、俺の役目は完全に終わった。

静かに席に戻り、結婚式が進むのを見守った。

 

 

***

結婚式が終わり、俺が会場をあとにしようとするとモニカ、そしてマリウスが俺に声をかけてくる。

「…今日、来てくれてありがとう」

「いいんだ、二人とも素敵だった」

モニカと目を合わせ話すのは実に数日ぶりだった。そして心の中から重たかった鉛がストンと落ちた気がした。

「エリアス、スピーチありがとな。正直、お前以外に頼む気なんて無かったからな。…俺やモニカはお前が大切なんだよ。ずっとずっと背中合わせで戦ってきた。そして親友だろ?…こんなこと、俺にいう資格なんてねぇかも知れないけど」

マリウスは俺の瞳を真っ直ぐと見つめていた。俺の【答え】なんてたった一つ。ただ、一つだけだった。

「…俺はずっとずっと、モニカが大好きだった。それこそマリウスなんかよりも長い期間思ってきた。だけど二人の姿を見て思ったんだ。『幸せになってほしい』ってな。…二人を傷つけて本当に済まなかった。これからは二人の【親友】として、支えて行くよ。だから絶対に幸せになれよ、それだけは約束だ」

「当たり前だ、モニカを必ず幸せにする。それを出来なきゃ俺はお前を裏切ることになるだろ……」

「…エリアス、私もあなたを傷つけた。だからこそ、私は自分の意志でマリウスと歩んでいく…、本当にありがとう」

 


「あぁ、二人ともこれから辛いことがあるかも知れない。だけど何かあったら必ず相談しろよ。俺はそろそろ行くよ。…また明日な」

二人に背中を見せ、俺はその場を後にする。

会場を後にし、俺は帰路につく。

溜まった思いは花火のように弾けて消えた。そして澱んだ気持ちも昇華され無くなった。

どうか、どうか。

二人が明るい未来を歩んでいけるように。

俺は振り返らない。

その未来の傍らに立つのは俺ではないから。

空はもうすぐ夜色に染まっていく。

…振り向いて貰えないのなら。

俺は祈るよ、君たちの幸せを。

瞳から、一粒だけ涙が流れて落ちた。

 

 

レインボーシックス小話】

 

 

1,モンターニュ×トゥイッチ

《4本の薔薇の意味》

ふと、トゥイッチが自宅に帰るとリビングから花の匂いが漂って来るではないか。

(…モンターニュ?)

リビングへ足を運ぶと、
4輪の薔薇が花瓶に生けてあったのだ。

「ただいま、モンターニュ。薔薇なんてどうしたの?あなたが花を買うなんて珍しい」

トゥイッチが不思議そうな顔でモンターニュに尋ねると、彼は少しだけ恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

「知り合いの花屋から貰ってな。4輪の薔薇なんて流石に柄じゃないとも思ったんだが、その意味を聞いて驚いたんだ」

「薔薇の、意味…?」

「そうだ。薔薇の花束は輪数によって意味が違うと聞いてな。4輪の意味はまさに私たちにぴったりかもしれない」

その言葉にトゥイッチはモンターニュを真っ直ぐと、強く強く見つめた。

「4輪の薔薇は[死ぬまで気持ちは変わらない]という意味だそうだ。トゥイッチ、私はこの仕事に就けていることを誇りに思っている。しかし、それと同時にいつ、命を落とすかも分からないだろう?私は毎日、最愛なるお前と過ごせる時間をかけがえの無い宝物だと思ってるよ。これからもどうか、私の傍に出来ればずっといて欲しい」

普段、不器用で甘い言葉なんて言わないモンターニュがトゥイッチを思い、そして彼女のために言葉を紡ぎ出す。

トゥイッチはモンターニュの顔を見て、目一杯の笑顔を見せた。

「…不器用なあなたの言葉は一生忘れない。最高の贈り物をありがとう、モンターニュ」

彼女の笑顔は、世界でただ一人の恋人の前に向けられていた。

 

 

2,テルミット×アッシュ

《喧嘩は貴女を思ってのこと》

 

 

「またお前は無茶をして敵陣に突撃して、何を考えているんだ!!」

「あたしが突撃しないと今回の作戦は成功しなかったでしょ?!毎回毎回、口うるさいのね、テルミットのばーか!!頭固すぎるのよ!」

任務が終了して、
反省ミーティングを終えた二人は休憩室で言い争いを繰り広げていた。

テルミットとアッシュは結婚したばかりの、言わば新婚さんだった。テルミットはアッシュに危険なことはさせたくなくて前線から外れるように話をしたのに、肝心のアッシュは作戦に参加したいとテルミットの話をまったく聞かないのだ。

「お前は何でいつもいつも…危険なことばかり進んでやろうとするんだ。アッシュ、俺は目の前でお前が怪我したりする姿を見たくなんてない。大切な奴が目の前で傷ついてみろ、俺にはそんなの耐えられん」

「…別に、怪我なんてしないし。あたしは破壊工作のエキスパートよ?うってつけの作戦でこそ、あたしは役に立つ。心配しすぎよ、テルミットは」

「〜〜…だから、くっそ…!!」

テルミットは強引にアッシュの腕を引き、唇を塞いでしまう。

「んっ…」

 

 

しばらくして、ようやく唇を解放されたアッシュはテルミットを思い切り睨みつけるではないか。

「な、何するのよ?!」

「お仕置きだ、これからお前が俺に心配かけたり無茶をしたらお仕置きだ。嫌だとは言わせん。ハイかイエスしか受け付けないからな?」

「…意地悪!!」

(大事な奴を傷つけられて耐えられる旦那なんて、世の中には中々いないだろうな。少なくとも俺は耐えられない)

新妻になったばかりのアッシュに対しての気苦労はまだまだ増えそうだなとテルミットは心の中でひっそりと呟いた。

 

 

3,グラズ×カヴェイラ

《ヤキモチ妬きの芸術家》

 

 

先ほど見た光景が頭から離れない。自分の大切な人が他の人と楽しそうに話している姿が、あまりにもお似合いだったから。

(…俺は心が狭いのか?)

グラズの心にはモヤモヤした黒い気持ちが広がっていく。恋人であるカヴェイラが男性隊員と楽しそうに話をしていた所を、しっかりと目撃してしまったのだ。

自分の前では見せないような可愛いらしい、年相応の女性らしい笑顔を向けていたから、グラズの心はキリキリと締め付けられていた。

部屋に戻ると、カヴェイラは当然のようにグラズの部屋に入り浸っていたのだ。休みの日だとだいたい、彼女はグラズの部屋に遊びに来て画集を見たり、絵を描いている所を楽しそうに見ていたりする。

「あら、お邪魔しているわ。…って、なんていう表情を浮かべいるのよ?」

グラズのベッドに横になっているカヴェイラは身体を起こしてグラズを見つめた。

(…俺は自分に自信なんて無いし、つまらない男かもしれないけれど…)

「…カヴェイラ、悪い…」

「〜〜…?!な、いきなり何するのよ!」

グラズは彼女をベッドへ押し倒して、カヴェイラの黒い二つの瞳を真っ直ぐと見つめた。

「さっき話していたのは、君の上官だよな?」

「…カピタオのことかしら?そうよ、私の上司だけれど…」

「ただの上官と部下の関係なのに、何であんなに楽しそうな笑顔見せてるんだよ、俺の前ではあんな風に笑ったこと無いくせに…」

気がついたらカヴェイラはグラズを抱きしめていた。彼女の身体からは、いつもより速い鼓動と、温かい体温が伝わってくるではないか。

「カピタオは私の家族のような人で、兄みたいなもんよ?私の一番信頼して、想っているのはあなただけよ。グラズ?…だからこんなにも私は抱きしめてしまうし、緊張だってしてしまうの」

(…あぁ、俺はとんでも無い思い違いをしていたんだな…)

自身の青く澄んだ瞳でカヴェイラを見つめて、そっと抱きしめ返した。

「…カヴェイラ、君が好きだ。大好きだ」

「…私も、あなたが好きよ。いいえ、誰よりも愛してる」

唇の体温が降りてくるまでに5秒もかからなかったのはここだけの秘密である。

 

 

4,ブリッツ×IQ

《今日も君を思います》

 

 

「モニカ、好きだよ」

「…うん、私も好きよ?」

「いや、好きって気持ちでは表現出来ないな」

「じゃあ、何という言葉が適任かしら?」

「そうだな…、例えばだけど。『家族になってほしい』とかはどうかな?」

「…ふふっ、エリアスは面白い冗談を言うのね。でも、あなたと家族になれたらすごい温かい家庭になりそう。ユーモアがあって、泣いて笑って、笑顔が溢れる家族になれそうね」

「…モニカ、俺と家族になってくれないか?ずっとずっと、言おうと思ってて中々言い出せずにいたけど。冗談でも、ユーモアでもなく。一生に一度の本気だよ」

「それは私と一生を添い遂げたいとか、そういう認識でいいのかしら?」

「こんな時に冗談を言えるほど、俺は人間出来てないからな。モニカ、君と出会ってから約10年近く経って、ずっとずっと側に居たけれど。ようやく君に本当の思いを伝えられた。返事を聞かせてほしい」

「…私はあなたほど融通は効かないし、頭も固いって言われるくらい頑固だし…。だけど、あなたを思う気持ちはエリアス、あなたにも負けない自信はあるの!」

「答え、決まってるんだな」

「…私で良ければ、一生のあなたの傍に居させてほしい。エリアス、ありがとう。あなたに出会えて私は幸せ者よ?」

「俺もやっと言えて、返事を貰えて幸せだよ。モニカ、戦場では相棒として。プライベートでは恋人であり、家族として。これからもよろしくお願いします。…君にこれを渡しておく」

「…指輪?」

「婚約指輪。あー、もう少しムードある所で渡したかったけれど。結婚指輪は一緒に選びに行こうね」

「あ、ありがとうっ…」

「…お礼を言うのは俺の方だよ、柄にもなく泣くなんて君らしく無い。嬉し涙はこれからもっと流してもらう事になるんだから!」

「エリアスだって、泣いてるじゃない」

「…あ、ばれた?嬉し過ぎて涙止まらないんだよなぁ…」

「…愛してるわ、エリアス」

「うん、俺も君をずっとずっと愛し続けるよ。最愛なるモニカ…」

二人の薬指には、永遠の煌めきが輝いていた。

 

 


【San catcher】

 

 

暖かな日差しが心地よい昼の公園で、
ジョーダン・トレイスは待ち人を待つ為に公園のベンチに座っていた。

「…暖かいな、まったく」

季節は春。

色素の薄いジョーダンは太陽の陽射しにはあまり強くない。

そしてプライベート用のサングラスを身に付けていて無精髭、ベンチに腕と足を組みながら眉間に皺を寄せて座っている彼は周りから見たら怖い人だ。

ジョーダンが座っている目の前に、
近くで遊んでいた子どものボールが転がってくる。

「このボールは君のか?」
「…う、うん…」
「はい、気をつけて遊ぶんだぞ」
「…ありがとうっ、おじさんっ…!」

ボールを取りに来た子どもを、目を細めながらジョーダンは眩しそうに見つめた。

(…おじさんって程の歳じゃないんだが、まぁ良いか)

普段、眉間に皺を寄せて腕組みするジョーダンを周りの人たちは「怖い人」として見てしまいがちだ。

しかし、
子どもはある意味大人の本質を見抜くことが上手い。ジョーダンを見ても、先ほどボールを取りに来た子どもは泣くことをしなかったからだ。

両親の元へ駆け寄った子どもを、
ジョーダンは穏やかな視線で見つめてこんなことを心の中で思っていた。

(….イライザとの間に子どもが出来たら、きっとあんな感じなんだろうな)

『イライザ』

待ち人の名前をそっと呟いた。
ジョーダンの同僚であり、相棒であり、最近結婚したばかりの大切な奥さんだ。

今日はそんな妻になったばかりのイライザが遠征から帰って来て久々のお出かけだった。

春の陽気は心地が良い。
ジョーダンはウトウトとベンチに座りながら瞳を閉じる。

(…まだあいつも来ないだろうし、少しくらい瞳を閉じても…)

「…だーれだ!」

ジョーダンの思考を遮る明るい声が彼の耳に入ってくる。

いきなりの目隠し、
冷たい手はあいつの手だ。

「イライザか…?」
「正解!ごめんなさい、遅くなったわ」

イライザ・コーエンはジョーダンの背後から明るい声で話かけ、彼の隣に腰を下ろす。

「いつの間にお前居たんだ?」

「あなたが小さな子どもに穏やかな視線を送っていた所からかしら?」

ジョーダンとは違った色素の薄い瞳をぱちくりさせながらイライザは呟いた。

「声をかけてくれればいいのに」

 

 

「あなたが珍しく小さな子どもに泣かれない珍しい所が見れたから声をかけそびれちゃったわ」

「…昔からの癖なんだ」

ジョーダンは腕組みを止め、
イライザの手にそっと自身の手を重ねた。

「お前は何で俺と結婚しようと思ったんだ?俺は昔からの軍人気質は捨てられないし、面白みなんて何一つ無いのに」

「…ジョーダン、あなたの隣なら安心して人生歩めるかと思ったから。もちろん、あなたが好きというのも一つだけど」

ぎゅっとイライザも、ジョーダンの火傷跡が微かに残る大きな手を握りしめた。

ジョーダンは眉間の皺を幾分か和らげ、ふっと色素の薄い瞳を優しく細めてイライザの頭を撫でた。

「…小さな子どもと接して一つ分かったことがある。『家族』は大切だと思うし、温かい家庭を俺は作っていきたい」

「あたしだって同じ思いよ、ジョーダン」

「…だから、俺と家族を作って欲しい。あぁ、もう、慣れないことを言うもんじゃ無いな。イライザ、お前との子どもが…」

「…ふふ、不器用なんだから?」

「…悪いがこれが俺なんだ、イライザ」

「あなたとの未来は何度だって夢に抱いていたけれど…、家族が増えたらそうね、笑顔が絶えない家庭を作って行きましょう?」

「…あぁ、そうだな」

穏やかな昼下がり、
二人の間には温かな陽射しと幸せに満ち溢れた空気だけが包み込んでいた。

 

 

 

【花咲く色の散る行方】

 

 

(私はあなたの近くに居たい。だからこの『高み』まで来たんだよ?…テルミット、私の思いは届いているかな)

 


ヒバナ、レインボー部隊には慣れたか?」

「うん、FBI SWATの皆が居てびっくりしたわ!パルスも、キャッスルも。そしてテルミットに会えたのも。…彼女は、初めて見る顔だわ?」

ヒバナはくりっとした黒い瞳をテルミットに向けながら呟いた。

テルミットの視線が柔らかくなるのを、ヒバナは目の前で見てしまう。自分には向けられたことのない瞳だったから。

「アッシュか、彼女は破壊工作のエキスパートだ。最近、俺たちのチームに入って来てな。いい奴だよ。たまに融通利かないけど、俺にとっては誰よりも大切な奴なんだ」

「…そっか、私も皆に負けないように頑張って鍛錬しないと…」

ヒバナは哀しげな笑みを浮かべてテルミットを見つめた。

ヒバナにとって、テルミットは大事な友人であり、そして『それ以上』の感情を抱いた初めての相手だった。

「お前はお前らしく、強く居ればいいさ。俺が日本で研修受けた時のお前はまるで鬼のような女性だったからな」

「懐かしい話をするのね、テルミット!まったく。あ、アッシュさんとはどんな関係なの?!私に教えてよ!」

「…彼女か?アッシュは俺の恋人であり唯一無二の相棒さ。戦場では必ず一緒に行動するくらいには大切だ」

…それは、あなたが命をかけて彼女を守りたいと思っているからよ。

「そうなんだ、私にもいつか現れないかな。…私を見てくれる人!私だけを見てくれる人」

テルミットはヒバナの頭をぽんと軽く叩いて笑っていた。

「お前にも居るはずだよ、ヒバナだけを見てくれる奴が絶対にな。俺も頑張るから、お前もお前らしく頑張れよ」

…私はあなたのそんな所が好きだったよ。

「…うん、頑張るわ!テルミット」

 


演習場には風が吹いていた。
ヒバナの頬を撫でて、やがて彼女の瞳からは一筋の涙が零れていった。

 

 

【走り出す可能性]

エコーは目の前に座る相棒のヒバナを見つめて深い溜息をついた。

(…彼女は何て凛々しいんだろう。それに比べて僕は…)

日本から離れ、レインボー部隊に召集されてから早半年近く。他国の仲間たちの和に入ることは直ぐにヒバナのおかげで出来た。

しかし、日本に居た時から変わらない後ろ向きな考え方を未だに直すことがエコーには出来なかったのだ。

「エコー、あなたは日本を代表してテロリストを殲滅する為にレインボー部隊に召集されたんだから、自分自身に自信を持って?」

ヒバナは持ち前の明るさで様々な人と仲良くなるのが得意だ。目の前にいる同僚を励ます為にヒバナは自身の休みを使ってエコーを食事に誘った。

食事を摂りながらゆっくりと過ごす時間はエコーにとって唯一自分自身をさらけ出せる貴重な時間だった。

「僕はどうしても物事を良い方向に考えることが出来ない。日本に居た時からずっとずっと自分自身を変えたいとは思ってはいるんだ。だけど、その術を僕は…持っていないんだ」

カップに入っているコーヒーを口に含んでヒバナの顔を見つめた。ヒバナはその目線に答えるかのように黒い瞳を細めた。

「何の為に、私が一緒に日本から来たか分かってる?確かにエコー、あなたと同じSATの隊員として召集されたのもある。だけどそれ以上に、大切な相棒だからなんだよ。あなたはずっと独りで抱え込みすぎ。少しは相棒を頼りなさい!」

力強い言葉に、エコーはいつだって励まされていたことを思い出す。ずっとずっと、日本に居たときから変わらないヒバナの前向きな所が…。

…好きなんだ…。

「僕は自分自身好きじゃないし、あまり頼りにならないかもしれない。だけどヒバナ、戦場で君を守れるくらいまで強くなる。だからこれからも相棒として僕と共に在ってくれるか…?」

今はまだ口には出来ないそれ以上の感情は伝えられないけれどー・・・

 

 

ヒバナはニコリと微笑んでエコーの瞳を真っ直ぐに見つめる。

「私の相棒はずっとエコーだけだから!頑張ろうね、私も頑張るから!」

「…うん。ありがとう、ヒバナ

お互いに切っても切れない、強い絆がある事を二人は再確認することが出来た。

この先も。

二人はお互いの『可能性』を信じながら歩いて行くのだ。

 

 

【思い、想われる可能性】

 

 

「大丈夫か、ヒバナ
「ごめんね、体調管理が出来てなくて…」

エコーはヒバナの看病をする為に、彼女の自室へと赴いていた。軍医であるドクも、他の女性隊員たちも遠征に行ってしまったからヒバナが頼れるのは相棒のエコー1人だけだった。

ベッドで辛そうに横になるヒバナのおでこに濡れたタオルを乗っけてあげる。薬も飲んではいるが即効性があるものでは無いからしばらくは安静にしていないといけない。

「…構わないさ、君は日本にいた時から頑張り過ぎたんだから。その疲れとかが出たんだと思うよ」

エコーにとってヒバナは誰よりも大切な存在で、それはSATにいたときから変わらずレインボー部隊に召集されてからはより一層、彼女を想うようになった。

「ふふ、何だかあなたが近くに居ると安心する。エコー、私ね…」

ヒバナは近くに座るエコーに手を伸ばして、彼の手を握ろうとする。

「どうした?」
「あなたの…冷たい手が心地良い。少しだけ握っていても良いかな」

エコーの体温は低い。
普通の人よりも手は冷たいから熱で体温の上がっているヒバナにとっては心地が良い。

「『今だけ』だから…、優…」
「分かった、由美子」

エコーは小さく名前を呼ばれ、
ヒバナの手を優しく握り返した。苦しげな表情を浮かべるヒバナの頭を優しく撫でて眠るように促した。

 

 

(『優』なんて、久しぶりに君から名前で呼ばれた君がする。…僕はまだ君に気持ちを伝えられないんだ。まだ弱いから…)

自覚していた筈の、彼女を想う気持ちが弱くなる所か、どんどん強くなっていってー・・・

 


エコーは薬が効いて眠っているヒバナに顔を近づけて口付けを施した。それは触れるか触れないかの絶妙なラインだった。

「…好きだよ、由美子。僕はまだ君に伝えられない。ずるい僕を赦して」

眠る彼女には届かないであろう、エコーの想い。言葉、そして小さな温もり。

エコーは誰よりも大切な相棒の眠る顔を見つめながら想いを馳せていった。

 

【自覚する可能性】

 

 

(…ん…、身体が軽い…?)

風邪を引いて寝込んで、薬を飲んで眠りに落ちていたヒバナはベットから身体を起こす。

昼間だった外の風景は夕闇に包まれており、もう外は真っ暗だった。

ヒバナがベットの近くを見れば、
彼女の手を握りながら居眠りをするエコーが近くにいる。

「優、ありがとう…」

手を握りながら眠るエコーの名前を呟いてヒバナは彼を起こすために身体を揺らす。

「私は大丈夫だから起きて?…優?」

声をかけてもピクリともしないエコーにヒバナは小さく溜息を漏らしながら彼を自身が眠っていたベットへと横たわらせた。

「…看病してくれたんだよね、誰よりも人付き合いが苦手なあなたが一生懸命看病してくれた気持ちだけでも私には『充分』だよ…」

ヒバナはベットから抜け出して、眠るエコーの顔を見つめて呟いた。ヒバナは眠っている間に『夢』を見たのだ。

…相棒であるエコーが、自分に口付けを施してくる『夢』だった。妙に現実味があったのだが眠りに落ちていたヒバナにとって、それが本当に『夢』か『現実』なのかは分からなかった。

「私ね、あなたが強くなってくれればそれ以上に望むことなんてなかったのに。だけど、だけどね…」

眠るエコーの顔を見ながらヒバナは自身の手を彼の手にそっと重ねて静かに握り締めた。

「『優』、私はあなたを想ってる。相棒以上に一人の人として見てしまってる。…あなたにとって私はきっとただの…」

「…ヒバナ、いや…『由美子』、それは本当?」

眠っていたエコーは彼女の手を握り返して、閉じていた瞳を開いて真っ直ぐと見つめる。

「…っ、なんで起きちゃうの?」
「風邪は大丈夫か?…だいぶ顔色が良くなったみたいだ」

エコーはヒバナの手を強く握り、そして彼女を強引にベットへと引きづり込んでしまう。

「…僕のこと想ってくれてるって本当?由美子、お願いだ…教えて」

強引に引き寄せられたヒバナをエコーは背後から抱き締めて耳許で呟いた。

「い、いきなり何っ…」

「由美子、眠っている君にキスをした。自分の想いを我慢出来なかった。ずっとずっと君を守れるくらい強くなれたら伝えようと思っていたけど、我慢出来なかった。僕は最低だ」

…夢でもなければ、幻でもなく。

エコー自身が肯定してしまった『想い』、そしてヒバナ自身が自覚した『気持ち』は繋がっていく。

「…私はあなたを守って行くために、自分自身が強くいるためにここまで来たの。ねぇ、優。私はあなたに対しての気持ち自覚したばかりなの、だから今度は…」

ヒバナはエコーの顔に手を伸ばして、乞うように彼の黒い瞳を見つめて唇を近付ける。

…二人の刻が止まっていく。

ヒバナ自身がエコーに口付けをして、
そして抱き締め返したのだ。

 


「由美子…?」
「…私を好きになってくれてありがとう、優」

真っ赤な顔は一人の女性としての『表情』だった。

「嘘、僕のこと怒らないの?君に勝手に…」

「相棒の私を馬鹿にしないでよ?!…それ以上の気持ちを抱いたこと、後悔なんて絶対にしてないしこれからもしないから。『エコー』であるあなたも、『江夏優』であるあなたも…私にとっては大事な人だからね?」

自覚した想いは今も昔も変わらないくらい、ずっとずっと大事な『宝物』のようで。

エコーは声を震わせながらヒバナに触れていく。

「君を一人の女性として、そして相棒として見ていくから…。これからは僕が守っていく、 だから…」

 

 

自分なりに、ロマンチックに。

「『誓いのキス』、してもいいかな」
「…好きにしていいよ、エコー」

エコーは口元に淡い微笑みを浮かべて、共に在るヒバナの唇に自身の唇を重ねていく。

 

 

もう迷わない、もう逃げない。

あなたしか見ていないから。

世界で一番大切な人は、君だけだ。

(…愛してる、由美子)

 

 

【ブラックビアードは童顔に悩んでいる】

昨夜、上司から注意を受けたのは身だしなみについてだった。

『髭を生やし過ぎだ、良い加減に剃りなさい』

この髭が無くなったら、俺を守るものは何一つ無くなってしまうだろう。

しかし、剃らないと始末書だと脅された以上、剃らない訳には行かない。

「覚悟を決めろ、俺は男だ」

洗面台の鏡を見つめながら俺は自身の自慢でもあった黒い髭を見つめた。

コードネームの由来も全てはこの黒髭から始まり、ある俺の悩みを隠す最大の役割も果たしてくれていた。

「…さらばだ、相棒…」

久方ぶりに棚から取り出したシェービングクリームを髭に塗りたくり、シェーバーの電源をonにした。

…お別れだ、また会おう。

 

 

***

髭を剃ること約30分。

鏡の前にいる自分はコンプレックスである顔を持つ自分自身だ。

「はぁ、部屋から出たくない」

今日は昼間から同僚であるヴァルキリーと食事をする約束をしていた。

彼女は俺の髭の無い姿を見たことがない。

…きっと引かれるのかも知れない。

しかし約束の時間までもう少し。

彼女は俺の大切な相棒だから約束を破る訳には行かず。

お気に入りのジャケットを羽織って部屋から出る準備をする。

…出来るだけ顔を見られないように、マスクも忘れずに。

 

 

 


「ブラックビアード!こっちこっち!ってあれ?風邪でも引いた?」

「あ、あぁ…。そんな感じだ。ところでヴァルキリー、この宿舎の食堂で良かったのか?久しぶりの休みだったら車でも出したのに」

「いいのいいの!私はこの宿舎の食堂で食べるご飯が一番好きだもん。それにブラックビアードが一緒だったらどこでも楽しいよ」

…神様、ヴァルキリーは本当に可愛いです。

実は片思いなんですよ、俺の片思いなんです。

だからこそ、髭の無くなった俺を見られたくはないんだが…。

「そうか、それは光栄だよ。ヴァルキリー、先に食事を選んで来い。その、席で待ってるから」

「…?今日のブラックビアードは少し変だね。じゃあ、席から離れないで少し待っててね?」

「分かった」

ヴァルキリーは少しだけ心配そうに俺を見つめてくれる。

本当に可愛い顔と声で、もう悶え死にそうです。

遠くから見えるヴァルキリーの食事を選ぶ姿は、楽しそうだ。俺はそんなヴァルキリーを見てるだけで胸が痛い。

 

 

 


「お待たせ、ブラックビアードの分も一緒に持って来た!好きでしょ、オムライス!」

「わざわざありがとう…」

「冷めないうちに食べよ?ほら、マスク取らないとっ…」

「そうだな。マスク取らないと食べれないもんな…」

俺は無意識にマスクを取り、手を合わせて「いただきます」と呟いて目の前に座るヴァルキリーを見た。

すると、目が合ったヴァルキリーは真顔で俺を見つめてくるではないか。

「ブラックビアード…、髭が無い…」

「っ…!!み、見ないでくれ!」

「…もしかして、マスクしてたのは髭剃ったのを隠すためなの?」

やばい、ヴァルキリーの前だと注意力が低下することを忘れていたよ。

まずい、まずい。

彼女にだけは見られたくなかった。

「コンプレックスなんだ、髭が無いと実年齢より10歳も若く見られるこの顔が嫌いなんだ。髭を剃らないと始末書だと昨夜注意を受けたんだ」

ヴァルキリー、絶対に引いてるよな。

俺は怖くて彼女の顔を見ることが出来なかった。

しかし、次に待っていた言葉は意外なもので…。

「…ブラックビアード、かっこいいよ!髭無い方が私はかっこいいと思う。童顔に見えるのはまだ若い証拠だよ?だから、私から目を逸らさないで欲しいな」

相棒は俺を見て顔を赤らめながら、オリーブ色の瞳を輝かせていた。

「へ、変じゃないのか?」

「何でそんなこと思うの?…ブラックビアード、私ね、あなたのこと好きなの知ってた?」

…?!?!?!

ちょっと色々と思考が追いつかないんだが、ヴァルキリーが俺を…?

「…ごめん、知らなかった」

「だよね。私が食事に誘ったり戦場であなたを一番に守るのもブラックビアード、あなたが一番だからだよ?髭が無いと本当に誰だかわからない。他の人に素敵なあなたを見せたくない。ねぇ、あなたの気持ちも知りたいな」

食事はまだ冷めず、俺の心はさらに燃え上がり…。

「俺もヴァルキリー、ずっと君が好きだった。真っ直ぐで一生懸命な君が大好きだ」

「…両思い…だよね?」

「そうだな、そういうことだ」

「食事終わったら、車出して欲しいな…?このあと時間有ったら初デート、私としてくれませんか?」

可愛いヴァルキリーからのお誘いなら断る訳もなく、俺は嬉しくて嬉しくて、今までにない笑顔だったんだと思う。

「…喜んで、エスコートさせて下さい」

「っ…、かっこいいのは反則だよ!!」

「可愛いのも、反則だろ?」

「お互いさまだね?」

「そうだな」

冷めないうちにオムライスを食べよう。

髭が無くなって、コンプレックスである顔をかっこいいと言ってくれた目の前の彼女は、今日から俺の恋人です。

さぁ、何処に行こうか?

ワクワクとした気持ちと、新たな幕開けに胸が弾む。

大好きだ、
大好きだ。

ヴァルキリー、君を好きになれて良かった。

 

 

【彼を好きすぎる女神さまの話】

*『ブラックビアードは童顔に悩んでいる』の続編。ヴァルキリーちゃんメインの話。

 

 

 


「ヴァルキリー、何してるんだ?」

「ブ、ブラックビアード…、次のデートの行き先を考えていました!」

「何で敬語なんだ?」

「ひ、久々にブラックビアードの部屋に遊びに来たからかな?だって任務でずっと会えなかったから緊張しちゃって…」

私は今、お付き合いしているブラックビアードさんの部屋に久々に遊びに来ています。

顔が熱い、熱いよ〜〜(´;ω;`)

と、自分らしくないテンションなんです。

お付き合いを始めてから約半年、特殊部隊の隊員だからなかなかお出かけも難しいし、たまに喧嘩もしちゃうけど…。

仲良くお付き合いさせていただいているんです。

黒髭がないブラックビアードは相変わらず可愛い顔して、だけど見せる顔は男らしい表情ばかりで私はもう辛いです。

「俺もお前に久しぶりに会えて嬉しいよ、ヴァルキリー、隣に座れば?一緒に出掛ける先を決めないか?」

「う、うんっ…!隣失礼しますっ…」

「いつも以上に可愛い、見ていて飽きないな」

「っ…、恥ずかしい…」

「恥ずかしがる必要なんて無いのに!さ、どこに行きたい?」

隣に座ってスマホでホームページを一緒に見てくれてるブラックビアードが私の手を空いてる手で握ってくれてるんです。

…嬉しいな…。

「私の行きたい所でいいの?」

「あぁ、ずっと寂しい思いをさせていたからどこでも。君が行きたい所に俺も行きたいからさ。ヴァルキリーは何がしたい?」

「じゃあ、一緒に買い物行きたい!ショッピングモールでお揃いの物、一緒に買いに行きませんか?!」

あーー、もうっ…!!

緊張しちゃってまた敬語になっちゃった。

ブラックビアードも真顔で私を見ないで!恥ずかしい!顔燃えるから〜〜!!

「どう言うものが欲しいんだ?ヴァルキリーはどんなものが好きなのか、そう言えばそういう話あまりしたことなかったな」

「わ、私の好きな物?!」

「お揃いの物が欲しいなら雑貨が良いのか、アクセサリーがいいのか、色々あると思うぞ?まあ、いずれ結婚したいとは思ってるから、手始めにお揃いのマグカップとかはどうだ?…ってヴァルキリー、顔すごい真っ赤だぞ?」

「け、結婚前提のお付き合いなの…?!」

「俺はそのつもりで君をずっと思って来たし、告白だってしたんだが…。悪いのか?」

その言葉が嬉し過ぎて、私は固まってしまいました。

…どうしよう、めちゃくちゃ幸せです。

「悪くない、嬉しいから、その…驚いてたの!ブラックビアード、私もあなたが大好き。だから今度のデート、沢山楽しもう?そしてこれからも、私を好きでいてくれますか?」

ブラックビアードは握っていた手を一度離して、私を腕の中に閉じ込めてしまう。

うわ、うわー…///

私もブラックビアードも、緊張でドキドキしてる。だけど、同じ気持ちって嬉しいし、幸せだなぁ。

「好き、大好きだよ、可愛いメーガン」

「は、初めて名前で呼ばれたかも…!!」

「お望みなら、毎日名前で呼ぼうか?」

「私の心臓がもたないからっ…!!ブラックビアード、私もあなたのこと…」

とりあえず、真っ赤になった顔を隠すために大好きなあなたの胸に飛び込んで私も抱きしめ返して呟くよ。

 

 

 

「私も、あなたが大好きだよ!世界で一番大好き。これからも、この先も、この気持ちに嘘偽りはないから」

温かなブラックビアードの体温と、
愛しい匂いに包まれて私は幸せに身を任せていった。

次のデートでお揃いのマグカップを買いに行こう。

スケジュールは大好きなあなたとの予定で埋まって行くのです…。

 

朝、目を覚ませばリビングからは僕の大好きな味噌汁と焼き魚、そして炊きたてのご飯のいい匂いが漂ってくる。

その匂いを確認しながら眠たげに目を擦れば、台所で朝食を用意してくれていたのは僕の大事な人。

「優くん、おはよう。ご飯出来てるから、顔洗って冷めないうちに一緒に食べよう!」

「由美子、おはよう」

朝から可愛い笑顔で声をかけてくれるこの子は、僕の大切なお嫁さんです。

【江夏優はご飯がお好き。】

洗面台で顔を洗い終わり、リビングに向かえば由美子は椅子に座って僕を待ってくれていたのか、ニュースを見ていた。

「お待たせ、由美子」

「優くん、ご飯炊きたてだから美味しいよ?あと、今日の鮭も北海道から取り寄せした物で、それから…」

「僕の為?…ありがとうございます」

「だって優くん、いつも『美味しい』っ言いながら私の作ったご飯食べてくれるから嬉しくて」

「僕も由美子が毎日作ってくれてることに感謝しながら食べてるよ。さ、食べようか。いただきます」

「…め、召し上がれ」

僕は目の前に並べられた朝食をゆっくりと口に含んでいく。

お米を口に含めば、甘い味が口の中で広がり焼き立ての魚もいい塩加減だと思う。

本当に美味しい。

毎日食べても飽きない味が変わらず美味しいと思う朝は本当に幸せだ。

「…昔、同棲始めたばかりの頃を覚えているか?」

「あー、優くんインスタントばっかり食べてたよね!本当にあの頃は毎週末風邪ばかり引いていてさ。私の手料理を初めて食べてくれたとき、『こんなに美味いもの食べたのは初めてだ』って言ってくれたこと、今でも覚えてる」

「今じゃこんなに美味い朝ご飯を食べさせてくれる人が嫁さんだなんて、信じられないくらいに嬉しい。由美子、毎日ありがとう」

普段から僕よりも由美子の方が明るくて、優しくて、はきはきと話す。

…僕の口から感謝の言葉を述べるのは、何だかこそばゆい。

それは恋人から夫に変わっても変わりはなくて。

「…優くんは私にとって今も昔も変わりない、大切な人だよ。だからこそ、美味しいご飯を食べて毎日笑顔で朝はおはよう、夜はおやすみって言葉を交わしたい。不器用な優くん、私の旦那さんになってくれてありがとう」

気がついたらお茶碗のご飯も、
湯気の立っていた味噌汁も、
こんがりと焼かれた焼き魚も。

綺麗に食べ終わっていた僕がいた。

「な、何だか朝からごめん…、僕は不器用だからこんな時くらいにしか由美子に感謝が出来ない。兎に角!僕は由美子が好きだ、愛してる」

もう、顔が熱い…。

由美子、そんな可愛い笑顔で僕を見つめたいで。

「朝から嬉しい愛の告白をくれた優くん、私からも一つ、とっておきの告白をしてもいい?」

少しばかり顔を赤くしながら紡がれる言葉に、僕はきっと今までで一番なくらい顔がぐちゃぐちゃにして微笑んだ。

 

 

 

 

 

 


『優くんとの間に家族が増えるの。この先も、ずっとずっと。私と私たちの赤ちゃんと幸せな家庭を築いていこう』

僕は朝から幸せだよ。

美味しいご飯も、
交わす挨拶も。

最愛なる君からの嬉しい『告白』も。

穏やかな陽だまりが差し込むリビングで僕と由美子はそっと視線を交わしていった。

 

 

グラズの悩み

 

 

昔から自分から話かけたり、歩み寄るのが苦手だったグラズは宿舎の食堂でピンチに陥っていた。

(…なんでGSG9のモニカさんと二人きりなんだ?!んー…困った)

レインボー部隊に来たばかりのグラズは次の任務でIQこと、モニカ・ヴァイスと組むことになっていた。

作戦会議という名の親睦を深めるためにモニカはグラズを食堂に呼び出していた。

「グラズくん、まずは初めまして。私はGSG9のモニカ・ヴァイスです。よろしくね」

「…は、はい…」

「もしかして緊張してる?」

「いや、そんなこと…」

『そんな事はない』と言い切れなかった。

いつも自分を隠しているフェイスペイントも今はない。

コンプレックスである色白の肌は今にも緊張で真っ赤になりそうで、グラズは目の前から消えたくなった。

そんな様子を察したモニカは穏やかな目線でグラズの瞳を見つめた。

自分と同じような色彩を放つモニカのアイスブルーの瞳には優しい色が浮かんでいた。

「…人は誰でもコンプレックスとか悩みを抱えているものよ?私だって悩みがあるし、だからグラズくんも悩みがあるなら仲間を頼った方がいい。それに私たちは次の任務でバディを組むんだからさ!…仲良くなりたいの、話してみて?」

モニカの言葉にグラズは噛み締めていた唇を開いて小さく呟いていく。

「…俺は人と関わるのが苦手で、ずっとずっと一人が好きだったんです。唯一の趣味は絵を描くことで自分自身が自分らしくいられる時間だった。だからこの場所に来て絵を描き続けることが出来るのかも不安だった。…俺は良い歳してまだ臆病なんです」

グラズの言葉を聞いたモニカは笑みを浮かべて彼の頭を優しく撫でた。

「グラズくん、自分が自分らしくいたいならその考えは捨てちゃ駄目。絵を描きたいなら描けばいい。私は学ぶことが好きだからやめる事は絶対にしないわ?あなたが描いた絵を見せて欲しい、約束ね?」

モニカに頭を撫でられたグラズは少しだけ照れ臭さそうに瞳を細めて笑顔を浮かべた。

「…わかりました、モニカさん。俺、この部隊で頑張って行きたいし色んな人と関わって人間的にも成長したい。そして『自分が自分らしく』いる為に絵も描き続けます。俺はあなたに出会えて良かった、これからもどうか俺と仲良くしてもらえませんか?」

「当たり前じゃない、私たちは仲間なんだから!…改めてようこそ、レインボー部隊へ!」

新たなる門出、グラズは無限に広がる未来へ期待を浮かべて微笑んだ。

 

 

【江夏優は素直じゃない】

 

 

「今川さん」

「江夏くん、どうしたの?」

二人きりのオフィスは夕暮れ時の為か、真っ赤なオレンジの光が窓に差し込んでくる。

デスクワークをしていた今川は江夏に声をかけられて仕事の手を止めて振り返る。

「今川さんってさ、皆から慕われているでしょ?僕より歳下なのにさ。正直、あんたみたいな奴と組みたく無いんだ。さっさと辞めれば?」

夕暮れの光に照らされた江夏に嫌味を言われた今川は「いつものこと」と聞き流してため息をついた。

「江夏くん、私が嫌いなのは分かるけど子どもっぽいことを嫌味っぽく言うのは止めたら?だから昇進出来ないのよ、私より歳上のくせに」

今川は江夏に言い返し、再びデスクに視線を戻す。くだらない言い合いなんかするより、早く帰りたい。

今川は江夏を無視するかのように書類作成に励んでいく。すると言い返されて何も言えなくなった江夏は今川の背後から思い切り抱きついた。

「っ…!いきなり何するの?!」

「あんたが構ってくれないから、実力行使。今川さん、僕のこと嫌いでしょ?嫌いな奴から抱き締められて気持ち悪いよね」

「い、いきなり抱きついてくる奴がいるか?!もう、仕事の邪魔ばかりしないでよ、江夏くん離れて!」

「やだ、今川さんの嫌がる顔みたいからやめない。僕、あんたに嫌がることするのが好きみたい。だって今川さんの声とか顔、すっごく可愛いから」

江夏は今川を後ろから抱き締めたまま耳に口づけを施した。

「や、やだ、やめてっ…」

「今川さんは僕のものだ、僕がどんな思いで毎日あんたを見てるか分かるか?僕はあんたに構って欲しくて、こっちを見て欲しくて堪らないのに…!」

江夏は少しだけ苦しげに呟いた。そんな様子をみた今川は深いため息をつくのと同時に江夏の顔を両手で包み込んだ。

「江夏くんって馬鹿よね。もっと他にやり方があると思うよ、私はあなたの性格も気持ちも分かってるから何も言わない。江夏くん、私が欲しい?自分だけのものにしたい?」

「…叶うならな」

「だったら、簡単だよ?」

今川は江夏の手を掴んで思い切りデスクの上に彼を押し倒す。今川の黒い髪が江夏の顔にかかるくらい距離が近かった。

 

 

「江夏くん、私があなたを愛してあげる。嫌味も悪戯も全部構って欲しかったからだよね?可愛いなぁ、本当に」

「…今川さん、あんた…」

「…ねぇ、黙って?」

「んっ…」

今川は江夏の両手をデスクに押さえつけて彼の唇に貪るようなキスを仕掛けていく。

身体の体温が高まるのと同時に江夏はぼんやりと今川の顔を見つめて思考を巡らせる。

(…本当は好きで好きで、僕だけをみて欲しかったんだ。今川さん、あんたは僕だけのもので、そして僕も…)

あんただけのものだーー・・・。

江夏は今川の背中に腕を回して、彼女から与えられる熱の余韻に身を任せていった。

 


【惚気は最高の肴となる】

 

 

仕事が終わったギュスターヴは少し遅れていつも酒を飲むバーに足を運ぶ。自分たちの恩人であるジル、そしてその恩人の恋人であるエマニュエルが待っているこのバーは、GIGNの皆で打ち上げをする時によく使う。

ドアを開ければ、すでにワインを何本か開けているジルと呆れた視線を彼に向けるエマニュエルの視線がギュスターヴに向けられた。

「遅いぞギュスターヴ!!俺はすでに3本もワインをだな〜…」

「ジル、みっともない所をギュスターヴに見せないで!彼は仕事が終わったばかりなんだぞ!…済まない、私が見張っていたんだが…あなたの奢りだと聞いた瞬間に」

「構わないさ、彼は私の恩人だからね。エマニュエル、君も好きな物を頼むといい。君の大事な人のおかげで、私はずっと想っていた人と両思いになることが出来たんだから」

「そう。…分かった。ありがとう」

ギュスターヴはエマニュエル、そしてジルの目の前に腰を下ろして一杯酒を口に含む。

久しぶりに口に含む酒は美味しいと身体が喜んでいた。エマニュエルはジルを見て小さく溜息をついた。

「ジルがあなたたちに迷惑をかけたんじゃないかと少し不安だった。今日その事を私は謝りたくてジルについて来たんだが。…ジュリアンは?」

同僚がいない事に気がついたエマニュエルはギュスターヴに不思議そうな表情を浮かべて見せた。

「ジュリアンなら今日は実家に帰ると先に仕事を切り上げていったよ。エマニュエル、君の気遣いに感謝する。ありがとう」

「そう言って貰えると、少し気が楽になる。しかし今日は何故私たちは集まっているんだ?何かの会議でもおっぱじめるつもり?」

その言葉を聞いたジルは隣に座るエマニュエルの肩を豪快に抱き寄せた。

「俺とお前の惚気を酒の肴にする為に集まったんだ。ギュスターヴ、俺はお前らをくっつける為に頑張ったんだから惚気に付き合って貰うぞ?!な、エマニュエル?」

「の、惚気なんて無いだろう?!馬鹿じゃないの?!」

「こらこら、そんな風に大事な人を怒っちゃダメだぞエマニュエル。ジルは本当に君が好きなんだから。さて、私は君たちの関係を良く知らないんだが…、恋人同士なんだよな?」

ギュスターヴが二人を見つめると、ジルはニッカリと笑いエマニュエルの頭をぐしゃりと撫でた。

「…恋人同士『だった』。もう少しで夫婦になるんだ。な、エマニュエル?俺との間に子どもが産まれるんだぜ。幸せ過ぎて酒が進むよ」

「…それはおめでたいじゃないか、それでジルも禁煙していたのか。最近煙草を吸っていないと皆が騒いでいたから、なるほどな」

「…ジル!恥ずかしいからバラさないでくれないか?!落ち着いたら私から皆に話そうとしていたのに!ギュスターヴ、済まない。色々と話が飛び出して来て混乱しているだろう?」

エマニュエルはギュスターヴに申し訳なさそうな視線を向ける。しかし、ギュスターヴにとって嬉しい報告が聞けただけでも充分な肴になったのだ。

「エマニュエルがお母さんでジルがお父さんか、ふふ、すごい逞しいお子さんが産まれそうだ。もし何か困ったことがあればいつでも呼んでくれ。君は大事な仲間だからな」

「ありがとう、ギュスターヴ」

エマニュエルは目を細めてギュスターヴに微笑みを向けた。ギュスターヴはそんな彼女の様子を見て思ったのだ。

(…あんなに人当たりが強かったエマニュエルが柔らかくなったのもジルのおかげなんだな…)

元々プライドが高く、人当たりが強かったエマニュエルともこうして仲良く話せるようになったのも、親友であるジルのおかげだと痛感した。

「エマニュエルと出会ったばかりのとき、まさかこんな関係になるとは思わなかった。ギュスターヴ、俺はいつも思うんだ。大切な奴が出来た時点でそいつは運命の人間だってことを。心から大切にしてやらないといけない存在がいる時、そいつは自分を変えてくれる。俺にとってのエマニュエル、ギュスターヴにとってはジュリアンのようにな」

今まで口を閉ざしていたジルはギュスターヴの顔をまじまじと見つめて呟いた。ワインのボトルはすでに五本以上転がっている中でジルは真面目な表情で話していた。

「そうか、そうだな。ありがとう、ジル。そしてエマニュエルも元気な子どもを産むんだよ?ぜひ産まれたら会わせて欲しいな。ジュリアンと私で会いに行くよ」

「…それは光栄だ、ふふ、私は素晴らしい仲間に巡り会えたようだ。ギュスターヴ、どうかあなたもジュリアンと幸せになるんだ。私たちは何があってもあなたたちの味方だよ」

エマニュエルは膨らんでいるお腹を愛しげに撫でながらギュスターヴのブラウンの瞳を見つめて呟いた。

「さて、エマニュエルにギュスターヴ、まだまだ話は尽きないぜ?エマニュエルの可愛い所とか、お互いの恋人自慢大会の始まりだ!夜はまだまだこれからだ。ってギュスターヴ、お前笑いすぎじゃないか?」

「ふふっ、私は幸せ者だなぁと思ったんだ。こんなにも仲間に恵まれて仲間の幸せな惚気を聞くことも出来た。ありがとう、二人とも。今日は語り尽くそうか、何でも話すし何でも聞くよ。エマニュエルも辛くなったら言ってくれ。私の本業はメディックだからな」

「ありがとう、ギュスターヴ。ジル、私たちも幸せだとは思わないか?」

エマニュエルに聞かれたジルは頷いて満足げな笑みを浮かべて言葉を紡いでいく。

「そうだな、俺たちは最高の仲間、恋人に巡り会えた。この出会いは運命で必然なんだと思ってる。辛いことがこの先あったとしても絶対に乗り越えられるって俺は思ってるからな。エマニュエル、ギュスターヴ、これからもGIGNの仲間として友人として恋人として宜しく頼むぞ」

「あぁ、宜しく頼む…!」

ギュスターヴにとって、この温かいやりとりはかけがえの日々の宝物になっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラリーマンパロのまとめ(ルーク×ドク・バンディット×エコー)

【通勤快速・午前8時の初恋】

 

 

毎日通勤する時間帯は決まっていて、乗る電車も最寄駅も同じ会社の先輩。俺はこの人に恋心を抱いている。

…そう、人生で初めての初恋だ。

隣に並び立つこの先輩はおっちょこちょいで、だけど仕事が出来る敏腕の持ち主で。

「ジュリアン、おはよう」
「あ、ギュスターヴさん。おはようございます!」

着衣の乱れが一つもない彼は本当にかっこいい。朝一、電車も同じ時間帯に乗るから目の保養。

「昨日のプレゼン、中々良かったよ。私が気づかなかった部分に着眼点を置いていて面白かった」
「ほ、本当ですか?!…嬉しい」
「だけど噛み噛みだったね!ふふ、落ち着けばパーフェクト!」
「…恥かしい」
「君らしいじゃないか、ジュリアン」

電車はもう少しでやってくる。
人混みに押されないように、この人を守ってあげないと。

『間も無く、通勤快速…、黄色い線の内側で…』

「ギュスターヴさん、電車来るから…、人すごいだろうし俺に掴まっていて」
「うん…」

電車は午前8時、丁度に駅に着く。
開かれたドア、出てくる人混みに拐われないように。

しっかりと好きな人の手首を掴んで。

騒つくなか、俺は一言囁いた。

「あなたが好きです、ギュスターヴさん」

 

 

電車の中、人混みに揉みくちゃにされても俺は手を離さない。ギュスターヴさんも手を離さないでくれていた。

 

 

「…大丈夫ですか?」
「ジュリアン…」
「はい、何です?」
「…私が好きと言ったな」
「聞こえて居たんですね」
「嫌いだったら君と同じ時間帯の電車なんか乗らないよ」
「…それは俺を気にしてくれているんですか?…肯定だと受け取りますよ」
「構わない。…ジュリアン、君はね、私にとって…」

電車の中、周りに聞こえないくらいの小さな声で。そして俺のスーツの袖をぎゅっと掴みながら。

真っ赤な顔して、ギュスターヴさんは呟いた。

「初恋の相手だから。…だから、私も君が好き」

震える指と、小さな声。
俺が望んでいたあなたから返事、それだけでも充分なのに。

「嬉しいです、俺もあなたが初恋の相手たから。さ、ギュスターヴさん。会社の最寄駅に着くまで俺に掴まっていて下さい」
「…可愛い顔して、かっこいいとかずるいよな。まったくさ、絶対に今日の会議で君にかっこいい所見せないと」
「あなたはどんな時でも素敵で、俺の一番大切な人ですよ、ギュスターヴさん」
「っ…!!朝から心臓に悪い。嬉しくて会議の時に顔がにやけちゃうかも」
「しっかり見ておきます」
「馬鹿っ、もう君って子は…」

通勤快速、会社の最寄駅まで約10分。初恋の相手は今目の前で俺を見て楽しそうに微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

【通勤快速・午前8時のヤキモチ】

 

 

騒つくオフィスの、とある一室。
コーヒーブレイクにはうってつけの休憩室で恋人兼後輩が私を睨んでくる。

「ギュスターヴさん、俺が怒ってる理由分かる?」

「何だろうか」

「…本当に分からない?」

「私にはさっぱりだ」

ジュリアンは普段から優しいし、
まるで犬のような可愛さも持ち合わせている。

そんな可愛い彼が怒っている理由に、
当然検討なんてつくわけなかった。

「…ギュスターヴさん、この間さ、会議室で女の子と楽しそうに話していたよね?…あれ、誰なの?」

「あぁ、あの子か?あの子は新人の女の子だよ。会議で分からない箇所を聞いて来たから答えただけだが。…それがどうした?」

「…ねぇ、あなたは天然か何かなの」

「いや、抜けていると言われたことはあるな…」

「例えば、俺があなた以外の人と楽しそうに。しかも目の前で話していたらどう思う?」

ジュリアンが私の知らない人と、しかも楽しそうに…。

嫌だ、そんな所見たいわけないじゃないか。

胸がズキズキと傷んでしまう。

「嫌だ、そんな光景見たくなんか…っ!!」

「俺はあなたに見せつけられたんだよ、だから怒ってる。理解してくれた?」

「見せつけたなんて、そんなつもりはっ…」

「じゃあ何で、あんなにニコニコしていたんだよ。俺と話す時よりも楽しそうにしちゃってさ。仕事の、しかも会議の内容教えるだけで……って、ギュスターヴさん…」

「ごめっ、…ごめんっ、私のせいで君を怒らせちゃった。お願いだから、嫌いにならないでっ…!」

視界が涙で歪んでいく。
自分の意思とはまったく関係もなく、ぽろぽろと涙は頰を伝っていく。

ふわりとジュリアンは私を抱き締めて頭を撫でてくる。

「…ごめん、ギュスターヴさん。俺のヤキモチだ。あなたが初恋だから…その、泣かせるつもりなんてなかったのに。怒ってごめん」

「…私のこと、嫌いにはならないか?」

「嫌いになんかならない。…むしろ、独占したいくらいにはギュスターヴさん。あなたが大好きだよ」

「良かった…、本当に…」

「ねぇ、ちょっとだけ。…キスしたい、誰も来ないからさ。ね、良いよね?」

「ん…」

休憩室はある意味死角になっていて、ジュリアンに抱き締められながらキスされるところは誰にも分からない。

 


「…今日、あなたの家に泊まってもいい?」

「…え…?」

唇が離されたあと、若干の名残惜しさを顔に浮かべていればジュリアンは私の顔を見つめて微笑んだ。

「ヤキモチ妬いちゃったから、お詫びがしたいんだ」

「か、構わないよ…。じゃあ、会社のロビーで待ち合わせでいいかな」

「うん、良いよ。…ギュスターヴさん」

休憩室から出るときにジュリアンは私の耳許でぼそりと言葉を囁いて出て行った。

 


「まったく…、心臓に悪い…」

お互いが初恋だから、尚更ね。

 

 

 

 


「今夜あなたを独り占めするから。…覚悟しておいて?」

 

 

 

【お昼0:00、喧嘩上等】

 

 

お昼はとっておきの場所で、優雅にコンビニ弁当を食べる。

…屋上は春の陽射しでぽかぽかしていて居心地がいい。

「眠い…、さて、飯を食べるか。いただきま…」

「ちょっと待ちましょうか、ドミニク先輩」

「江夏…、俺の貴重な昼休みを邪魔するのか」

「あんただけなんですよ、企画書出してないの!まったく…」

昼飯を食べようと思い、コンビニ弁当を開けようとしたら屋上に入って来たのは後輩の江夏優。

「別に良いだろう、俺より仕事出来るギュスターヴくんとかジュリアン居るんだから」

江夏に視線を寄越せば、彼は歳の割には幼い顔立ちを歪ませながら俺を睨んでくる。

「あんたはそれでも営業のトップなんですか?!…ったく、無責任にも程がある」

「今日中には出すから、昼飯食べてもいい?」

「本当に提出出来るんですか?約束破ったら…」

「約束破ったら、別れてもいいぜ?俺はやろうと思えば今ちょうどパソコンあるし、ちゃちゃっと…」

「あんたそれ脅しですよ?!…っ、あんたが企画書作るの見張ってるから飯食いながらでもやってください!」

「ほいほい…」

後輩の江夏優と俺、ドミニク・ブルンスマイヤーはお付き合いさせていただいてます。

最近は喧嘩ばかりだけど。

 


コンビニの飯を食べながらパソコンを開いて書類を作成していく。

実は途中まで出来てるんだけど、すっかり忘れていたのは愛嬌ってことで。

「あんた途中まで出来てるじゃないか、忘れっぽいのさえどうにかしてくれれば…」

「ごめんごめん、そんな怒んなって。可愛い顔が台無しだぞ〜」

「は、はっ…?!意味わかんないです、男に可愛いとかっ…」

「俺が好きで好きでたまらない後輩くんがわざわざ自分の昼休み削ってまで俺の所に来てくれたのが嬉しいの」

「それはあんたが提出してくれないから…」

「俺に会いにも来てくれたんでしょ?」

「っ…!別にそんなつもりっ…!!」

「だったらなんでそんな顔真っ赤なの、キスしちゃうよ?」

「は、早く作りかけの企画書出来たらいいですよ。…あんただから許してるんですからね?!」

「よし、俄然ヤル気出て来た〜〜、江夏、ちょっと俺の隣で待ってろよ」

俺は残りのコンビニ弁当を紙パックのお茶と共に流し込み、ありたっけの集中力で書類作りに勤しむことにした。

 

 

 


「…やれば出来るじゃないですか、営業の中じゃトップ…、ドミニク先輩、あんた普段から…」

「真面目にやれって?俺の性に合わないなぁ。俺は昇進とか興味無いし、俺が頑張ったのは江夏、お前が恋人だからだ」

「公私混同じゃないですか、それ」

「良いんだよ、それくらいの公私混同くらいさ。それより、約束守れよ?」

「っ…、勝手にして下さい!」

「じゃあ遠慮なく。…目、閉じてろよ」

企画書を昼休み中に完成させたご褒美に俺は江夏にキスをする。

可愛い顔、真っ赤じゃねぇか。

「優、好きだ」

そう呟いて唇を重ねてしまえば江夏の身体はびくりと震えて俺の唇を受け入れていく。

 

 

 


「ドミニク先輩…、キス長い!」

「駄目だった??お前が可愛い顔してるんだもん」

「だからって、もう昼休み終わっちゃう…」

「じゃあ、俺の家で続きしようか?企画書も出したし、明日も休みだし。江夏くんに拒否権はありませーん」

「…っ、か、勝手にしてください!!」

「じゃあ、帰りは会社の入り口で待ち合わせだぞ。江夏、ちょっとだけ」

「な、何ですか?!」

「好きだよ、優」

「もう、勘弁してくださいっ…」

「残りの仕事も頑張りますかね」

コンビニ弁当の袋などなど片手に持ちながら江夏と屋上をあとにする。

昼休みは残り5分。

楽しみを片手に、オフィスへ戻っていく。

 

 


【深夜0:00、恋に堕ちる】

 

 

先輩との出会いは、本当に運命だと思っている。

僕は根暗で人間に興味関心なんて無くて、誰からも良い意味で関心を向けられたこともなかった。

だけど、ドミニク先輩だけは違ったのだ。

『お前、すげーじゃん!』

あぁ、僕は単純な性格かもしれない。

この人の全部が好きで堪らない、だからこそ…。

…素直になりにくいのだ。

 

 

 


「江夏、シャワー浴びて来いよ」

「い、言われなくても…!!タオルと着替え置いといて下さい!」

仕事が終わり、約束をしていたドミニク先輩のご自宅にお邪魔している僕は勧められるがままに浴室へ案内されてしまう。

「湯船にも浸かれよ、江夏」

「分かりましたから、先輩は部屋にいて下さい!」

「はいはい、ごゆっくり」

ガチャリと浴室のドアは閉められていく。

 

 

「…馬鹿、先輩のばーか…」

小さくぼやきなら、浴室内に足を運ぶ。

ドミニク先輩と恋人関係になってから約二年。

たまに合う休みはだいたい僕が先輩の家に泊まって、一緒に寝て、外で遊ぶ。

…僕は、キスより先を一年以上もお預けを食らっている状態なわけなのだ。

「先輩、僕のこと飽きてるのかな…」

熱いシャワー浴びながら嫌なことを考えてしまう。

やる気の無い先輩だが、きちんとやれば仕事だってなんだって…。

飽きているのなら、昼休みにキスなんてして来ないだろうし…。

どうしよう、どうしよう…。

「ドミニク先輩…っ、あなたの気持ちが…」

「呼んだか?」

「は、何で居るんですか!?」

「お前独り言めちゃくちゃデカイ声で話してるんだもん。…で、寒いから俺も入るぜ浴室」

「っ…来ないでっ…」

「優、泣きそうな顔してんじゃん。悪いけど拒否権はありませーん。…理由を話せよ」

あぁ、もう駄目だ。

せっかく明日休みで、普段やる気のない先輩が頑張って書類作りしてくれたのに…。

…僕のワガママであなたを困らせようとしてる。

「とりあえず寒いからシャワー浴びて身体の洗いっこでもするか。優、こっち向け」

「ん…やだ…」

「俺を拒否するな」

「先輩、僕のこと飽きちゃったからキスよりも先、一年以上もお預けしてるんですよね?!僕が女の子みたいに可愛げがあれば泊まりに来るたびにあなたはっ…」

「…怒るぞ?」

もう、嫌だっ…!!

「だったら僕とエッチを一年以上もしてくれない理由は何なんですか?…ドミニク先輩、僕だって心配になるんですよ。男同士だし、不毛かもしれない恋だけど僕はあなたが好きなんだっ…、だから、だから…」

浴室内に流れる熱いシャワーの水音が、僕とドミニク先輩の間に広がっていく。

視界がジワリと涙で歪んで、心がぎしりと軋んでしまう。

「あなたが僕を抱いてくれないのが心配なんだっ…」

ぽつりと涙が頬を伝って落ちていく。

ドミニク先輩は僕の顔を見て、そして一言だけ呟いた。

「…優、お前を本気で大切にしたいと思っているんだ」

先輩の顔は今まで見たことのないほどの真剣な表情だった。

「出来れば…、一生さ、よぼよぼになるまでお前と居たいのよ。だから本気で優、お前を愛しているからこの一年身体を重ねなかった。だけど」

僕の唇にちゅっと唇を重ねれば、悪戯な笑みを浮かべて囁いた。

「お前が望んで求めてくれるなら、今すぐにでもしたい。…優、抱いてもいい?」

もう、この先輩は本気なんだ…。

僕はあなたを望んで、そしてあなたの熱が欲しいよ…。

だから…。

僕はコクリと頷いて先輩の広い背中に腕を回した。

それは僕があなたを欲している『無言の肯定』なのだ。

 

 

 

熱い浴室内に漏れる吐息は誰の物だろうか。

そんなこと、どうでもいい…。

 

 

「優、気持ちいい?」

「んっ、知らなっ…」

「すんごい中締め付けてくるな。やっぱり一年我慢してて良かった。ずっと俺が欲しかったんだろう?」

「知りませんっ、…僕に聞かないでっ、んあっ、やっ…」

「そんな強がるなよ、優…」

ドミニク先輩の熱が僕の中で動いていくこの感覚がたまらなく気持ち良い。

口にしないのは、せめてもの強がりだから…。

「ぬるぬるだし、すんごいぐちゃぐちゃ。…可愛い」

「可愛くなんてっ…」

「好きだよ、お前が大好きっ…。だから持っとしてもいい?」

「好きに…っ、あなたの好きにしてくださいっ…!」

「っ…、俺を煽りやがって。会社ではあんなにツンツンしてるお前がこんなトロ顔だってバレたら俺耐えらんない…」

「あ、あんた限定だっ…」

「そう?じゃあ遠慮なく、いただきます」

「大きくしないでっ…、中、もっと反応しちゃうからっ…!」

「あー…、優、悪いけど優しくなんてしてやれないぞ」

「んっ…?!は、あっ、突かないでっ…う、あんっ、やぁっ…」

ドミニク先輩を求めていたのは僕自身。

中に籠る熱も、
僕に触れる手も…

 

 

「愛してますっ…、大好き、大好きです、ドミニク先輩っ…」

「そんな可愛いこと言われたら、加減なんてできねぇよっ…!

「キス…、キスして唇を塞いでっ…」

 


浴室内は声や交わる音が反響してしまう。

だからこそ、あんたの唇と舌をもって…。

僕を犯して…?

 

 

「ふ、うっ…、はっ、あぁ…」

唇でキスをされながら後ろをドミニク先輩の昂りで突かれてしまえばもう僕は限界だった。

「も、無理だからっ、出ちゃうっ、っ、ドミニク先輩っ…、大好きっ…」

「俺も限界だっ…、愛してるよ、優っ…」

もう一度、唇を重ね合わせて互いの熱を確認し合えば限界は目の前だ。

僕はドミニク先輩の手のひらに、
そして先輩は僕の中で精を吐き出していった。

 

 

 


ドミニク先輩の湯船は二人で浸かっても狭くはない。

かなり良い浴室だろう。

「一年ぶりに抱いたお前が可愛すぎてもう辛い…」

「…僕は腰が痛い」

「可愛い優が悪い」

先輩に背後から抱き締められながら共に湯船に浸かるのは初めてで、少しだけ恥ずかしい。

「優、不安にさせてごめん」

「僕の方こそ…仕事の時はきつい性格だよね…」

「良いよ、俺はそんなお前も大好きだから」

背後から抱き締めてくるドミニクさんの身体は逞しくて、温かい。

 


「なぁ、一つ提案なんだが聞いてくれる?」

「なに?」

湯船の中には穏やかな波、そして僕の手とドミニク先輩の手は重なっていた。

「優と一緒に暮らしたいんだ。…会社からは近いし、何よりも毎日お前の寝顔とか可愛い顔とか色々見たいんだけど。どう?」

…まさか、夢じゃないよね?

…嘘だったら泣くからね?

「朝ご飯は一緒に食べてくれる?」

「もちろん」

「一緒に会社から帰ってくれる?」

「当たり前だ」

「朝も夜も僕の隣で眠ってくれる?」

「喜んで」

「僕のこと、一生幸せにしてくれますか?」

「…俺以外に優は扱えないだろうな、俺以外が幸せにする権利なんてないし
。…だから一生幸せにする」

「…っ!!じゃあ良いですよ、一緒に暮らします」

「幸せ…、優、愛してるよ…」

「…僕も大好きです、先輩…」

温かい湯船に浸かりながら互いに抱き締めあった。

望んでいた思い、
これから先の未来…。

大好きなあなたと迎えられる夜なら怖くない。

もう少しで深夜0:00、 あなたと共に恋に堕ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優しい整備士さん

「あぁ、これは酷いな」

「お兄ちゃん、直せる…?」

「任せろ、俺に直せないものはない。坊主、今に見てろ。お前を笑顔にしてやるからな!」

マリウスは男の子の頭を優しく撫でて太陽に負けない笑顔を浮かべて呟いた。

 

【優しい整備士さん】

 


マリウス・シュトライヒャーが公園で散歩をしていたら一人の男の子が泣きそうな顔で自転車を見つめていた。

自転車は年季の入ったもので後輪が回らないような状態で男の子は途方に暮れていた。マリウスは人の役に立ちたいと自ら思う快活な人間だ。

男の子の側に近寄り、マリウスは男の子に優しく声をかけた。

「…坊主、泣きそうな顔してどうした」

「…自転車が、動かなくて…」

「見せてくれるか?」

「うん…」

マリウスは男の子の自転車に触れて後輪を見つめて考える。年季が入って錆びているパーツが多い中で状態自体はまだ良い。

余程保管していた場所が良かったのだろう。

マリウスは鞄から小さな工具箱を取り出してネジを緩めて、新しいものに取り替えて行く。

「…お兄ちゃん…」

「この自転車、古いが状態がいいな。坊主、これは誰から貰ったんだ?」

マリウスが新しいネジを付けながら男の子に尋ねれば男の子は誇らしげに元気いっぱいに呟いた。

「おじいちゃんの形見なんだ!おじいちゃんがくれたんだよ!僕の宝物なんだ…!」

「…そうか、それなら尚更ちゃんと元気にしてやらないとな。坊主、もう少し待てるか?」

「うん、お兄ちゃんが直してるところ見ていてもいい?」

「あぁ、構わないぜ」

マリウスは男の子の自転車に優しい視線を送りながら整備の手を進めていった。そして男の子も瞳を輝かせながら様子を近くで見つめていた。


***

 

「ほら、漕いでみろ!」

「うんっ!」

壊れていた後輪のタイヤをあり合わせのパーツで修繕し、錆びていた部分もヤスリで整えて磨きあげればまるで年季の入った自転車が新品同然に蘇る。

男の子はマリウスが綺麗にした自転車にまたがって自転車を漕いでいく。後輪はきちんと回ってすいすい前に突き進んで行くのだ。

少し走り、男の子はマリウスの目の前に止まって笑顔で彼に飛びついた。

「い、いきなり危ないじゃねーか!」

「お兄ちゃん、本当にありがとう…!!この自転車、僕にとって大切な宝物なんだ、だからお兄ちゃんがピカピカにしてくれて動くようにしてくれて、本当に嬉しいんだ、ありがとう!」

「…これからも、大切にしてやれよ?機械も人間と同じでメンテナンスをしてやればいつまでも使えるようになるんだからな」

「お兄ちゃんはお医者さんみたいだね!」

「俺は医者じゃない、エンジニアだ!…まあいい、坊主、じいさんがくれた宝物はずっと大切にするんだぞ?あとお前にこれをやるよ」

マリウスはポケットから小さなストラップを取り出して男の子に手渡した。

「車のストラップだー!」

「ちょっとした趣味で作ってんだよ、坊主、まだ明るいから自転車で散歩でもすりゃあいい。きっと前に走り出せるぜ。今までより、ずっとずっと早くな」

「うん!お兄ちゃん、僕これしかないけどあげる!お礼!」

男の子はマリウスに近づき袋に包まれたお菓子を手渡した。キラキラと透き通るビニールに入ったそれは星屑のような砂糖菓子。

金平糖だった。

マリウスは男の子の目線に合わせて腰を下ろして彼の頭をぐしゃりと撫でてそれを受け取った。

「ありがとう、大切に頂くぜ」

「お兄ちゃん、僕も将来お兄ちゃんみたいに困った人を助けられるかな?」

「そりゃあ坊主次第だぜ?だけど男の約束だ、道は違えど絶対にお前は良い男になるぜ。だから約束、物を大切にして友達や母ちゃん父ちゃんと毎日笑顔で生活すんだぞ?できるか?」

「うん…!僕、がんばる!お兄ちゃんみたいにカッコよくて機械を直せる強いヒーローになるんだ、お兄ちゃん、ありがとう!またね!」

「…気をつけろよ、坊主!」

最後にマリウスは男の子の頭をぐしゃりと撫でて自転車で前に進む彼を見送った。

マリウスは公園のベンチに座って空を見上げた。何だか久しぶりに小さな子どもと触れ合った気がする。受け取った小袋を開けて透き通る金平糖を口にしながらマリウスはぼそりと呟いた。

「…甘いな」

だけど何処かその甘さは懐かしい物を感じさせる味だった。小さな頃から叔父に育てられて来たマリウスに叔父が良く買って来たのが金平糖だったのだ。

マリウスはエンジニアとして人の役に立ちたいと小さな頃から思い、そしてその思いを叶える為に努力を重ねて来たのだ。ようやく今、その思いが叶ったような気がした。

「…坊主、お前も将来何かの為に頑張れるように俺は願ってるぜ?大丈夫、お前なら出来るぜ、男の約束だ」

太陽の眩しさに目を細めながらマリウスは口元に笑みを浮かべた。弧を描く瞳に浮かんでいたのは何よりも優しい彼自身の穏やかな心だった。

 

レインボーシックス小話④


スモーク×ミュート

【今日も今日とて攻防戦】


「なぁ、決まってる?」

「は?」

「だ・か・ら!髪型だよ、どうよ?俺ってカッコいいだろ?皆大好きスモークさまだ!…ってミュート、お前ドン引きし過ぎ!」

「…意味が分からなくて、理解に追いつけないんだ。済まないな」

トレーニングルームで訓練を終えたスモークとミュートはロッカーで着替えていた。スモークはシャワーん浴びたあとに念入りに髪の毛をセットしていたのだ。

オールバックにブロンドの髪、そして両耳にはピアスに背中にはタトゥーと、かなり派手な身なりだとミュートは彼を見て思う。

「本当にお前は頭が堅いんだから〜、『先輩逞しいですね♡』とか言って見ろよ?な?」

「…ちびっ子の癖に、あんた生意気だよな」

「あ?!お前の方が歳下だろーが!身長が低いからって舐めんなよ!スモークさまだっ…てお前…」

「華奢な癖に筋肉はバランス良く付いてるし、腹筋割れてるし、あんた馬鹿なのか?」

ミュートはスモークの腹筋に触れながらボソリと呟いた。細くて綺麗な指でスモークの腹筋をなぞっていく。スモークはミュートの顔を見て彼を睨みつける。

「…っ、てめぇ俺がソコ弱いの知ってんだろ?」

スモークが小さく悪態を吐くとミュートは指を這わせながら彼の耳許でぼそりと囁いた。

「…さぁ、知らないな。あんたのことなんて興味無いからな」

「興味ねぇなら止めろってんだ…」

「あんた意外に可愛いとこあるんだな」

「…こんのクソガキっ…!!」

スモークはミュートの手首を掴んで壁際に彼を追い込んだ。知的なミュートの顔はスモークを見下しながら唇には笑みを浮かべていた。あぁ、この生意気なガキにはお仕置きが必要だ。スモークはミュートの首筋に唇を這わせてなぞって行く。

「なっ、何を…」

「…やられっぱなしは性に合わないんだよ!ミュートくーん、てめぇは首が弱かったよな?」

「知らなっ…」

「俺は『知ってる』ぜ?いつも首筋にキスすりゃお前が勃たせることくらいな。ほら、もう反応してるぜ?」

ミュートのズボンの中に手を突っ込んで緩く勃っていた性器にスモークは触れて行く。首筋を舌で愛撫しながら手を動かしてミュートの弱いところを刺激して行く。

「はっ…この野郎っ…!」

「生意気なウサギちゃんだぜ、すげぇ感じてるじゃねーかよ…」

「うるさっ…」

「…生意気な口は塞ぐに限るぜ」

スモークはミュートの胸倉を掴んでキスを仕掛ける。舌を絡めながらミュートの口から漏れる甘い声を堪能しながら愛撫の手を強めて行く。

「…んっ、出るからっ…」

「ほらイッちまえよ、生意気なウサギちゃん…」

ミュートはスモークの腕の中で身体を震わせながら彼の手に熱を吐き出して行く。熱い吐息を漏らすミュートは酷く欲情した顔をしていた。スモークは彼を見てニヤリと笑った。

「相変わらずお前弱いな」

「…黙れよ」

「ま、そんな所も生意気で可愛いかもな?」

「煩いぞ、ちびっ子…」

「…てめぇ、後で啼かせてやるから部屋に来いよ。俺はまだ足りねぇからよ」

「…せいぜい腰を壊すなよ」

ミュートの言葉を聞いたスモークはミュートの唇をもう一度塞いで彼を黙らせる。スモークの広くて逞しい背中にミュートは腕を回していく。

愛しげに背中に入ったタトゥーをなぞりながらミュートはスモークからの口付けを堪能する為に瞳を閉じていった。

君に似合うのは…

【君に似合うのは…】


バンディットとイェーガーの話。

 

少し暗い顔をしたドミニクを見たのは昨日が初めてだった。相棒として、友人として、恋人として。付き合いは数年になるが、ドミニクの暗い顔を見たのはその時が初めてだった。


「…昨日から暗いがどうした?」

「….マリウス」

仕事が終わり、いつも通り二人で暮らす部屋に帰ればドミニクは何だか疲れ切った顔をしていた。俺に言えない悩みがあるのだろうか?俺は頼り甲斐が無いのだろうか?

暗い気持ちと悲しい気持ちがごちゃ混ぜになって、俺の心を搔きまわす。ドミニクは俺の名前を呼んだままただ黙って俺の顔を見つめてくる。

「ドミニク、何か悩みがあるのなら…」

「…お前に、謝りたいことがある」

「何だよ…急に…」

「実は…」

ドミニクはそう言うと薬指を俺の前に突き出して暗い顔をますます暗くして消え入りそうな声で呟いた。

「…付き合って二年経った時に買ったペアリング、落としちゃったんだ。お前と俺が一生懸命貯めたお金で買った指輪を任務中に落としたみたいで。何処を探しても見つからないんだ」

「ドミニク、お前…」

「俺にとってあの指輪はマリウス、お前と同じくらい大事な物なんだ。長期間離れていてもお前を思い出せるようにいつも身に付けていたのに…!あぁ、自分が最悪過ぎる…」

俺は自身の薬指に嵌る指輪を見つめて思った。確かにこの指輪はドミニクと俺が付き合って二年の記念日に互いに貯めたお金で初めて買った指輪だった。

もう恋人同士になって十年近くは経つからこの指輪も嵌めてから八年以上は経つのだ。少しばかり色褪せて来た指輪。何よりも大切にしていたドミニクは新しい物を買おうとはしなかったのだ。

「ドミニク、何処にも無いのか?」

「…あぁ、ネックレスにして身に付けていたのが悪かったのかも知れない。色褪せて来た指輪だったとしても、俺にとっては…大切な物だから…」

「なぁ、例え指輪が戻らなくても俺はお前を嫌いになったりはしないぞ?ドミニク、その、何だ…。お前が暗い顔してるのが一番辛いよ。いつもの笑ってるドミニクが俺は好きなんだから」

空っぽになった薬指に口付けて見ればドミニクは泣きそうな顔をして俺を抱き締めてくる。おいおい、お前は甘えん坊か?まったく可愛いなぁ。普段ならお前がリードしてるくせに。まったく。

「…マリウス」

「…ん?どうした?」

「…ぎゅってしてくれないか?」

「こうか…?」

「うん、お前の体温は安心する…」

ソファの上で抱き締め合いながらドミニクは甘えてくる。たまにはこんなお前もいい、弱くて甘えん坊なドミニクも、全部全部俺は好きだよ。


少しの間抱き締め合った俺たちは身体を離して互いの顔を見つめ合う。ドミニクはゆっくりと俺の顔に手を伸ばして微笑んだ。

「うん、俺はマリウス、お前が大好きだよ…」

「なっ…!改まるなよ、恥ずかしいな…」

「…なぁ、俺一個だけ思い出した事があるんだけどさ。ちょっとだけ待っててくれるか?」

「お、おぅ…」

ドミニクはソファから立ち上がり、寝室に何かを取りに行ったようだ。何かって何だろう。少しだけ俺は不思議に思いながらドミニクが戻って来るのを待っていた。

 


「お待たせ」

ドミニクは小さな紙袋を持って再びソファに腰を下ろす。何処かで見たことのある紙袋だ。…何処でだっけな。

「…何だそれ」

「実はずっと渡すタイミングを見計らっていたんだが…。今が丁度いいかな、マリウス、箱を取り出して見てくれるか?」

「あぁ、分かった…」

受け取った紙袋の中には小さな箱が入っていた。あぁ、そう言えばこの紙袋はドミニクと俺が指輪を買った店の物じゃないか。

二人で指輪を買いに行った思い出が何だか懐かしいな。そんな気持ちになりながら俺は箱を開けて見た。するとそこには…。

「お前…これ…」

「実はさ、こっそりと買いに行ってました。マリウス、指を出してくれるか?」

俺はドミニクに言われた通りに指を差し出した。するとドミニクは俺の薬指に嵌る指輪を取って小さな箱に入っていた真新しい指輪を嵌めたのだ。

「…どういうつもりだよ…」

「確かに無くした指輪は俺たちの始まりを象徴付ける物だった。俺は色褪せてもずっと大切にするつもりだったからな。だけど良いきっかけになったと思うよ、指輪が無くなったことがな。…どうして俺が真新しい指輪を買っていたか分かるか?」

ドミニクは優しく笑いながら俺を見つめた。指に嵌められた指輪は今までの物とデザインはそんなに変わらないが一粒の石が埋め込まれていた。

…そう、永遠の輝きだった。

俺はドミニクの顔を見つめて勇気を振り絞って言葉を呟いた。もし間違いだったら俺は相当恥をかくのだから。

「…もしかして、プロポーズかよ?」

その言葉にドミニクは顔をくしゃりとさせながら俺の手を取って握りしめてくる。大きくて優しい、立派な手だ。

「それ以外、何があるんだよ」

「だ、だっていきなり過ぎるだろ?!指輪だってお前新しいの買うつもりなかったんじゃないのかよ?」

「…確かに新しいのを買うつもりは無かったよ。だけどずっとマリウス、お前に想いをいつ伝えようかってずっと考えていた。指輪が無くなったのは良いきっかけだった。なぁ、俺と結婚してくれませんか?」

もう、本当にお前って奴は…。

俺を泣かせるのが趣味なのかよ…??

「…俺、本当にドミニクが大好きだ。ずっと長い間一緒に過ごして来てお前以外と歩む未来は無いと思ってた。だからすげぇ嬉しい…」

「泣くほどか?」

「…泣いちゃ駄目か?今人生で一番の嬉し泣きしてるんだけど。ドミニク、こんな俺で良ければずっと隣に居させてくれ」

「幸せにするよ、マリウス」

「…あぁ、幸せになろうな…」

ドミニクの手を取り、空っぽになった薬指に俺も指輪を嵌めて行く。何だか心臓の鼓動が煩い。そう、全ては幸せだからなんだ。

 


「マリウス、愛してる」

「あぁ、俺もだよ、ドミニク…」

空っぽになった薬指に嵌る指輪と俺の薬指に嵌る指輪。その輝きはずっとずっと色褪せはしない。愛してくれるお前が側に居る限り、永遠に。

ゆっくりと唇を重ねれば、それは永遠の誓いに変わって行くのだ。

 

桜日和は恋愛前線

【桜日和は恋愛前線】


桜が満開の夜、田波と江夏は二人きりで夜桜が綺麗に見れる場所にブルーシートを引いて盃を酌み交わす。酒に弱い江夏を気遣った田波は度数の低い缶チューハイを江夏に手渡した。

「た、田波先輩…??」

「お前、酒弱いからって黙ってることはない。ほら、缶チューハイくらいなら飲めるだろ?」

「ありがとうございます、折角貴重なお休みを俺なんかに声をかけてくれてありがとうございます、嬉しいです」

「…そうか?俺は江夏、お前だから花見に誘ったんだ。お前以外に声なんてかけないよ」

田波は日本酒を一口飲んで空を仰ぐ。今宵は満月、月明かりに照らされた桜の木からはヒラリと花びらが一枚、江夏の頭に乗っかった。田波は江夏の頭に触れて花びらを摘んで微笑んだ。

「江夏の頭に花びらが」

「た、田波先輩っ…!いきなり触れないで下さい、もう!…びっくりしました」

顔を少し赤らめた江夏は怒り気味に田波の顔を見上げた。月明かりに晒された江夏の顔は幼さの中に可愛さ、そして艶やかな印象を受けた。

田波は無意識に江夏の顔を手の平で包み込み、まじまじと彼の顔を見つめる。田波に顔を見つめられている江夏は顔を赤くしながら呟いた。

「あ、あの…」

「ん?」

「俺の顔なんて見ても面白くないでしょう?離してくれませんか?」

「…離せるもんなら、簡単に目を離せるならとっくに目を離してる。江夏、お前は綺麗だな」

月明かりの下、桜は満開で。

そんな穏やかな時の中、田波は江夏の顔から手を離そうとはしなかった。江夏はどうしようもない気持ちでいっぱいになり、顔を俯かせながら呟いた。

「田波…先輩は…お、俺をどうしたいんですか」

「別に今のままで構わないさ、江夏の綺麗な顔が見られるなら何だって。いや、綺麗なのは顔だけじゃない。瞳も、唇も、心も…。全部綺麗だ」

柔らかな夜風が二人の頬を優しく掠めて行く。その風に桜の花びらがヒラリヒラリと散って地面に落ちていくのを江夏は見つめていた。

「….田波先輩…」

真っ直ぐと江夏は田波の瞳を見つめた。田波の言葉に頬を赤く染める江夏を、田波は我慢できなかったのか優しく頭を撫でながら小さく言葉を漏らす。


「…嫌なら突き飛ばせ、まだ間に合う」

「嫌なら、嫌だったら田波先輩、俺はあなたを望んだりはしないですー・・・」

江夏の行動は肯定を意味していた。田波は小さく口元に笑みを浮かべながら唇を奪っていく。

目を見開いた江夏はゆっくりと田波の唇の体温を受け入れていった。満月の光は眩しくて、桜はヒラリと頬を掠めて落ちて行く。

目を瞑りながら江夏は田波の唇の体温に酔いしれてしまう。お酒なんかよりも酔ってしまうくらいにクラクラしてしまうのはきっとこの熱のせいだ。

田波の唇が離れた頃、江夏は今までにないくらいに頬を桜色に染めて濃紺の空を見つめた。

「…田波先輩」

「何だよ…」

「俺、あなたに恋をしてもいいですか?」

「…俺は江夏、初めからお前に恋をしてお前に惚れていたよ」

「は、初耳ですよっ…!」

「嫌か?」

「…嫌じゃないです」

「じゃあ良いじゃないか。江夏、俺もお前に恋をしてる。だからこれからも二人で紡いで行こう。俺とお前の関係を、ずっとずっと」

「はい…、田波先輩、好きです…」

「俺もだ、江夏…」

夜桜が咲き誇る空の下、恋に落ちる二人が居た。唇の温もりも、交わした言葉も、二人しか知らない。

そう、誰も知らない恋愛前線。

レインボーシックス小話③

 

エコー×グラズ

【好きだから怒るんです】

 

「もうエコーなんて知らない。二度と戦場であんたを守ってなんかやらないからな」

いつもなら穏やかなグラズが声音を冷たくしながら呟いた言葉はエコーに対して向けられていた。

エコーはグラズの水色の透き通る瞳を見つめて黙ってしまう。任務が終わったら満面の笑みで甘えてくるグラズが酷く怒っているのだ。

理由は簡単である。

グラズが狙撃しようとした時にエコーが彼の射線に出てしまったからだ。グラズの銃弾はエコーの頬を掠めて敵に貫通した。血が頬を伝って落ちる中、エコーはグラズに酷い言葉を浴びせたのだ。

『お前の狙撃が下手なせいで怪我をした』

その言葉を聞いたグラズは感情を失った人形のように無表情になり、エコーの顔すら見なくなった。彼の冷たい声音はエコーの心にぐさりと突き刺さる。

「…グラズ」

「…何だよ」

「…謝る、悪かった」

「…あんたの顔なんて見たくない」

「…俺が悪かった、だから…」

エコーがグラズの腕を掴んで彼の顔を見た時だった。グラズの水色の瞳からは大粒の涙がポロポロと零れ落ちていく。手に持っているドラグノフが濡れて行くのをエコーは見つめて彼の頭を優しく撫でた。

「何でそんな大泣きしてるんだよ、グラズ」

エコーが聞くと、グラズは泣きながらエコーの顔をただただ見つめて声を震わせる。

「………が…」

「…え…?」

「優くんが、優くんが死んじゃうと思ったから俺は…!俺は君を助けたくてて引き金を引いたんだ、なのに君が…冷たいことを言うから」

グラズはドラグノフを地面に置いてエコーにぎゅっと抱き着いた。エコーはグラズの言葉に己が吐いた言葉を酷く後悔して彼を抱き締め返す。

「…ごめん」

「優、くん…、俺、君が居ないと生きて行けないんだよ?!君を守りたい、君に死んで欲しくないから…だから怒ってるんだ!あの時、下手したら優くんは…」

「…あぁ、分かってるよ、ティムール」

『死んでいたかもしれない』

グラズの言いたいことは充分分かっていた。だけど本当は、エコーだってグラズに言いたいことがあったのだ。

「俺がお前の射線に出たのはな、お前が狙われていたから。ティムール、俺だってお前を失いたくないんだ!…好きな奴を守りたいって思うのはそんなに悪いことか?」

エコーの想いにグラズは首を横に振ってありったけの涙を流してぎゅっとエコーをより一層抱き締めた。温かなグラズの体温と、泣きじゃくる彼の姿が可愛くて。愛しくて。

グラズの顔を見つめたエコーは涙を指で拭って優しく微笑んだ。

「…ティムール」

「な、なに…?」

「俺が好きか?」

「…な、んで…、そんなのっ…!」

「俺は自分よりもお前が生きていて幸せでいてくれればそれ以上に何も望みはしない。なぁ、キスさせろ」

「…優くん…」

エコーはそっとグラズの顔に触れて唇をゆっくりと重ねていく。グラズはエコーの唇の体温と彼の言葉で感じていく幸せを噛み締めながら瞳を細めていく。

ほろりと一筋の涙が頬を伝って落ちていく。それは何よりも綺麗で、何よりも幸せな涙だった。