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【不機嫌な君】

【不機嫌な君】


ドミニク・ブルンスマイヤーは目の前に座るマリウス・シュトライヒャーの顔を見つめては小さなため息をつく。

「なぁ、機嫌直せって。エンジニアさん、ADS壊したことは謝る、ただワザとじゃないことは察してくれよ」

「お前の言うことなんて信用できるかよ、お前が『改良したい!』って言ったから開発途中のADSを預けたのによ、壊して返しやがって!二度とお前に俺の開発したモンの改良は頼まねぇ」

ドミニクはマリウスのADSの能力を向上させるために、一台彼からADSを借りたのだ。たまたま改良に失敗して一台壊してしまったことを謝りに行けば、虫の居所が悪かったマリウスはドミニクを不機嫌そうな顔で睨みつける。

困ったなぁ、とドミニクはマリウスの顔を見つめて心の中で小さく呟いた。マリウスの眉間には深い皺が刻まれており、彼が物凄く怒っていることがよく分かる。

マリウスの頭にドミニクは手を乗せて、ぐしゃりと彼の頭を撫で回す。頭をいきなり撫でられたマリウスはドミニクをきっと睨みつけて悪態を吐いた。

「そんなことで機嫌が良くなると思うなよ?!俺は子どもじゃない、エンジニアだ!馬鹿にしてるならいい加減にっ…!」

「馬鹿になんかしてないし、お前を怒らせて悪いと思ってる。マリウス、お前の機嫌はどうしたら直るんだ?言うこと聞けばいいなら何だって聞いてやるから」

ドミニクの言葉を聞いたマリウスは顔を真っ赤にしながら彼の顔に己の手を伸ばし、顔に触れていく。

僅かに剃り残しのある無精髭、
少しばかり傷跡が残る肌、
そして整っている顔のパーツたち。

マリウスは無意識にその場所に触れて、小さな声でドミニクに対して呟いた。

「俺は今最高に不機嫌だ」

「だろうな」

「…だから俺の機嫌取りをしたいんだろう?」

「不機嫌なお前をずっと見ているのはさすがに俺の心が傷つくからなぁ。マリウス、どうして欲しいんだ?ADSはさすがに俺の技量じゃ作れないから…」

「黙って俺を抱き締めろ…!」

「そんな事でいいのか?!」

「良いから黙ってろ、馬鹿」

ドミニクはマリウスの身体を己の腕の中に閉じ込めてぎゅっと抱きしめた。自身とそんなに身長だって変わらないマリウスの肉付きは少なく、彼が華奢なのがよく分かる。

「こんなことでお前の機嫌は直るのか?」

「…ドミニク、お前って本当に鈍感だよな!ここまでさせないと分からないのかよ、ADSを壊されたことなんて始めっからそんなに怒っちゃいねぇ、怒ったフリをしてたぜ俺はな。本当の不機嫌な理由はお前自身だよドミニク」

「ちゃんと分かるように教えてよ、マリウス」

「…ずっと寂しかった!お前はここ最近任務だの人付き合いだのでまったく俺に触れてこなかっただろ?それが酷くイラついた。察しろよ、ばーか…」

ーーあぁ、こいつは酷く不器用で可愛い奴だったことを今思い出したよ。

ドミニクはマリウスを抱きしめる力をさらに強くしてぎゅうと離さないように彼の身体を引き寄せた。

「不機嫌で可愛いマリウス、お前の機嫌を良くしてやるからお前はそのままでいろよ、な?可愛いなぁ、本当に…」

「…五月蝿いなぁ、本当に」

悪態を吐きながらも甘えるようにマリウスはドミニクの胸に顔を押し付けた。少しばかり機嫌は軟化したようで、マリウスもドミニクの背中に腕を回していく。

ドミニクは不機嫌で可愛らしいマリウスの顔にちゅっと口付けた。久しぶりの口付けにマリウスは驚きを隠せないようだったが、最後には子どものような無邪気な笑顔をドミニクに向けていたのだった。

(…可愛いエンジニアさんだぜ、まったく…)

ドミニクは心の中でマリウスに対し、ぽつりと言葉を漏らしたがそれを敢えて口にしなくても大丈夫、そんな風に思っていた。

不機嫌なエンジニアさんには充分俺の気持ちは伝わっているのだからー・・・。