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片想い狂詩曲

【片想い狂詩曲】


貴方を好きになったのはずっと前の話。

貴方をもっと知りたいと思うようになったのは最近のこと。

振り向いて欲しいと思っているのに、貴方には大切な人がいて。

俺にこの気持ちを伝える権利はあるのだろうか。

臆病者の俺は伝えることを諦めていた。


***


「ルーク、顔色が優れないようだね。体調でも悪いのか?」

「ドク、俺は大丈夫だよ!ごめんね、貴方に心配をかけるつもりは無かったんだが…。最近何だか寝不足でね」

「…何か悩みがあるのなら相談しろ、私は軍医であり君の相棒なんだから。隠し事は信頼関係が崩れていくことに繋がってしまう」

「そ、そうだね…」

ここ最近、ドクのことを想えば眠れない日々が続いていて気が付けば貧血で倒れかけていた所をタイミング悪く想い人にも見られてしまった。

ドクの薬指にはまっている銀の指輪は彼が既婚者であることを示す目印で、俺の想いを伝えることを許さないかのように厳かな輝きを放っていた。

「ルーク、君は何に悩んでいる?仲間か?それとも健康のことか?それとも…恋煩いか?」

ドクのブラウンの瞳は俺を射抜くように見つめてくる。いつものような穏やかさは其処になく、少しだけ俺に対して怒っているように思えた。

「…仲間のことでもなく、健康のことでもない。俺には片想いの人がいてその人は結婚だってしている。だから俺はずっと心の中で想うことしか出来ないんだ。…貴方には関係ないだろう?」

「…関係ないって何だ」

「…貴方に俺のことなんて分からないだろう?俺のことなんて何も知らないくせに怒るなんておかしくないか?そうやって俺を…」

「君のことを心配してるのに逆切れか?子どもみたいだな」

「…じゃあ、じゃあ俺が貴方に片想いしていること伝えたら貴方は俺を好きになってくれるのか?!そうやって貴方は結婚だってしているのに俺に優しくして来て…。それがどれだけ辛いことかドク、貴方に分かるのか?…分からないだろうな」

俺は怒りに任せて全てをドクにぶつけてしまった。あぁ、もう終わった。大人気なく頭に来て怒ってしまった。

…もう、俺と貴方の信頼関係なんて崩れたも同然だよ。

 

「…君は本当に直情的だよね」

ドクはそう言うと薬指にはめていた銀の指輪を外してゴミ箱に躊躇なく投げ入れた。

「何を…!」

「これが君を縛っていたのなら、捨てるのが早いかと。まったくこの指輪がカモフラージュだってこと誰も教えてあげないんだろうね」

「意味が…分からない」

「…じゃあ私が教えてあげるよ、ルーク」

気が付けばブラウンの瞳はすぐ近くにあり、唇と唇が触れているのがよく分かる。

頭は真っ白。

思考回路はショート寸前なわけで…。

 

「意味分かった?」

「…頭が追いつかない」

「だから私は既婚者でも何でもない。私も君を恋愛対象として好きなの、指輪はカモフラージュ用。女避けだよ、まったく。君を好きじゃなきゃ私は戦場でとっくに君を見捨ているよ?ルーク、君みたいな命を自ら捨てに行く奴が私は一番嫌いだからな」

「…貴方は俺を好きなのか?」

「だから言葉にして伝えているだろう?足りないならもっと教え込んでも良いが…。まだ仕事中だからね、続きは宿舎の私の部屋で。今夜たっぷりとルーク、君自身に教え込んであげる」

「本当に貴方って人は狡い人だ…!」

「…こんな私は嫌いか?」

「…好きだよ、馬鹿」

「歳上に向かって馬鹿は駄目だぞ、あ、いじけるなよルーク。可愛いなぁ、本当に」

「…夜、絶対に寝かさないからね」

「望むところさ」


医務室で片想いしていた人と視線がぶつかれば穏やかな笑みが自然と口元に笑みが零れた。

恋が実るって、幸せなんだね。

俺、貴方に出会えて良かった。

大好きだよ、ドク。

だからこれからも。

俺の隣に居てください。