穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

ルークとドクの話(過去作まとめ)

 

1.stim・pistol


『嫌だ、目を開けてくれっ………』

目の前の大切な人の顔色は真っ白になっていく。

(…私はまた、救えないのか…)

敵の銃弾に倒れた彼は軍医であるドクの大切な恋人である………。

 


***

 


「………っ、夢か…………」

ベッドから飛び起きると、ドクの額には冷や汗が滲み出ていた。

ベッドから出て、冷蔵庫にあるミネラルウォーターを一口飲み込む。

(やたらと嫌な過去を見るようになったな…)

ここ最近、ドクは夢で必ず過去の記憶を見るようになっていた。

(…今はこうして、君だって元気に隣で眠っているのだから、忘れたっていいのに……)

ベッドに戻ると、隣で眠る恋人は穏やかな寝息を立てていた。

「…ルーク………」

彼に抱きつくようにドクは再び布団に潜り込み、眠りに落ちていく。

 

 

***

『私がレインボー部隊に…?』

上官であるモンターニュはドクを真剣な瞳で見据えていた。

『あぁ、君の医療に対する知識とそれに劣らない戦闘のスキル、そして医師としての素質が評価されたんだ。…各国の先鋭が集まる部隊に招集されたんだ、どうする?』

(…沢山の命を救えるのなら、答えなんて……)

答えなんて、1つしか無かった。

『私が力になれることなら、行かせてほしい。…しかし、他には誰が居るんですか?』

『…私以外には、トゥイッチとルークがいるが。…ドク、君は防衛専門の作戦に就くことになるだろう。ルークと組んで仕事を十分にこなすといい』

『はい、必ず任務をこなしてまいります』

ドクはそういうと、モンターニュの前を後にした。

 

 

***

(…ルークって…、確か入隊してまもない若い隊員だったよな…)

ふと、基地の中を歩きながら考えていた時だった。

…………ドンっ…………!!

人とぶつかってしまったのか、ドクは尻餅をついて座り込んでしまった。

『…すいませんっ…!大丈夫ですか?!』

透き通る心地良い声が、手と共に差し出された。

『済まない、私こそよそ見をしてしまっていたよ…』

手を掴み、立ち上がったドクは声の持ち主を見つめた。

(…綺麗な瞳だな)

青い瞳は穢れを知らないような、まるでサファイアのような輝きを秘めていて、見とれてしまったのだ。

『俺、まだこの基地に来たばかりで…。名前はルークというコードネームで呼ばれてます。…あなたは?』

(…この人が、ルークか……)

モンターニュから聞いていたルークと言う名前でピンときたのだ。

自分と今度から組んで任務をこなす彼とこんな形で会うとは。

ルークの瞳をじっと見つめ、ドクは穏やかな瞳で微笑んだ。

『私はドクだ、この軍で軍医として従軍している。君も聞いているとは思うが、今度からレインボー部隊で君と組むことになっているんだ。宜しく頼む』

手を差し伸べると、ルークは人好きのする品の良い笑顔を浮かべて手を握り返す。

『…あなたがドクか、やはり話に聞いていた通り穏やかな方なんだな。…宜しくお願い致します』

それが二人の出会いの始まりだった。

 

 

***

二人が出会ってから気が合うようになるまで、そう時間はかからなかった。

毎日こなしていく任務や、日常生活の中、ドクの心の中ではルークの存在が大きくなっていたのだ。

(あぁ、私は君が………)

………好きなんだ………。

出会ってから半年余りが経ち、ドクはルークに対して恋心を抱くようになっていた。

それをさらに『自覚』させる出来事が起こってしまう。

 


『今日も疲れたね、ドク』

『ルーク、君は本当に頑張っているね、お疲れさま』

『…あなたに誉められると、なんだか敵わない気持ちでいっぱいになるな…』

恥ずかしそうにするルークをドクは可愛いな、と思いながら見つめていた。

ここはロッカーで、今はドクとルークの二人しかこの空間には居ないのだ。

横で着替えているルークを、横目でドクはチラッと見てしまう。

(…バランスの良い、体格だ…)

細くも無く、また筋肉が程好く付いているルークの身体を見て、ドクは思ってしまった。

……この腕に抱かれてみたい……。

(邪な気持ちなんて、駄目だろ…。私はあくまでも軍医なんだ。…それ以上でも、それ以下でもないじゃないか)

必死に気持ちを押し殺そうとするドクを、ルークは心配そうな声音で話しかけた。

『顔色が悪いようだよ、大丈夫?』

心配そうな表情で覗き込んでくるルークの顔は、思っていたよりもドクの近くにあった。

『………だ、大丈夫……』

いつもは冷静なドクは少し言葉を濁らせ、なんとか言葉を返した。

 

 

着替えを手早く終わらせ、さっさとロッカーから出たくて仕方なかったドクは早足でロッカーを後にしようとした。

……その時だ。

ルークはドクの手を掴み、引き止める。

『顔色が悪いあなたを一人で帰らせられない、送っていく』

その言葉にドクはすぐに頷くことが出来なかった。

『…いや、大丈夫だ』

『駄目、あなたを一人になんか出来ないよ 』

『…しかし…』

『自宅は何処?』

『…基地の近くだ』

『じゃあ、俺もわりと近いから一緒に歩いて帰ろう…。文句は言わせないよ』

『…分かった…』

ドクはルークに手を掴まれたまま、ロッカーを後にした。

 

 

***

 

 

基地の近くの道を、二人は無言で歩いていた。

(手を離してはくれないのか………)

ずっと手を掴まれたまま歩いていることにルークは気付いていないようである。

 

 

しばらくして、信号で止まっているときにようやく気がついたルークは慌てて手を離す。

『…ご、ごめん……。気持ち悪かった?』

離れてしまった熱を少し寂しそうに見て、ドクは静かに微笑んだ。

『大丈夫だよ、別に気持ち悪いなんて全く思ってないから…』

(むしろ、ずっと繋いでいたかったくらいなのに…)

口には決して出せないけど…。

こっそりと言葉を付け足した。

信号が変わり、再び二人は歩き出す。

手は繋いではいないけど、並んで歩き始める。

 

 

ドクの家の近くは非常に道が狭かった。

ルークは白線の内側、ドクは外側を歩いていた。

(相変わらず、危ない道だよな)

歩きながらそう思っていた時だった。

『……危ない……っ!!』

ぐっ、と腕を引かれ気がつけばルークの腕に中にドクは居た。

『ドク、大丈夫?…車にぶつかりそうだったから…』

抱き締められるドクは、ルークの腕の中でしばらく動けずに居たのだ。

(…嘘だろ、なんで抱き締められてるんだ……)

頭の中と、今起きている現実が追い付かない。

ルークの腕の中は自分よりも鍛えられた腕の筋肉と、温かい鼓動で満たされていた。

 


『…ルーク……、もう大丈夫だから』

そう呟くと、ルークはほっとした様子でドクを見つめ、安心した表情を浮かべた。

『良かった…、あなたに何か有ったら俺は……………』

そこでルークは言葉を止めてしまう。

『今、なんて………??』

『何でもない…』

『…言葉の続き、聞かせてくれないのか?』

ルークの腕から離れ、ドクは腕を掴み早歩きで進みだす。

『ど、どこに行くつもり…?!』

『私の家、すぐそこだから…。頼む、私は君に伝えなくちゃいけないことがあるんだ…』

掴まれた腕を振り払うことなど、ルークには出来なかったのだ。

…必死過ぎるドクがあまりにも可愛く思えてしまったから。

 

 

***

ドクは自宅に着き、早々に勢いよくルークをソファに押し倒してしまう。

『…ちょ、ドク…?』

『…ずっとずっと、君が好きだった…』

開口一番、ドクの声は震えていた。

『え………、それは《同僚》としてってこと?』

『それだったら、こんなことするはずがないだろう……、私は初めて君に会ったときは君の瞳に見とれていた。…だけどだんだん《ルーク》という一人の人間に恋心を抱いてしまったんだ。…嫌なら今すぐここで拒絶してくれて構わない』

今までに見たことの無いドクの必死な表情を、ルークは見上げてゆっくりと自身の腕に抱き寄せる。

 

 

『いつも冷静で穏やかなあなたがそんな風にみてくれて居たなんて、正直びっくりしてるんだ…』

『…ルーク、良いんだ。君には拒絶する権利が…』

言葉を言いかけたところでルークはドクの唇に、自身の唇を重ねた。

『ドク、最後まで俺の気持ちを聞いてくれる…?』

『…………??』

唇を離し、呆然としているドクにルークは笑いかける。

『俺も同じ気持ちだよ、ドク。…いや、俺はあなたを入隊前から知っていた。『穏やかで誰にでも優しい軍医』と名高いあなたのことがずっと気になっていたんだ。…まさか、レインボー部隊で一緒になれるなんて夢にも思わなかった。…そして…』

 


『《ずっと好きだった》って言って貰えて嬉しくない男がどこにいるのか教えて欲しいくらいだよ。俺はね、あなたに何かあったら耐えられないくらい、大事に思ってる……』

そんな真摯な思いを、真っ直ぐと伝えられたドクの瞳からはポロリと涙が零れ落ちる。

『…私は優しくなんてないし、穏やかでなんかずっと居られるほど良い性格なんかじゃない。…だけど君がそんな風に思ってくれていたなんて…』

ドクは泣きながら、穏やかで優しい笑顔をルークに向けた。

 


『…ルーク、君の隣に並んでもいいのか?』

ルークはドクの涙を指で拭いながらぎゅっと強く抱き締めた。

『当たり前だよ、ドク…。あなた以外考えられないし、考えたくなんかない。…好きだ、ドク』

深く心地良い声はドクの耳許にじわりと溶けて消えて行く。

『…私もだよ、ルーク……』

唇を深く深く重ね、そして二人分の体重がソファを深く沈めていった。

 

 

***

 

 

同僚から恋人になり、約一年が過ぎようとしていた。

二人の関係は順風満帆であった。

 


いつものように基地の医務室でドクは軍医としての仕事を、ルークは新人隊員たちの指導へ当たっていた。

(…ふぅ、今日は早めに帰ろうかな。ルークが泊まりに来るんだろうし)

最近、ルークはよくドクの自宅へ泊まりに来ることが多くなってきた。

ルークへ一緒に住むことを何度か提案をしていたが、ルークはもう少し待っててと断るばかりであった。

(…別に構わないけど…)

そんなことをぼんやり考えていると、基地内で緊急放送が流れてきたのだ。

『緊急事態だ、レインボー部隊所属隊員は大至急、ホールへ来るように…!!繰り返す、緊急事態だ、レインボー部隊……』

ドクはその放送を聞き、何が起こっているのか一瞬分からなかったが、すぐさま白衣を脱ぎ武装をして拳銃をホルスターに差す。

…除細動器と治療道具を一緒に持ちながら。

(…何が起きてるんだ…?!)

ドクは医務室から急いで出ていった。

 

 

***

ホールへ向かうと、そこにはレインボー部隊に招集されているモンターニュ、トゥイッチ、そしてルークが集まっていた。

『…何が起きてるんだ?!』

ドクが訪ねるとモンターニュは深刻そうな表情を浮かべた。

『基地の隣にある建物に、テロリストが人質を取って立て籠っているんだ。…くそ、私が居ながら…』

モンターニュは唇を噛みながら悔しそうな声で呟いた。

『…モンターニュ、今は人質の安否とテロリストの殲滅が優先だ。…突入の許可を』

心配そうな表情をしつつ、トゥイッチはモンターニュの指示をあおぐ。

モンターニュは意を決したように頷いた。

『そうだな、私とトゥイッチで道を切り開く。…ルークとドク、お前たちは人質の救出と怪我を負っていたら治療を。…出来るな?』

『…了解だ、モンターニュ』

四人の先鋭たちはテロリストが立て籠る建物へと向かっていった。

 

 

***

(…なかなか、手強い…)

ドクとルークは確実に敵の足を止めながら人質が居るであろう部屋へ向かっていった。

限りのある銃弾を使いながら、敵を倒し進んでいく。

そんな時だ。

ルークはドクをなんとも言えない表情で見つめて、言葉を漏らした。

『…ドク、この危険な任務が無事終わったら…』

 


『…一緒に暮らして欲しいんだ、駄目かな…?』

『…ルーク…』

『答えは後で、ゆっくり聞かせてほしい。…今は、敵を殲滅して人質を倒すことが優先だ』

『そうだな…』

二人はそれから無言で建物の中を進んでいく。

 

 

たどり着いた、一番奥の部屋には人質がテープで口と手を拘束されていた。

(…なんて酷いことをするんだ…)

ドクは背中をルークに預け、周りに敵がいないことを確認して人質の救出を急いだ。

『…怪我は無いようだな、良かった …』

人質を抱え、部屋を出て安堵した瞬間だった。

……乾いた発砲音が木霊する ………。

 

 

『…怪我は、無いか…っ』

ルークはドクと人質を庇うかのようにして、その場に倒れる。

『…ルーク…?!』

覆い被さってくるルークの身体からは大量の出血が確認できた。

『…は、やく、逃げろ……』

『君を置いてなんか逃げられるか?!』

ドクは人質を守りながらルークを起こそうとする。

しかし、ルークはそれを拒絶するかのように手を振り払う。

『…あなたの役目は、人命を尊重することだろ…?! 早く逃げろ……っ!!』

(…ルーク ………、駄目だ………)

ドクは拳銃を構えながら人質を抱え、味方が待ち構えるポイントまで走り抜ける。

ルークはその背中を見つめながら、口許にゆっくりと笑みを浮かべた。

『…また…ね、ドク………愛してる』

 

 

…視界はだんだん暗くなる。

やがて、瞳は事切れたように閉じられていった。

 

 

***

 

 

ドクは仲間のいるポイントまで無事たどり着き、人質を回収した。

(…ルークは無事なのか…)

人質を救出した今、ルークの安否だけがドクの心の中を占めていたのだ。

すると、モンターニュからの無線がドクの耳に入ってきた。

『…ドク、人質は無事か?』

『あぁ、大丈夫だ………』

『こちらも、テロリスト全員の殲滅を確認した。…怪我はしていないか?』

『問題ない…』

『…ルークを発見した…』

 

 

ドクはモンターニュの言葉に息を飲み込む。

『ルーク、ルークは無事なのか…?

モンターニュは一瞬間をおき、そして信じられないことを口走る。

『…息が無いんだ………、何度も何度も心臓マッサージをしても………』

その言葉に、ドクは自身の顔から血の気が一気に引くのを感じた。

『……今すぐに行く、モンターニュ、場所を………』

 

 

モンターニュに言われた場所へドクは走りだした。

 

 

 


『…モンターニュ、ルークは……?!』

ドクは着いた途端、ルークの居場所を問うた。

するとモンターニュは真っ直ぐと指を差した。

『…あそこで他の仲間が必死にマッサージをしているんだ…だけど、目も開けない…。もう、諦めた方が……』

『…彼をまだ殺さないでくれ、私が代わりに見る……!!』

ドクは目を覚まさないルークの胸に除細動器をあて電気ショックを流す。

(…頼む、お願いだ………)

電気を流し、身体だけはその振動で揺れるが目を覚まさない。

何度も何度もドクは神に祈った。

(…私からルークを奪わないで、お願いだ………)

そして何回ショックを与えても、目を覚まさないルークの青白くなった顔を見て、ドクは遂に言いはなった。

『嫌だ、目を開けてくれっ………!!私を置いて逝くなんて、そんなの許さない………!』

ドクはボロボロと糸が切れたようにルークの顔に涙を溢す。

ひたすら心臓マッサージを繰り返し、ドクがルークの胸に耳を当てた時だ。

…トクン、トクン………

脈打つ心音が戻ってきたのだ。

 

 

(…ルーク、良かった………)

そして、ゆっくりとルークは目を覚ます。

『ドク…、泣いてるの?』

『…君が居なくなると思ってしまった……』

『ははっ…、まだ死ねないよ。…あなたが俺の隣から居なくなるまでは………』

『…馬鹿………!!』

 


モンターニュも近くへやって来て、ルークは緊急手術をするためにヘリで病院まで運ばれたのだ。

とにかく、ドクの顔には安堵と徒労がありありと浮かんでいたのだった。

 

 

***

ルークが意識を取り戻し、一般病棟へ移れるようになったのは作戦から約一ヶ月後の話だった。

(…今日から面会可能なのか……)

ドクはルークに会うために病室の近くまでやってきた。

そして 『ある話』をするために、覚悟を決めてきたのだ。

(…君ならきっと分かってくれるかな…)

緊張した赴きで病室をノックする。

『どうぞ…』

ドアの向こう側からは聞きなれた愛しい声が返ってくる。

『…すまない、私だ』

ドクが病室に入ると、ルークの表情は明るくこどものような表情に変わっていく。

『ありがとう、忙しいのに…。久しぶりだね、ちゃんとご飯食べてる?』

ルークはドクに座るように促し、そっと手を握る。

『…いや、私は……』

ここ最近、ドクは食事はおろか睡眠すらまともに取れていない状態だったのだ。

そのため、以前よりも体重は落ちてしまっていた。

それを察したルークは深くため息をついた。

『…あなたは自分を責めているんだよね?』

『…当たり前じゃないか …』

『俺はね、あなたを一ミリたりとも責めてなんかいない。…むしろ、助けてくれたことに感謝しているのに……。お願いだ、泣かないでほしい』

(…そんな風に言われたら…、私は…)

 


ドクの瞳からは止めどなく涙が溢れる。

『私は1回、部隊から降りることにしたんだ…………』

『…なんでそこまで…!?』

涙を吹きながら、ドクは言葉を続ける。

『君を守れなかった。それ以上に部隊で君以外の怪我人を多く助けることが出来なかった。……より部隊の仲間を助けられるように考えるために、レインボー部隊からは一度降りさせて貰うことにしたんだ。 …何、GIGNからは去らないよ?…大丈夫だよ』

ルークは強く強く黙ってドクを抱き締めた。

 

 

 


『…あなたが決めたことだから、俺は反対なんかしない。またレインボー部隊に絶対に戻って来てくれるのか?』

 

 

『あぁ、約束する』

ドクもルークを強く強く抱き締め返した。

 

 

 


そして、ドクは病院を後にして歩き出す。

(…君を失いたくないが為に私は油断してしまった、だから次はそんなことがないように…………)

明るく照らす太陽をゆっくりと見上げた。

 

 

***

ドクはそれから毎日、研究へ没頭するようになる。

二度と仲間が倒れないように、
二度と涙を溢さないように。

(…もう少しで出来るんだ、仲間を救うための、私だけの………)

改良に改良を重ねたそのアイテムを『スティムピストル』とドクは名前を名付けたのだ。

遠い所にいる仲間に打ち込めば、約75%の体力まで回復させるための治療器具だ。

(もう、これで仲間が傷つくことも怪我を心配することもないだろう……)

ルークのことがあったからこそ、ドクはこのアイテムを開発し、実用化に進めることができるようになったのだ。

 

 

***

ルークが退院して、ドクもようやくスティムピストルの開発が落ち着いてきたある日曜日。

ドクの自宅にルークは泊まりに来ていた。

(…久しぶり、なんだよな…)

実に3ヶ月ぶりくらいにドクの部屋にルークはいた。

早く抱き締めて、キスして、求めて欲しい………。

そんな邪な気持ちがドクの心を縛っていた。

悶々としていると、ルークはドクをゆっくりとベッドへ押し倒す。

 

 

『ルーク………?』

『誘ってるよね、いいよ。俺も早くあなたが欲しい…』

そんなことを言われ、ドクの耳は赤く染まっていく。

耳を甘く噛まれ、なぞるように舌で愛撫されてしまう。

『んっ…、ルーク……』

甘い声が口から漏れて、出てしまう。

『…可愛い、あなたを早く感じたい…』

『私も………ルーク、君の熱が欲しい…』

『煽ったのはあなただ………』

ドクの瞳とルークの視線がぶつかり合う。

 

 

そして手を伸ばせば、ゆっくりと愛しい人の熱が降りてくる。

 

 

***

 

 

激しく求めあってしまった余韻を感じながら、ルークはドクを抱いたまま目を瞑っていた。

『幸せ、生きてて良かった』

『…私の台詞だよ、君が居なくならなくて良かった。本当にありがとう…』

二人は互いに感謝を述べ合う。

『…そう言えば、いつから暮らそうか?』

ルークはドクに小さな声で訪ねるとドクは少し考え込み、嬉しそうに呟いた。

『私はいつでもいい。君と居れるならなんだって…』

『じゃあ、早速明日から一緒に暮らそうか?《おはよう》、《おやすみ》、《愛してる》って毎日伝えてあげるから…覚悟してね?』

ルークはドクの家に越してくるようだ。

ドクは嬉しそうに微笑み、再びベッドの中でルークをたくさんたくさん求めてしまった。

 

 

***

二度寝から目を覚めると、時刻は昼の12時。

キッチンからは温かい紅茶の薫りが漂う。

(…なんだか、長い夢を見ていたな。いや、あれは過去の出来事か……)

頭はたくさんの睡眠を取ったのですっきりと冴えていた。

「ドク、おはよう」

柔らかい声がドクの鼓膜を揺らす。

「ルーク、おはよう」

起きたら唇を重ね、抱き締め合う。

それは二人の日課になっている。

ドクとルークはテーブルにつき、向かい合って座る。

ルークの淹れた紅茶を飲みながらそっとドクは呟いた。

「夢を見ていたよ、懐かしい思い出を見たんだ」

「どんな思い出?」

「…君が私を守ってくれて、死にかけていて、それでそれがきっかけでスティムピストルを作った時のことを…」

「随分前の話だよね」

ルークは少し笑いながら聞いてくれていた。

「…確かに時間は流れてはいるけれど、本当にルーク。君が居なければ、今の私は居なかった。…毎日、幸せをありがとう…」

ドクの言葉にルークは少しだけ青い瞳を揺らした。

「それは俺の台詞だよ…、健気でいつも俺だけをみてくれて本当にありがとう。…ずっと隣に居てください……」

「…あぁ、もちろんだ …」

二人は暫くお互いを見つめ合い、やがて笑顔を浮かべる。

この先には輝く未来と、二人の幸せが待っている。

 

 

2.唇に消える夜

 

「ルーク、愛しているよ…」

「…っ、ドクっ……」

唇から漏れる熱い吐息、それは私と君を繋げる唯一無二の【思い】だった。

 


「可愛いな、ルーク…」

「…や、止めてくれっ…!」

「君の可愛い声を聞いて、私が止めるかと思うのか?…それは何かの冗談だ」

「あなたは…、いつからそんなに意地悪なんだ。…いつもの優しいあなたは何処に……っ!」

「私だって男だよ、ルーク」

「…んっ、くっ……」

深夜2時過ぎ。ルークが寝静まったと思い込み、私は彼の首もとに顔を埋めたことからこの行為は始まったのだ。

普段、身体を重ねて求め合うとき。いつもなら私の身体を好きに触り、そして好きに求めるルークが少しだけズルいと思ってしまった私は、彼の身体をいつもとは逆の立場で抱いてしまおうと目論んだ。

唇をゆっくりと這わせ、舌で首筋や耳を弄ぶとルークの唇からは可愛い声が漏れて、私の心と理性をぐらりと揺さぶってきた。

そして気がついたら私はルークを襲っていて、今この手で抱こうとしていたのだ。

「…ふふ、少しだけ興奮しているんだね?」

「…やめてくれ、これ以上あなたに触られたら俺は…っ!」

「止めないよ、ルーク。今夜は君を抱き殺すって決めたから。楽になりたいのかな、だったら私が楽にしてあげるよ」

ルークの昂りは質量を増していて、今にもはぜてしまいそうだったのだ。私は彼の履く寝巻きのズボンと下着を下ろし、今にもはぜそうな昂りを口に含んでしまう。

「…や、やだっ…。あなたの高潔さを…っ、汚したくない!」

口に含んだ昂りを私は舌でチロチロと弄ぶ。その舌の動きに合わせてルークの口からは甘い吐息と喘ぎ声が漏れているではないか。

口に含みながら手で優しく愛撫してあげると、ますますルークの口からは甘い声が漏れて出る。

「ふっ、ぅ、ん、ドクっ……出るっ…!」

 


口の中にはルークの味が広がっている。不思議と愛しているルークの味だから何とも思わなかった。

ルークは私が飲み干した姿を見て、ぎゅっと強く私を抱き締めてくる。その力は今までに無いくらいの強い強い力だった。

「…ドクっ……、悪いけど逆転だ。俺の理性が我慢の限界だっ…!」

「な、何をっ……」

「俺があなたを抱き殺してあげるよ、何度もね?」

…あぁ、私は結局君にいつもいつも抱かれて快楽に沈められて啼いてしまうんだ。

「…いいよ、ルーク。私を快楽に沈めて啼かせて酷くして」

ルークは私を再び強く抱き締めて、そして唇を重ねてくる。熱い舌を絡められるたびに私の頭はぼうっと快楽に霞んでいく。

唇は何度も何度も重ねたせいで腫れぼったくなり、そして絡められる舌も触れるだけで甘い痺れが下半身を疼かせる。

 

 

「…ドク、あなたのもこんなに大きくなってるよ?触ってあげる」

ルークは私の昂りにゆっくりと手を伸ばし、そして丁度良い力加減で擦ってくる。

「あ、っ、駄目っ…」

「駄目じゃない、【気持ちいい】でしょ?ドク…、愛してる」

「うっ、あ、やぁ……」

ルークの心地良い声と、余裕のない瞳が私を達しさせるのには十分過ぎて。

…彼が好きで好きで仕方なかった。その気持ちと快楽がごちゃ混ぜになって私は一度ルークの手の中に自身の精を吐き出した。

「相変わらずたくさん出したね、俺のドク」

青い瞳は私の視線とぶつかり、やがてその色はいつも以上に熱と欲を映し出していた。

「…君が【愛してる】なんて言うから……」

「これからもっと気持ち良くさせてあげるから」

ルークはそう言うと棚に置いてあるジェルを手に取り、私の入り口にそれを大量に塗りたくる。

「っ…!冷たいよっ…!」

「ふふ、ゆっくり解してあげるから。じゃないと大切なあなたに痛い思いをさせちゃうでしょ」

「…っぅ、ルークっ……」

「やっぱり普段から俺のを受け入れてくれてるから、すんなり入るね……。早く俺を受け入れて?お願いだよ、ドク」

卑猥な水音が室内に嫌というほど広がっていた。耳を塞ぎたいくらいに音は響いていて、執拗にルークは指で中を解していく。

「…じゃ、じゃあ早く君を私にくれないか……っ?」

「あげるよ、ドク…」

「…っく、苦しいっ…」

「あなたの中、溶けそうなくらいに熱いよっ…」

いつもは付けてくれる避妊具を今日は着用せず、そのままのルークを私は受け入れた。質量は大きく、受け入れるだけで精一杯だった。

「や、んっ…はぁっ、ルークっ……大きい、駄目だ…」

「何が駄目なの?言ってごらん」

「…君の、昂りがっ…大きいっ……!」

「はぁ…。もう~~…、可愛すぎて理性がめちゃくちゃになりそう」

青い瞳は相変わらず熱と欲を映し出していた。それは私の普段知る彼とは別人で、まるで夜に潜む狼のようだった。

「…な、なんで着けてくれないんだっ…」

「何が?」

「…避妊具を、なんで…」

「…あなたが可愛いから、1つになりたいんだ」

「ルークっ……」

「…ドク、あなたが大好きだ。愛してる」

その言葉の後はもう、何も覚えなんていなかった。

何度も何度も愛を囁かれては中で熱を放たれたこの夜は二度と忘れることは無いだろう。

 

 

***

また朝はやってきて、カーテンからは温かい日差しが入り込んできた。

目を開ければ、昨日の激しい情事の名残が鈍痛として甦る。そして隣にはスヤスヤと寝息を立てて眠るルークがいた。

「…まったく、私は君より歳が離れているんだから」

傍らに眠るルークの頭を少しだけふわりと撫でて、顔を見つめた。眠る姿は子どもみたいで可愛いのに、夜は狼のように私を貪ってくる。

こんなにも、こんなにも惹かれて愛して愛されるのは初めてで。とてもとても心の中にはジワリと温かい気持ちが流れ込んできた。

「ドク、おはよう」

「…ルーク、おはよう」

布団の中でルークは寝返りをうち、私をぎゅっと抱き締めてくる。まるで離してはくれないように力強く。

「昨日はその……、ごめんなさい…」

「…あ、謝らなくていい。私は君と1つになれて充分幸せだった。ただ私は君よりも歳上だから…その、身体が辛いかも…」

「…うん、俺も幸せだったよ。ドク、あなたと夜に身体を重ねて同じ布団で朝を迎えて。そしてこれからも。言葉を交わせるこの幸せを……」

 


「俺と歩んでくれますか?」

「…もちろんだよ、ジュリアン…」

君と重ねた夜、そして迎える朝は私にとっての最高の。

…幸せなんだ……。

唇を重ねて、心地良い日差しに私たちは身を委ねていった。

 

 

3.【ご褒美は糖度高めの××××で】

 

 

「んー…、分からない…」

「何を悩んでいるんだ?」

「あ、ドク!実は昇級試験の問題で分からない所があって…」

「どれ、見せてくれ」

今、ルークとドクの二人は基地の資料室で昇級試験の勉強に励んでいたのだ。勤勉で予習が済んでいるドクは、ルークに試験問題の分からない所を教えていた。

(…やっぱりドクは優しいし、穏やかで…。可愛い…)

自分の恋人が一生懸命分からない所を教えてくれる姿を見て、ルークの頭の中は試験よりもドクのことで沢山になってしまう。

口元に少し笑みを浮かべいると、
ドクのブラウンの瞳がルークを少しだけ睨んでくる。

「こーら、今は仕事中だ。私の顔を見ずにテキスト見なさい。公私混同は禁止だ」

「あ、ごめん…。あまりにも一生懸命教えてくれるから嬉しくて」

「君が昇級試験受かってくれないと私が困る。悪いが厳しく指導するようにモンターニュから言われているからね。…さあ、集中して」

「はい」

ルークはドクから視線を外してテキストに目線を向ける。

(….早く終わらせるんだ…)

時間だけがゆっくりと過ぎていく。

 


***

 

 

「ドク、テキスト終わったから採点してもらっても良いかな?」

「はい、じゃあ見せて貰おうかな」

資料室に半日近く篭り、ルークとドクは勉強に集中していた。ドクに限っては試験に出る部分をほとんど暗記していたので、ルークの指導にあたっていた。

ドクはルークからテキストを受け取り、採点するために問題集をパラパラとめくって行く。

(…あれ、ドクって…)

ルークは問題集をめくるドクを見つめた。真剣に採点しようとしているドクはルークの視線に気がつき、困った表情を浮かべた。

「…そんなに見られると困る…」

「ご、ごめんっ…!ドクが眼鏡かけてるの初めて見たから…、その、ちょっとびっくりしただけ…」

問題集を見つめていたドクは眼鏡をかけていた。仕事中は基本的に裸眼だし、初めて見た知的な姿にルークは少しばかり戸惑ったのだ。

「…最近、少しばかり視力が落ちてしまったんだ。別に眼鏡くらい私だってかける」

「そ、そうだね。ごめん、採点お願いします…」

ドクはルークから視線を外して問題集を食い入るように見つめて採点を開始して行く。

(…仕事中じゃ無ければ、抱きしめてしまいたいくらい、今のドクは可愛い。とてつもなく可愛くて堪らないんだが…)

黙々と採点しているドクの近くでルークは悶々と考えてしまう。眼鏡をかけているドクは本当に大人で知的な人に見えて仕方ないのだから。

問題集を見つめるブラウンの瞳と真剣な表情。

どれもルークにとって、可愛いとしか思えない所ばかりだった。

(…本当に自分よりも10歳以上離れてるのかな…)

ルークはドクをちらちらと見つめてはため息をつく。抑えようのない気持ちが悟られてしまってもおかしくはないのだ。

10歳以上離れている恋人は、正直可愛い過ぎる。

そんな様子を見たドクは問題集を閉じてルークの近くへと近寄ってきた。

「…ド、ドク…?!」

「…全く君は、『待て』も出来ないのか?」

ブラウンの瞳がルークの顔の近くに近寄って、眼鏡がルークの顔にカシャン、と小さく音を立ててぶつかる。

「ん…っ」

ドクが自らルークに唇を重ねて来たではないか。

(…俺の理性を食い潰すつもりなのか?ドク、あなたは本当に…)

…色っぽい、と小さく心の中で呟いた。しかしそれがルークの口から言葉として出ることは無かった。

「…んぅっ…、ルークっ…」

熱を持つ舌と舌が絡まる、濡れた情欲の音だけが資料室に響き渡る。

 


やがて唇を離せば、
ドクはルークを見つめて艶めいた笑みを浮かべた。

「…テキストは合格。ふふっ、ルークは集中すると凄いんだから。普段からの任務でも自分を律して頑張って」

「仕事中、公私混同するなと言ったのはあなたじゃないか、ドク。あなたはどこまで俺を…」

「仕方がないだろう、私はモンターニュに厳しく君を指導するように頼まれていたんだから。私はいつだってルーク、君に口づけや愛を囁いて欲しいと思ってるんだ。眼鏡だって…君が似合うと言ってくれたからコンタクトにしないでかけてるんだからね」

ルークはドクの言葉を聞いて僅かばかり古い記憶を思い出す。

(…確かに、似合うと言ったことはあるかもしれない。だけど付き合う前の話だよな…?!)

まだ同僚だったころ、
ルークはドクの眼鏡姿を一回だけ見たことがあったのだ。その時にルークは『似合う』と言ったことがあることを、今思い出す。

「あなたは記憶力が良いんだな…、そんな付き合う前のこと覚えていてくれるなんて…」

ルークはドクの腕を強く引き、彼を強く自身の身体に閉じ込めしまう。

「…ルーク?」

「…大好きだ、ドク…」

大好きなドクの身体を強く強くルークは掻き抱いた。

「…ご褒美をくれないか?テキスト合格したから、その、あなたを…」

「試験に合格したら、好きなだけ…」

ドクは抱きしめられたまま、ルークの唇に人差し指を当てて柔らかく微笑んだ。

「あなたには敵わない。今は口づけだけで我慢するよ…」

「ちゃんと合格してくれないと『ご褒美』は無いから、ね?」

「分かってる…」

ルークは深く深くドクの唇を奪って言葉を塞いだ。

今は唇だけ。

甘く甘く、妖艶な軍医の唇を奪っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*おまけ*

【ご褒美は糖度高めの軍医さま】

 

 

「〜〜…っ、ルークっ、やぁっ…」

「嫌じゃないだろう、ドクっ…」

「意地悪っ…、ルークの、意地悪っ…!!」

今二人は、久方ぶりの情欲に身を沈めていた。昇級試験が終わり、結果が出たご褒美として今こんな状態になっているのだ。

昇級試験は無事二人とも合格し、穏やかな日が続いているように思えていた。

しかし、
試験勉強に集中するためルークもドクも、キス以上のことはせずに欲求をふつふつと押さえ込んでいた。

そして休みが重なった瞬間、ルークはドクを捕まえて1日部屋から出さないつもりでいたのだ。

「『気持ちいい』って言ってごらん?…っほら、言わないとイカせてあげないから」

ルークはドクの中に自身の押し進めて何度も腰を打ちつけていた。しかし、ドク自身の根元をギュッと押さえ込み出せないようにしていたのだ。

耳元でルークが低く甘美な声で囁けば、ドクはルークを締め付けて情欲の沼へと引きづり込ませようとする。

「…っんっ…、る、ルーク、気持ちいいから、イキたっ…イカせて…」

「…はい、合格」

ルークはドク自身の根元の押さえ込みを解放してあけだのだ。そしてルークの手にきつく握り込まれたそれから欲が放たれるのに時間はかからなかった。

「っ、ドク、俺もうっ…」

「…いいよっ、頂戴っ…?」

「くっっ…んっ、ドク、愛してる…」

「私もっ、君を…っ…」

ドクの言葉は最後まで紡がれることはなかった。

ルークはドク自身の中に熱を解き放つ。

やがて二人は幸せと微睡みに身を任せていった。

 

 

 


「…ごめん、ドク。無茶させたよね?」

次の日の朝。

朝一でルークは隣で起きていたドクに謝罪の言葉を述べた。

しかしドクはルークの頬にちゅっと口づけをしてぎゅっと抱きついた。

「いいよ、私は幸せだから…。それにご褒美は私って約束だったじゃないか…」

 

 

(…神様、可愛い恋人と巡り会わせてくれてありがとうございます…)

ルークはドクを抱きしめながら巡り会えたことに感謝をした。

「俺も今、あなたと共にいれて幸せだ」

ルークはドクに柔らかい笑みを向けた。

砂糖菓子のように甘い恋人と共にする休みの日の熱が恋しくなってしまうルークとドクであった。

 

4.【好きって言ってもいい?】

 

 

男二人きりの休憩室で流れるのは沈黙。

GIGNの若き兵士、ジュリアン・ニザンは目の前で読書に勤しむ軍医、ギュスターヴ・カテヴを見つめて何度目の溜息をついたことだろうか。

「…男と二人きり、しかもクリスマスなのに夜勤なんて嫌だって言いたいのかな?」

「別に何とも思っていませんよ、嫌味ったらしいことを言わないで欲しいですね。ドクター?」

ギュスターヴはペラペラと本を捲りながらジュリアンには目線もくれなかった。

ジュリアンが溜息をついている理由は他ならぬギュスターヴの存在があったからだ。

(何で、何でこんなイベントの時に片思いの人と二人きりなんだ。辛すぎるっ…!)

ジュリアンは長年、ギュスターヴに片思いをしていて告白してきた女性を振っていたのだ。

『あなたが好きです』

簡単に言えれば良かったのに、なかなか素直になれない年齢のジュリアンは、事あるごとにギュスターヴへ反抗的な態度を取っていた。

(本当は好きで好きでたまらないのに…)

また溜息。

何回目か分からない溜息に、ついにギュスターヴは読んでいた本を机に投げ置くように放り投げた。

「…そんなに、そんなに私が嫌いならこの部屋から出ていくよ。君もその方がいいだろう?」

震える語尾、ブラウンの瞳には僅かばかりの涙が浮かんでいた。

「…ちょ、ちょっと待ってくださいっ…!」

出て行こうとしたギュスターヴの腕を掴んだ瞬間。

二人がいた休憩室の明かりが消えてしまったではないか。

(停電か?…まったく、ついてなさ過ぎるだろ?!)

スマホのライトならあるから、ちょっと…」

机に置いてあるスマホを取ろうとジュリアンがギュスターヴから離れようとした時だ。

「嫌だっ、一人にしないでっ…!」

必死にしがみついてくるギュスターヴがそこにはいた。

部屋が真っ暗だから何とも言えないが、声音から震えているのか分かる。

「大丈夫ですか?」

「暗いのが駄目なんだ…、嫌だとは思うけど少し近くに居てくれないか」

スマホを取りに行くのをやめて、ジュリアンはギュスターヴの側にいることにした。

身体がガタガタと震えている。

…まるで何かに怯えるかのように。

(…抱き締めて欲しいなら、そう言えばいいのに)

ギュスターヴの震える身体をジュリアンはそっと抱き寄せた。

「…な、何を…」

「暗闇が苦手なんですよね?…過去に何があったかは聞きません。だけど、俺を頼ってくれてもいいんじゃないですか?」

震える身体を優しく抱き締めながらジュリアンは小さく呟いた。

ギュスターヴは消え入りそうなくらい小さな声で囁いた。

「君は私が嫌いなんだろう?だから何回も溜息をついていたんじゃないのか?」

「…嫌いだったら、俺はあなたをこの暗い部屋に一人ぼっちにさせてます」

「…じゃあ、好きなの?」

もう、言ってしまおうか。

 


「あなたが好きです、ギュスターヴ。ずっとずっと好きだった。夜勤の日、あなたと二人きりになるのが辛かった。片思いの人と二人きりなんて、俺にとっては生殺しです…」

その言葉を聞いたギュスターヴはそっとジュリアンの唇に自身の唇を重ねて行く。

 


「…私も、君が好きだよ。嫌味ったらしいことを言って居たのはそうだな。君ともっと会話をしたかったから。ごめん。久しぶりなんだ、人を好きになることが」

なんだ、両思いじゃないか。

部屋が真っ暗だから互いの顔なんて見えないけれど、きっと今、自身の顔はにやけているに違いない。

気がつけば部屋の電気が付き始め、両思いになったばかりの二人は顔を見渡して照れくさそうに笑みを交わした。

「…ジュリアン、夜勤が終わったら私の家に来ないか?少しばかり遅いクリスマス、一緒に祝杯を上げないか?…ようやく両思いになれたから。図々しいかな」

「良いんですか?俺、多分あなたを食べちゃうかもしれない。…震えるあなたが可愛かったから」

「…ふふ、構わないよ。ジュリアン、好きって言ってくれてありがとう」

 

 

 

 

 

 


「私も君が大好き」

 

 

5.【もう一度、恋をしよう】

 

 

「ギュスターヴ…、いい天気だよ」

病室のカーテンを開ければキラキラとした陽の光が清潔な病室を明るく照らす。

ベッドに横になり、虚ろな瞳で天井を見つめるのはギュスターヴ・カテブ。かつてはGIGNの軍医として数多の戦場を駆け抜けた兵士だ。

傍らに座るのは彼の相棒であり、そして人生のパートナーであるジュリアン・ニザンである。

ギュスターヴはゆっくりと身体を起こしてジュリアンの青い瞳を真っ直ぐと見つめた。

「…そうか…」

ブラウンの瞳に浮かぶのは無機質な色、かつての穏やかで優しい彼の姿は何処にもないのだ。

「無理に答えなくていい、あなたの記憶はだんだんと薄れていっているのだから。ギュスターヴ、あなたが生きているだけで十分なんだよ」

ジュリアンはギュスターヴの手を取り儚い微笑みを彼に向ける。ギュスターヴはまだ四〇代前半なのに記憶が薄れていく病気に冒されてしまった。

「君の名前が分からない。もう一度、教えてくれませんか?」

「俺の名前はジュリアン・ニザンだよ、ギュスターヴ。あなたの名前はギュスターヴ・カテブだ。俺にとってあなたは大切な人だよ」

ギュスターヴの手を握りながらジュリアンは彼を見つめる。ギュスターヴはジュリアンの手をゆっくりと握り返しながら窓の外を見た。

「今の季節は…?」

「今は冬だよ、もう少しで春になる。ギュスターヴ、あなたは暖かい春先に咲く花々を育てるのが好きだったんだ。あなたが育てていた花はGIGNのオフィスで育てているよ」

「そう…、私は何も分からないんだ。何が趣味で、何が好きで、何が嫌いだったか。全部全部忘れてしまった。私が生きている意味はなんだ。ジュリアンくん、君は私のことをよく知っているんだよな」

ギュスターヴはより一層、ジュリアンの手を強く強く握り締める。ジュリアンもそれに答えるかのようにしっかりとギュスターヴの手を取って微笑んだ。

「あなたが生きている意味、か…。ギュスターヴ、俺とあなたは恋人同士なんだよ。あなたが全て忘れてしまっていても、俺が全部覚えているよ。俺の為に生きて欲しい。ギュスターヴ、二度と思い出せなくてもいい、俺と『もう一度』、歩んでくれませんか」

ジュリアンの言葉を聞いたギュスターヴは目をゆっくりと瞑り、やがて瞳に涙を浮かべながら口を開く。

「…覚えて居なくても、心が反応するんだ。胸が痛くて、泣きそうになるこの気持ちを私は…、君に対して抱いていたんだと。ジュリアンくん、私は君のことを覚えていないしこの先も思い出す保証なんて何処にもない。だけどもう一度、私と歩んでくれるのか…?」

「…当たり前じゃないか、ギュスターヴ。俺の側にいるのはあなただけで充分なんだ、あなたじゃないと駄目なんだ。俺はあなたが忘れてしまっても、俺自身があなたのことを一生忘れないと心に誓っているよ?だから俺ともう一度、恋をしませんか?」

ジュリアンはギュスターヴの涙を指で拭いながらゆっくりと彼の身体を抱き寄せる。鼓動はゆっくりと、そして確実に脈を打ち。

瞳から流れ出る涙は止めどなく流れてジュリアンの手を濡らしていく。ギュスターヴは身体を震わせながら囁いた。

「ジュリアンくん…、こんな私をもう一度見てくれて、そして歩んでくれることを誓ってくれてありがとう。私は幸せなんだな、君に出会えて良かった。ありがとう…」

『君に出会えて良かった』

ジュリアンはギュスターヴと初めて出会い、そして恋に落ちた数年前を思い出した。自身の瞳からも止まることの知らない涙が溢れ落ちていく。

 

 

「…俺の方こそ、ありがとう…」

 

 

好きになること、
愛すること、
悲しいこと、
楽しいこと。

そして失うこと。

全てを知ったのは最愛なるあなたが側に居てくれたから。

「…俺はあなたが大好きだ、ギュスターヴ。もう一度、全力で伝えるよー・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたを愛している、世界で一人しか居ない俺だけのギュスターヴ…。絶対に忘れないようにあなたの心に寄り添い続けるよ。一生をかけて、永遠に」