穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

SASまとめ(過去作)

 

1.その背中は隣り合わせ

 


「…聞いているのか、司令官?」

「…………zzZ………」

「…サッチャー!!…起きてくれ…」

「…す、済まん。昨夜から続けて軍の作戦会議だったからな。ろくな睡眠もとれてなくてな…」

「あなたはこの部隊、イギリスの…特殊空挺部隊SASの最高司令官なんだぞ?!」

基地の中に併設されている、最高司令官の部屋で居眠りをしていたサッチャーは、傍らに立つスレッジに怒られる。

「悪かった悪かった。…そんなにカリカリするなよ、スレッジ」

…スレッジ、と心地のよい声で名前を呼ばれサッチャーに対する怒りが徐々に薄れていくのが分かる。

(あなたは司令官になっても何も変わらないな…、サッチャー)

スレッジは部屋の窓を見つめて、ふーっとため息をついた。

「おい、溜め息なんてつくんじゃねーよ。幸せが飛ぶだろ?」

窓を見つめ、ため息をつくスレッジにサッチャーは抗議の声をあげる。

「…少し、懐かしい記憶を思い出していたんだ。サッチャー、あなたとの始まりを」

「…お前は相変わらず俺に対して律儀だな」

「今はあなたの隣に並び立つ、平等な関係だからな…」

スレッジは部屋に設置されているソファにサッチャーの腕を引っ張り、そのまま座らせ抱き寄せる。

「まだ仕事中だろ?…欲深いんだな、スレッジ」

「少しだけ、このまま思い出に浸らせてくれ」

サッチャーを抱き寄せながら、記憶を辿っていく。

 


***

(…ここが、SASの基地か…)

初めて来た、この基地の厳かな雰囲気にジェイマス・カウデンはただただ息を飲んで立ち竦んでしまっていた。

この春から、
自分が所属する部隊の拠点で働くことになった彼にとって、始まりにしか過ぎないのだ。

(…誰がこの先、待ち受けていても俺は自分自身のため、そしてこの国のためにやるんだ……)

期待と不安が入り交じった気持ちを胸に、スレッジは基地へと足を踏み入れる。

 


広い基地内を見渡し、
スレッジが辿り着いた部屋は上官がいるであろう、会議室だ。

『…失礼、いたします』

部屋をノックし、『どうぞ』という声が聞こえ部屋に入った時である。

(…この人が、俺の上官なのか?!…信じられん…)

部屋の椅子に偉そうに腰を掛け、足を机の上で組む、中年の男が目の前にいるではないか。

目付きは鋭く、
目尻には歳なのか皺が深く刻まれている。

しかし、
顔立ちはいたって端正なのだ。

会議室に入ったスレッジを射抜くようにその男はじっと見据える。

『お前、新入りか?』

『…そうです、話聞いていないんですか?』

そうスレッジが聞き返した瞬間、男は椅子から立ち上がり目に見えない速さでスレッジの目の前に立ち塞がった。

…顔の横には、ナイフが突き刺さっている。

(…な、なんなんだ…)

『俺を誰だと思って、そんな口を聞いているんだ?』

『…あなたが俺の上官であることしか、聞いていませんが。…ナイフを抜いてはくれないんですか?』

至って冷静なスレッジのリアクションをみたその男はつまらなさそうにナイフを抜き、ニカッと笑いかけた。

『意地悪して悪かった、俺の名前はサッチャーと言うんだ。ここで新入りの教官として、隊員の指導にあたってるんだ。…度胸があるかどうか、試させてもらったよ』

(…《サッチャー》って言ったら、SASの中じゃ一番最年長じゃないか!?…しかもこの人はかなりの……)

………大物なのだ………。

近接戦闘の名手であるサッチャーは部隊の中で最も最年長、戦争の経験を誰よりも多く積んでいる。

『…あなたが、そんなにすごい人だとは思わなく無礼な態度を失礼しました。…俺はスレッジ、今日からこちらの基地に配属になったばかりなんです。…あなたが、直属の上官なんですよね?』

スレッジが謝ると、サッチャーはソファに腰を落とすように促す。

『…スレッジだっけ、お前のその冷静な所気に入ったよ。…決めた…』

サッチャーの口から言われた一言で、スレッジの人生は360度変わることになる。

 

 

『お前、俺の右腕になれ。…これは命令だ』

 


『…いきなり過ぎませんか、あなたのような方の右腕にはもっと優秀な人がいるだろう?!』

隣に腰をかけたスレッジは半ば怒るように反論をする。

そんな反論に、サッチャーは有無を言わさず切り返す。

『…俺はこの仕事柄、部隊で一番場数を踏んでいるんだ。だからある程度信用に値するか否か。こんなの朝飯前なんだぜ?…俺の命令は絶対だ、文句など受付はしない』

(…もう何を言っても、無駄な気がする)

半分諦めた気持ちを胸に、スレッジはサッチャーに手を差し出す。

『…改めて、よろしくお願いいたします』

『こちらこそ、頼むぞスレッジ』

二人は初めて握手をし、熱を交わす。

それが二人の初めての交わりだったのだ。

 

 

***

 

 

それから月日は流れ、サッチャーとスレッジは歳こそは離れてはいるが、チームメイトとして、そしてプライベートでは親友と呼べるほどの関係を築き上げていくことができたのだ………。

(…親友……なのか、俺はあなたのことを片時も………)

基地で歩いているときも、
任務に集中しているときも、
一緒に居る時間も。

…一人で居るときも。

(…忘れたことなんか、無いんだ)

スレッジの頭の中は任務と、ほぼ毎日一緒に過ごしているサッチャーのことで頭が一杯だった。

(…あなたには誰か大切な人がいるんだろうか。…そしたら俺には何もすることなんか出来ないじゃないか…)

悶々と考えていると、目の前に意中の人物が歩いてくるではないか。

『スレッジ、お前に用があるんだ。悪いけど今すぐ会議室に一緒に来てくれ…!』

サッチャーはスレッジの顔を見て手を掴み、引っ張っていく。

『…お、おい……!?…待ってくれ…!』

手を引かれ、行き着いた会議室には部隊の同僚であるスモーク、ミュートが居るではないか。

『全員集まったな?』

会議室にはサッチャーとスレッジ、そしてミュートとスモークという四人だけしか部屋にはいなかった。

サッチャーは真剣な口調で三人の前で話を始める。

『俺達SASの中からレインボー部隊に招集されることが決まった奴等だけに集まって貰ってる。…意味は分かるよな?』

口調は既に《軍人》としての彼であった。

スレッジを始めとする三人は真剣に耳を傾ける。

『…あぁ、俺は分かってるぜ?レインボー部隊は各国の特殊部隊の先鋭が集まる部隊だと。…命を賭けろってことだよな、あんたが言いたいことは』

スモークは口許に笑みを浮かべながら、サッチャーを見つめた。

サッチャーは頷く。

『あぁ、スモークの言うとおりだ。俺達は今後、命がけの任務をこなして行くことになるだろうな。…作戦によっては、バディを組んで行動して貰うことになるな』

 

 

コホン、とサッチャーは咳払いをして三人を見つめる。

『レインボー部隊での作戦時、スモークとミュート、俺とスレッジという組合せで行動して貰うからな。…ミュート、異論は受け付けないぞ』

『……なんで俺がこんな馬鹿と行動しないと行けないんですかね』

ミュートはスモークに対して、
嫌みたっぷりに言葉を吐き捨てた。

しかし、スモーク本人はあまり気にしておらずミュートの頭をがしがしと撫でるだけだったのだ。

『まあとにかく、この組合せが一番作戦での相性がいいんだ。………いきなりだが、明日はテロリストが潜んでいるアジトの全滅作戦が実施される。…俺は誰一人、命を落として欲しいとは思ってはいない。このレインボー部隊に招集されたSASの司令塔として言わせてもらう……』

 

 

 


『…絶対に、誰一人死ぬんじゃない。…皆で基地に戻るんだ…!』

サッチャーの言葉に三人は見つめあい、そして力強くうなずいた。

 


そして解散し、
それぞれが部屋へ戻っていくなかサッチャーはスレッジに声をかけ自室へ来るように促した。

(…明日は全滅作戦なのに、俺は………)

スレッジはサッチャーが自室に来るように促したことには何かがあるに違いないと感じていたのだ。

 

 

***

 

 

『取り合えず、座ってくれ』

サッチャーはスレッジを部屋に迎え入れ、座るように促した。

『…あぁ、悪いな…』

スレッジがサッチャーの部屋に入るのはこれが初めてだったのだ。

部屋の中はサッチャーが普段から身に付けている香水の薫りとサッチャー自身の匂いだけが漂っている。

スレッジの鼻腔を刺激するかのように、それは心地よく、そして背徳的なものでもあった。

(…やはり俺はあなたを………)

…胸が苦しくなるくらいに、恋焦がれているんだ……。

それを自覚してしまったスレッジは、サッチャーの部屋の中をくまなく見つめていた。

すると、
本棚の隅の方に写真立てが飾ってあった。

(…これは、サッチャー…と……女性と、お子さん…?)

手に届く位置にあった写真立てを無意識に手に取り、眺めてしまう。

その写真に写っていたのは、
若き日のサッチャーと、その隣には幸せそうに微笑む女性、そして小さな女の子の三人が写っていた。

『…驚いたか?』

『…サッチャー…』

スレッジの背中に、サッチャーの声が降りかかる。

『勝手に見て悪い………』

小声で謝ると、サッチャーはスレッジに珈琲を出し、隣に座り込んだ。

『構わないさ、もう昔の話なんだ。…もう、この二人は居ないんだ』

スレッジから写真立てを受け取り、サッチャーは静かに微笑んだ。

『この二人は俺の奥さんと娘なんだ、大分前に事故で亡くなったんだ。何、今はもう大丈夫だから』

その声はどこか悲しそうで、
今にも崩れそうなほど脆いものだった。

『…そうやってあなたは、死にたがるのか?』

『バレていたか、流石は俺の右腕だ。………明日の作戦で、わざと死んだって誰も哀しまないだろう?』

 

 

スレッジの中の、心の枷がぷちんと音を立て崩れ去る。

ぎゅっと、サッチャーの肩を抱き寄せて呟いた。

『俺があなたの側にいる、いきなりいなくなったりなど絶対にしないから。独りになんかさせない、だから、だから………』

抱き寄せる力は強くなる。

『…誰も哀しまないなんて、二度と言わないで欲しいんだ。絶対にあなたを幸せにするから、俺を隣に置いてくれ…』

スレッジは自分の心に溜まっていたものを、一気に放出させてしまったのだ。

サッチャーはスレッジの言葉を聞いて、ぽつりと一言呟いた。

『…本当に居なくならないのなら、死にたがりはやめてやる』

初めて聞いた過去も、
亡くなった家族のことも。

…すべて引っくるめて《サッチャー》なんだ。

スレッジは心に誓い、やがて口を開いた。

『約束する、俺はあなたを置いて居なくなったりなど絶対にしないから』

 

 

サッチャーはただただ、
スレッジに抱きしめられたままその日の夜、動くことはなかった。

 

 

***

テロリスト全滅作戦が決行されるまで、サッチャーとスレッジは何も会話をせず、潜伏先のアジトへと慎重に向かっていく。

(…あなたが望む未来を、一緒に歩むんだ……)

そんな気持ちがスレッジの原動力となっている。

ツーマンセルで行動しているなか、スレッジが先頭を歩いているときだ。

『…っっ危ない!』

サッチャーがスレッジの背中を守るように、敵からの狙撃に撃ち返す。

『すまない、助かった…』

二人は背中を合わせて、周りに敵がいないかを確認する。

『…スレッジ』

『なんだ、サッチャー

敵が前方や後方に居ないことを確認しながら、クリアリングしていく中でぽつりとサッチャーは呟いた。

『…この作戦が終わったら、一緒にお墓参りに行ってくれないか?妻と娘が眠る、お墓に………。前に進めためだ。…いいか?』

『…サッチャー、あなたは…………』

 


二人の会話はそこで終わってしまった。

(…とにかく今は、サッチャー。あなたの命と全滅作戦が優先だ………)

スレッジは目の前の作戦に集中するために気持ちを切り替え、前に進んでいく。

 

 

 

***

 

 

テロリストの全滅作戦は無事に終了し、基地へと帰る途中のことである。

『…妻と娘のお墓、すぐ近くなんだ。…悪い、お願いだ。一緒に来てくれ』

武装解除した状態ではあるが、サッチャーが自ら懇願してくることが非常に珍しかった。

スレッジはサッチャーに手を差し出し、優しく笑った。

『あなたの右腕なんだ、どんな結末であっても俺は答えるからな』

『…あぁ、お前の性格はよく俺もわかってるからな。…行こう』

二人は墓地へと向かった。

 

 

 

途中にある花屋に二人は寄っていった。

夕陽が赤く照らす小高い丘に、サッチャーの亡き妻と娘が眠る、お墓があった。

サッチャーとスレッジは手を合わせ、花を手向ける。

長い間、二人は無言で祈り続けていた。

 

 

『…スレッジ、俺はお前に対して何もしてやれないかもしれない』

『それはどうして?』

祈り終えた二人は顔を見つめ合う。

サッチャーは苦しそうに呟いた。

『…お前よりも20歳以上は歳上だし、俺は一度結婚だってしているんだぞ。…こんな俺をお前は、俺が死ぬまで隣にいて幸せにしてくれるのか? 』

部隊では誰よりもプライドだって高く、責任感の強いサッチャーですら、今はただの男なのだ。

スレッジは強く、そしてはっきりと言い放つ。

 

 

『愛することに年齢なんて関係ない、俺は好きだと思った人には一生かけて幸せにする。…確かに過去は変えられない。…けれど、未来を紡ぐことはできるだろう?奥さまやお子さまのことを忘れろなんて言わないさ。 …だから………』

 

 

『俺と未来を、紡いでほしいんだよ、サッチャー

サッチャーの手を取り、
スレッジは手の項に口づけを落とす。

『…も、もう。降参だ。…スレッジ、俺はお前が………』

ざー、っと爽やかな風が頬を撫でる。

 

 

『……すき、だ………。』

『うん、ありがとう。…俺だけのサッチャー……』

歳なのか、涙もろくなってしまったサッチャーはスレッジの腕に自ら飛び込み、答えを出した。

未来への扉は、紡がれて行くのだ……。

 

 

***

 

 

その後、テロリスト全滅作戦の功績が称えられたサッチャーSAS最高司令官へと昇進していく。

(…な、懐かしいな…)

スレッジはサッチャーを抱きしめたまま、眠っとしまったことに気がついた。

「あなたは歳を重ねても、まだまだ綺麗だな…………」

懐かしい記憶と目の前に眠る、最愛の人を見て呟いた。

基地の司令官室は二人だけしか
入室は許されていなかった。

サッチャーの顔は相変わらず整っていて、最高司令官になった今でも輝き続けている。

スレッジは我慢できず、そっと唇にキスをする。

 

 

するとサッチャーは目をパチリと開き、にやっと笑う。

「相変わらず、スレッジはむっつり! 」

「司令官、それは駄目だ!」

…むっつり!と言われた一言がかなり心に響いたスレッジは反論をする。

「俺はお前に出会えて、この未来を紡げてよかった。…ありがとう」

再びサッチャーはスレッジの膝に頭を乗っけて呟いた。

スレッジは柔らかく微笑む。

「…俺もだよ、サッチャー……」

お互いの瞳を見合わせ、そしてやがて落ちてくる唇も愛しそうに啄む。

 

 

いつだってこの恋は、
背中合わせなのだ。

 

2.無期限×恋愛

 

【無期限×恋愛】

雪が舞う12月のイギリスは寒くて、
息は白く、そして冷たい風が頬を掠めて身体に堪えてしまう。

サッチャーは仕事帰り、首元が冷えないようにしっかりとマフラーを巻いて帰路を歩いていた。

「…あ〜…寒ぃ。今日アイツ帰ってくる日だよな、俺を出迎えてくれないとEMP投げてやるからな、スレッジ」

『生きる伝説』の持ち主にも、
恋人と言える大切な存在がいるのだ。

歳下の、ジェイマス・カウデンだ。
恋人の名前を呟けば口から白い息が漏れ出てくる。

遠征中のスレッジは約半年ぶりに母国へと帰国する予定なのだ。サッチャーは自分が思っているよりも彼を愛してしまっている。

「…さーて、もう少しで暖かいmy homeに帰れるかな。待っていろよ、スレッジ」

疲労困憊の身体を引きづりながら、
サッチャーは愛しき彼が待つであろう自身の家へと歩みを進めて行ったのだ。

***

 

 

「帰ったぞー、スレッジ」

 

 

サッチャーが帰宅すると、
見慣れたスレッジの大きなスニーカーが玄関にきちんと並べて置いてある。

コードネームを呼べば、
いつもなら大柄な身体を惜しみなくサッチャーに押し付けて彼を抱き寄せるのに。

「…俺を出迎えてくれないなんて、生意気な奴め。久しぶりに顔合わすの楽しみにしてたのに。…って、何を女々しいことを」

サッチャーはマフラーと上着についた雪を払い、リビングへと歩いていく。リビングには電気だけ付いてた。

 

 

「暖房点けてある…、アイツ帰って来てるなら何処に居るんだ。ん…?」

部屋は暖かく、電気も点いていたからスレッジは間違い無くこの家にはいる筈だ。

サッチャーが無駄に広いリビングを見渡すと、大きなキャリーバックとソファーで体格の良い身体を丸めている大柄な男がいる事を確認した。

「…スレッジ、寝てるのか?」

ソファーにサッチャーが近寄れば、
穏やかな寝息を立てているスレッジが眠っていた。

「お前があんなに会いたがっていたサッチャー様が仕事から帰って来たんだから寝てんじゃない。…ま、遠征から帰って来たばかりだから大目に見てやるか」

スレッジの頬を冷えた手でサッチャーは愛しそうにそっと撫でる。スレッジはサッチャーの手の冷えたさに少しばかり、眠りながら身じろぎをした。

(…お前が帰って来てくれただけで満足なのにな、俺はそれ以上を望んでるんだよ。まぁ、今は勘弁してやるさ)

サッチャーも部屋の暖かさと、
スレッジの寝顔を見て睡魔へと引き込まれていく。

ソファーに眠る恋人の手に自身の手を重ねて、サッチャーは恋人が目を覚ますまで温もりと睡魔に身を委ねることにした。

***

目を覚ますと、
サッチャーの肩にはタオルケットが掛けられており、近くで眠っていたスレッジの姿が見当たらない。

サッチャー、お目覚めか?」
「…スレッジ、あれ…俺、寝てたよな」

寝起きのサッチャーはぼやける眠気眼(ねむけまなこ)を擦りながら久しぶりに帰って来た恋人の顔を見る。

「俺の方が先に眠ってしまってたようだ、コーヒー淹れるけど飲むか?頭が冴える」

「…ん?あぁ、だけどその前に…」

サッチャーはソファーから起き上がり、久しぶりの恋人の温もりを感じるためにスレッジの大きな身体に腕を回す。

「スレッジ、無事に帰って来て良かった。…お前の温もり、久しぶりだわ」

サッチャーの方が幾分か、スレッジよりも身長が低いから抱きしめた際に、丁度良く胸に耳を当てることができる。

心地よい心音がサッチャーの耳を幸せで満たしていく。スレッジも久しぶりの抱擁にしっかりとサッチャーを抱き寄せた。

「…ただいま、サッチャー
「…ん、お帰りスレッジ」

互いの温もりがこんなにも心地よいなんて。離れていた時間がまるで嘘のような気がしてならないくらい、じわりと体温が溶けあって行く。

「キス、したくねぇの?」

身体を離し、サッチャーは2回りは離れているスレッジの顔を覗き込む。スレッジはスレッジで、サッチャーからパッと目線を逸らした。

「何で目線を逸らしたんだ、スレッジ」

「…察してくれよ、サッチャー

「遠征先でお前、まさかっ…」

『浮気でもしたのか?!』と言いたかったのに、最後までその言葉が口から出ることはなかった。

「ふっ…あ、んっ…」

スレッジが思い切り、サッチャーに深く深く唇を重ねて言葉を漏らさないように塞いでしまったからだ。

絡めてくる舌の熱はサッチャーを虜にしてしまうほど、熱くて溶けてしまいそうだった。

唇を離せば、スレッジはサッチャーの頭をぽんぽんと優しく撫で回した。

「…俺はあなた以外に興味なんてないし、ましてや好きになったことはない。浮気なんてする筈が無いだろう。まったく、サッチャー、あなたは本当に俺の理性を食い千切るのが上手だな」

「久しぶりにお前の顔見ちまったから、その、悪かったよ。いきなりキスを求めてさ」

「構わないさ、俺だってあなたに会いたくて触れたくてずっと遠征先でも我慢してたからな。…サッチャー、好きだ。あなたが大好きだ」

「あぁ、俺もだ…」

ソファーに座りなおし、
二人は久しぶりの再会、互いの熱を味わうためにそっと視線を交わして静かに微笑みを交わした。

***

 

 

翌昼、
久しぶりに互いの体温を求めて貪りあって眠ったのは明け方のこと。サッチャーが目を覚ましたのはお昼の12:00過ぎのことだった。

「…スレッジ」

「あ、ようやく起きたのか?おはようサッチャー

スレッジはサッチャーが起きたのを確認し、寝顔を見て穏やかな視線を彼に見せた。

「…昨日は無理をさせたよな、済まないサッチャー。痛いところはないか?」

昨日の鮮烈な交わりを思い出せば、サッチャーの頬には熱が集中し、体温が上がってしまうのを己で感じ取る。

「…別に大丈夫だ、ただスレッジ。俺はお前よりは若くないんだからもう少し加減して欲しかったぜ。ま、あんなに求めてくるお前が見れて俺はラッキーだな」

「まったく罪な男だよ、サッチャー、あなたって人は…」

ぐっとスレッジはサッチャーの顔を引き寄せて唇を奪い去れば彼が喜ぶことを昨日の夜に知ったのだ。

 

 

「強引だ、スレッジ!」

唇を離せばサッチャーは横で寝そべるスレッジを睨んで顔を赤くする。スレッジは少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべてサッチャーを見つめた。

「…半年ぶりのあなたの温もりを感じてしまったからな。サッチャー、俺はあなたを最期まで愛し抜くし戦場でも、あなたを絶対に守り抜くから…。だから、これからも俺だけを見ていてはくれないか?」

手を重ねられ、
こんな風に最後は真剣な表情で愛を囁かれてしまえばもう、抗うことなどサッチャーには出来ないのだ。

「お前以外、最初から興味なんて無いし、俺だってずっとずっと半年間お前を待ち侘びてたんだ。簡単になんか手離してやらない、一蓮托生だぜ。戦場でもプライベートでもな」

「…あぁ、サッチャー。俺の愛は無期限で重いから覚悟してくれ」

「上等だ、ジェイマス」

サッチャーはスレッジの大きくて広い背中に自身の腕を回す。それをスレッジは無言の肯定だと感じて、サッチャーに覆いかぶさる。

伝わる熱が二人の気持ちに火を灯す。

決して消えるのことのない、愛の灯火と共に。

 

 

3.【10cm差のlove*story】

1,惚れ込んだもん勝ちです

 

 

イギリスに拠点を持つレインボー部隊に召集されたスモークは共にメンバーとして集められたミュートとは同僚であり、恋人同士という関係でもあった。

(…っくそ、今日は久しぶりにデートしようって約束してたのに、あの野郎、約束の時間になっても起きねーじゃねぇかっ!!)

スモークは待ち合わせの時間になっても来ないミュートに怒りを感じていた。スマホにメッセージを送っても返事は来ないし、電話をかけても折り返しかかって来ない。そんな状態でかれこれ一時間は経過しているだろう。

(仕方ねーな、あいつの部屋に行って起こしに行くか。つくづく、ミュートには甘いんだよな、俺ってば。優しい俺に感謝しろよな)

怒りを感じつつも、可愛い恋人なのだから心配になったスモークはミュートの部屋へと足を運ぶことにした。

 

 

部屋の前へ着き、
ミュートの部屋のドアをノックすると案の定、部屋の中からはテレビの音が聞こえてくる。

(…あいつ、どうせ本読みっぱなしで寝落ちしたとかそんなんだろう?まったく仕方ねーよ。可哀想だけど、起こさせて貰うぜっ!!)

スモークはミュートの部屋のドアノブに手をかけて、部屋を開けた。

「ミュートっ、てめー起きやがれっ…て、何してんだ?」

「〜〜…っ!!いきなり入ってくる奴が居るかっ!!」

開口一番、
ミュートはスモークの顔を見て、自身の顔を真っ赤に染め上げる。

「お前が何時まで経っても来ないから心配になって来たんだ、電話もメッセージも返事がねぇからさ」

「…それは済まない」

「それで、お前はどうしてそんなに部屋中に洋服を並べているんだよ?」

スモークはミュートの部屋のドアを閉めて、部屋をぐるっと見渡した。辺りには洋服が散乱しているではないか。

「……………」

「…悪い、聞き取れねぇんだけど…」

顔を赤くしたミュートはスモークを思いっきり睨み付けて声をあげたのだ。

「あんたとの、出かける時に着る服が決まらなくて遅れたんだっ…!!」

(…そんな可愛い理由かよ、ああもう。さらに惚れ直したぜ)

スモークはミュートに近づいて、
強く抱きしめた。

「お前がどんな服着ようが、可愛いことには変わらねぇよ…。少なくとも、そういう健気なところが知れて俺はなんつーの、嬉しいぜ」

「…あんたにかっこ悪いところ見せたくなかった」

ミュートの頭をスモークはポンポンと撫でて微笑んだ。

「ばーかっ!可愛いんだよ、お前は!早く着替えて出かけようぜ、お前とのデートは毎回、色々発見が有るからよ?」

スモークはミュートを早く着替えさせるために部屋の隅で座って待つことにする。

結局は
惚れたもん勝ちなのである。

 


2,新たな一面を見つけた二人

〜ミュートの気持ち〜

久しぶりに休みがあった二人は、
基地から程近い専門店が並ぶショッピングモールへと出かけることにした。

ミュートは傍に並んで歩くスモークを見つめて、心の中でつぶやいた。

(この人、背が小さいくせに男前なんだよな…。顔立ちは整ってるし、見た目はチャラチャラしてるけど性格も面倒見良いし。一途だし…)

スモークは確かにミュートと比べたら歳上だし、身長は低いけれど誰よりもミュートを想っていて、誰にでも頼りにされる兄貴的な存在なのだ。

…少なくとも、ミュートにとっては最愛の人なのだけれども。

ミュートは自然に顔が綻んで、
口元には僅かながら笑みが浮かんでいた。

そんな様子を見たスモークはニカッとミュートに笑顔を向けてきた。

「何笑ってんだよ?!」

「…いや、改めてあんたが好きだなーっと思っただけだよ」

「お前からそんな事言うなんて、何だか珍しいな…」

「たまには悪くないだろう?…今日はとことん付き合って貰うぞ」

「あ、当たり前だろっ!久しぶりにお前との休みなんだから!!」

ミュートは珍しく、素直になってみようと思ったようで。傍に並んで歩く恋人を見つめて柔らかく微笑んだ。

 

 

〜スモークから見たミュートの萌え部分〜

ショッピングモールでミュートがずっと行きたかったというカフェに二人は来ていた。

ウエイターに席を案内され、
メニューを見ると女性に人気のありそうなスイーツがたくさん書かれているではないか。

(…見るだけで胃もたれしそうだな…)

スモークはどちらかというと、
甘い物よりもコーヒーとかの苦いものを好んで飲む傾向があった。

ちらっと正面に座るミュートを見つめると、子どもみたいに目を輝かせていて、いつもの仏頂面の彼は居なかったのだ。

「お前は甘いもん好きなのか?」

「…わ、悪いか?頭使った後には糖分を補給しないとイライラして仕方ない」

「いーや、悪くない。ミュートの好みをまた一つ知れて嬉しいなって思っただけだよ」

スモークがにこやかに言うと、
ミュートは少しだけ恥ずかしそうにスモークを見つめた。

「…俺はあんたの好みを知らない。何が好きなんだ?」

「俺か?俺はどちらというとカフェイン好きだからコーヒーばっか飲んでるな。甘いもんは得意じゃねぇ」

「意外だな、俺が作ったチョコレートとか食べてただろう?あれはレインボー部隊の女性陣に作り方教わったんだが…。相当甘かっただろ?」

「お前が作ったもんは特別食える!!お、そろそろオーダー決まったか?」

「あぁ、決まった」

二人はウエイターを呼び、
メニューを注文した。

スモークとミュートは初めてお互いの味覚的な好みを知って、また一層お互いを知る事が出来なのだ。

 

 

3,良かったら、召し上がれ

 

 

ミュートが頼んだものを見て、
スモークは絶句していた。

「その生クリームの量はやばいだろ?!」

「…甘党を敵に回したな、あんたは」

甘い物が苦手なスモークはミュートの前に置かれた生クリームがたっぷり乗っているパンケーキを見てげんなりしていた。

ミュートはナイフとフォークを持ち、嬉々とした表情でパンケーキを食べやすい大きさに切っていく。

「ミュートくん、ご機嫌だな」

「この店のパンケーキは中々食べれないくらい人気があるんだ、今日は平日だから人が少ない。ラッキーだ」

器用に切りながら、
顔には年相応の少しばかり子どもっぽい表情を浮かびていた。

そして一口大に切ったパンケーキに生クリームをたっぷり乗せてミュートはそれを口に含む。

「…美味いか?」

「頑張った自分へのご褒美にはうってつけだ。すごく今、幸せかもしれない」

「そりゃ良かったよ」

「…あんたも食べたいのか?」

「んにゃ、俺はこれで充分だ」

スモークはミュートの唇の横に付いた生クリームを指で取り、ペロッと口に含んだ。

「…甘いな、これ」

「〜〜…っ!!恥ずかしいこと、良くできるな!?」

「ご馳走さまでした♪」

「…今日は許してやる、基地でやったら一週間無視するからな」

「はいはい、まあ、ゆっくり食べろよ。俺は待っててやるよ」

「…ん…」

スモークは頼んでいたホットコーヒーを一口含んで、美味しそうにパンケーキを食べるミュートを眺めていた。

その間、
無言ではあったけれど、二人の間には何とも言えない甘い空気が漂っていた。

 

 

4,初めてのお揃い

ずっと行きたかったカフェに行けて満足なミュートと、甘いものを見て胃もたれをしているスモークはカフェから出て、次の目的地へと向かうことにする。

スモークは普段耳にピアスを二つほど身につけていて、休みの日なんかはボクシングの大会なんかが無いと大体ピアスを身に付けて見えないお洒落を楽しんでいた。

「ミュート、ちょっと付き合って欲しいところが有るんだけど」

「あぁ、構わない。どこに行くんだ?」

「一緒に来てからのお楽しみだ」

「…??よく分からないが、とりあえず付いて行けばいいんだろ?」

ミュートはスモークの後を追って歩いていく。

 


少しばかりモールの中を歩いて、
スモークがミュートを連れて来たのは
オーダーメイドのアクセサリーショップだった。

店員とスモークは顔見知りのようで、
何か話し込んでいた様子であった。

(スモークは、こういう洒落た感じの店に詳しいよな。…確かに、俺とこんな関係になる前は周りに女性ばかり集まってたような気がする…)

少しばかり、ミュートの心にはモヤモヤっとした気持ちが広がっていく。付き合って3年以上は経っているのに、未だに知らないことも多い二人なのだ。

ミュートは無意識にいつもの仏頂面になっていて、それに気がついたスモークは店員に軽く頭を下げてミュートの近くへ歩み寄る。

「お前はまーた何か考えたんだろう、ほい、プレゼント」

「…俺にか?」

「おう、お前に渡したくてさ…。開けてみ?」

「あ、あぁ…」

仏頂面なミュートを、スモークは真剣な表情で見つめていた。そんなミュートにスモークは小さな箱を手渡した。

(…これは、ピアスか…?)

小さな箱を開けると、
そこにあるのは二つの小さなピアスだった。

紫色の小さな石が埋め込まれている、小振りだけど、とても良い品物だというのは一目見て分かるくらい、価値のあるものだった。

「これはお前の誕生石を使って作ってもらったんだ、誕生石はガーネット。誠実さや一途、そんな意味があるらしいぜ?俺もお前と同じ石で作ってもらった、初めてのお揃いだぜ。喜べよ?」

…この人の、こんな所がむかつく。

ミュートはそんな風に思ってしまう。
自分の中でモヤモヤしてた気持ちは気がついたら消えていて。

気がついたらミュートはスモークの手を掴んで、一言呟いた。

「…嬉しい、ありがとう。大切に身に付ける」

「おうよ、無くしたら泣くからな!」

初めてのお揃い。

二人の耳にはきらりと輝くピアスが付けられていた。

 

 

5, 10cm差のlove*story

 

 

二人は一日、共に出かけて回りたいお店を回って久しぶりのデートを楽しんだ。

普段見れない互いの一面を知ることが出来て、二人は満足だった。しかし、何かが圧倒的に足りなかった。

「…スモーク、ちょっと」

「ん…?!いきなり何だっ…?!」

帰り道にミュートはいきなりスモークの腕を掴み、誰も居ない路地裏へと彼を連れ込む。

壁際に追い込まれたスモークはミュートに壁に両手を押さえつけられて、見下されていた。

(…くっそ、ミュートの野郎!!俺より身長高いからって見下しやがって。しかもそんなかっこいい顔で見るなよな!!ばーかっ!)

外は夕方。
夕闇に染まるミュートの端正な顔がより一層、映えて見える。

「…あんたが好きだ、誰よりも」

そう呟くとミュートはスモークにそっと唇を重ねてくる。行動と口づけ、そして言葉は反比例していた。

「…んっ…、ミュート…」

いつもより速い鼓動、そして甘く優しく響くミュートの切なげな声がスモークの鼓膜を震わした。

唇が離されて、
ミュートは自分よりも10cm程身長の低い恋人を強く強く抱きしめた。

「…お前からくっつきたがるなんて珍しい」

「言ったはずだ、今日は言うことを聞いてもらうと。俺はスモーク、あんたが好きで好きで仕方ない。本当に、気がついたらハマってるくらいには」

ミュートの言葉を聞いたスモークは口元に満足げな笑みを浮かべて一言呟いた。

「…あぁ、俺もお前が可愛くて仕方ないよ。ただな…」

気がついたらミュートとスモークの立場は逆転していて、ミュートを壁際に追い込む体勢になっていた。

「…お前は俺だけを見ていればいい。最近、ミュート。お前は色んな奴からモテんだぜ?ヤキモチ妬いちゃう俺の身にもなれってんだ。今日贈ったピアスは、ある意味牽制になるかもな。…な、なに笑ってるんだよ?!」

「…ははっ、俺はあんたと恋人関係になれて本当に幸せだと思ってな。俺だって昔のスモーク、あんたを思い出して妬くくらい心が狭い。それだけ、俺はあんたに惚れてるんだ。責任、取ってくれるよな?一生懸けても構わないさ」

「〜〜…っ、お前なっ!!帰ったら覚えておけよ?!絶対に寝かせてやらねー!」

「…あんたになら、何されても構わない。好きだよ、スモーク」

「俺だって、ミュートが世界で一番好きだ。愛してるぜ?」

少しばかり、背伸びをしてミュートに深い深い口づけをスモークは施した。

夕闇は二人の影をゆっくりと溶かしていく。

きっと、この先も。

二人はお互いを思って、恋して愛し続けていくだろう。

…誰よりも、お互いを強く思っているのだから。

 

 

4.【猫を拾ったSASの二人】

 

 

「スモーク、あんた本当に…!」

「あぁ、悪いな…」

二人の間には妙な雰囲気が漂っているではないか。ミュートはスモークの顔を睨みつけて呟いた。

「俺はあんたを信じていた。…だけど、だけどまさか…」

『ミャー』

「猫を拾ってくるとは思わなかった!!俺が動物苦手なの知ってるだろう!!」

「ミュートくーん、この子猫ちゃん女の子だぜ?こんなカワイイ子を俺が放って置けると思うのか?」

「…お、思わない、思わないけど…」

スモークは三日前、ランニングをしている最中に道端に捨てられていた一品の子猫を拾って、自身の部屋に連れて帰ってきたのだ。

ミュートが動物を苦手としているのも分かってはいたが、スモークはどうしてもこの子猫を放って置けなかった。

「このキュートでカワイイ子猫ちゃん、お前に似てたんだ。出会って間もない頃のお前にな…」

スモークは子猫を愛しげに撫でながら呟いた。その様子をつまんなそうにミュートは見て言い返す。

「…どこがだよ」

「超反抗的で、生意気」

「あんたの腕の中にいる子猫は大人しいじゃないか」

「それは今の話だろう?拾ったばかりの頃は俺の腕や顔を引っ掻き回してだな。あ、俺の背中に傷を付けるのは相変わらずミュートくんだけだ」

「…俺は動物じゃない」

「そうだな、そんなもん見りゃ分かるさ。ほらお前もキュートなベイビーを抱っこしてみろって!」

スモークはミュートに子猫を渡して抱っこするかのように促した。ミュートはおずおずと子猫を抱きしめた。

「…あれ、大人しい」

ミュートに抱っこされた子猫は彼の胸に自身の顔を擦りよせて甘えてくる。ミュートは子猫を見て優しく撫でてやる。

「なんだよ、お前気に入られたんじゃん!動物苦手なのに!ちょっと寂しーなー…」

「ほら、あんたが親なんだろう?!あんたがちゃんと面倒見ろ。って、勝手にゲージに戻っていったぞ…」

「猫は気まぐれだからな〜、ミュート、ちょっとこっち向け」

「な、何だよっ…、んっ…」

ミュートの顔を引き寄せて、スモークは彼に唇を重ねていく。スモークの口付けは長くてミュートの呼吸が苦しくなるまで続けるのだ。

 


「…ちょっ、あんたいきなり過ぎるだろっ…」

「お前に少しムカついた」

「なんで」

「子猫ちゃんに優しくしてたから」

「あんただって同じことしてただろ?!妬いていたのは俺の方だ」

「…そうなの?」

「…悪いかよ」

「俺、ミュートくんのこと大好きだよ。子猫ちゃんはちゃんと面倒は見るけど俺の一番はミュートくんだから。抱き締めても良いか?」

「…うん」

スモークは満足気な笑みを浮かべてミュートの身体を抱き寄せた。彼の表情はきっとにやにやしているに違いない。

ミュートはスモークの背中に腕を回して、彼の耳元で囁いた。

「…ハグ以上だって、してくれてもいいんだ。スモーク、あんたになら何をされたって構わないんだから」

「もう、可愛い誘い文句だ。ま、するつもりだったけどな…、ミュートくん、好き、大好き…」

ミュートの身体をゆっくりとスモークは近くのソファに押し倒していく。やがて降りてくる愛しい恋人の体温に期待を込めてミュートは瞳を閉じていく。

愛を確認し合う二人の近くで子猫はうーんと背筋を伸ばして温かな日向の近くに身体を寄せていった。