穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

GSG9まとめ(過去作)

 

1.LAST・NIGHT〜前編〜

 


片割れはいつの日か、目の前から居なくなった。

『帰ってくるから、ドミニク。そんな顔するんじゃない』

あんたは嘘つきだ、セドリック…ー。

勇敢でも賢くても幸運でも、死ぬときは死ぬさ。

これは『始まり』にしか過ぎない。
俺と、嘘つきセドリックの最期の『戯れ』の幕開けに過ぎないのだから…。

 

 

【LAST・NIGHT】

 

 

雪積もる墓地、花束を手向けるために行けば丘から見える景色は嫌味ととれるくらいには広大だった。

「セドリック、あんたばっかり綺麗な風景見て相変わらずズルいなぁ。俺を置いて先に逝きやがって」

もうこの世にはいない、最愛の兄。
大切な片割れ、そして尊敬していた大切な人。

そんなあいつの名前を呟いて、
兄が眠る墓地に花を手向けてやる。
生前、兄が好きだった鈴蘭なんて洒落た花を用意してやった。

「…俺に対して嘘ばっかりつきやがって。勝手に死んでるんじゃねぇっつうの」

兄はきっと、俺を空から見守っているに違いない。墓を見て俺は勝手に死んでいった馬鹿な兄貴のことを思い出していく。

 

 

 


「ドミニク、今日俺遅くなるから先に寝ていろよ」
「んー…、どっか行くの?仕事か?」

真夜中に兄・セドリックはラフな格好に銃を隠し持つという物騒な格好をしていたのだ。

…セドリックは裏稼業として麻薬売買に手を出してお金を稼いでいた。そんなことをしなくても生活はできるのにどうしてだろう、そんなことばかり考えていた。

「帰ってくるから、ドミニク。そんな顔するんじゃない」
「心配なんだよ、兄貴。俺はあんたが心配なんだ…」

俺よりも数秒早く生の産声をあげたから、セドリックは兄で俺が弟。ただそれだけのことなのに。

勇敢で、賢くて、幸運の持ち主で。
俺はそんな兄が酷く羨ましかった。

妬むほど、羨ましかった。
比較されていつも過少評価ばかりされていたのは弟の俺だったから。

「じゃあ。また明日の朝には帰るから」

セドリックは背中を向けてドアから出て行く。

…これが『最期』になるなんて、この時の俺は思いもよらず止めておけば良かったと、酷く後悔したことを今でも思っている。

 

 

次の日の朝。
目を覚ませば帰ると約束した兄貴は何処にもいない。
そしてリビングに鳴り響くのは一本の電話だった。

「…もしもし」
「ド、ミニク…」
「…っ、セドリック?!おい…!」
「兄ちゃんな、お前に謝らないと…、うっ…」
「何処に居るんだ?!セドリック…っ!」
「か、帰るって約束、守れない、お前を…」

プー…、と電話はそこで途切れてしまう。

俺の『第六感』は嫌な予感だけは当ててしまう。兄貴より幸運もなければ賢くもない。自分にあるのは度胸だけ。

…だからこそ、早く行かないと。
ジャケットと護身用のナイフを片手に寒い冬の空気に包まれた外へと飛び出した。

 

 

家の近くの公衆電話に踞るのは、一人の男。そこには辺り一面血の海と化していた。

「…セド…リック…??」

近くに寄れば、瞳を閉じて眠っている兄の姿。そこで寝るなよ、風邪引いちゃうだろう?

青白い顔、滴るのはセドリックの血溜まり。

「…兄ちゃん…、帰る約束したよな?なんで死んでるんだよ、俺を置いて誰が逝っていいと言った?!目を覚ませ、セドリックっ…!!俺を独りにしないでっ…」

自分は強いと思っていた。
自分自身、強いと思っていた。
だけれど、それは嘘だよ。

最期のやり取りにしては随分と質素だった。青白い顔を見つめながら俺は一粒だけ涙を流すことにしたのだ。

 

 

セドリックを殺した奴は簡単に警察へと捕まった。しかしセドリックもまた違法な麻薬売買に手を出していたために死んでいながら罪を背負うことになった。

俺自身が許せないのは、自分自身。
そして黙って殺されたセドリックだ。

復讐の賽は投げられた。

セドリック、待っていろ。
俺が全てを片付けてやるから…。
その時までどうか、安らかに…。

先に眠っていてくれ。

…next…

 

 

2.LAST・NIGHT〜後編〜

 

復讐の賽は投げられた。
実に簡単に死んで逝った兄は俺に何を伝えたかったのか。

…復讐の業火はゆらゆらと燃えあがる。セドリック、待っていろ。

あんたを死に追い込んだ全てをこの俺がぶっ壊してやる。

***

「最近どうだ、取引は上々か?」
「いいや、不景気だよ。…それよりも俺と気持ち良いことしようぜ?あんたに抱かれた方がよっぽどクスリ売るよりかは金になる」
「ふん、さすがは懐に入るのが得意な若造だ…」

照明が落とされた狭い部屋のベッドの上。麻薬売買組織のトップの男娼として組織に入り込み、気に入られるように取り繕って身体を重ねたのは何回あっただろうか。

…どうでもいいか。

目の前の男はグラスに入っているウイスキーを口に含めば、俺の身体を汚い手で弄ってくる。

「昨日も抱かれたから、すぐ入るぜ?愛撫なんていらないから早く…」
「とんだ淫乱め、はは…尻をたくさん犯してやるよ」

熱い昂りを無理やり入れられて、後はこの汚らわしい男が達するまで我慢をする。…もちろん、中で出してくるから料金は上乗せだ。

***

「気持ち良かったぜ、ブルンスマイヤーっ…ぐふっ…」
「あんた馬鹿だろう?ウイスキーに致死量のクスリ混ぜて置いたんだ。もう少しでこの世とバイバイだ」

服を着て、金を受け取りながら泡を吹き始める目の前の組織のトップは俺を睨んでくる。

「お前っ、こんなことっ…」
「….あんたら組織がセドリックに、兄にした仕打ちに比べれば優しいだろう?はは、あの世でセドリックに詫びろ」

額に銃口を押し当てて、躊躇なく引き金を引く。目の前の男は倒れていき、温かな血が広がっていく。

「セドリック、もう少しで俺の復讐劇は幕引きだよ。もう少しだからな…」

血で汚れた身体を洗うため、そして中で出された精液を掻き出すためにシャワーを浴びて部屋を後にしよう。

持っていける金は全部持っていくかぁ。

 

 

***

「ドミニク・ブルンスマイヤーってあんたか?」

暗い牢獄の中。
一人の面会者が俺宛てにやってくる。

「そうだ、それが何だ」
「あんた、麻薬売買に売春、そして殺人の多重容疑で服役してるんだろう?若いのに可哀想だ」
「だからどうした。あんたには関係無いだろう」
「スパイとしての潜入能力と、あんたの抜け目の無さを求めている場所がある。勿論、あんたが求めている亡き兄の『情報』だって所有してる。どうだ、俺と手を組めばここから出してやる」

面会者は目を細めて俺を見てくる。
俺より若いだろう、その男は俺に何を期待しているのだろうか。

「俺は人を信用なんてしない。絶対にな」
「ほう、随分と歪なことを言うもんだ」
「…で、あんたは俺に幾ら支払える?俺は金で動く、それ以外では一切動かないぜ?」
「お前が望む額を口座に振り込んでやるよ…、そうだな。ざっとこんなもんでどうだ」

男は通帳を見せて額を提示する。

…セドリックの墓と同じくらいの額だ。いいだろう…。

「あんたと組めばいいんだろう?全ての真実を教えてくれ、俺は亡き兄の為に復讐をやってきた。燃え広がる業火は鎮火寸前だがな」
「ふん、じゃあ決まりだな。直ぐにここから出れるように手配をしてやる。そうだ、自己紹介が遅れたな」

目の前の面会者は俺を見て目を細めて呟いた。

「マリウス・シュトライヒャーだ。あんたの生活を全面的に支援させてもらう。GSG-9はあんたの力を求めているからな」

これが今後、俺の人生を大きく変えて行くなんて思ってもいなかった。

後の『イェーガー』との初めての出会いは牢獄の中だった。

 

 

***

懐かしい記憶を辿っていた。

雪積もる墓地、広大な景色が嫌味ったらしい丘のベンチに俺はいた。隣には共に着いてきてくれたマリウスがいる。

「セドリックと俺は親友だったんだ。あいつ、正義感は無駄に強くて賢くて…。聡明だった。GSG-9の奴らはみんなセドリックが大好きだった」
「生きていた頃、確かにセドリック…、兄はそんな感じだったな。だから麻薬売買組織に身を潜めて組織壊滅を目論んだのか」

正義感は一人前で、誰よりも明るかったセドリックはその正義感のせいで殺されたような物だった。

「バンディット、お前に獄中で会ったのはもう今から五年以上も前のことだったな。セドリックは良くお前のことばかり自慢してた。『イタズラ好きだけど明るくていい奴だ』って。お前を危険な目に合わせないようにGSG-9のエージェントとして裏稼業に手を出していたことは伏せていたみたいだ」
「一番最期の会話がさ、『お前を…』で終わっちまった。セドリックめ、あいつは相変わらず…」
「その事何だが、実は俺宛てにセドリックから最期のメッセージが来ていたんだ。六年前のメッセージ、お前に見せないとな…」

イェーガーは俺に携帯を差し出し、
セドリックからの最期のメッセージを見せてくる。

日付はあいつが殺された日。

『親友であるマリウス、俺がこのメッセージを送る時俺はもうこの世には居ないだろう。お前に大切な弟を任せたい。俺が裏稼業でエージェントをしていることをドミニクは知らない。あいつは俺がこそこそ何かしていれば昔からずっと俺にべったりだった。きっと俺が危ない橋を渡っていること知ったらドミニクは真似するだろう。だからあいつが独りにならないように、どうか力になってくれ。…口座にある金はもしもの時、ドミニクのために使ってやってくれ』

…あぁ、あんたって奴は本当に馬鹿な兄だよ…

「バンディット、お前を保釈する為に使った金やお前をGSG-9にスカウトした時に使った金はセドリックが昔から溜め込んでいた金だ。あいつは最期までお前の身を案じていたんだよ。『兄貴』の最期を見届けたお前にとっては辛いことかも知れないが。全て真実だ」
「…まったく、本当に馬鹿な兄だよ。セドリック…」

勝手に死んで逝った兄は本当に自分勝手だと思う。正義感が有りすぎたせいで命を落として、俺は結局あんたを殺した組織をぶっ壊した。

視界が涙で歪んでいく。
六年越しの兄の遺言を今では相棒のイェーガーが持っているなんてな…、あぁ、もう。

これは『宿命』って奴なんだな。

「バンディット、俺は確かにセドリックと親友同士だったしお前のことを任されていた。だけどこれからは一人の人間としてお前を独りぼっちになんてしない。セドリックに顔向け出来なくなっちまうからな」

涙が流れるのは実に兄が亡くなって以来だ。

「…本当に俺もセドリックも双子なのにまるで正反対の人生だよ。イェーガー、お前があの時面会に来てくれて、今では本当に良かったと思ってる。セドリックの『真実』も知れたし。今なら言える」

ベンチから立ち上がり、セドリックが眠る墓の前にイェーガーと共に向かう。そして俺はイェーガーに手を伸ばす。

「ありがとう」
「…やめろよ、水臭い。お前らしくねぇってセドリックも絶対に言ってるに違いない」
「そうかも知れないな…」

差し出し手をイェーガーも握ってくる。

復讐の賽は投げられた。

しかし真実は実に至ってシンプルだったのだ。

 

 

「…またな、セドリック」

眠る兄の墓地を後にしてイェーガーと共に雪解けの丘を下りていく。手向けた鈴蘭は風にふわりと揺れていた。

…生まれ変わったとしても。
俺は何度だって思うのだろう。

『あんたの弟で良かった』

ありがとう、
そして『さようなら』・・・ー。

 

 

LAST・NIGHT 【完】

 

 

3.Electrical*spice

それはそれは茶目っ気のある瞳で俺を見てくる。

おいおい?
お前は分かっているのかい?

その行動自体が、
全身で好きだって言ってきていることが俺にとっての幸福だということを。

 


【Electrical*spice】

 

 

「バンディット、俺の顔がそんなに面白いかー?ん?」

食堂で味付けの濃いコンソメスープを飲みながら、ブリッツは目の前に座る歳上の同僚を見つめた。

「…あんた、俺の気持ち知っていている癖に、『お昼一緒に食べないか?』とか普通言って来ないだろう」

「そんなこと言われても、俺とバンディットは友達で仲の良い同僚じゃないか。確かにお前の気持ちは知ってるさ、ただ、昼の食事くらい誘っても良いだろう?」

「…本当にお前は酷い奴」

バンディットはそう言うと、
食事に視線を落として黙々と食べ始めてしまう。

ブリッツとバンディットはGSG9に所属する仲間として、そしてプライベートでは友人としてそれなりに信頼関係を気づいてきた。

しかし、
バンディットは友人以上の気持ちをブリッツに対しては抱いており、そしてその気持ちにブリッツ本人も気がついていたのだ。

「そんな事言わないでくれよ、バンディット。確かにお前が俺を思ってくれていることは知ってる。だけどその気持ちを直接俺に伝えてくれたこと、有ったっけ?」

その言葉を聞いたバンディットは
黙々と食べていた食事の手を止めて黒々した無機質な瞳を、僅かながら細めてブリッツを見つめた。

「…俺はあんたに伝えていたつもりで、アピールだってしていたつもりだった」

「『つもり』だろう?俺はきちんと言葉を口に出して伝えてくれる人が好きだなぁ。バンディット、お前の口から言って欲しいんだ、俺に対して抱いている気持ちを」

ブリッツはニコニコと笑顔をバンディットに向けた。いつの間にか、塩辛い味付けのコンソメスープは空っぽになっていた。

「…あんた、こんな人がいる場所で告白大会でもおっ始めるつもりか?悪趣味な奴だ」

「だったら周りの人に聞こえないくらい、小さな声で俺の瞳を見て『好き』って言って?ね、出来るよな。『盗賊』の異名を持つドミニクくん?」

バンディットは黒い二つの瞳をパチクリとさせ、数秒後に顔を真っ赤に染め上げた。

普段から冷静沈着な性格のバンディットがこうも表情を崩すなんて珍しいことだ。

「…好き、なんだ。ブリッツ、あんたが好きだ!もう、勘弁してくれよ。こんな羞恥プレイ…」

「はい、合格!ふふ、俺もお前が好きだよ、バンディット」

食事を終えたブリッツは、バンディットの頭をポンポンと撫でながら立ち上がる。

「午後からの演習、遅れないで来いよ?ドミニク」

ブリッツはそう言うと、トレイを持ちながら手を振って食堂を後にする。

バンディットはそんな彼の背中を見つめて、一言呟いた。

「…名前は反則だろう、エリアス」

彼の口の中にはほんのりと食事のときに飲んだスープのスパイスだけが残っていた。

 

 

4.【NEXT DOOR..】

 

 

knock.1 彼が彼女に願うこと。

 

 

『モニカ・ヴァイスってあんたか?』

第一印象は何処か冷めた印象だった。
黒々とした瞳には人の感情なんて綺麗なものは映ってはいない。

『私がそうよ、私がモニカ・ヴァイス。あなたは誰?』

警戒しながら目の前に座る男を見つめれば、抑揚のない平坦な声で名前を呟いた。

『…バンディット、だ。秀才なお嬢さん。あんたの瞳には穢れなんてものがまるでない。純粋な、綺麗なアイスブルーだ』

『何が言いたいの?…あなたの瞳には混沌しか映っていない。希望や光なんてものがまるで感じられない…』

『俺の経歴をお嬢さん、知っているだろう?人殺し、裏切り、麻薬。人の汚いことを全てやってのけて来た。そんな俺と、穢れのないあんたが共にバディを組んだら…、あんたもきっと…』

目の前の無感情な男はただただアイスブルーの瞳を見つめて消え入りそうな声で言い放つ。

『俺のように真っ黒な闇に身を落とすことになるだろうな。お嬢さん、それでもあんたは俺と組むことができるか?』

『私がこのGSG-9にいる理由は、この国の治安と人々の安全を守るためよ?バンディット、あなたと組もうが、あなたが闇を抱えていようが私には関係なんてない。あなたを一人の人間として見ているのだから』

(…あんたみたいな人間は初めてだ、モニカ・ヴァイス。あんたになら、安心して背中を任せられるかもな)

『そうかそうか。なら話が早い、これからどうか同僚として宜しく頼むよ』

黒々としている瞳を幾分か柔らかくして、僅かにだが口元に笑みを浮かべ目の前の彼女に手を差し出した。

『宜しく、バンディット』

アイスブルーの瞳は彼をしっかりと捉えて差し出したされた手を握り返した。

(…信じさせてもらうよ、俺の第二の始まりなんだから。裏切りなんてのは、もう二度とごめんだ)

彼女の瞳を見つめて思うのは、哀しい過去による決別の決意なのであった。
この出逢いが無駄ではなかったことを、この先の未来に繋がればいい。

そんな気持ちが無機質な男に宿りつつあるのであった。

***

「バンディット、またあなた私のお菓子食べたでしょ?!午後の休憩に食べようと思っていたのに」

「ん?あぁ、悪いな。名前書いてなかったから食べた」

お昼近いGSG-9の事務所には人はまばらで、モニカとドミニク、そして他の同僚が数人ばかりである。

「まったくもう、名前を書いてないからって食べるなんて子どもかしら。私のお菓子返してよ、馬鹿バンディット」

「そんなに怒るなって、あ、これから昼だろう?何かお詫びにご馳走するよ、それでチャラにしてくれ。女性を怒らすのは趣味じゃないんでね」

「それで良いわ、仕方ない。さっそく食堂に行きましょう?早く席混まないうちに…」

二人は事務所から少し離れた食堂に向かって歩き始める。目の前を歩くドミニクを見て、モニカはぽつりと呟いた。

「私たちが初めて顔を合わせたとき、まさかこんな、一緒に食事するまでの付き合いになるなんて思わなかった。出会った頃のあなたは何処か冷めて
いたから」

「そう思われても仕方のない経歴しか俺には無いからなぁ。でも、俺はIQ、お前と一番最初に顔を合わせた時にお前の真っ直ぐな瞳に救われたんだぜ。…闇を抱えているのが、どうでも良くなるくらいには」

ドミニクの声音は穏やかで、昔のように冷たくはない。むしろ、優しい口調であった。

「…それは、言い過ぎじゃない?」

「この俺が人を信じて歩み寄るなんて本当に昔だったらありえないことだったんだ。IQ、お前には感謝しかない。この俺を闇から救ってくれてありがとう」

食堂の出入り口でドミニクは足を止めて、モニカに一言お礼を述べた。そんな彼の言葉を聞いたモニカはアイスブルーの瞳を細めて微笑んだ。

「…お礼は食事の後のデザートで良いから」

「はいよ、お嬢さん」

二人は食堂へと足を進める。穏やかな昼下がり、ドミニクは日常の細やかなやり取りに温かい幸せを感じていた。

 

 

knock2.言葉より、思い。

 

 

「何で休みの日までお前の顔を見なくちゃいけねぇんだ…、ったく、体調管理くらいしろっての!」

「そう言ってくれるなよ、イェーガー。仕方無いだろう、頼れるのがお前だったんだ」

今、バンディットは風邪で寝込んでいてイェーガーに助けを求めて看病をしてもらっているという状態だ。

身体だけは強く、体力が自慢だったのに柄にもなく風邪を拗らせてしまったのは自分の不覚だった。

ブリッツもIQも遠征でドイツ国内には居らず、頼れてすぐに返事に気づいてバンディットの自宅に駆けつけたのがイェーガーなのだ。

「お前、友達の一人や二人いないのか?…家族だって居るんじゃねぇのか」

ベッドに潜り込んで横になっていたバンディットの近くに腰を落として呟いた。

「俺の性格をお前は知ってるだろう?部隊内でも信頼してるのはほんの数人なんだ。IQやブリッツ、あとはお前くらいだ。家族はそうだな、中々俺が危ない橋を渡ってるもんだから連絡をして来ない」

その声音はどこか寂しさを感じるものがあった。いつだってバンディットは飄々としていて掴みどころのない、まるで風船みたいな性格の人間なのだ。

イェーガーは風邪で弱りきっている相棒の顔を見て深いため息をついた。

「まぁ、確かにお前の性格は分かってる。ただ身を固めて、風邪を拗らせてしまった時に看病してくれる嫁さんくらい探した方が…」

いつまでも、俺に頼るのは良く無いだろう?

そう、伝えなかったのに。
その言葉が最後までイェーガーの口から伝わることなんてなかった。

「んっ…」

バンディットが彼の顔を引き寄せて、熱を持っている唇で言葉を言わせないように塞いでしまったのだから。

 

 

唇を離されてしまえば、
イェーガーの顔は熱を出しているバンディットよりも真っ赤に染まっていた。

それはまるで、熟れた禁断の果実のような色だった。

「お前は俺がどうしてこんなことしたのか分かってるか?」

バンディットは唇を離して、呆然としているイェーガーの頬に手を当てて彼の瞳を覗き込む。

「イェーガーが好きだから。初めてなんだ、こんなにも信頼出来て、大切だと思える存在が出来たのは」

熱でバンディットの黒々とした瞳は僅かに揺れていた。イェーガーはバンディットの瞳から目を逸らして声を震わした。

「…ドミニク、お前はズルイ奴だ」

彼の本名を呟けば、イェーガーはバンディットの着ている寝巻きの胸倉を掴んで、泣きそうな表情を彼に向ける。

「今日ここに来たのだって本当はお前が心配だったからなんだ、悪態ついちまったけど、お前が…、あんな辛そうに『助けて』とか言ってくるのが珍しくて、本気で心配したんだぞ?!…なのにお前は『好きだ』とか告白してくるし、色々ズル過ぎるんだろうが…」

胸倉から手を離して、今にも涙が出そうな顔を隠すためにバンディットの肩に顔を乗っけて消えてしまいそうなほど、小さな声で呟いた。

「…マリウス、俺は嫁さんなんていらないよ。お前が隣に居てくれればそれ以上に望むことなんてないさ。俺には細やかな幸せだけで充分だ」

バンディットはイェーガーの本名を愛しそうに、そして優しい声音で呼んだ。

「ドミニク、金輪際一人で無理するのは駄目だ。戦場でも、プライベートでも必ず俺の側から居なくなるんじゃねぇ。好きなんだろ、俺のこと…」

「あぁ、好きだよ。間違いなく、世界で一番には」

イェーガーの顔は例えようのないくらいに熟れていて、そんな様子をバンディットもまた幸せそうな表情を浮かべて見ていた。

「…っくそ、お前の気持ちに気がつけなかった時間が悔しい。もう決めた、バンディット。今日は泊まってお前の看病してやっから、とにかく今は眠れ」

バンディットをベッドの端へ押しやれば、イェーガーは布団へと潜り込んでくる。

「マリウス、お前意外に大胆なんだな」

「うっさい!良いから病人はしっかり暖を取ってさっさと寝ろよ。恥ずかしいんだ、こっちは…」

イェーガーを抱き枕にしてバンディットは彼の身体をしっかり抱きしめながら、やがて穏やかな睡魔へと引きこまれていく。

 

 

「….俺がどれだけお前を想っていたかなんて、この鈍感な盗賊には絶対に言ってやらねぇ。ドミニク、俺の方が…」

ずっと前からお前を想っていたよ。
戦場でも背中を預けていた時からずっとな。

イェーガーはバンディットの温もりを感じながらそっと目を閉じて彼への思いを馳せていった。

 


knock3.瞬光と稲妻の戯れ

ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべているのはGSG9のムードメーカーであるブリッツ。本名をエリアス・ケッツと言う。

ドミニクとエリアスは年齢がそんなに離れては居らず、腹を割って話せる気のおける友人同士であり、よき同僚でもあった。

久しぶりに帰宅の時間帯が重なり、二人はバーにてお酒を酌み交わしていた。

「ドミニク、最近部隊ではどうだ?お前、経歴が経歴だからあんまり周りの奴ら近づいて来ないだろう?こんなに子どもみたいに悪戯ッ子な性格して面白いのに」

「お前なー…、仮にも人生の先輩に悪戯ッ子とか言うもんじゃないぜ?最近はそうだな、意外に色んな奴らが声をかけてくる」

「はは、スマンスマン。でも色んな人が声をかけるってことは、ドミニクー、彼女妬いちまうんじゃないか?」

「あぁ、彼女っつーか、恋人な。お前も知ってる奴何だけど」

「まさか、モニカっ…」

「違うっつーの!イェーガーと最近恋人同士になったというか。想いが通じあったんだ」

その言葉を聞いたエリアスは驚いた表情を浮かべながらも、ニコニコと人好きする笑みをドミニクに向けた。

「そっかそっか、マリウス先輩にも春が来たんだな。ドミニクー、お前絶対に幸せにしてやれよ?俺もモニカを死ぬまで手離さないし、一生愛し抜くって誓ったからな」

エリアスはグラスに入っていたマティーニを飲み干した。彼の顔はアルコールにより仄かに紅潮していた。

「あぁ、そうだな。俺も『本当の意味』で人を愛したいと思えたのはあいつが初めてなんだ。まったく、自分でも驚いてるさ。そうだ、お前は彼女の何処が好きなんだよ?そういう話、中々普段出来ないから教えろよ?」

ドミニクもグラスに入っていたジントニックを飲み干した。彼は中々の酒豪だから何杯か飲んでも表情一つ変わらないのだ。

エリアスは少し恥ずかしそうな表情を浮かべれば、嬉しそうに口を開いて話し始めた。

「IQ…、モニカは最初キツそうな性格だなぁって思ってた。学歴もあるし、見た目も美人だから近づきにくかったんだ。だけど段々話すうちに、彼女の完璧主義なところ。…才能だけじゃなく、そこに劣らず努力してるところとか、あとはたまに見せてくれる笑顔がもう可愛い。俺は彼女の輝いている笑顔が見れるなら何だってするさ。それくらい、愛してる」

エリアスはお酒が入っているのも起因してか何時になく雄弁に愛する恋人の話をしてくる。

(….あぁ、これが『幸せ』ってヤツなのか?)

ドミニクは嬉しそうに話すエリアスの顔を見て、自身の心に感じたことのない気持ちが芽生えたことに幸せを感じていた。

「俺ばっか話すんじゃなくて、ドミニクもマリウスのこと好きならどこに惹かれたんだよ?今日は帰さないぜ、明け方まで呑み明かそう」

「….そうだなぁ。普段はプライド高くて、喧嘩っ早いだろ?だけど一度決めたことに対して、絶対に最後まで諦めずに立ち向かうんだ。芯が強い所とか、あとは悪態つきながらも面倒見てくれたりとか、たまに見せる子どもっぽい笑顔なんかも好きだなぁ。可愛くてずっと側に居たくなる。なぁ、エリアス。今日はお開きにしないか?」

「…そうだな、俺も彼女のこと話していたらモニカの顔見たくなってきたから今日は帰るか!俺の奢りでいいよ、ドミニクの幸せな話聞けただけで充分」

「そりゃ恩に着るぜ、エリアス」

「恋人出来てもたまには飲もうぜ、俺はお前が良い方向に変わっていく所が見れて素直に嬉しいんだから。友達だろ、俺とドミニクは。親友だと思ってんだから」

ドミニクは口元に笑みを浮かべて「そうだな」と静かに言葉を返した。身体の中に残るジントニックは疲れた身体に程よく染み渡る。

(今日はマリウスが泊まりに来るから、好きそうな酒とおつまみ買って帰るか。そして伝えよう、「お前を好きになれて良かった」と…)

大切な友人とのやり取りの中、ドミニクは恋人である彼への思いを馳せて帰路へと向かっていく。

かつて、自分の心にあった喜怒哀楽なんてものは前職で必要とはしなかった。

捨ててしまった人間らしい気持ちを再びドミニクは思い出して心を躍らせていた。

 

 

last knock.【NEXT DOOR..】

 

 

「お前たちに出会えたこと、俺は素直に感謝してるよ。モニカ、エリアス、そしてマリウス。ありがとう」

ドミニクは終業後、GSG-9のオフィスに3人を集めた。たまたま3人とも同時間にいたために実現した時間だった。

「お前らしくないぞ、ドミニク!そんなに改まる仲でも無いじゃないか」

「そうよ、私たちはGSG-9のチームの中では一番付き合い長いんだから。隠し事も、悩み事も禁止っていうルール、あなたは知ってるわよね?」

エリアスとモニカは口々を揃えて呟いた。いきなり改まって感謝なんてされる仲でも無いのに。

『4人で一つのTEAM』

それがそれぞれの合言葉でもあり、モットーでもあった。

ドミニク、そしてモニカとエリアスのやり取りを黙って聞いていたマリウスは口を開いて言い放つ。

「…こいつは…、ドミニクは、俺とモニカ、エリアスだけがレインボー部隊に引き抜かれて自分だけがドイツ国内に残ることを寂しがってんだ。馬鹿な奴だよ、本当に。一生の別れじゃねぇのに」

『レインボー部隊』

各国の特殊部隊が集められ、それぞれの特性を持つスペシャリストによる、対テロリストカウンターユニットである。

ドミニク以外のGSG-9のメンバーはすでに招集が決まっており、早ければ直ぐにでも国内から出て行ってしまう。

自分が唯一、心を許して側に居てくれた仲間や恋人が離れてしまうのに、強かったはずのドミニクの心は折れてしまいそうだった。

「…泣きそうな顔見せんなよ。柄にも無く、泣いちまいそうだ」

苦笑いを浮かべながらドミニクは3人の顔を見つめた。そしてその視線はやがて、それぞれの瞳へとぶつかる。

「モニカ、お前は秀才で完璧主義だ。だけどその才能だけじゃなく、努力している所を俺は知ってる。出会い方は最悪だったかも知れないが、お前に出会えたおかげで毎日が楽しかったよ。本当にかけがえの無い小さな幸せを見つけさせてくれてありがとう」

黒々とした瞳はアイスブルーの瞳と交わる。モニカの瞳からは大粒の涙が零れ落ちる。

「確かに最初はあなたが苦手だった。闇を抱えて生きてきたあなたと私は正反対だと思ったから。だけど本当のドミニク、あなたが穏やかで優しい人ってこと、私は知ってるから…っ!」

モニカは涙を拭いながら強く強く言い放つ。そんな彼女の頭を優しく撫でながらエリアスも、ドミニクに己の気持ちを伝え始めた。

「俺は多分、お前との付き合いが一番長いかもしれないな。GSG-9に入って来たばかりのドミニクは本当に人を信じることをしなかったし、壁を作って遠ざけていただろ?だけどお前の過去はあくまでも過去であって『今』とは関係ない。打ち解けてしまえば、ドミニクは本当に愉快な奴で、俺は…最高の友人に出会えた。感謝しなくちゃいけないのはこっちなのに…」

普段ムードメーカー的な存在であるエリアスも、親友との別れが近いとなると泣くことしか出来ないようだ。

「…二人とも、泣かないでくれ。可笑しいな、ずっと昔に泣くことを忘れてたはずなのに。エリアス、俺だって親友と呼べるのは少なくともお前だけだから。はは、国内に戻ってきたらまた酒を酌み交わそう。約束、しろよなっ…」

ドミニクの瞳にも、ほんの僅かな涙が浮かんでいた。忘れていたはずの『悲しみ』というものが彼の心を強く揺さぶる。

涙を流しながら、モニカとエリアスはドミニクの顔を見つめていた。その様子を見ていたマリウスは本当に一言、簡単に言葉を紡いだ。

「…俺はお前の相棒で、そして恋人だ。ドミニク、絶対にお前も来い。何年経っても良いから俺たちはレインボー部隊でお前を待つ。だから、泣くんじゃっ…ねぇっての。くっそ…」

…本当にお前は、強がりで、悪態ばっか付くけれど…。

マリウス、俺はお前が好きだよ。

だから。
だからこそ。
俺は皆に感謝したいんだ。

「ありがとう。俺は本当に今、幸せだと思う。俺たちは離れていても絶対に四人で一つの『TEAM』だ。俺もすぐ追いつくから。離れてしまうけれど、待っていてくれ…!」

ドミニクは3人の顔を見て力強く呟いた。そして3人もまた、ドミニクの瞳を見て真剣な眼差しを交わす。

それは言葉では表現出来ない、
力強い絆そのものであった。お別れではなく、再会を願う四人の思いは今、たった今、一つとなっていった。

 


***

 

 

…あの時の誓いから、約3年。
ドミニク・ブルンスマイヤーは遠く離れたイギリスの地に立っていた。

GSG-9の3人がレインボー部隊に招集された少し後、ドミニクもレインボー部隊への招集が決まった。自身の功績が評価されるのに、少し時間がかかってはしまったが、ようやく仲間のいる場所まで追いついた。

 

 

(マリウス、エリアス、モニカ。俺はこの3年、お前たちに再会するためにがむしゃらに任務をこなして来た。俺の努力は無駄じゃなかったこと、早くお前たちに伝えたいんだ)

レインボー部隊の拠点がある基地へ入ると、見慣れた姿の女性が基地の門に立っていた。

「…ドミニク、なの?」

「っ…モニカか?久しぶりだな、元気だったか?」

アイスブルーの瞳は相変わらず綺麗な煌めきを持っていた。幾分か、さらに彼女の美しさには磨きがかかっていた。

「3年振りね、元気そうで良かった。私もエリアスも、マリウスも。ずっとあなたがここに来るのを待っていたから、嬉しい!そして改めてまたよろしくね、『バンディット』?」

モニカは彼のコードネームを嬉しそうな表情を浮かべて呼んでくる。ドミニクもまた、変わらない彼女に安心した表情と、穏やかな瞳を向けた。

 


基地のラウンジにモニカと共に足を運べば、そこには3年ぶりに再会する親友と恋人がすでに集まっていた。

「エリアス、そしてマリウスも!ドミニクがレインボー部隊に来たの、また四人が集まった。こんな奇跡、無いよ…」

二人に声を掛ければ、
エリアスとマリウスはドミニクに思い切り飛びついた。

「ドミニクっ、本当に久しぶりだな?!元気だったか、俺もマリウスもなかなか慣れない任務で連絡取ることもままならなくて。本当に心配だった。特にマリウスは今日まで本当に暗かったんだから」

「エリアス、余計なこと言うんじゃねぇ。久しぶりだな、ドミニク。元気そうなら良い。俺はお前が元気なことか確認できて、ようやく3年分の肩の荷が降りた。…恋人で相棒なのに、なかなか連絡出来なくて済まなかった。今日からまた、同じ場所で改めて一緒だ。もう、離れねぇから安心しろよ」

ドミニクは3年ぶりに再会した仲間、そして変わり無い恋人の様子を見て安堵した表情ともに、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「『奇跡』なんて信じてなかった。だけどまた、大切な仲間であるモニカ、気の置ける親友であるエリアス、そして俺の大切な恋人であるマリウス。また四人が集まれたこの『奇跡』に俺は感謝してるよ…、3年の溝なんて俺たちには関係ないさ。今日からまた、新しい時間が始まるんだ」

「あぁ、そうだな!俺たちはTEAMだよ。離れていた3年なんてすぐ埋まる。また四人で新しい未来を、共に作りあげて行こう」

「3年間、お前を想ってた。だけど必ずドミニクなら俺たちと再会できると信じていたから辛くはなかった。もう、離れるんじゃねぇよ。馬鹿バンディット」

モニカ、エリアス、そしてマリウスは3年越しに母国から遠き地にやってきた大切な仲間との再会に、輝く未来を感じ取る。

「もう離れないよ、マリウス。そして2人とも、待ってくれてありがとう。昔の俺に会えるなら伝えてやりたい、『必ず信じた未来はやってくる』ってな」

遠き日の自分は未来なんて信じられず、そして信頼できる仲間、友人なんていなかった。

抱えていたものは闇ばかりだった。

…だけれど、かけがえのない『宝物』である仲間、そして恋人に出会えた今は違うのだ。

(…「さよなら」だ。俺にはもう、影なんて要らないさ。今を生きるこの時があれば…)

それだけで充分さ。

ドミニクの瞳には広く輝く、明るい未来の色だけが浮かんでいた。

 

 

5.馬鹿が付くほど愛してる

 

 

俺自身、こんなにもアイツにのめり込むなんて思っていなかった。歳上なのにいたずらっ子のような微笑みが可愛くて、そして時折見せる見せる無機質な瞳が好きなんだ。

…苦しいくらい大好きで、時折泣きたくなるほどに俺はアイツを……。

世界に一人しか居ないお前を愛してしまっている。

 

 

【苦しいくらいの恋情】

 

 

久しぶりのまともな休みを貰った俺とバンディットは俺の部屋で休日を過ごすことにした。恋人関係を築いて約4年。仕事柄、なかなか休みが被ることもなく久方ぶりに休みが被った俺たちは一緒に過ごせるこの時間がたまらなく嬉しかった。

「…なーに笑ってんだよ」

バンディットは俺の隣に腰かけて顔を覗き込んでくる。無機質な瞳の中には僅かながら穏やかさが秘められていた。

「いや、久しぶりにお前と休み過ごせて嬉しいなー…とか思ってただけだよ。悪いのか?」

今日は素直になってやろう、そんなことばかり考えてしまっていた。バンディットは口許に嬉しげな笑みを浮かべて、俺の頭をぽんぽんと撫でてくる。

「可愛いな、お前は」

「…38歳の男の俺に、可愛いって。別に可愛くはねぇだろ…」

「イェーガー、お前は可愛い」

バンディットに「可愛い」と何回も言われた俺は自身の顔が熱くなるのを感じていた。今更ながら、こんなことを直球で言われることに慣れていない俺は、バンディットの服の袖をきゅっと掴む。

「…バンディット、俺はお前が好きだよ」

恐らく、俺の声はあまりにもか細くきちんと伝わらなかったのかもしれない。バンディットは俺の手に自身の手をそっと重ねてきた。その手の体温の高さに俺は驚いてしまった。

「…イェーガー、もう1回言ってくれないか?」

「…え、何を…」

「俺のこと、どう思っているかだよ…。分かるだろう?」

「聞こえただろ?」

「ちゃんと俺の顔と目を真っ直ぐ見て言ってくれ」

「……っ、分かったよ!」

バンディットは俺の手を引き、強く強く俺を腕の中に閉じ込める。腕の中は兎に角広くてそしてバンディットの鼓動は少し早く胸を打っていた。

「緊張してるのか、俺よりも歳上なのに」

「…悪いのか、俺はイェーガーが伝えてくれる思いの一つ一つが愛しいんだよ…」

…あぁ、こんなにも無機質で感情の起伏もあまり無いコイツが可愛いなんて。先ほどまで俺に可愛いと言っていたバンディットが今はとても可愛くて仕方ない。

「…1回しか言わねぇから、よく聞け。俺はお前が大好きだよ。苦しいくらいに大切なんだ、誰にも笑顔見せて欲しくないし独占したいくらいには………」

「イェーガー、顔真っ赤だな」

「う、うるさいっ……」

「やばいな、俺も同じ気持ちだよ。こんなにも【思われる】ことが嬉しいなんて初めてかもしれない。イェーガー、好きだよ」

「…そうかよ、あぁくそ。恥ずかしすぎる」

こんなにも気持ちを伝えることが恥ずかしいなんて。だけど嫌な気持ちなんて何一つ無かった。むしろ、バンディットに対しての思いが更に深くなってしまったのかもしれない。

そんなことを考えていると、バンディットは俺をソファにゆっくりと押し倒していく。

「…イェーガー、久しぶりにお前を抱きたい。あんな可愛いこと言われたら我慢出来るわけないだろう…?」

「い、いきなりだな……っ!!」

「嫌なのか?」

「……嫌だって言っても、止めてはくれないくせに」

「止められる訳ないだろう?…お前を抱くんだから」

「好きにしろよ、馬鹿バンディット」

「…あぁ、じゃあ好きにする」

バンディットは俺の首筋に顔を埋めて、首筋にキスをしていく。そしてその感覚に俺は溺れてしまいそうになってしまう。

彼に乞うかのように広い背中に腕を回す。バンディットの背中は広い。広くて逞しい。

熱はやがて、欲情と共に降りてくるだろう。

 

 

***

 

 

「マリウス、気持ち良い?」

「んっ………、バンディッ……ト」

「そんな可愛い声出しても、俺を喜ばせるだけだ…っ」

「やっ………、やだっ…」

狭いソファで俺はバンディットに何度も何度も抱かれていた。それこそ、久方ぶりの情事だからお互いに火がついて鎮火することを知らなかった。

「嫌なら、そんなに締め付けるな。…俺を受け入れてくれてる証拠だろ」

「だ、だってお前がっ……しつこいからっ………!」

「イェーガー、そんなに可愛い声出すなって」

「…んっ……!」

唇は何度も何度も重ねられて腫れぼったくなってしまっていた。最早、重ねられる唇と絡められる舌に刺激されるだけで俺はもう、たまらなく気持ちが良かった。

離された唇、そしてバンディットの時折見せる余裕の無い表情が俺の胸を痛めさせる。この気持ちは何と言えば説明が付くんだろうか、苦しくて胸が痛い。

「…バンディット……っ、俺っ……」

感情が高ぶってしまった俺の瞳からは涙が一筋、ぽろりと流れ落ちた。バンディットは俺を見て涙を拭う。

「…どうしたんだよ、何で泣いて…」

「お前が……っ、好きすぎて苦しいんだっ……」

「…イェーガー……」

静かにバンディットは俺のコードネームを呼び、グッと腰を強く引き寄せる。感じてしまう部分をしつこく攻めてくる。

「…っ、なんでっ……、馬鹿バンディットっ、や、気持ち良い…っ」

「…俺のこと、本当に好きなんだな。もっともっと泣かせたくなる。イェーガー、愛してるよ」

「んっ………」

今はただ。

バンディットから受ける快楽と彼を思う気持ちに身体を任せるしか無かった。薄れ行く意識の中で俺は何度もバンディットを求めてしまった。

 

 

***

 

 

「腰が痛ぇ…」

「まあ、あんなに何回もしたら痛くなるだろ」

「お前が何度も何度もするからだろ?!」

「イェーガーも求めて来たからお互いさまだな」

情事のあと、お風呂に入り寝室のベッドで俺とバンディットは横になっていた。久方ぶりの恋人との情事は確かに気持ち的にも身体的にも満足ではあった。

「お前が好きなんだよ、全部受け止めたいくらいにな」

ぽつりと、無意識に出たのは本音だった。バンディットは俺の顔を見た後穏やかな表情を向けてくる。そして口を開いた。

「…なあ、一個だけ頼みがあるんだ」

「何だよ?」

バンディットは俺の手に小さな鍵を乗っけてきた。それはバンディットの家の鍵でも俺の部屋の鍵でも無かった。

「…一緒に暮らしてくれないか。こんな仕事柄、休みも合わないし中々一緒に過ごせる時間も作ってやれないかもしれない。だからせめて、帰る場所や眠る場所くらいは一緒が良いと思ってな。俺はもう、たまらなくお前が大切で仕方ない。だから過ごせる時間を出来るだけイェーガー、お前と共にしたいんだ」

「……俺が、俺が拒否する訳ないだろう?」

「じゃあ決まりだな」

「…バンディット………、ありがとう…」

「愛してるお前と居たいだけだよ……。って、お前は泣き虫だな」

子どものような、屈託のない笑みを俺に向けて頭を優しく撫でる。瞳からは涙が出るがそれは嬉し涙で。

これから始まる新たな未来へと、俺は期待と不安を込めて呟いた。

「…バンディット、お前と共に生きて行けるなら俺は何だって幸せだ」

寝室の窓には月明かりが入り込む。それは優しく優しく、俺たちを照らしてくれていた。

 

 

6.【TEAM!〜歩き出す未来〜】

 


いつだって周りの奴らは俺を馬鹿にする。

『あなたは変わり者ね』

いつだって俺を笑い者にして見下して楽しんでいる。

『お前は他の人よりも劣っている』

いつだって浴びせられた言葉はトラウマになるようなものばかり。

…だけどそんな俺を変えてくれたのは仲間だった。

『あなたは独りじゃない』

『お前はチームの一人であり、良き友人だ』

『…暗い顔は似合わないぞ』

いつだって励ましあって、
いつだってチームメイトとして。

支えてくれた仲間が俺にはいるんだ。

これはそんな俺の物語。

 

 

***

EP.1 【才女とエンジニアの在り方】

 

 

基地にあるヘリコプターのメンテナンスをする時間が一番楽しい。大学にいた頃から周りは俺を変わり者扱いばかりするのだから、一人の方が楽なのだ。

「機械は嫌味を言わないから良いよな」

誰もいない格納庫の中で独り言を呟いた。

GSG9にスカウトされてから約5年。それなりにベテランになり、難易度のある任務を任されるようになってきた今日この頃。

新しい隊員が今日一人、入るという話を上司から聞いていた。

「ろくでも無い奴だったら面倒だな…」

どうして面倒かと言うと、
『新人の面倒はお前が見ろ!』と上司からの命令だったから。

過去のトラウマが少しだけ蘇りそうだから。

「エンジニアにとって余計な感情は邪魔だよな。お前もそう思うよな…。って機械に何を言ってるんだ」

ヘリコプター技術者の親族に育てられ、その影響でこの道を選んだことに悔いはない。

だからこそ。
だからこそ、俺は一人が好きだと言うのに…。

周りに散らばったネジや工具を片すために立ち上がった時だ。

「あの、マリウス・シュトライヒャーさんはこちらに?」

格納庫の外から声をかけてくる一人の女性がいた。身長は自分よりも10cmくらい低いが、すらっとした身長に凛々しい顔立ち。

「俺がマリウスだ。だがあんたは誰だ?関係者以外は立ち入り禁止だぞ」

スーツ姿の女性はこちらに歩いてきて、やがて無表情で格納庫へと足を進めてくる。

(…や、やめてくれ、俺のテリトリーに入らないでくれ…)

例え同僚であったとしても、この場所は誰にも入れさせたことはなかった。俺の自分らしくいれるこの場所に、他人を入れさせたくは無かったから…。

「すごい、こんなにちゃんとメンテナンスをしているエンジニアを初めてみた!私、ここでならずっと働いていけるかも!」

「…え…?」

格納庫に並べられたヘリコプターや、その他の機械たちは俺にとっては家族のようで、かけがえのない宝物なのだ。

それを評価してくれたようで、
俺は少しだけ警戒心を解いてやろうと思った。

「ここは元々、俺の叔父が管理していた場所でな。身体壊して仕事を退職するときに頼まれて俺が今は管理をしているんだが。…あんたは機械が好きなのか?」

仕立ての良いスーツが汚れそうなのを気にもせず、彼女は格納庫の中を楽しそうに歩きまわっていた。

「うん、私は機械がすごく好き。自分が頑張った分、必ず応えてくれるから…。ここを選んだのも優秀なエンジニアがいるって話を聞いたからなのよ?…あ、自己紹介が遅れたわね…」

彼女はにこりと微笑んで手を差し出した。

「今日からGSG9に入隊する、モニカ・ヴァイス。コードネームはIQと呼ばれてるの。あなたとあまり年齢は変わらないけれど、あなたが私のトレーナーということで聞いているから。よろしく、エンジニアさん?」

…あ、この人が俺が面倒を見る新人なのか。

履歴書を少しだけみたことがある。
新人の経歴を見ておけ、という上司の命令でちらりと見たことがあるから…。

情報が正しければ、目の前にいるIQは相当なエリートであり、優秀な人材で間違いはない。

俺は油で汚れたツナギ姿と軍手という出で立ちだが握手を求められたなら答えるしかない。

「今日からよろしくな、ちなみにコードネームで呼んでくれ。俺のコードネームはイェーガーだ。まあ、あんたは優秀な人間なんだろうけども、基本的に分からないことがあったら聞いてくれ」

「よろしく、イェーガー」

軍手を外してIQと握手を交わす。

これが初めての出会いである。

秀才である彼女と、エンジニアの俺。

技術者として今の俺が在るのは彼女のおかげでもあるのだ。

交わした握手の温もりを俺は今でも記憶の中に焼き付けてあるのだから…。

***

 

 

EP2.【笑顔と太陽と、時々稲妻っ!】

 

 

IQがGSG9に加わって、早くも1年以上が経過した。今日はドイツ軍空挺部隊の基地へ二人で赴いていた。

「ここにいる人物ですごく優秀な人間がいるらしいんだが…IQ、何か情報で知っていることあるか?」

「うーん、さすがにドイツ軍に友達なんていないけれど、陸上競技大会とかで優れた選手がいるらしいの」

 

 

どうして俺たちがここにいるかというと、理由は至って簡単だ。人手不足のGSG9に優秀な人材をスカウトするためである。

「IQと同い年くらいなんだよ、名前は…」

「君たちか、俺を探しに来たスカウトマンたちは」

「「うわっ…!!びっくりしたっ…!!」」

基地内を探索しているときに、背後から声をかけてきた人物こそがスカウトしようとしていた、ご本人様だったらしい。

「そんなに慌てるなよ!俺に用があって来たんだろう?ここで立ち話は何だから、良かったら休憩室でコーヒーの一杯でも飲みながら一息つかないか?」

「お、おう…」

「お言葉に甘えるわ、行きましょう。イェーガー」

俺とIQはニッコリと眩しく笑う彼の後を追いかけることにした。

 


「俺をGSG9の一員に?うん、君らの役に立てるなら構わないさ。明日にでも基地に顔を出そう。行動は早い方がいいよな?」

ついて行った先にあった休憩室で俺とIQ、そして目の前にいる彼はコーヒーを飲みながら話をすることにした。

「自己紹介もしていない俺たちのことをよく警戒しないで招き入れたな」

「君がマリウス、そして女性の方がモニカだろ?俺はエリアス、エリアス・ケッツって名前なんだが。え、何で知ってるかって?今日スカウトに来る二人は工学に優れている優秀な人たちだから失礼のないようになって、上司から言われていたんだ」

「…なるほどね、エリアス。あなたはここの軍の陸上部に入って優秀な成績を修めているのにも関わらず、どうしてGSG9のスカウトに応じたの?入隊したら陸上からは…」

IQが呟くと、エリアスは少しだけ悲しそうな笑みを俺とIQに向けてくる。

「怪我をしてしまってね。リハビリで任務に就くくらいには回復はしたんだけれど、スポーツはもう無理だと医者に言われたんだ。なーに、俺は人の役に立てるならこの話を受ける。俺の力で良ければ存分に使ってほしいな」

コーヒーをくいっと一口飲み、悲しそうな笑みをエリアスは顔から消しさった。そして彼の顔は太陽みたいに眩しい表情へと変化していく。

「人間だから挫折だって何だってあるよな。俺はエンジニアとしてこうしているけれど、ずっと変わり者扱いだってされてきて独りが好きだった。俺はどんどん新しい人間がこの部隊に入ってくるのが正直怖い。…だけど、エリアス。お前の話を聞いて思った。どうか、GSG9で俺たちと共に歩んで欲しい」

俺は誰よりもプライドだって高いし、
人の気持ちに疎いと言われたことだって何度もある。

だけどそれじゃいけないなと、彼を見て俺は思った。

「あぁ、これからよろしくな!そうだ、お二人にはコードネームって有るのか?有るならそっちで呼びたいな」

ブリッツは俺とIQの顔を見て呟いた。

「私は知能の高さに由来して、IQという名前にしているわ」

「俺は戦闘機とか好きだから…、ドイツ語でイェーガーって、戦闘機って意味があるみたいだし。あ、GSG9のヘリとか機械とか武器は全部俺管理だぞ!」

ブリッツは俺とIQを見て顔をくしゃくしゃにして大笑いした。

そして言葉を漏らす。

「俺にもコードネーム考えてくれないか?なにぶん、何か考えないといけないのは分かるんだが思い浮かばなくて」

「…blitz、ドイツ語で【稲妻】という意味を持つの。あなたに相応わしいと思うのだけれど、いかが?私たちはこれからチームで共闘していく。あなたのような明るくて、太陽みたいな笑顔を持つ人が必要だから。明るくて、眩しい。そんな意味を込めたコードネームをあなたに」

 

 

IQが提案したコードネームを気に入ったのか、ブリッツはIQと俺の肩を抱きしめて気持ちいいくらいの、キラキラした笑みを向けてきた。

「最っ高だ!ありがとうな、明日から俺たちはチームだ。そして今から友人だ。そうだ、飲みに行くか!イェーガー先輩のおごりで!」

こんな風に笑うのが楽しいと思ったのが本当に久しぶりのことだった。仲間と呼べる人間が近くにいることがこんなにも安心できるなんて。

「…仕方ねぇ、終わったら基地の外に集合だ!」

「イェーガー、あんまり飲めないよね?」

「今日は祭りだ、ようやくチームができかけたんだ。ブリッツ、これからよろしくな!」

「おう!!よろしくな?お二人さん♪」

 

 

稲妻のように明るく、
そして太陽のように温かい心の持ち主が加わることによって俺の心の中の、僅かな氷が溶けていった。

ブリッツが加わってくれたことにより、俺もIQもだいぶ助けてもらったことはここだけの秘密である。

 


***

 

 

EP.3 【第一印象は***】

 

 

「てめぇ、なんつった?!」

「何度も言わせるな、何であんたらのママゴトに付き合わなくちゃいけないんだ、と言ったんだ。本当にあんた、最古参なのか?」

 

 

 


今、俺は目の前にいる男に憤怒していた。どうしてかと言われると、ブリッツが一員になってから半年後。

新たに隊員が増えるということで、俺はその人物がいるという別室に足を運んだ。

すると目の前に座る男は偉そうに腰を椅子に深く沈め俺をちらりと見つめた。

「なぁ、あんたが最古参の隊員か?」

「そうだ。俺の名前は…」

「別に名前なんてどうでもいい、あんたがリーダーなんだろう?もう少しこの俺が入るんだから待遇くらい良くしろよな。…あ、悪いけど俺は気に入った奴の言うことしか聞かないから」

(…こ、こいつっ、偉そうに!!若造のくせにっ…!!)

偉そうに踏ん反り返るこの男に腹が立って俺は仕方なかった。こいつが本当に新しく入る隊員なんだろうか。

だったら俺はこいつを認める訳にはいかなかった。

「俺以外にあと二人、隊員がいるんだ。人がいないからそれぞれの分野で優秀な人材を集めているんだ。…俺たちはフォーマンセルだ。一人一人の勝手な行動が命取りになる。お前もそのくらいわかるだろ?!」

「綺麗ごとばかりじゃ上手く行かないぜ、良いことを教えてやる。今日はチームでも、明日から違うかもしれないだろう?」

そして感情の籠っていない瞳を俺へと向けて言葉を吐き捨てた。

「何であんたらのママゴトに付き合わなくちゃいけないんだ、と言ったんだ。本当にあんた、最古参なのか?」

「てめぇ、なんつった?!一発殴らせろ!!」

俺の頭には血が昇る。
IQやブリッツと出会ったときには感じたことのない憤りを感じた。

「好きにすればいいさ、ただ俺を殴ればあんたの信頼はがた落ちだろうな。さあ、どうするんだ?度胸もないくせに偉そうにするなよ」

「っこんのクソ野郎がっ…!!」

俺が目の前の男の胸倉を掴んで殴りかかろうとした瞬間だった。

 


「ちょっ、二人とも何やってるんだ?!」

俺たちのいる部屋に、
ブリッツとIQが入ってきたのだ。

ブリッツは俺と男の前に立ち、俺と男を交互に見渡した。

「何で殴り合いが始まろうとしてたのかな?…理由聞かせてくれるよね?正当な理由が無いのにこんなことしているんだったら…」

笑っていない目元がとても冷たく感じれ、背中には冷や汗がたらりと垂れて来るのを感じた。

「二人とも両成敗だ。さあ、殴り合いが始まろうとしていた理由を説明してもらうよ?」

ブリッツが切れたところを見たことはない。ただ怒ると厄介なのは充分理解していた。

 

 

 


「なるほど。新しく入るこの人がそんなことを…」

「そうだ、だから頭に俺は来ちまってな。あいつ、俺たちのことをママゴトだなんて言いやがった。そんなこと言う奴を俺は認めたくない。ブリッツもそうだろう?!」

殴り合いが始まろうとしていた経緯をブリッツに説明すると、彼はため息をついて俺と男を交互に見つめた。

「なぁ、君。なんでママゴトとかって言ったんだ?イェーガーは君の先輩になるんだぞ?GSG9はチームだ。決してママゴトなんかじゃ…」

「あんたもこいつと一緒なんだな、俺の経歴見てないのか?…俺はあんたらよりも歳上だ。そして元は潜入エージェントだった。裏切られることも、裏切ることも慣れている。人殺しや薬の売買。汚いことをしてきて見てきたからこそ、あんたらの言ってることが…」

その言葉は最後まで言われることはなかった。ずっと黙っていたIQが男の胸倉を掴み、勢いよく右ストレートをお見舞いしたのだ。

(おい、マジかよ…)

男はばたりと床に倒れ、頬は赤く腫れあがっていくのがよく分かる。

「あなた、好き勝手言ってくれるじゃない?!何を偉そうにしてるのよ、この大馬鹿野郎!私たちはフォーマンセルで行動しないといけないの。あなたの過去なんて今この場じゃ関係ないの、言いたいことはご理解いただけたかしら?」

IQの切れたところなんて、今の今まで見たことなんかある筈もなく、俺とブリッツはただただ黙っているしかなかったのだ。

俺は仕方なく、殴られた男に手を差し伸べた。

「…おい、大丈夫かよ」

声をかけて手を差し伸べてみれば、
案外そいつは手を掴んで来るではないか。

「…いってぇ、口の中が鉛の味しかしねぇ。彼女、なにもんだ?女性に殴られたのは初めてだ」

男は立ち上がり、IQをじぃっと見つめて呟いた。IQは居心地が悪そうに苦笑いを浮かべいるではないか。

「え、えーと、頭に血が昇ってしまったようね。申し訳ないわ、私はモニカ、モニカ・ヴァイス。コードネームはIQよ、さっきあなたを問い詰めていたのはエリアス。コードネームはブリッツ。私もブリッツもスカウトされてGSG9にいるの。イェーガーはずっといるから彼はベテランよ…?あなたより歳上なんだから!敬意を払った方が良い。…なにか奢ってくれるかも?」

そんな話を聞いていた男は殴られたところを痛そうにさすりながらいきなり笑い始めたではないか。

「あはははっ、俺の負けだ!こんなにも面白い奴らなら付いていっても良い。俺はドミニク・ブルンスマイヤー。コードネームはバンディット。潜入エージェントをしていた時からずっとこの名前を使っているんだ。あ、歳はちなみに俺が一番上だぞ?童顔が悩みなんだ」

…あ、笑うと子どもみたいに可愛いじゃないか。

偉そうな態度も、
無関心な振る舞いも。

恐らくバンディットは確かめていたのかもしれない。

「俺はイェーガーだ。GSG9では最古参だ。そしてエンジニアとしてGSG9と武器や車両、ヘリなど全て管理している。まあ、わからないことあったら聞いてこい。生意気や奴は好かないが、お前は子どもみたいだから構わん

俺は再びバンディットに手を差し出した。掴んでくる手は俺よりも大きく、そして何を物語っているのか。

「先ほどはすまないな。これからどうか、チームの一員としてよろしく頼むぜ、イェーガー先輩」

闇夜に消えそうな瞳がくしゃりと笑顔と混じって行くのを初めてみた瞬間だった。

 

 

***

EP.FIN【TEAM!〜歩き出す未来〜】

「俺たちも年を重ねたな。出会った時はまだ20代、30代とかだったのに。バンディットはもう40代…、早いな…」

「…イェーガー、お前だって40手前だろ?」

「う、うるせぇ!!結婚出来ないのは出会いが無いからだ!」

「ほら二人とも、喧嘩するなって!美味い酒が不味くなっちまう。喧嘩続けんならゲンコツだぞ?」

「「ごめんなさいっ!!」」

「よし、許す!!」

「仕事終わりの飲み会で喧嘩できる元気があるならまだまだ若いわ」

今、俺たち四人は久しぶりに盃を交わすために静かなバーに集まっていた。対テロリストカウンターユニット、レインボー部隊に召集されてからは集まる機会が減ってしまったのだ。

「出会った最初の頃は俺もIQもブリッツも、バンディットも。言い争いばかりしていたな。だけど今じゃこうして仲間として酒を呑める中にまで絆が深まって…」

酔いのせいなのだろうか。
俺の瞳からは涙がぽろりと零れ落ちてしまう。

「イェーガー、何で泣いて…」

IQは俺にハンカチをすっとさり気なく渡してくれる。

「俺、お前らと出会う前はずっと独りが好きだった。周りの奴らからは疎まれるし、変わり者扱いばかり受けていたんだ。…今でこそ、チームとして、友人としてお前らに会えたこと感謝してる。本当に、ありがとうなっ…!!」

ハンカチで涙を拭うと、周りに座るチームメイトは口々に呟き始める。

「あなたは独りじゃない、あなたには私たちがいるわ。エンジニアは機械に固執しまいがちになるけれど、あなたは違う。イェーガー、私はあなたに出会えて新たな可能性を見つけることが出来た。感謝するのは私の方。いつもデバイスのメンテナンスとかありがとう」

「…イェーガー、お前は良きチームメイトであり良き友人だ。俺をスカウトしてくれてありがとう、友人としてはいつも悩み聞いてくれたり、それこそ任務の時も的確なアドバイスに感謝してるんだぜ?男に涙は似合わないぜ?」

「暗い顔はお前には似合わない。相棒として言わせてもらう。俺はお前に出会えて、暗闇から抜け出すことが出来たんだ。…それこそ、出会いは最悪だったかも知れないが。イェーガー、俺を導いてくれてありがとう。これからもどうか、よろしく頼む」

「お、お前ら…、俺の方こそ感謝しきれねぇ。こんなリーダーについて来てくれて本当にありがとうな、お前らに出会えて、人生変わった。…俺たちはチームだ。これからも、この先も…」

共に歩み、
共に未来を創造する。

四人揃っての「TEAM」だ。

「どうか、よろしく頼む。この絆が、このメンバーが誰一人欠けることの無いように、祝杯だ!!」

「「「おうっ!!」」」

 


明るく照らされた未来を、
このメンバーに出会えたことに祝杯を挙げて。