穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

DEAR.

【DEAR.】


綺麗な字で書かれた手紙は涙で文字が滲んでしまった。折角君が送ってくれた唯一のラブレターなのにね。

なぁ、ルーク。

私はどうしたら笑える?

どうしたら君のように強く居られる?

教えてよ、ねぇ。

…私の隣に…。

 

***


ルークが生きて帰れるか分からない任務に就いてから約半年が経っていた。戦地から送られてきたのはたった一枚の紙切れに書かれた手紙だった。


『ドク先生、
帰ったら貴方を抱きたい。
生きて帰れたら、貴方の匂いを、そして温もりを。
どうか俺に。
俺だけに向けて下さい』

携帯の電波もインターネットも繋がらない国でのテロリスト掃討作戦にルークは自ら志願して行った。

「君は私のことを何一つ分かってないじゃないか」

生きて帰れる保証なんて何処にもないのに、ルークは『俺の命で善良なる市民が助かるなら安いものだ』と言葉を残して戦地へと赴いた。

レインボー部隊の宿舎に取り残された私の気持ち、そして想いはどうなる?

…残されてしまった私の想いを、何一つ君は分かっていないじゃないか。

生きているのか、命を落としてしまったのか。何一つ分からない状態が半年も続いていた。

私はルーク、君が生きているって信じている。

信じたかった。

…信じさせて欲しかった…。

 

***


雨がしとしとと降る夕方、突然に舞い込んだお知らせは一気に私を地の底へと叩き落としていく。

「…ドク、ルークが…」

モンターニュは一枚の封筒を握りしめて私に手渡してくる。くしゃくしゃになった封筒を受け取れば、そこに書いてあったのは信じられない文字の羅列だった。

『ジュリアン・ニザン、殉職による昇進。二階級特進

「…いつ、いつ彼は…」

「…一週間前だそうだ、一週間前の夜、テロリストの凶弾から市民を庇って…、即死だったようだ」

一週間前の夜。

手紙の封に押されていた印は丁度その日付だった。運命とは皮肉なものだ、君が生きていて最期に手紙を書いてくれた日の夜に君が死んじゃうなんて。

…そんなこと、有って良いわけないじゃないか。

視界は涙で歪んでいく。

モンターニュの顔はただただ涙で歪んで真っ直ぐと顔を見ることが出来ない。

「…ドク、明後日にはルークの遺体がこっちに戻って来るそうだ。せめて俺たちに出来ることは彼を安らかに送り出すことだけだ…」

「…今の私に…それは出来ない…、気持ちが追いつかないんだ…」

涙は止まることを知らない。

明日なんて、
明後日なんて、
永遠に来なければいい。

私の隣に君が居ない未来なんて、無くなればいいのに…。

今はただ。

この想いを抱くことしか出来なかった。

 

***


棺の中に眠る君は安らかな表情だった。いつだって私を見てくれていた青の瞳が開くことは二度となく。

冷たくて、
息もしておらず、
そして大好きだった腕で抱きしめて貰うことも、一緒に過ごせる夜も二度と来ないのだ。

「ルーク、どうして私を置いていなくなってしまったんだ。半年も君を待っていたのに…、ねぇ、どうして…!」

献花したくても手が言うことを聞いてくれないのだ。彼が安らかに眠るという現実から目を逸らしてはいけないのに…。

視界は涙でぐにゃりと歪む。

「ジュリアン…、お願いだから…、目を開けて!もう一度私の隣で優しく笑ってよ…!君が隣に居ない未来なんて来ない方がよっぽど…!!」

「ギュスターヴっ…、ジュリアンが哀しむ。そんな事を言ってしまったらアイツが命をかけて全うした任務も、アイツの生き抜いた時間も全てを否定することになるんだぞ?!…ギュスターヴ、これをお前に渡しておく」

モンターニュは私に二枚の手紙を差し出した。少し血で汚れていたその紙を開けば、私はもう座り込むしかなかった。

「…ジル…」

「…ジュリアンの最期の言葉だ。こっそりと遺品の中から持ってきた。お前にはそれを受け取る権利がある。…ギュスターヴ、献花してやれ。これが本当の意味で『最期』なんだから…」

震える手を押さえながら一輪の花をジュリアンの眠る棺桶に手向けた。涙は止まる事を知らない。


血に汚れた手紙は最期のラブレターだった。本当の意味で『最期』に相応しいラブレターだった。

 

 

『ギュスターヴへ。
元気にしていますか?
俺は毎日難民キャンプの子どもたちを守る為に戦ってます。殺戮と血の中で子どもたちにスポーツや英語を教えてあげるのが今の俺の唯一の楽しみなんだ。
今こうして文を書いているのは、何だか生きて帰れない予感がしたからなんだ。柄にもないけれど、これが最期になるかも知れないから貴方に手紙を書いて見ました。
貴方を最後に抱きしめて触れたのは半年も前のことだよね。ネットも電話も出来ないこの国で俺は貴方を想って作戦に就いてます。早く帰国して貴方に愛を伝えたい、『大好き』って伝えて思い切り抱きしめたい。ギュスターヴ、俺がもし死んでしまっても貴方は笑って生きて。ギュスターヴ、俺の願いは…』


君の願いは………。

 

 

 

 

『貴方が貴方らしく、幸せに生きてくれることです…』

 

文章はそこで終わっていた。


「…まったく君は私のことなんて何も分かっては居ないじゃないか。君が隣に居てくれないなら…私は…」

いいや、それは違う…。

違うんだ、そうじゃない。

…『笑ってよ』

何処からかそんな声が聞こえたような気がした。大好きだった、君の声。


「…さようなら、大好きだったよ」

君に向ける私からの最期の言葉だよ。

もう少しだけ、生きてみる。

君の哀しむ顔なんて見たくはないから。

愛してくれてありがとう。
好きになってくれてありがとう。
想ってくれてありがとう…。

「また君に出会えると、信じているよ…」

あの青い空のように澄んだ瞳の持ち主を、私は二度と忘れることはないだろう…。