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beginning×lover×night《後》

私の気持ちなんて、絶対に君になんか教えてあげない。

私がどれだけ君に恋い焦がれているかなんて絶対に教えてなんかあげない。

ねぇ、教えて欲しいなら…。

私のことだけを見て?

 

【beginning×lover×night】

 


3.ギュスターヴ・カテブの想い

 

ずっと気になっていたカフェに行くのに誰を誘おうかなんて、初めから決まっていたのだ。

大好きな君。

海のように透き通って、太陽のように明るい君を私はずっと前から思っていた。

だからこそ、私の息抜きを名目にしたお出かけに嫌な顔をせずに付き合ってくれたことが本当に嬉しかった。

大好きな甘い物を、大好きな君と味わうことの出来たこの時間は私にとって最高で最上の時間である。

一生忘れない。

たとえ君が他の誰かを好きだとしても、私は君を思ってる。

大好きなんだよ、ジュリアン…。


***


「いやー、今日はありがとう。君のおかげで息抜きが出来たよ。明日からまた仕事だけど頑張ろうね」

「こちらこそありがとうございます、ドク。貴方も早めに休むといい…」

楽しかった時間はあっと言う間に過ぎてしまった。

もっと君と過ごしたかった。

もっと君と話したかった。

まだ、一緒に居たいんだ…。

気がついたら私はジュリアンの服の袖を摘んで彼を引き止めてしまう。

「あっ…、その…」

「どうかしましたか?」

「…まだ時間はあるのかい?良かったら夕飯一緒に食べない?昨日作り過ぎちゃったから…」

あぁ、もう。

情けないなぁ…。

君と一緒に居たいからって、ただの同僚なんだからしつこく誘ったら迷惑なのに。

「…夕飯ですか?いいですよ、丁度お腹も空いて来たから作ろうと思っていたんです。しかし貴方の作った食事を食べることが出来るなんて嬉しい」

そんな嬉しそうに笑わないで。

こっちまで嬉しくなるじゃないか。

「…ドク?顔が赤いけど…」

「あ、い、いや…!大丈夫!じゃあ私の部屋に行こうか。君の部屋からは少し離れているけれど。昨夜の残り物はシチューなんだけど大丈夫?」

「全然大丈夫です、むしろ好物ですよ。貴方こそ、熱は無い?貴方の体調が心配です」

「私は大丈夫!良し、行こうか…」

心臓が煩い。

私は知ってる。

…こんなにも鼓動が煩い理由を。


***


ジュリアンを自室に呼んだのは初めてのことだった。ただの同僚で、友人として一緒に食事をしたりすることはあっても『片想い』の人として二人きりになるのは初めてだった。

「何か手伝いますか?」

「大丈夫だよ、君は座っていて」

「でも…」

「すぐに用意できるから」

「分かりました」

私は昨晩のシチューとパンをトーストしたものを用意した。あ、あとは飲みたい気分だから赤ワインも用意しなければ。

 


「お待たせ、冷めないうちに召し上がれ」

「いただきます」

「大したご飯じゃないけれど…」

夕飯の用意を終えて席について私とジュリアンは少し遅めの夕飯にありついた。

目の前に座る彼を直視出来ないほど、私は彼に惚れ込んでしまっているんだと、改めて二人きりになると感じてしまう。

…そう、所詮は片想い。

…君は人望もあり、周りから好かれている人気者なんだから…。

私なんかに興味なんて…、

興味なんてないだろうなぁ…。


「ドク?飲むペースが早くないか?」

「え?あ、あー…。今日は飲みたい気分なんだ。私はお酒には強いから安心しなさい。どう?夕飯は口に合ったかい?」

「すごく美味しいし、貴方が用意してくれたワインが良く合います。料理が出来て優しくて、貴方は素晴らしい人です」

ジュリアンも少しだけワインのせいでか色白な頬が赤く染まっていた。いつもよりも饒舌になる君がこんなにも可愛くて仕方ない。

…きっと君には好きな人がいる。

…だから、私の心に秘めておくだけ。

こんなこと、絶対に君に面と向かって言えるわけない。

報われないと、分かっているのだから…。

お酒と食事は進んでいく。

君がつけば食器の中のシチューは空っぽで、ワイングラスに一口分のワインだけが残っていた。

ジュリアンも丁度食事を終えたのか、青く透き通る瞳で私を真っ直ぐ見つめてくる。

「…ドク、今日は貴重な休みにお出かけに同行出来て楽しかったです。普段見れない貴方が見れて何だか新鮮だった」

「わ、私の方こそ貴重な休みに付き合わせて悪かった。ルークが一緒に来てくれたお陰で食べたかったケーキも食べれたし。ありがとう」

「…いいえ、礼には及びませんよ」

「…あ、あぁ…」

何とも言えない空気が私とジュリアンの間に漂い始める。もう少しだけ。

…もう少しだけ一緒に居たい…。


「…明日も早いから俺は部屋に戻ります、ご馳走さまでした」


ジュリアンは椅子から腰を上げて部屋を出て行こうとする。

…まだ一緒に居たい、お願い…。


「…嫌だ…」

「え…?ドク…?」

「まだ君と居たい、まだ時間はあるだろう?部屋にまだ戻らないで、私の隣に…」

気が付けば部屋に戻ろうとするジュリアンの腕を掴んで引き止めてしまった。

分かってる、分かってるんだ。

これがどんなに無駄なことかってことくらい、私だって十分理解しているんだ。

「…貴方って人は何処まで俺の心をかき乱すんだ。ドク、どうしてそこまで俺を引き止めたがるんですか?」

…その言葉の真意を。

…君に伝えてしまっても…。

良いのだろうか…?

 

「…ルーク…、君が好きなんだ…。だからもう少しだけ一緒に居たい。君がずっとずっと好きだったんだ。いきなり過ぎてごめん。君を恋慕の相手として好きなんだ…」

口に出してしまえば簡単に言葉として紡がれていくこの想いは君に伝わるか分からない。

分からないけれど…。

「…嘘じゃないよね」

気が付けば君の腕の中に私は閉じ込められていた。

「….私は嘘と偽善が嫌いだよ、全ては本意であり君を想って過ごして来た日々はかけがえのない日々ばかりだった」

…どうして君は私を抱き締めてくれるんだ?

…どうして君はそんなに顔を赤くして私を見てくれるんだ?

…どうして?

 

「…ドク、俺も貴方をずっとずっと…」

 

ーーあぁ、君って人は本当にー・・・

 


「貴方をずっとずっと想って来ました。大好きです、ドク。俺も貴方を慕ってます。貴方に恋い焦がれて毎日を過ごして来ました。何度貴方を想って来たことか。これからはもう、ずっと貴方の隣に居れますね」

…臆病だった片想いが、両片想いになり、そして両想いになったこの瞬間を私は一生忘れない。


…小さな温もりがそっと、落ちてきた。

 

4.始まりの恋と朝

 

朝、目を覚まして食堂に足を運べば大好きな君がすでに席を確保してくれていて穏やかな笑みを浮かべて私を見つめてくる。

「おはようございます、ドク」

「…おはよう、ルーク」

「今日はちゃんとサラダと炭水化物も盛り付けて有るんですね、偉い偉い」

「ちょっ…!私を子ども扱いするのはどうかと思うが…」

「俺に頭を撫でられるのは嫌いですか?俺は貴方が好きなんだけれど…」

「私だって、ルークが大好きさ。ただこういう事は二人きりの時にして欲しい。周りには仲間だっているし、恥ずかしいじゃないか」

「恥ずかしがる貴方もまた可愛い」

「…まったく君って人は…」

席について食事を始めれば、片想いの時とは違った光景が目の前に広がっていた。

「ドク、今日の夜は時間ありますか?」

「…うん、時間なら幾らでもあるけれど何か用事でも?」

「一緒に夕飯を食べませんか?貴方とこれからの話をしたいんです、休みの時の予定とかこれからの未来の話を。相棒として、恋人として」

「それはたまらなく楽しそうだね、ジュリアン、君の作った夕飯を食べれるなんて私は幸せ者だね。君の隣に居れる毎日に感謝しないと、ね…?」

「…ドクっ…!名前呼びは不意打ちですよ!もう仕事が手に付かなくなる…」

「ふふ、君って人は本当に可愛いんだから。仕事頑張ろうね、ジュリアン」

「…えぇ、頑張ります。ギュスターヴ、好きです」

もう、ほら。

…君だって不意打ちじゃないか。

両想いになって初めて君と迎える朝はこんなにも幸せだとは思わなかったんだ。

ジュリアン、君を想って恋い焦がれた時間は無駄じゃなかったんだね。

これからもどうか私の隣に居てください。

…大好きな、君の隣で笑って居たいのだから。