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海賊の恋人


【海賊の恋人】

 

「ほら、そんな不機嫌そうな顔をするなよ。お前は何が不満なんだ?囚われの身でここまで待遇を良くしてるのに。何でお前はそんなに俺を嫌う?」

海賊のキャプテンであるバンディットに囚われて早くも一年。海軍の下っ端であるイェーガーはバンディットに何故か気に入られ、人質の身でありながらも比較的自由が許されていた。

満月の夜、海にぷかりと浮かぶ船の上でバンディットを睨みつけるようにイェーガーは彼を見つめる。

「…俺はお前を殺す為にこの場所に潜入したのに。なのにお前は俺を所有物のように扱ってここに置いてる。バンディット、お前は何で俺に執着するんだ。…ただの下っ端海軍である俺に執着する理由はなんだ?」

月明かりがバンディットの顔を淡く照らす。古い傷跡と整った顔立ちをより端正に映し出す。

「俺がお前に執着する理由?…簡単さ。イェーガー、お前が初めてこの船に乗り込んで俺を殺しにかかってきた事を覚えているか?その時のお前の『瞳』に惹かれたからだ。俺を殺そうとして来たお前の『瞳』が綺麗だった。それにお前は一つ勘違いをしているぜ」

バンディットはイェーガーを背後から抱き締めて静かに呟いた。

「…執着なんてもんじゃない。イェーガー、お前を人質にして一年も経ってるけど俺がお前を殺さず俺の隣に置いてるのはお前に惚れてるからだよ。敵対している事には変わりないがイェーガー、俺はお前が大切なんだよ」

穏やかな潮風は二人の頬をふわりと掠めていく。バンディットの体温が背中越しに伝わるのを感じたイェーガーは顔を赤らめながらそっとバンディットの手を握りしめた。

「…お前は悪趣味過ぎるぞ、いつ俺がお前を殺すか分からないのに。俺は下っ端でも海軍だ…、惚れてるなんて馬鹿だろう…」

イェーガーはバンディットを殺す為に彼の海賊船に侵入した。しかしバンディットは直ぐにイェーガーが敵だと勘づき彼を人質として軟禁したのだ。

しかしバンディットはイェーガーに惚れ込んでしまった為に彼をずっと手元に置き続けている。

「お前に俺は殺せない。…お前だって俺を好いているだろう?知ってるんだぜ、お前が俺を思って一人で慰めたりしてることとか色々な」

「…っ…!それはお前が俺を抱くからだろう?!お前のせいで俺はお前無しじゃ生きられなくなったんだ…」

「じゃあもっとお前に教え込んでやらないと。イェーガー、俺がどれだけお前に惚れ込んでいるか。船内に戻ろう、お前を抱きたい…」

静かに揺れる瞳には情欲の炎が点り始めていた。イェーガーは静かに頷いて正面からバンディットを抱きしめ返した。

 


「んっ、んぅっ…」

「相変わらずお前の中は狭いんだな…、俺だけしか受け入れた事がないってのが良くわかるぜ…っ」

船内にある一番大きな部屋は船長室、すなわちバンディットのプライベートな空間だ。誰も入ることが許されないこの部屋のベッドの上でバンディットはイェーガーを抱いていた。

「あ、当たり前じゃないかっ…、俺は男だ、女じゃない…!」

「そんなの分かってる、お前が初めて受け入れてくれたのが俺で嬉しいんだよ…、はぁ、お前の中は熱くて気持ち良いよ。イェーガー、中で動いていいか?」

「か、勝手にしろよっ…、んっ、あぁっ…!」

バンディットはイェーガーの華奢な腰を掴んで彼の中に自身の熱を押し進めて行く。直に伝わるバンディットの熱にイェーガーは苦しげに涙を浮かべながら呟いた。

「馬鹿っ…、少しは小さくならねぇの…?」

「好きで好きで堪らない奴を抱いているのに萎える奴が居るか?…残念だが俺はイェーガー、お前に惚れ込んでるから悪いけど小さくなんてならないぜ」

「んっ、くぅっ…、そうかよっ…」

中で動いては自身の感じる所をピンポイントで攻めてくるバンディットにイェーガーは抵抗すら出来ずにいた。

イェーガーはバンディットの顔に手を伸ばし、彼の顔に残る傷跡を指で撫でた。そう、バンディットを殺そうとした時に付けた傷跡だった。

イェーガー自身が彼の側にいて逃げ出さないのもこの消えない傷跡を彼の綺麗な顔に残してしまったからだ。

「…イェーガー、何を考えてる?」

「お前の綺麗な顔に消えない傷跡を残しちまった。っ…、だから、俺は贖罪の為にっ…」

「贖罪の為にお前は俺に抱かれてるのか?」

切なげに歪むバンディットの表情は酷く苦しそうだった。イェーガーの胸はぎゅうっと締め付けられる思いでいっぱいだった。

「…違っ…、俺も本当はお前を…っ、バンディット、お前のことっ…!」

「良いぜ、お前の気持ちを俺だけに聞かせてくれ。イェーガー、お前の『本当の気持ち』を俺の顔を見ながらちゃんと教えろっ…!」

バンディットの瞳は少しだけ緩く弧を描いてイェーガーを優しく見つめる。その表情を見た瞬間、イェーガーは瞳に涙を浮かべながら彼の熱をぎゅうと締め付けた。

「っ、す、好きっ…、バンディット、バンディットっ…!お前が好きだっ…、苦しいんだ、お前を想うたびに、お前を好きになって行くたびに…、心が…苦しくなるっ…、んっ、あ、あっ…!バンディット、好き、大好きっ…」

「…可愛いなぁ、本当に」

バンディットはイェーガーの瞼に口づけを施し、彼の中で達する為に身体を揺らした。愛しげに細められていく瞳を見つめながらイェーガーは意識を手放していった。

 

 

穏やかな太陽の光が波に反射して船長室の窓に光が射し込んで行く。バンディットに抱き締められたまま、イェーガーは身動ぎをする。

「…あれ、もう朝…」

「起きたのか?」

「っ…!起きちゃ悪いかよ…」

「もう少しだけ眠っても良いんじゃないのか?イェーガー、お前って子ども体温で熱いんだな。心地良くて離したくない…」

珍しく甘えてくるバンディットにイェーガーはバンディットの胸に顔を寄せて呟いた。

「…お前は俺を一生手離すつもりはないんだろう?」

「…そうだな、出来ればずっと一生一緒に居たいと思ってるぜ。まぁ敵対者同士だから叶わないんだろうけど…」

「なぁ、バンディット、お前の配下に付く奴らは皆タトゥーを入れているよな?この海賊船の海賊旗の紋章を…」

「そうだな、しかしそれがどうしたんだ?」

不思議そうに尋ねてくるバンディットにイェーガーは小さな溜息を吐きながら呟いた。

「…俺は海軍だけど、海賊であるお前の…その、なんだ。恋人なんだろう?だったら俺もお前に誓いの印を付けてもらいたいと思っただけだ!嫌ならいい。直ぐにでもここを出て行く…」

「イェーガー…!!」

「んっ、んっ…は、あっ…」

バンディットはすぐさまイェーガーの唇を強引に塞ぎ、舌で彼の口内を弄ぶ。息苦しくなったころ、ようやくバンディットはイェーガーから唇を離した。

「…イェーガー、誓いの印を付けて欲しいなら毎晩付けてるだろう?所有の跡をお前の身体に沢山付けてるじゃないか。お前はもう、一生俺から離れられない。いいや、絶対に手離さない。こんなにも愛しくて大切にしたいと思える奴はお前が初めてだから…」

バンディットは愛しげにイェーガーの身体を抱き締めた。イェーガーもまた彼の広い背中に腕を回して目を閉じだ。

あぁ、穏やかな波の音が聞こえてくる。緩やかな潮風は海賊旗を揺らしているんだろうな。

なぁ、バンディット…。

俺は確かに囚われの身かも知れない。

だけどいつからだろうな。

俺もお前とずっと一緒に居たいと思うようになっちまった。俺は海軍でお前は海賊の船長…、キャプテンだ。

…絶対に手離さないで。

…俺もお前から絶対に離れてなんかやらない。

…バンディット、俺はお前に心も身体も想いも…。

全部捧げる覚悟でお前の隣に居るんだから…。

 


広大な海の上に浮かぶ船の中。

一人の男は一人の男に一生を捧げる誓いを施した。この広い海の世界で誰も知ることのない恋の物語が紡がれていく…。

誰も知らない、たった一つの小さな恋の物語。