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last・game《前》

‪絶対にあんたを許しはしない。‬

俺のプライドを、
俺の想いを、
俺の気持ちを…。

全て踏み躙ったあんたを、俺は一生許してなんかやらないー・・・。

 


【last・game】


1.裏切りの朝


朝、ふと目を覚ませば普段隣にあるはずの温もりが無くなっていた。綺麗に置いてあったあいつの私物も、何もかも、綺麗に痕跡を消して忽然と消えいた。

(…スモーク…)

ベッドから身体を起こせば昨夜抱かれた情事の名残が腰に残ったままなのを耐えながら辺りを見渡した。

サイドテーブルには一枚の走り書き。

『これが最後だ、ごめんな』

…意味が分からない、意味が分からないぜスモーク。

いつもあんたは勝手に居なくなっては直ぐに戻ってくる。どんなに気まぐれなあんたでも、必ず笑って俺の前に戻って来るはずなのに…。

…もう二度と会えないような気がしてならない。

そんな予感ばかりが頭を過って仕方ない。

…なあ、スモーク。

あんたは何処へ行ってしまったんだ?

あんたはいつだって自分勝手で…。

俺の気持ちを置いてきぼりにするんだから。

 


***

 

「ミュート、大変だ」

朝、ミーティングルームに集まりいつものように会議を開いたスレッジの顔色が悪いことにその場にいたサッチャーと俺は直ぐに気づいてしまった。

…嫌な予感はいつだって的中してしまう。

「…スモークのことか?」

「あぁ、そうだ。ミュート、お前とスモークが仲間以上の関係を築いているのは俺もサッチャーも知ってる。今朝の新聞でな、スモークが…」

見せられたのは新聞の一面。

嘘だ。

…俺の身体からは力が抜けてしまう。

「…これ、何かの冗談だろう?」

「ミュート、お前…」

「信じられるか、こんな、こんな記事…!」

新聞の一面、大々的に書かれていた記事ー・・・。

 

ーーーそれはーーー・・・

 

 


『テロリストのテロ行為加担容疑、及び幇助により、SAS隊員ジェームス・ポーターを国際指名手配』


あぁ、あんたは俺を裏切って居なくなってしまったんだな…。

 


裏切りの朝、いつもと同じように太陽は俺を照らしてくれた。しかし俺の足元には永遠に続く黒い道しか見えないのだ。

…どうしようもない絶望と、腰に残る僅かな痛みだけが胸を締め付けていった。

 

 

2.罪と林檎泥棒

 

「ミュート、お前も重要参考人として出廷要請が来ているんだ。俺もサッチャーも、スモークが幾ら危ない奴だからと言ってテロリストに加担して簡単に裏切る奴だとは思ってない。俺たちは仲間だ。な、サッチャーもそう思うだろ?」

「…まったく俺たちに迷惑を掛けるなんて。ミュート、お前はどうしたい?それによって俺とスレッジの立場が変わってくる。…言いたいことは分かるよな」

俺を見つめるサッチャーの瞳は歴戦の猛者を思わせるほど鋭く、そして何処か案じるような色を浮かばせていた。

「…俺だって、あいつを信じたいんだ…」

「だったらお前のやる事は一つだ。ミュート、俺たちが時間を稼いでやる。スモークをこの場に連れて帰って来い。こっ酷く叱ってやるから」

「あんたらに、あんたらに迷惑が…」

「ミュート、俺もサッチャーもお前ら二人がきちんと揃ってこそのコンビだと思ってる。だからきちんと連れて帰って来いよ。俺たちの事は心配するなよ」

あぁ、そうか…。

俺にはあんたらって言う仲間が居るじゃないか。

一人で抱え込むほど馬鹿らしい時間の使い方はないな。

「…林檎泥棒よりかは簡単だといいな」

「大丈夫だろう、ミュート。お前ならあいつを連れ戻せる。心配するなよ、スモークは気に入った奴しか側に置きはしない。きっと何か理由があるに違いない」

「…そう、だな…」

俺はスモークの国際指名手配の記事が書かれた新聞をくしゃりと丸めてゴミ箱に放り込む。

覚悟は決めた。

俺に出来るのはあんたを…。

あんたを連れ戻すことだけだ。

サッチャー
スレッジ。

俺はあんたらにデカイ借りを作ってしまうけれど、必ずあいつを連れ戻すから。

だからそれまでは…。

待っていてくれ。


***


《同時刻・某所》


穏やかに晴れ渡る街並みを抜けた路地裏は何処となく薄暗く、そしてゴミで溢れかえっていた。少しばかりの荷物が詰まった鞄を手に俺は海岸へ向かって歩いていた。

「…ごめんな、ミュート」

今朝、あいつの部屋に置き手紙をして荷物を持って出て来た俺は立派な国際指名手配犯だ。テロリストたちのテロ行為に加担、そしてそれに関して幇助した罪に問われ追われる身になってしまった。

…新聞の一面に大々的に書かれてしまっては、この街に滞在できるのもあと少しだろう。

ミュートは俺にとって大事な奴だ。

…そう、俺にとっては自分の命よりも大事でたまらない存在なんだ。

俺がお前の前から居なくなったのは、お前自身の為なんだー・・・。

許してくれ。

馬鹿で憐れな俺をー・・・。

 

***


必要最低限の荷物を鞄に詰め込み、軍から支給されているP226とあいつが残した紙切れを持って俺は会議室を後にする。

「行ってくる」

「あぁ、必ず連れ戻してくれ」

「お前ら二人揃って必ず帰って来い、帰って来ないなら俺たちはお前らを罰しなければならない」

「…分かってる、絶対にあいつを
連れ戻して帰ってくる。俺とあいつに残された時間が僅かなのも分かってる。俺は絶対にあいつと…、スモークと二人で戻るから」

そう残して俺は街に向けて歩き出す。

なぁ、スモーク。

あんたにとって俺はかけがえのない存在だよ。俺にとってあんたは命よりも自分自身よりもずっと大切な存在なんだ。

だから…。


必ず連れ戻してやる。


林檎泥棒よりかは簡単だろうから。


***


《同時刻・街はずれの海岸沿い》

 

海岸沿いを歩いていく度に波は穏やかに、そして緩やかに砂浜を乗り越えて行く。

ミュート、俺が裏切った理由はお前が大切だからだ。大切なお前の家族と、お前自身を守る為だ。

「【こんな物】の為にミュート、そしてミュートの身の周りの奴らを危険になんかさせられない。俺が悪者呼ばわりされて捕まった方がまだマシだ…」

手の平に転がる小さなチップ。

これにはある兵器の機密情報が書き込まれているのだ。そう、俺が開発したガスグレネードの機密とも言える大切な情報が書き込まれているのだ…。

簡単には読み込みが出来ないように細工を施してくれたのは…


「お前だよな、ミュート」

あのぶっきらぼうで何事にも関心を向けないお前が唯一楽しそうな笑みを浮かべて細工を施してくれたこれを守らねばならない。

お前の命を狙うあいつらからの視線を欺く為に出来ることは全てやるしかないのだ。

「例えこの命が消えたとしても、俺が罪を抱え込めばお前は生きられる。俺が【こんな物】を開発したばかりに…。ミュート、お前にはもう会えないかも知れない。お前を抱いた最期の夜を二度と忘れはしない。…愛してるぜ、マーク」

こっそり撮影したあいつの寝顔を見て俺は自嘲気味に笑って海岸沿いを歩き続けて行く。

俺が背負う罪は俺だけが背負えばいい。ミュート、お前だけはどうか…。

生きてくれ。

それが俺の願いであり、
それが俺の望みであり、
それが俺の…。


「最期の希望なんだー・・・」


ミュート、絶対に俺を探すな。

もう俺は二度と『ジェームス・ポーター』としては生きることは許されない罪を背負って居るのだから。