穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

love=now〜恋の方程式

モンターニュとドクのお話


【love=now〜恋の方程式】


医務室で書類に目を通して居れば、自分より少し年上の親友、ジル・トゥーレことモンターニュがジャージ姿で医務室に足を運んでくる。

「ドク、今大丈夫か?」

「モンターニュ、あぁ、どうしたんだ?何か怪我でもしたのか?」

「少し頭が痛くてな。普段なら平気なんだが歳のせいか辛くてな。悪いが少しベッドで休ませてもらってもいいか?」

「…構わないが熱を計った方が良い。モンターニュ、あなたはGIGNの最古参でありトレーナーなんだから元気じゃないと皆が心配する」

体温計をベッドで横になるモンターニュに手渡して私は再びデスクに残る書類に目を通す。

あぁ、熱が有るのがどっちか分からない。

…ずっと私は親友であるモンターニュに恋心を抱いている。彼とはかれこれ十年以上の付き合いになるだろう。

一度も自身の気持ちを彼に伝えたことはなく、そして伝えたいと思ったこともない。

理由は簡単。

今の関係が壊れてしまうのが怖いから。

酷く臆病な私と、強くて逞しいモンターニュ。まるで正反対である私と彼が親友同士なのもまた不思議な話だ。

ふと物思いにふけって居ればモンターニュが背後から「ほら、熱あるだろ」と体温計を私に渡してくるではないか。

…まったく、心臓に悪い。

「三十八度か…、うん、今日は帰った方がいいな。このままだとモンターニュ、しばらく寝込むことになるが」

「帰れるなら帰るさ、ただドク、お前も知ってると思うが俺は独り身だから帰った所でくたばるのが目に見える。だから頼む、ここで少し休ませてくれないか」

「そ、それはどう言う意味で…」

「具合が悪い時に独りより側に人が居てくれた方が安心するってもんだ。ドク、お前の手、冷たいよな」

モンターニュはいきなり私の手を掴んで自らのおでこに乗せ始める。熱が高いのがよく分かるが…。

これは…。

「氷枕くらい医務室にあるけど…」

「お前の手の冷たさで充分だ。…それとも俺の側に居てはくれないのか?ドク、俺はお前が側に居るだけで安心するんだが」

「…モンターニュ、あなたは私をどうしたいんだ…」

「お前を信頼してるから側にいて欲しい、それだけだ…」

そういうとモンターニュは瞳を閉じて穏やかな寝息を立て始めた。ああ、この人は昔から寝るのが早かった。

私の鼓動は早くなり、
私の顔はまるで熟れた林檎のように赤くなり、
私の胸はそう。

ぎゅうっと締め付けられて、苦しくてたまらない。

「モンターニュ、あなたは何も分かっていない。私はずっとあなたを『親友』以上の存在として見てきたんだ。まったく私の心を締め付けないで…」

そっと眠る彼の顔を覗き込み、私は端正な顔に自身の顔を近づけてそっと唇を重ねてしまった。


もう、後にも先にも私は逃げることができない。大好きなモンターニュ、君が無防備過ぎるのが悪いんだから。

…ね?

***


夕焼けの光で目が覚めたら白衣を着た親友が俺の隣で穏やかな寝息を立てていた。

「…おい、何してるんだドク」

「…………」

反応無し、か。

確か俺はトレーニング中に体調が悪くて医務室で休ませて貰うためにドクの所に来た所までは覚えて居る。

それから、それから…。

『お前の手、冷たいな』

そうだ、ドクの手の冷たさが心地良くて、ドクに側に居て欲しくて俺は親友であるあいつに『側に居てくれ』と言ったんだ。

「…まったくお前って奴は可愛いよ」

ドクのおかげで熱は下がり、身体も幾分か楽にはなった。しかし肝心なドクは俺の隣で眠ってしまっているではないか。

…ドクとは十年以上の付き合いになる。俺にとってこいつはかけがえのない大切な奴で気が付けば可愛いと思えるくらいには惚れていた。

「…絶対にお前には言えないよ、関係が壊れてしまうのが怖いんだ」

眠る親友の柔らかな髪を撫でてそっと触れる。触れてしまえば壊れてしまいそうで怖いこの親友に向ける思いに、名前をつけるなら。


「ドク、俺はお前に恋をしてる」

四十年以上、独り身だから恋なんてまともにしたことがない俺が本気で惚れ込んだのはお前くらいだ。

柔らかな髪も、
長い睫毛も、
艶やかな唇も、

そしていつも俺を呼ぶお前の声もー・・・。

「全部好きなんだ、ドク…」

眠っているのなら気がつかないだろう。俺はそっとドクの唇に自身の唇を重ねてこっそり唇を奪ってしまった。

可愛くて柔らかい。

唇を離せばドクのブラウンの瞳がまじまじと俺を見つめてくる。

やばい、やばすぎるな。

「…モンターニュ、今…」

「何のことだ?…熱は下がった、ありがとうドク」

「…今、私の顔を覗き込んで何をした?」

「…別に何も…」

「じゃあ、唇を奪った理由は何?」

ドク、お前起きてたのかよ。まったく狡い奴だぜ?もうこうなったらヤケクソだ。

俺らしくないかもしれない。

ただ不器用な俺にはこれしかないんだ。

「…俺はお前が好きなんだ」

言ってしまった。

そっとドクを見つめればブラウンの瞳からはほろりと涙が頬を伝って落ちていく。

「冗談か?」

「俺が嘘と冗談が嫌いなの、ドク、お前は知っているだろう?一人の人間としてドク、俺はお前に惚れている」

四十年以上生きて来た中で一番今が苦しくてたまらないかも知れない。ドクは涙を拭いながら俺の胸に飛び込んで来た。

「夢じゃない?」

「あ、あぁ。当たり前じゃないか」

「私もモンターニュ、あなたが好きだ。ずっとずっと想ってた。私が気持ちを伝えたらあなたとの関係が壊れてしまうんじゃないかって不安でね。でもそれは杞憂だったね」

ドクは嬉しげに泣き笑いをしながら俺を見上げてくる。そんな可愛い笑顔を向けないでくれ、俺の心臓がもたないよ。

「…十年以上、もしかして黙ってた?」

「まあね、後は…」

ドクは俺の唇に自らキスを仕掛けて来て笑みを浮かべて囁いて来た。

 


「あなたの唇を奪ったのはこれが二回目。…寝ていたあなたにキスをしてしまったんだ。我慢出来なくて。こんな私は嫌いか?」

…嫌いになるわけない。

寧ろどんどん好きになりそうで怖い自分自身が此処に居る。ドク、お前の可愛さに惹かれる俺をお前はどう思う?

「…寧ろ、どんどん好きになる」

「それは嬉しいな。…ジル、もうコードネームで呼び合うのはやめよう?名前を呼んで」

「ギュスターヴ」

「ジル」

「…好き、大好き…、ジルが好き…」

おいおいおい。

なけなしの理性を捨てろと言うのか?

まったく可愛い奴だよ、お前って奴は。

「ギュスターヴ、まだ風邪気味なんだが」

「…私だけに移して?あなたの唇も心も気持ちも全部私に…」

そっと触れて唇を奪ってしまえば俺の勝ちだ。心地いい体温と可愛くて仕方のないギュスターヴが今、俺の腕の中で満足そうな笑みを浮かべていた。

 


惚れてしまった理由は単純で、好きになった理由も単純だ。俺はギュスターヴ、お前を絶対に離さない。

大好きだ、
愛してる。

俺だけのギュスターヴ。


夕焼けに照らされた医務室で結ばれた一つの想いがじわりと溶けて広がっていく。