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もっともらしい理由

タチャンカとカプカンのお話


【もっともらしい理由】


これは二人が出会って間も無い頃のお話。

 

 


「お前か?内務省から警察官、そしてあのベスラン占拠事件で無傷で生き残ったっていう伝説の警察官は」

「あ?…いつの話をしているんだ」

簡易的な部屋に呼び出されたマクシム・バスーダは目の前に座るアレクサンドル・セナフィエフを睨みつけながら吐き捨てた。

昇進の話を受け入れたのは貧しい実家の生活を少しでも楽にしてやりたいからという一心だった。

マクシムの新しい上司であるアレクサンドルはスペツナズの中でもっとも歳が上であり、そして過去に問題を起こしたこともある言わば変人なのだ。

そんな人間の下でこれから先やって行けるのか正直不安だったマクシムはアレクサンドルの顔を食い入るように見つめて彼の心情を探ろうとしていた。

「お前は貧しさから内務省に入り、そして北極圏の港町で厳しい生活を強いられたと。すごいな!お前まだ若いのに苦労してんだな」

「…余計なお世話だ」

「さっきから俺の顔を見て探りを入れてくるのは俺が信頼するに値するかどうか判断したいからか?それとも俺の顔がかっこいいからか?」

「…は?」

「いや、だからお前さっきから俺の顔ばかり見てくるから俺のこと好きなのかなって思ったんだが…。ってそんなに今にも殺すぞ!みたいな目で見んなよー、冗談だって」

アレクサンドルはマクシムを見ながらケラケラ笑い始める。アレクサンドルの顔は彫刻のように彫りが深く、より端正さを引き立たせていた。

彼の笑顔はあどけない。

「…あんたは何で俺を引き抜いた?あんたほどの人間だったら部下は選び放題だろう?俺は信頼に値する人間の下にしか付かない。俺に見せた笑顔は本性か?それとも偽物か?」

マクシムは表情を一つも変えずにアレクサンドルの顔を射抜くように見つめた。アレクサンドルは顔をくしゃりとしながらマクシムの頭を撫でていく。

「俺を疑うのか?」

「なっ、何すんだ…!」

「俺から見たらお前はまだ子どもだ。マクシムって言ったか?俺はお前ならこれから先にある困難を乗り越えられると思ってお前を部下に引き抜いた。一緒に仕事をしたい、お前をもっと知りたいと思うことに理由が必要か?必要ならいくらだって考えてやる」

「あんたは俺の過去を何一つ知らないだろう?知っていたとしてもそれはほんの一握りだ。アレクサンドルだっけか、俺を手懐けたいのなら…」

「じゃあ、理由を作ってやる。お前に幸せになって欲しいからお前を部下として側に置く。な?もっともらしい理由だろう?」

アレクサンドルはマクシムの頭から手を離してにこりと人好きのする笑みを向けた。頭を撫でられたのは何年振りだろうか、マクシムは少しだけ表情と視線を柔らかくしながら呟いた。

「あんたいつか殺されるぞ」

「あ?…まぁ、そん時はそん時だ。いいか、俺は…」

アレクサンドルは真っ直ぐとマクシムの瞳を見つめた。その瞳の奥、穏やかな優しさと温かさは彼自身の本質だった。

 

 

 


「俺はお前が警察官になる前からお前を知っていたよ、マクシム。街中で一生懸命働いていたお前に幸せになって欲しいと、十年前以上も前から考えていた。な?俺がお前を側に置いておくもっともらしい理由だろう?」