穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

恋人自慢

【恋人自慢】

バンディットとドクが互いの恋人を自慢する話。ドクルク、バンイェが前提でのお話です。

 

 


喫煙者には肩身が狭いこの基地の屋上には良い風が吹く。ドクは懐から煙草を取り出して火をつけた。

「…ここで吸う一本の煙草はうまいな」

恋人の前では絶対に吸わないドクは屋上での一服が密かな楽しみだ。ヘビースモーカーだったフランス時代、医師であるドクは自身の健康には気を遣わず一日に一箱を吸い切るなんて朝飯前だった。

『ドク、煙草なんて経済的じゃない無いし貴方には似合わない。せめて本数を減らしてくれないか?』

可愛い恋人のお願いであれば断れる訳もなくドクは一日一本までと決めて本数を減らしたのだ。

「…さてと。一服したし戻るか…」

煙草の火を消して吸い殻をポケット灰皿にしまって屋上を後にしようとした時だ。

ドクが居た場所のすぐ近く、穴の開いたダメージジーンズと黒いスニーカーーを身に付けた人物が足を伸ばしながら横になって空を見上げているではないか。

 

「…バンディット?」

「ん…?あぁ、あんたか先生」

「何をしてるんだ?今この時間、GSG9の皆はトレーニングの筈なんだが…」

「そんなもん俺が参加するわけないだろう?サボりだよ、今日は空が青くて良い風も吹いているからな。そういうあんたこそ煙草でも吸ってたようだがサボりか?」

「…私は…」

バンディットは悪戯っぽい笑みを浮かべながら身体を起こしニヤリとしながら呟いた。

「あんたの恋人に言っちゃおうかな?ドク先生が煙草吸ってサボってましたーっ!てな。ルーク、あいつは真面目だから怒るぜ」

「…私を脅そうなんて一億光年早いよ。バンディット、君こそこんな所で昼寝して日々の鍛錬を疎かにしていることをイェーガーくんに密告してやろうか?彼こそ真面目な人間だ。セックスレスにならないと良いが」

「…あんた、中々言うじゃないか」

「…私を馬鹿にしない方が良い」

二人の間には見えない火花が飛び散っていた。お互い就業中に一服や昼寝をしていたのでバラされても何も反論は出来ない。

先に負けを認めるのはどちらだろうか。二人の間には沈黙が続く。ドクもバンディットもお互いに真面目な恋人を持っている為にくどくど言われることを考えて小さく溜息をつく。


…先に折れたのはドクの方だった。

バンディットの隣に腰を下ろしてドクは懐からメビウスの箱を取り出して煙草を一本差し出した。

「…もうこうなったらしばらくここで一服と行こうじゃないか。バンディット、君も煙草を吸うだろう?良かったら」

ドクから煙草を受け取ったバンディットは不思議そうな顔をしてドクから受け取った煙草を口にくわえてジッポをポケットから取り出して火をつけた。

「…へぇ、メビウスか。渋いな」

「フランスにいた時から煙草の銘柄はメビウスしか吸ったことがない。かっこ良いだろう?」

「あんたらしいな、先生」

「…そりゃどうも」

バンディットが煙草に火をつけたのを確認したドクは自身も本日二本目の煙草に火をつけた。ユラユラと煙は空に消えていく。

こうなったらヤケクソだ。

ドクはバンディットの顔を見ながらふと疑問に思ったことを呟いた。

バンディット、君はイェーガーくんの何処が好きなんだ?君たち付き合い長いだろう?良かったら教えてくれないか」

「唐突だなぁ…」

「そうか?…ふ、私たちはある意味共犯だろう。仕事をサボり、屋上で一服と昼寝だ。怠惰にも程がある。こうなったら肴にお互いの恋人の自慢話と行こうじゃないか」

「まぁ構わないが。俺とイェーガーの馴れ初めだっけか…」

バンディットは煙を吐き出しながら小さくイェーガーとの出会いを話し始めて行く。

「俺とイェーガーは最初、犬猿の仲だったんだ」

「へぇ…、あんなにイェーガーくんは君にべた惚れなのにか?」

「イェーガーはプライドが高くて仕事の方針も考え方もまったく違う奴だった。第一印象は正直最悪だった」

「ほう…」

「だけどある任務で俺が死にかけた時に泣きながらイェーガーの奴、言い放ったんだ。『勝手に死ぬんじゃねぇ、俺の隣に居ていいのはお前だけだ!』ってな。そこに惚れたのが全ての始まりさ」

「随分彼は男前だよな」

「ま、夜は可愛いが…。ってあんたとルークの馴れ初めも教えろよ」

バンディットはドクから受け取ったメビウスを吸い切ったのか、吸い殻をくしゃりと潰してドクのポケット灰皿に押し込んだ。

ドクはブラウンの瞳を輝かせながらルークとの馴れ初めを嬉々とした顔で話始めた。

「私がGIGNで軍医として入ったばかりの頃、新人だったルークを治療したのが始まりだよ。初めて就いた任務で大怪我をしたルークが怯えた犬のようで可愛くてね。『俺、痛いの駄目なんです。ドク先生、出来るだけ痛くないように優しく治療して下さい』って可愛い顔でお願いされたらもう駄目だ。私はルークに惚れてしまった」

「あんた意外にサディストなんじゃないのか?」

「くくっ、否定はしないさ。まあ可愛いルークに何回も食事やデートに誘ったんだが最初はまったく駄目でね。諦めて居たんだが奇跡が起きたんだ。私と二人きりになる時があってね、最後の賭けで『真剣に君を愛してる、私と恋人になってくれないか』って告白したら顔を真っ赤にして『はい、俺で良ければ』って返事してくれたんだ。さすがは私の嫁だ…」

ドクも煙草を吸い切ったのか吸い殻をポケット灰皿に押し込んだ。バンディットはドクの馴れ初めを聞いて溜息をついた。

「ルークが好きなんだな」

「…好き?当たり前じゃないか。君はイェーガーくんのこと好きじゃないのか?」

「そんな言葉じゃ表現出来ないぜ?イェーガーが居るから俺はマトモで居られる。あいつの可愛い笑顔があるから毎日生きていることが苦痛じゃないんだ。…愛してるんだ、誰よりもな」

バンディットの瞳にはイェーガーを想う優しさが浮かんで居た。バンディットはイェーガーの前では本当に心の底から笑っているとドクは見抜いた。

「相手を思っているのがよく分かる。私もそうだ、どんなに苦しいこと、辛いことがあっても可愛いあの子が居るから私は医師を続けられるんだ。ルークに出会えたことに私は感謝してる。お互いに恋人を大切にしようなバンディット」

「…そうだな。ところで…」

バンディットはドクを見つめて呟いた。

「口寂しくないか?煙草は一本でいい、俺、小腹空かしても良いように日本からブラックサンダー取り寄せたんだがあんたも食うか?」

バンディットはポケットから小さな袋に詰まったお菓子をドクに差し出した。それを受け取ったドクは袋を破いて口に放り込んだ。

「…うまい」

「だろう?イェーガーも意外に甘い物好きでお菓子とかやると『さんきゅ』って言いながらもぐもぐするんだ。可愛いだろう?」

「ルークだって私が休日作ったクッキーを袋いっぱいにあげたら『ありがとうドク』って言って頬張るんだ。本当にこう幸せそうに食べてくれるから、私も料理するのをやめられないね」

「なるほどなぁ。あんた料理するのか?」

「まぁ外食よりかは安上がりだしね。君はしないのか?」

「俺はイェーガーに作ってもらってるぞ。あいつ料理すげぇ上手でさ、毎晩褒めていたら顔真っ赤にして『そんなに褒めてもお前が嫌いなピーマンは食わせるぞ』って言ってくるんだ。まあお陰様で嫌いだったピーマンは食えるようになった。イェーガーは可愛いし料理出来るしマジで嫁だよ。あんなに可愛くてツンツンしてる癖に二人きりになったらデレるイェーガー。可愛い。無理だ…」

「…ルークだって負けてないぞ、彼は料理こそ出来ないが毎日私が育てている植物に『早く元気に育つんだぞ』ってニコニコしながら水やりしてるんだ。あんなに朝が苦手なルークが私の為に早起きして植物に水やりしてるんだ。癒しだ」

「…何だか仕事サボってるのが申し訳ないな。イェーガーにちょいと怒られに行きますかね。先生、あんたもルークに怒られてせいぜい夜楽しむんだな」

バンディットは立ち上がってドクにニヤリと笑みを向ける。それにつられたドクもまた立ち上がりバンディットの瞳を見つめた。

バンディット、君こそイェーガーくんにしっかり怒られればいいさ。そして夜はうんと彼を甘やかしてやりなさい。あ、声は控えめに頼む」

「ははっ…!あんた真面目なのに面白いな!分かってる、イェーガーの声は俺だけのもんだし、ルークの甘い声も自分だけの物だって言いたいんだろう?大丈夫、イェーガーでしか勃起しないから」

バンディットが返した言葉にドクは笑いのツボが刺激されたのか涙目になりながら言い返す。

「くくっ、あははっ…!私も同意見だよ!私もルークでしか勃起しないんだ、それだけ私は彼を愛してる。なあバンディット、お互いに恋人を幸せに出来るように頑張ろう。また面白い話があったら聞かせてくれ。ブラックサンダー、美味しかった」

「そりゃ光栄だ。また屋上で会ったらあんたの惚気聞いてやるよ、じゃあな先生。俺は戻る」

バンディットはドクに背を向けて屋上を後にする。バンディットを見送り、空を見上げれば青空には少し夕焼けのオレンジがかかり始めていた。

ドクは三本目のメビウスを箱から取り出して口にくわえ火を灯す。

「…こんなに煙草を吸ったのは久しぶりだなぁ。バンディットとイェーガーくんか。くくっ、幸せそうだよな。私も彼らに負けないように愛を育もう。早速今夜、ルークに怒られに行きますか…」

一日一本の約束を破ってしまったのは自分だ。だけどたまにはこんな風にサボるのも面白いかも知れない。

ルークが怒る姿に心を踊らせるドクは楽しげな笑みを口許に浮かべながら空に立ち昇る煙草の煙を眺めていた。