穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

夢を望む者

手を汚すことに悔いは無く、
人を殺めることに躊躇いはなかった。
日々血で汚れていく自身の手を見つめるたびに思うのは、生への執着と僅かに芽生えた夢だけだった。

 

【夢を望む者】

 

「今度からあんたとバディを組むマリウス・シュトライヒャーだ。宜しくな」

薄汚い車庫で油汚れだらけのツナギを着ていたそいつは俺に手を差し出して握手を求めてきた。

あ、こいつ警戒心が薄いんだなーと第一印象で思ってしまった。顔立ちは年齢よりも少し幼い感じで、本当にこいつで大丈夫なのだろうかと俺は思ってしまった。

「…あんた、油臭いな」

「は?!てめぇエンジニアを舐めてるのかよ?!この野郎!お前らが使ってる銃火器の管理からメンテナンスまで全てを請け負ってるのは俺だぞ!」

差し出してきた手を引っ込めたマリウス・シュトライヒャー、後々のイェーガーは少しだけ苛立ちを露わにして俺を睨みつけてくる。

「俺はあんたみたいなガキ臭いのとはバディを組みたくは無いんだが他にまともな奴とか居ないのか?例えば可愛い女の子とかな」

「この野郎っ…!」

イェーガーは俺の胸倉を掴んできつく睨みつけてくるではないか。今までに出会って来た奴らの中で、一番瞳の色が澄んでいて俺には少し眩しかったのかもしれない。

「離せよ」

「謝れ、俺を怒らせたことを謝れ!」

「はいはい、悪かったよエンジニアさん。あんたとは性格が合わなさそうだけど上からの指示だ。仕方ないが宜しく頼むぜ」

「お前、いつか後悔させてやるよ。俺を怒らせたことをな。…で、てめぇの名を教えろよ」

「…ドミニク。ドミニク・ブルンスマイヤーだ。エンジニアさん、せいぜい足手まといにならないように頼むぜ」

初めて顔を見た時のことは今だって鮮明に覚えている。澄んでいた瞳は俺を怒りながらも俺だけをしっかりと捉えて居たのだから。

***

 

「げ、なんでお前が居るんだよドミニク」

「俺だって宿舎暮らしなんだから顔を合わせることくらいあるだろう?それとも飯を食うなってか?俺のこと嫌い過ぎだろう」

食堂は夕食どきで混んでおり、空いているのはマリウスの目の前だけだった。仕方なく俺はマリウスの目の前に腰を落とした。

「…お前、飯少なくね?」

「余計なお世話だよ、ドミニク」

「ちゃんと食わねぇから体力無いって怒られんだろう?ほら、肉食え!」

皿に盛られているマリウスのおかずは野菜ばかりだった。見ているこちらが嫌になるくらいに食が薄いのだと初めて知ったのはその時だ。

マリウスは俺を睨みつけて満足したようで分けた肉をモグモグと口に頬張りながら食事を進めていた。

「…何なんだよお前」

「は?」

「世話焼きして歳上アピールかよ」

口に含んだ肉を飲み込んで食事を終えたマリウスは俺を見て苛立ちを露わにしながら呟いた。

「別に。ただ任務を遂行するのにお前が足手まといにならなければいいと思っただけだ。相棒であるお前が体力無いって怒られて毎回フォローする俺の身にもなれ」

「だったら俺の世話なんか焼くなよ!」

「お前なんだか放って置けないんだよなぁ。マリウス先輩は嫁さんとか居ないのか?」

「…俺に居るのは唯一の肉親である叔父さんだけだ。ここの整備士だった叔父さんだけだ!嫁さんとか興味ねぇよ、今の俺にはメンテナンスする工具と機械があれば充分だ!そーゆーてめぇはどうなんだよ」

あぁ、自分から聞いたことを後悔した。こいつにはそう言えば俺の過去とかまだ話してなかったんだ。

いい機会じゃねぇか。

「…あんた、これから暇か?」

「あぁ?まあ、機械のメンテナンスをしようと思ってたけど何か用かよ。お前の為に時間割きたく無いんだがどうしてもって言うなら仕方ねぇ。なんか用事かよ」

「…少し話しをしたいんだよ、マリウス、ちょっと俺と来てくれ」

「は?!いきなり何だよ、仕方ねぇな…」

話すなら今しか無いと俺は思った。マリウスの腕を掴んで食堂を後にした。

***


「俺をこんなとこに連れてきて何のつもりだよ!」

俺はマリウスの腕を引っ張りながら宿舎の外にあるベンチに彼を連れて行きマリウスを座らせた。

「あー、何だかあんたにはちゃんと俺のこと話してなかったと思ってな。マリウス、俺が元々ハノーファーでスパイとして潜入エージェントをしていたのは知ってるよな?」

「まあ、知ってる」

「人の命を奪うことに俺が躊躇しない人間だってのは知ってたか?」

「…知らない」

「俺は人の命を奪うことに躊躇いは無いし、自身の手を汚したことは何度だってある。これからもこの先も、ずっとそれは変わらないと思ってた。あんたに出会うまでは」

「…俺か?」

マリウスの瞳は月明かりの下でも透き通っていて俺を淡く照らす。こんなにも澄んだ瞳を持つ人間を俺は知らない。


「あぁ、あんただよ。人殺しに明け暮れて過ごす日々は俺の人生を壊して行くだけだった。心も気持ちも全てが壊れて行ったよ。俺を突き動かして来たのは生への執着と、それから…」

マリウスは不思議そうな顔で俺を見つめてくる。

「僅かに芽生えた夢だけだった。人間らしく、陽の当たる優しい世界で生きて行きたいと俺は夢見るようになったんだ。俺は汚れた人間だ、あんたは純粋で汚れていない。出来るなら俺はあんたみたいに生きたいと相棒になって少し経った今、ようやく思えるようになったんだ」

初めて口にした小さな夢と、自身の過去。マリウスは俺を見つめて小さく言葉を漏らした。

「だったらこれから少しずつお前が生きたいと思える道に進めばいいんじゃないか?」

「か、簡単に言うけどっ…」

「俺とお前は相棒何だろう?ドミニク、お前は生意気だし気に食わねぇ所も有るがまあマシになったよな。だからお前が進みたい道に迷ったならそん時には仕方ねぇな、照らしてやるよ。暗くて先の見えない道だったとしても」

あぁ、本当にお前は不思議な奴だよ。

「…心配だぜ、エンジニアさん」

「あ?…ったく、生意気な奴だな!任せろよ、少しくらい信用しろっての」

「…仕方ない。信じて見るよ、あんたのことを」

自分が望んだ未来を、
生きる為に捨てかけた望みを、
もう一度だけ俺は手にしたいんだ。

だからあんたを信じるよ、エンジニアさん。


***


目を覚ませば、大切な相棒であり愛しいマリウスが俺の顔を覗き込んで微笑んでいた。

「寝坊助ドミニク」

「あれ…今何時だ…?」

「今か?今は朝の7時だ。今日は休みだしたまには早起きしようと思ってさ。ドミニク、お前なんか嫌な夢でも見たのか?」

マリウスは俺の目の前に居た。

出会ったばかりはお互いに悪態をついて、ソリも合わず喧嘩ばかりだった。だけど今は誰よりも大切な相棒であり、愛しい存在だ。

「なぁ、抱き締めてもいいか?」

「…好きにすれば?」

「うん、好きにするぜ…」

ぎゅうっと華奢なマリウスの身体を抱き締めればマリウスも俺のことをしっかりと抱き締めてくれた。

「…甘えん坊ドミニク」

「出会ったばかりの頃の夢を見た。マリウスも俺も互いを嫌っていたよなぁ。懐かしいよ、今じゃ俺はお前に一生を誓うほど惚れ込んでるのに」

「…十年前くらいか?」

「早いなぁ、本当に」

月日が経つのは早いもんで、マリウスの叔父を手にかけた日から早くも一年が経っていた。俺とマリウスが一緒に暮らし始めて約数ヶ月が経とうとする。

「なぁ、ドミニク」

「どうした?」

マリウスは俺の腕の中で数年前と変わらない澄んだ瞳で俺を見つめて呟いた。

「今は幸せか?…お前自身が夢に見た幸せはきちんと叶ったか?」

「どうしてそんな事を聞いてくるんだ?」

「…寝ているお前が泣いていたからかな。それで今は幸せなのか?答えろよ、な?」

確かに朝起きたら頰が濡れていたことに今更気がついた。マリウスの顔は何処か期待するかのような何とも言えない表情だった。

…なあ、答えなんて一つしかないよ。

「…夢で望んでいた以上に幸せだよ、マリウス、俺を照らしてくれてありがとう。…愛してる」

「…ん、俺もお前が何よりも大切だ。ドミニク、俺こそお前に出会えて良かった。…ありがとう」

堪らなく泣きそうになるのを堪えながら俺はマリウスの唇にそっと口づけを施していく。夢で望んでいた以上にかけがえのない幸せを手に入れた俺は過去の自分に一言だけ言ってやりたかった。

 

『諦めなくて良かった』


なあ、俺はマリウス、お前に出会えて本当に良かった。暗いどん底にいた俺を照らしてくれたお前を俺はずっと愛し続けるよ。

柔らかな陽の光が部屋に入り込んでくる。こんなにも穏やかで優しい気持ちになれるのはお前に出会えたからだ。

 

ぎゅうっと抱き締める力を少しだけ緩めて互いの顔を見つめ合えば笑みが自然と零れていった。