穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

奏でる旋律の調べ

モンターニュとドクのお話

【奏でる旋律の調べ】


「へぇ、随分洒落た趣味じゃないかギュスターヴ」

「ジ、ジル!?…居るなら声をかけてくれれば良かったのに!」

「お前が弾くピアノの音に心が奪われてな。何て曲だ?」

「…『軍隊ポロネーズ』だ。ショパンの曲だよ。心が弾むような旋律がお気に入りでね。…って君が此処に居るのが珍しいな。私に何か用事か?」

ギュスターヴは基地での休憩の時、ピアノが置いてある多目的ホールに良く足を運びピアノを弾いていた。ジルにとって親友であるギュスターヴのピアノを聴く時間が細やかな楽しみでもあった。

ジルは近くの席にドサッと腰を下ろしてギュスターヴの顔を見つめた。瞳の下に刻まれた皺と、穏やかな瞳は何かを見通しているような何処か心地良い物を感じさせるのだ。

「…お前がピアノ弾くのは知っていたがいつから習っていたんだ?」

「私が五つくらいの時からかな。父も母も私がピアノの弾いたら笑顔になってくれてね。コンクールなんかで賞を貰ったら泣いて喜んでくれたのがとても懐かしい。ただ私が一八歳の時に指を怪我してから弾くのを辞めてしまってね。たまにリハビリ程度に弾いたりしていたら楽しくて。…ってジル、君は私に何か用事があるんじゃないのか?」

ギュスターヴが訝しげな顔でジルを見つめればジルはギュスターヴの頭をぽんぽんと撫でて呟いた。

「お前が側に居るのと同じくらいにあの穏やかな旋律は俺の心に優しく響き渡るんだ。昼休みの細やかな楽しみでな。…ずっと聴いていたいと思うのは悪いことか?」

優しくて大きくな手に撫でられたギュスターヴは少しだけ顔を赤らめながら俯いた。そして小さく言葉を呟いた。

「…リクエスト、何かあるなら弾いてみるよ。ジル、君の知っている曲を教えてくれないか?」

「それは俺に聴かれるのが嬉しいということか?」

「…良いから、早く…」

ジルはクラシック音楽には疎い方だが古い映画音楽を好んで聴いたりしている。そんな彼がリクエストした曲は…。

「…『愛の賛歌』が聴きたい。エディット・ピアフが亡き恋人に宛てた曲何だが俺はこの曲が好きでね。フランスのシャンソン歌手だ。お前も知っているだろう?」

「…良いよ、奇遇だな。私もその曲は何度も弾いたことがあるよ…」

ギュスターヴは小さく息を整えて鍵盤に指先を置いて演奏を始めた。切なげに、そして儚げな旋律はジルの心に響き渡る。

二人きりの世界が何時迄も続けばいい、二人きりの細やかな幸せが何時迄も続けばいい。

ジルはそんな事を考えながらギュスターヴが奏でる切なげな旋律に聴き入っていく。

響き渡る旋律は昔見たモノクロ映画の世界が目の前にあるようで。儚げなギュスターヴの演奏をジルはただただ黙って聴いていた。

 

…静かにギュスターヴは泣いていた。

 

 

 

 

「…ジル…、私は…」

演奏を終えたギュスターヴはジルの顔を見つめながら穏やかな瞳から涙を零していた。

「どうした?」

「この曲は、亡き恋人に宛てた曲だと君は言ったよな」

「…そうだな」

「…私も君も、いつ戦場で命を落とすか分からない。それが仕事なのも私たちの役目というのも理解はしている。だけどジル、私は君を失いなくはないんだ…!」

「…あぁ、お前の気持ちは分かってるさ」

分かってるよ、俺は誰よりもお前を思って来たんだからな。

「だから許された限り私は君にこの旋律を奏でるよ。ジル、私は君を大切に思ってる。だからまた、聴いてくれるか?」

ギュスターヴはブラウンの瞳に涙を浮かべながら儚げな笑みを浮かべた。ジルは彼のそんな表情を見つめてゆっくりと己の腕に閉じ込める。

「…お前が側にいる限り、俺は死なない。死なせもしない。だからまた俺の為に弾いてくれ。綺麗な旋律を」

ギュスターヴは静かに頷きながらジルの背中に腕を回す。頭に残る僅かなピアノの旋律は一生消えないだろう。

それがジルの最後の願いなのだから。