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君に似合うのは…

【君に似合うのは…】


バンディットとイェーガーの話。

 

少し暗い顔をしたドミニクを見たのは昨日が初めてだった。相棒として、友人として、恋人として。付き合いは数年になるが、ドミニクの暗い顔を見たのはその時が初めてだった。


「…昨日から暗いがどうした?」

「….マリウス」

仕事が終わり、いつも通り二人で暮らす部屋に帰ればドミニクは何だか疲れ切った顔をしていた。俺に言えない悩みがあるのだろうか?俺は頼り甲斐が無いのだろうか?

暗い気持ちと悲しい気持ちがごちゃ混ぜになって、俺の心を搔きまわす。ドミニクは俺の名前を呼んだままただ黙って俺の顔を見つめてくる。

「ドミニク、何か悩みがあるのなら…」

「…お前に、謝りたいことがある」

「何だよ…急に…」

「実は…」

ドミニクはそう言うと薬指を俺の前に突き出して暗い顔をますます暗くして消え入りそうな声で呟いた。

「…付き合って二年経った時に買ったペアリング、落としちゃったんだ。お前と俺が一生懸命貯めたお金で買った指輪を任務中に落としたみたいで。何処を探しても見つからないんだ」

「ドミニク、お前…」

「俺にとってあの指輪はマリウス、お前と同じくらい大事な物なんだ。長期間離れていてもお前を思い出せるようにいつも身に付けていたのに…!あぁ、自分が最悪過ぎる…」

俺は自身の薬指に嵌る指輪を見つめて思った。確かにこの指輪はドミニクと俺が付き合って二年の記念日に互いに貯めたお金で初めて買った指輪だった。

もう恋人同士になって十年近くは経つからこの指輪も嵌めてから八年以上は経つのだ。少しばかり色褪せて来た指輪。何よりも大切にしていたドミニクは新しい物を買おうとはしなかったのだ。

「ドミニク、何処にも無いのか?」

「…あぁ、ネックレスにして身に付けていたのが悪かったのかも知れない。色褪せて来た指輪だったとしても、俺にとっては…大切な物だから…」

「なぁ、例え指輪が戻らなくても俺はお前を嫌いになったりはしないぞ?ドミニク、その、何だ…。お前が暗い顔してるのが一番辛いよ。いつもの笑ってるドミニクが俺は好きなんだから」

空っぽになった薬指に口付けて見ればドミニクは泣きそうな顔をして俺を抱き締めてくる。おいおい、お前は甘えん坊か?まったく可愛いなぁ。普段ならお前がリードしてるくせに。まったく。

「…マリウス」

「…ん?どうした?」

「…ぎゅってしてくれないか?」

「こうか…?」

「うん、お前の体温は安心する…」

ソファの上で抱き締め合いながらドミニクは甘えてくる。たまにはこんなお前もいい、弱くて甘えん坊なドミニクも、全部全部俺は好きだよ。


少しの間抱き締め合った俺たちは身体を離して互いの顔を見つめ合う。ドミニクはゆっくりと俺の顔に手を伸ばして微笑んだ。

「うん、俺はマリウス、お前が大好きだよ…」

「なっ…!改まるなよ、恥ずかしいな…」

「…なぁ、俺一個だけ思い出した事があるんだけどさ。ちょっとだけ待っててくれるか?」

「お、おぅ…」

ドミニクはソファから立ち上がり、寝室に何かを取りに行ったようだ。何かって何だろう。少しだけ俺は不思議に思いながらドミニクが戻って来るのを待っていた。

 


「お待たせ」

ドミニクは小さな紙袋を持って再びソファに腰を下ろす。何処かで見たことのある紙袋だ。…何処でだっけな。

「…何だそれ」

「実はずっと渡すタイミングを見計らっていたんだが…。今が丁度いいかな、マリウス、箱を取り出して見てくれるか?」

「あぁ、分かった…」

受け取った紙袋の中には小さな箱が入っていた。あぁ、そう言えばこの紙袋はドミニクと俺が指輪を買った店の物じゃないか。

二人で指輪を買いに行った思い出が何だか懐かしいな。そんな気持ちになりながら俺は箱を開けて見た。するとそこには…。

「お前…これ…」

「実はさ、こっそりと買いに行ってました。マリウス、指を出してくれるか?」

俺はドミニクに言われた通りに指を差し出した。するとドミニクは俺の薬指に嵌る指輪を取って小さな箱に入っていた真新しい指輪を嵌めたのだ。

「…どういうつもりだよ…」

「確かに無くした指輪は俺たちの始まりを象徴付ける物だった。俺は色褪せてもずっと大切にするつもりだったからな。だけど良いきっかけになったと思うよ、指輪が無くなったことがな。…どうして俺が真新しい指輪を買っていたか分かるか?」

ドミニクは優しく笑いながら俺を見つめた。指に嵌められた指輪は今までの物とデザインはそんなに変わらないが一粒の石が埋め込まれていた。

…そう、永遠の輝きだった。

俺はドミニクの顔を見つめて勇気を振り絞って言葉を呟いた。もし間違いだったら俺は相当恥をかくのだから。

「…もしかして、プロポーズかよ?」

その言葉にドミニクは顔をくしゃりとさせながら俺の手を取って握りしめてくる。大きくて優しい、立派な手だ。

「それ以外、何があるんだよ」

「だ、だっていきなり過ぎるだろ?!指輪だってお前新しいの買うつもりなかったんじゃないのかよ?」

「…確かに新しいのを買うつもりは無かったよ。だけどずっとマリウス、お前に想いをいつ伝えようかってずっと考えていた。指輪が無くなったのは良いきっかけだった。なぁ、俺と結婚してくれませんか?」

もう、本当にお前って奴は…。

俺を泣かせるのが趣味なのかよ…??

「…俺、本当にドミニクが大好きだ。ずっと長い間一緒に過ごして来てお前以外と歩む未来は無いと思ってた。だからすげぇ嬉しい…」

「泣くほどか?」

「…泣いちゃ駄目か?今人生で一番の嬉し泣きしてるんだけど。ドミニク、こんな俺で良ければずっと隣に居させてくれ」

「幸せにするよ、マリウス」

「…あぁ、幸せになろうな…」

ドミニクの手を取り、空っぽになった薬指に俺も指輪を嵌めて行く。何だか心臓の鼓動が煩い。そう、全ては幸せだからなんだ。

 


「マリウス、愛してる」

「あぁ、俺もだよ、ドミニク…」

空っぽになった薬指に嵌る指輪と俺の薬指に嵌る指輪。その輝きはずっとずっと色褪せはしない。愛してくれるお前が側に居る限り、永遠に。

ゆっくりと唇を重ねれば、それは永遠の誓いに変わって行くのだ。