穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

優しい整備士さん

「あぁ、これは酷いな」

「お兄ちゃん、直せる…?」

「任せろ、俺に直せないものはない。坊主、今に見てろ。お前を笑顔にしてやるからな!」

マリウスは男の子の頭を優しく撫でて太陽に負けない笑顔を浮かべて呟いた。

 

【優しい整備士さん】

 


マリウス・シュトライヒャーが公園で散歩をしていたら一人の男の子が泣きそうな顔で自転車を見つめていた。

自転車は年季の入ったもので後輪が回らないような状態で男の子は途方に暮れていた。マリウスは人の役に立ちたいと自ら思う快活な人間だ。

男の子の側に近寄り、マリウスは男の子に優しく声をかけた。

「…坊主、泣きそうな顔してどうした」

「…自転車が、動かなくて…」

「見せてくれるか?」

「うん…」

マリウスは男の子の自転車に触れて後輪を見つめて考える。年季が入って錆びているパーツが多い中で状態自体はまだ良い。

余程保管していた場所が良かったのだろう。

マリウスは鞄から小さな工具箱を取り出してネジを緩めて、新しいものに取り替えて行く。

「…お兄ちゃん…」

「この自転車、古いが状態がいいな。坊主、これは誰から貰ったんだ?」

マリウスが新しいネジを付けながら男の子に尋ねれば男の子は誇らしげに元気いっぱいに呟いた。

「おじいちゃんの形見なんだ!おじいちゃんがくれたんだよ!僕の宝物なんだ…!」

「…そうか、それなら尚更ちゃんと元気にしてやらないとな。坊主、もう少し待てるか?」

「うん、お兄ちゃんが直してるところ見ていてもいい?」

「あぁ、構わないぜ」

マリウスは男の子の自転車に優しい視線を送りながら整備の手を進めていった。そして男の子も瞳を輝かせながら様子を近くで見つめていた。


***

 

「ほら、漕いでみろ!」

「うんっ!」

壊れていた後輪のタイヤをあり合わせのパーツで修繕し、錆びていた部分もヤスリで整えて磨きあげればまるで年季の入った自転車が新品同然に蘇る。

男の子はマリウスが綺麗にした自転車にまたがって自転車を漕いでいく。後輪はきちんと回ってすいすい前に突き進んで行くのだ。

少し走り、男の子はマリウスの目の前に止まって笑顔で彼に飛びついた。

「い、いきなり危ないじゃねーか!」

「お兄ちゃん、本当にありがとう…!!この自転車、僕にとって大切な宝物なんだ、だからお兄ちゃんがピカピカにしてくれて動くようにしてくれて、本当に嬉しいんだ、ありがとう!」

「…これからも、大切にしてやれよ?機械も人間と同じでメンテナンスをしてやればいつまでも使えるようになるんだからな」

「お兄ちゃんはお医者さんみたいだね!」

「俺は医者じゃない、エンジニアだ!…まあいい、坊主、じいさんがくれた宝物はずっと大切にするんだぞ?あとお前にこれをやるよ」

マリウスはポケットから小さなストラップを取り出して男の子に手渡した。

「車のストラップだー!」

「ちょっとした趣味で作ってんだよ、坊主、まだ明るいから自転車で散歩でもすりゃあいい。きっと前に走り出せるぜ。今までより、ずっとずっと早くな」

「うん!お兄ちゃん、僕これしかないけどあげる!お礼!」

男の子はマリウスに近づき袋に包まれたお菓子を手渡した。キラキラと透き通るビニールに入ったそれは星屑のような砂糖菓子。

金平糖だった。

マリウスは男の子の目線に合わせて腰を下ろして彼の頭をぐしゃりと撫でてそれを受け取った。

「ありがとう、大切に頂くぜ」

「お兄ちゃん、僕も将来お兄ちゃんみたいに困った人を助けられるかな?」

「そりゃあ坊主次第だぜ?だけど男の約束だ、道は違えど絶対にお前は良い男になるぜ。だから約束、物を大切にして友達や母ちゃん父ちゃんと毎日笑顔で生活すんだぞ?できるか?」

「うん…!僕、がんばる!お兄ちゃんみたいにカッコよくて機械を直せる強いヒーローになるんだ、お兄ちゃん、ありがとう!またね!」

「…気をつけろよ、坊主!」

最後にマリウスは男の子の頭をぐしゃりと撫でて自転車で前に進む彼を見送った。

マリウスは公園のベンチに座って空を見上げた。何だか久しぶりに小さな子どもと触れ合った気がする。受け取った小袋を開けて透き通る金平糖を口にしながらマリウスはぼそりと呟いた。

「…甘いな」

だけど何処かその甘さは懐かしい物を感じさせる味だった。小さな頃から叔父に育てられて来たマリウスに叔父が良く買って来たのが金平糖だったのだ。

マリウスはエンジニアとして人の役に立ちたいと小さな頃から思い、そしてその思いを叶える為に努力を重ねて来たのだ。ようやく今、その思いが叶ったような気がした。

「…坊主、お前も将来何かの為に頑張れるように俺は願ってるぜ?大丈夫、お前なら出来るぜ、男の約束だ」

太陽の眩しさに目を細めながらマリウスは口元に笑みを浮かべた。弧を描く瞳に浮かんでいたのは何よりも優しい彼自身の穏やかな心だった。