穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

R6SNLまとめ

 

【振り向いて貰えないなら僕は】

 


…もし、自分の好きな人に恋人がいたら?略奪するのか、それとも諦めるのか。相手を思うのなら、身を退くべきなんだろう。

だけどそれが出来ないほど恋に焦がれていたら?略奪したいくらい、愛してしまっていたら?

俺は君の笑顔が大好きで、ずっとずっと惹かれていた、思っていた。恋い焦がれていた。…知りもしないだろう、この心に潜む罪深い意識を。…無邪気な笑顔を独り占めしたいという『独占欲』を。

***

 

 

「聞いてくれよ、ブリッツ」

「イェーガー、どうしたんだ?」

休憩中、俺の隣の席に同僚であるイェーガーは腰をかけてきたのだ。彼の顔はどこかソワソワした表情であり、少しだけ落ち着きがなかった。

「…まだ誰にも言っていないんだが、結婚することになったんだ。お前は部隊の中でも気がおける仲間だから先に報告しようと思ってな」

…彼が結婚、という言葉に俺は特に驚くことはなかった。GSG9に所属する隊員のほとんどは30代で、皆結婚して家族がいるか、職業柄独身を貫き通すかのどちらに偏りがちだった。

「そう言えばイェーガーの恋人って、俺の知っている人なのか?誰も付き合っている相手知らないんだろう?」

イェーガーに恋人がいることは知っていたがその相手を俺は知らなかった。きっと部隊とは関係のない人なんだろう。

……そう、思っていたのに……。

「あぁ、隠しても仕方ねぇから言っとく。IQとずっとずっと恋人関係だったんだよ。ようやく結婚しようって決心がついたからプロポーズしたんだ」

「…おめでたいじゃないか、良かったな」

祝福の言葉は偽りであり、心から彼と彼女の幸せを祝うことが俺には出来なかった。

「まあ結婚式にはお前やバンディット、レインボー部隊の皆も呼ぶからさ来てくれよな。…おっと、そろそろ行くわ」

「あぁ、またな」

イェーガーは俺の隣から居なくなり、その場を後にする。俺は自分の心がこんなにも狭くて醜いことを改めて感じていた。

…ずっとずっと、俺はIQを好きだった。彼女を誰よりも近くで見てきたし、思ってきたのに。

どうして自分じゃないんだろうか。幸せにしてあげたかったのに、側にいてあげたかったのに。彼より俺の方が君の隣にずっとずっといたはずだったのに。

「…モニカ……」

一人、彼女の名前を呟いていた。それは何とも言えない虚しい行為に思えて仕方なかった。いつのまにか休憩室には俺一人しかおらず、何だかとにかく孤独感で苛まれてしまった自分がいたのだ。

 

 

***

その日の夜、部屋に戻り疲弊した身体を心を休めるためにすぐベッドに潜り込んだ。瞳を瞑ると、脳裏には大好きなIQ…、モニカの顔と大切な友人であるイェーガー…。マリウスの顔が浮かんでくる。

 

 

…これは、過去の記憶だ。俺とモニカとマリウスはGSG9で同期だった。始めこそ性格はバラバラで仲も良くはなかった。だけど……。

だけどいつだって。いつだって、3人背中合わせで戦ってきた。助け合ってきた。

『エリアス、俺好きな子できた』

『お、イェーガーは真面目で面白い奴だから早く幸せになれよ?』

『おう、絶対に告白して幸せになるぜ。相手はきちんと後で教える。お前は気がおける仲間で親友だからな!』

『ありがとう、マリウス』

…あぁ、この時からマリウスはモニカと。この時にどうして気がつけなかったんだろう。俺が先に君への思いに気がついていたら。そしたらこんなにも辛い思いをしなくても良かったのにな……。

俺だって人間だから嫉妬だって羨望だってする。仲間の前で常に公平で自分から進んで行くのは建前なんだ。本当の自分を。

【臆病な自分】を隠すための建前に過ぎないんだ………。

気がついたら瞳から涙が流れていた。これはこの醜い感情からなのか何なのか。どうしようもないくらい不思議な感情が溢れて止まらない。俺はモニカが好きなんだ………。

……恋に焦がれている、いつだって。誰よりも君が大好きだよ。締め付けれて苦しいこんな気持ちに早く終止符を打ちたい。俺は思う。

この先の未来がどんな風に変わっていくのか、幸せはやってくるのだろうか。

そんな思いを浮かべ、瞳を瞑る。そして今度こそ本当に、眠りへとつくのだ。…夜が更けていく。

 

 

***

昨日の嫌な気持ちに無理矢理蓋をしながら仕事をしていた今日、なかなか仕事が捗らず、本来であれば残業などいけないのだが、今日は仕方なく残業をすることにした。

そんな俺は一人広いオフィスでデスクに向かって書類を作成していると、俺の隣にある女性が腰をかけてきたのだ。

「終わらないなら、手伝うけど大丈夫?」

「モニカ、なんで君がここに…」

俺の隣に座ってきたのは一番大切な人………。愛しい人だ。彼女の顔を今は真っ直ぐ見ることが俺には出来なかった。どうしても伝えてしまいそうなこの気持ちを抑えるのに必死だった。

「たまたま通りがかったらエリアス、あなたが珍しく残業をしていたから心配になったの。仲間が心配するのは悪いことかしら?」

「いや、嬉しいけど…。君の恋人が心配しているんじゃないか?」

俺がそう言うと、彼女の表情は少しだけ驚いた顔になる。

「…私に恋人がいることをどうしてあなたが知ってるの?」

「…イェーガー…、マリウスから結婚することになったって昨日聞いたんだ。それが初耳だったよ、隠さなくても良かったのに」

…俺は彼女から目をそらし、ぽつりと呟いた。俺の声音は心此処に在らず、という状態だったのか、モニカは心配そうに俺の顔を覗き込む。

「例え結婚しても、築いてきた関係は変わらない。私もあなたも、彼も。ずっとずっと…」

「…変わってしまうよ、モニカ」

彼女の言葉を遮るように俺は言葉を吐いた。我慢できなかったのかもしれない。心の中にはモヤモヤした気持ちがジワリジワリと侵食してきてしまう。

「…なんでそんなこと言うの…」

「君がずっとずっと好きだからに決まってるだろ?!俺はGSG9に入隊した時から君をずっとずっと思ってきたんだ、好きなんだよ…っ、こんなに思ってたのに、なんでだよ…、くそっ……」

気持ちの蓋を閉じていたのに。我慢しきれず、蓋から中身は溢れて止まることを知らなかった。

気がついたら俺は彼女を抱き締めていた。それこそ、思いきり。

「…離して、エリアス」

「これで最後にする、君を思うのを最後にするから……。一生の頼みだと思ってくれ」

「私はイェーガーを、マリウスを裏切れない……っ!!離して、お願い………」

彼女を離し、モニカの顔を良く見ると彼女は泣いていた。大切な人なのに、俺は彼女を泣かしてしまったのだ。

「…ごめんな、モニカ。もう君を困らせない、書類は俺一人で片付ける。君を泣かせたくなかったのに、【友人】として最悪だな。早く帰ってあげろよ、マリウスのところに」

モニカは黙って立ち上がり、オフィスを後にする。できれば一生黙っていたかったこの気持ちに俺は蓋をすることが出来なかったのだ。

一人きりになったオフィスで俺は再び書類に向き直る。この紙切れのように無機質でいられたならどんなに楽だったんだろうか、どんなに苦しくなかったんだろうか……。

机に残る書類だけが、虚しさを物語っていたのだ。

 


***

それからしばらくして、俺とモニカは何事も無いように仕事をしていた。彼女とマリウスの挙式の日も決まり、俺も招待を受けてはいた。

…しかし、行けるはずなんてなかった。彼女とは会話こそするが、やはりぎこちなかった。そして、彼女を抱き締めたときからずっとずっと、マリウスとの会話もできるだけ避けてきた。

…彼や彼女に、罪深さしか感じることができなかったから。友人であり仲間でもある彼らを裏切ってしまったのだから。

俺が仕事を片付けて帰ろうとしたときだ。

「ちょっと来い、お前に話がある」

マリウスは少しだけ怒った口調で俺に話しかけてきたのだ。俺は心の中で覚悟を決めていたから、頷いて彼に黙ってついて行くことにした。

 


誰もいない屋上でマリウスは俺の瞳を睨み、そして深いため息をついてくる。その表情は何かに怒っているような、呆れている表情だった。

「エリアス、単刀直入に聞くがお前モニカに何したんだ?最近元気が無いし、これから結婚式だってするのに。お前ら二人の間に流れる空気、バレねぇと思ってのか?」

…これはもう、薄情しなければ。俺は自身の保身よりも、彼らの幸せを優先しなくては。もう、辛いのは嫌なんだ。

「正直に言う、俺はモニカをずっとずっと好きだった。それこそ、お前が好きになる前から…」

「な、何だよそれ!なんでお前は黙っていたんだよ…っ」

「言ったところで俺はモニカと恋人関係になれる訳じゃない。この間、俺は自分の気持ちを彼女に伝えてしまった。もう、我慢できなかったんだよ、俺の心はマリウス、お前に対しての羨望と嫉妬でいっぱいだった。ずっとずっと苦しかった」

マリウスは俺の言葉を聞くと、唇を悔しそうに噛み締め、そして忌々しく呟いた。

「お前の気持ちに気づけなかった俺たちも悪い。…だが、彼女を悲しませたこと、俺は許せねぇ。一発殴らせろ、それでチャラにしてやるよ」

「…あぁ、好きにしてくれ」

俺は瞳を閉じ、マリウスに殴られる覚悟をしていた。それこそ【本当の意味での最後】かと思っていた。

唇を強く噛み締めていると、ぺちっ、と軽い衝撃が頬に伝う。瞳を開くとマリウスは大泣きしていたのだ。

「…俺がお前を殴れるわけねぇだろっ…?! 確かに彼女を泣かせたお前を俺は怒っている。だけどお前の気持ちに気づいてやれなかった自分にも腹が立ってんだ。ずっとずっと親友だったじゃねぇか。畜生っ………」

俺こそ何をしているんだろうか。大切な人には二人とも変わらないのに。親友である彼を傷つけてまで。本当に俺は愚かな奴だ。

「…すまない、自分のことばかり…。俺は結婚式に行くのやめるよ。これ以上お前たちの幸せを邪魔したくないんだよ。…悪いな、本当に。モニカには謝っといてくれ」

俺が屋上をあとにしようとした時だ。マリウスは少し震えた声で俺の背中に声をかける。

「…モニカはお前に来てほしいっていってた。俺も同じ気持ちだ。お前が自分の気持ちに整理がついたらなら。必ず来い、約束だ…っ!」

俺は少しだけほくそ笑みを浮かべて屋上を後にする。

今思えば、彼と彼女の結婚式は明日だった。

…今日の夜は長くなりそうだ。俺はとにかく頭を整理することにした。彼女と彼のために。

***

 

 

今日の天気は結婚式に相応しい晴天だった。青空は雲一つなく、そして澄んでいた。

俺はスーツに腕を通し、二人が式をあげる会場へと向かっていた。最後まで式に出ることを俺は悩んでいたが、マリウスからはメールで「必ず来い」と何度も言われたため来る運びに至った。

 

 

 


結婚式場に着くと、レインボー部隊の仲間たちが花嫁の入場を待っていた。

俺は挨拶を適当に済まし、
自分の席に腰をかける。もう厳かな空気が流れていた。

そして会場のドアが開かれ、そこにから出てきたモニカは純白の白いドレスを纏っていた。その姿を見た俺の瞳からは涙が溢れて止まらなかった。

「だ、大丈夫か?」

近くに座っていたバンディットが心配そうに顔を見つめてくる。

「…あぁ、大丈夫だよ」

これで本当に最後なんだ、俺は君の姿を見れて涙を流した、それは悔しさや羨望なんかを越えた思いからだった。

そして結婚式が進むなか、俺はマリウスとモニカと視線がぶつかった。その視線はいつもの柔和な視線であった。

 

 

友人代表として、俺は彼らにスピーチをすることになっていた。花嫁姿のモニカとタキシード姿のマリウスの横に立ち、原稿を開く。

「マリウス、そしてモニカ。結婚おめでとう。今日は式に呼んでくれてありがとう。俺は二人とは同期であり、ずっと背中合わせで戦ってきた仲間であるエリアス・ケッツと申します。新郎であるマリウスとはGSG9に入隊したときから心おきなく話せる仲だった、彼は非常に快活で、裏表のないさっぱりしている性格なので、俺は部隊で辛いことがあったとき、そんな彼に助けられることが何度もあった。本当に感謝している。そしてモニカ、君は大変頭の切れる女性だ。どんな時も冷静さを失わない。君の性格は俺を明るく照らしてくれた、ありがとう。二人がこの先どんな困難があったとしても、【親友】として支えて行きたいと思う。本当におめでとう、この先もどうか末永く幸せでいてください。…ご静聴いただきましてありがとうございました」

俺が話を終えて頭を下げると、拍手が鳴りやまず、そしてモニカとマリウスを見ると二人は涙を流していた。

…あぁ、俺の役目は完全に終わった。

静かに席に戻り、結婚式が進むのを見守った。

 

 

***

結婚式が終わり、俺が会場をあとにしようとするとモニカ、そしてマリウスが俺に声をかけてくる。

「…今日、来てくれてありがとう」

「いいんだ、二人とも素敵だった」

モニカと目を合わせ話すのは実に数日ぶりだった。そして心の中から重たかった鉛がストンと落ちた気がした。

「エリアス、スピーチありがとな。正直、お前以外に頼む気なんて無かったからな。…俺やモニカはお前が大切なんだよ。ずっとずっと背中合わせで戦ってきた。そして親友だろ?…こんなこと、俺にいう資格なんてねぇかも知れないけど」

マリウスは俺の瞳を真っ直ぐと見つめていた。俺の【答え】なんてたった一つ。ただ、一つだけだった。

「…俺はずっとずっと、モニカが大好きだった。それこそマリウスなんかよりも長い期間思ってきた。だけど二人の姿を見て思ったんだ。『幸せになってほしい』ってな。…二人を傷つけて本当に済まなかった。これからは二人の【親友】として、支えて行くよ。だから絶対に幸せになれよ、それだけは約束だ」

「当たり前だ、モニカを必ず幸せにする。それを出来なきゃ俺はお前を裏切ることになるだろ……」

「…エリアス、私もあなたを傷つけた。だからこそ、私は自分の意志でマリウスと歩んでいく…、本当にありがとう」

 


「あぁ、二人ともこれから辛いことがあるかも知れない。だけど何かあったら必ず相談しろよ。俺はそろそろ行くよ。…また明日な」

二人に背中を見せ、俺はその場を後にする。

会場を後にし、俺は帰路につく。

溜まった思いは花火のように弾けて消えた。そして澱んだ気持ちも昇華され無くなった。

どうか、どうか。

二人が明るい未来を歩んでいけるように。

俺は振り返らない。

その未来の傍らに立つのは俺ではないから。

空はもうすぐ夜色に染まっていく。

…振り向いて貰えないのなら。

俺は祈るよ、君たちの幸せを。

瞳から、一粒だけ涙が流れて落ちた。

 

 

レインボーシックス小話】

 

 

1,モンターニュ×トゥイッチ

《4本の薔薇の意味》

ふと、トゥイッチが自宅に帰るとリビングから花の匂いが漂って来るではないか。

(…モンターニュ?)

リビングへ足を運ぶと、
4輪の薔薇が花瓶に生けてあったのだ。

「ただいま、モンターニュ。薔薇なんてどうしたの?あなたが花を買うなんて珍しい」

トゥイッチが不思議そうな顔でモンターニュに尋ねると、彼は少しだけ恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

「知り合いの花屋から貰ってな。4輪の薔薇なんて流石に柄じゃないとも思ったんだが、その意味を聞いて驚いたんだ」

「薔薇の、意味…?」

「そうだ。薔薇の花束は輪数によって意味が違うと聞いてな。4輪の意味はまさに私たちにぴったりかもしれない」

その言葉にトゥイッチはモンターニュを真っ直ぐと、強く強く見つめた。

「4輪の薔薇は[死ぬまで気持ちは変わらない]という意味だそうだ。トゥイッチ、私はこの仕事に就けていることを誇りに思っている。しかし、それと同時にいつ、命を落とすかも分からないだろう?私は毎日、最愛なるお前と過ごせる時間をかけがえの無い宝物だと思ってるよ。これからもどうか、私の傍に出来ればずっといて欲しい」

普段、不器用で甘い言葉なんて言わないモンターニュがトゥイッチを思い、そして彼女のために言葉を紡ぎ出す。

トゥイッチはモンターニュの顔を見て、目一杯の笑顔を見せた。

「…不器用なあなたの言葉は一生忘れない。最高の贈り物をありがとう、モンターニュ」

彼女の笑顔は、世界でただ一人の恋人の前に向けられていた。

 

 

2,テルミット×アッシュ

《喧嘩は貴女を思ってのこと》

 

 

「またお前は無茶をして敵陣に突撃して、何を考えているんだ!!」

「あたしが突撃しないと今回の作戦は成功しなかったでしょ?!毎回毎回、口うるさいのね、テルミットのばーか!!頭固すぎるのよ!」

任務が終了して、
反省ミーティングを終えた二人は休憩室で言い争いを繰り広げていた。

テルミットとアッシュは結婚したばかりの、言わば新婚さんだった。テルミットはアッシュに危険なことはさせたくなくて前線から外れるように話をしたのに、肝心のアッシュは作戦に参加したいとテルミットの話をまったく聞かないのだ。

「お前は何でいつもいつも…危険なことばかり進んでやろうとするんだ。アッシュ、俺は目の前でお前が怪我したりする姿を見たくなんてない。大切な奴が目の前で傷ついてみろ、俺にはそんなの耐えられん」

「…別に、怪我なんてしないし。あたしは破壊工作のエキスパートよ?うってつけの作戦でこそ、あたしは役に立つ。心配しすぎよ、テルミットは」

「〜〜…だから、くっそ…!!」

テルミットは強引にアッシュの腕を引き、唇を塞いでしまう。

「んっ…」

 

 

しばらくして、ようやく唇を解放されたアッシュはテルミットを思い切り睨みつけるではないか。

「な、何するのよ?!」

「お仕置きだ、これからお前が俺に心配かけたり無茶をしたらお仕置きだ。嫌だとは言わせん。ハイかイエスしか受け付けないからな?」

「…意地悪!!」

(大事な奴を傷つけられて耐えられる旦那なんて、世の中には中々いないだろうな。少なくとも俺は耐えられない)

新妻になったばかりのアッシュに対しての気苦労はまだまだ増えそうだなとテルミットは心の中でひっそりと呟いた。

 

 

3,グラズ×カヴェイラ

《ヤキモチ妬きの芸術家》

 

 

先ほど見た光景が頭から離れない。自分の大切な人が他の人と楽しそうに話している姿が、あまりにもお似合いだったから。

(…俺は心が狭いのか?)

グラズの心にはモヤモヤした黒い気持ちが広がっていく。恋人であるカヴェイラが男性隊員と楽しそうに話をしていた所を、しっかりと目撃してしまったのだ。

自分の前では見せないような可愛いらしい、年相応の女性らしい笑顔を向けていたから、グラズの心はキリキリと締め付けられていた。

部屋に戻ると、カヴェイラは当然のようにグラズの部屋に入り浸っていたのだ。休みの日だとだいたい、彼女はグラズの部屋に遊びに来て画集を見たり、絵を描いている所を楽しそうに見ていたりする。

「あら、お邪魔しているわ。…って、なんていう表情を浮かべいるのよ?」

グラズのベッドに横になっているカヴェイラは身体を起こしてグラズを見つめた。

(…俺は自分に自信なんて無いし、つまらない男かもしれないけれど…)

「…カヴェイラ、悪い…」

「〜〜…?!な、いきなり何するのよ!」

グラズは彼女をベッドへ押し倒して、カヴェイラの黒い二つの瞳を真っ直ぐと見つめた。

「さっき話していたのは、君の上官だよな?」

「…カピタオのことかしら?そうよ、私の上司だけれど…」

「ただの上官と部下の関係なのに、何であんなに楽しそうな笑顔見せてるんだよ、俺の前ではあんな風に笑ったこと無いくせに…」

気がついたらカヴェイラはグラズを抱きしめていた。彼女の身体からは、いつもより速い鼓動と、温かい体温が伝わってくるではないか。

「カピタオは私の家族のような人で、兄みたいなもんよ?私の一番信頼して、想っているのはあなただけよ。グラズ?…だからこんなにも私は抱きしめてしまうし、緊張だってしてしまうの」

(…あぁ、俺はとんでも無い思い違いをしていたんだな…)

自身の青く澄んだ瞳でカヴェイラを見つめて、そっと抱きしめ返した。

「…カヴェイラ、君が好きだ。大好きだ」

「…私も、あなたが好きよ。いいえ、誰よりも愛してる」

唇の体温が降りてくるまでに5秒もかからなかったのはここだけの秘密である。

 

 

4,ブリッツ×IQ

《今日も君を思います》

 

 

「モニカ、好きだよ」

「…うん、私も好きよ?」

「いや、好きって気持ちでは表現出来ないな」

「じゃあ、何という言葉が適任かしら?」

「そうだな…、例えばだけど。『家族になってほしい』とかはどうかな?」

「…ふふっ、エリアスは面白い冗談を言うのね。でも、あなたと家族になれたらすごい温かい家庭になりそう。ユーモアがあって、泣いて笑って、笑顔が溢れる家族になれそうね」

「…モニカ、俺と家族になってくれないか?ずっとずっと、言おうと思ってて中々言い出せずにいたけど。冗談でも、ユーモアでもなく。一生に一度の本気だよ」

「それは私と一生を添い遂げたいとか、そういう認識でいいのかしら?」

「こんな時に冗談を言えるほど、俺は人間出来てないからな。モニカ、君と出会ってから約10年近く経って、ずっとずっと側に居たけれど。ようやく君に本当の思いを伝えられた。返事を聞かせてほしい」

「…私はあなたほど融通は効かないし、頭も固いって言われるくらい頑固だし…。だけど、あなたを思う気持ちはエリアス、あなたにも負けない自信はあるの!」

「答え、決まってるんだな」

「…私で良ければ、一生のあなたの傍に居させてほしい。エリアス、ありがとう。あなたに出会えて私は幸せ者よ?」

「俺もやっと言えて、返事を貰えて幸せだよ。モニカ、戦場では相棒として。プライベートでは恋人であり、家族として。これからもよろしくお願いします。…君にこれを渡しておく」

「…指輪?」

「婚約指輪。あー、もう少しムードある所で渡したかったけれど。結婚指輪は一緒に選びに行こうね」

「あ、ありがとうっ…」

「…お礼を言うのは俺の方だよ、柄にもなく泣くなんて君らしく無い。嬉し涙はこれからもっと流してもらう事になるんだから!」

「エリアスだって、泣いてるじゃない」

「…あ、ばれた?嬉し過ぎて涙止まらないんだよなぁ…」

「…愛してるわ、エリアス」

「うん、俺も君をずっとずっと愛し続けるよ。最愛なるモニカ…」

二人の薬指には、永遠の煌めきが輝いていた。

 

 


【San catcher】

 

 

暖かな日差しが心地よい昼の公園で、
ジョーダン・トレイスは待ち人を待つ為に公園のベンチに座っていた。

「…暖かいな、まったく」

季節は春。

色素の薄いジョーダンは太陽の陽射しにはあまり強くない。

そしてプライベート用のサングラスを身に付けていて無精髭、ベンチに腕と足を組みながら眉間に皺を寄せて座っている彼は周りから見たら怖い人だ。

ジョーダンが座っている目の前に、
近くで遊んでいた子どものボールが転がってくる。

「このボールは君のか?」
「…う、うん…」
「はい、気をつけて遊ぶんだぞ」
「…ありがとうっ、おじさんっ…!」

ボールを取りに来た子どもを、目を細めながらジョーダンは眩しそうに見つめた。

(…おじさんって程の歳じゃないんだが、まぁ良いか)

普段、眉間に皺を寄せて腕組みするジョーダンを周りの人たちは「怖い人」として見てしまいがちだ。

しかし、
子どもはある意味大人の本質を見抜くことが上手い。ジョーダンを見ても、先ほどボールを取りに来た子どもは泣くことをしなかったからだ。

両親の元へ駆け寄った子どもを、
ジョーダンは穏やかな視線で見つめてこんなことを心の中で思っていた。

(….イライザとの間に子どもが出来たら、きっとあんな感じなんだろうな)

『イライザ』

待ち人の名前をそっと呟いた。
ジョーダンの同僚であり、相棒であり、最近結婚したばかりの大切な奥さんだ。

今日はそんな妻になったばかりのイライザが遠征から帰って来て久々のお出かけだった。

春の陽気は心地が良い。
ジョーダンはウトウトとベンチに座りながら瞳を閉じる。

(…まだあいつも来ないだろうし、少しくらい瞳を閉じても…)

「…だーれだ!」

ジョーダンの思考を遮る明るい声が彼の耳に入ってくる。

いきなりの目隠し、
冷たい手はあいつの手だ。

「イライザか…?」
「正解!ごめんなさい、遅くなったわ」

イライザ・コーエンはジョーダンの背後から明るい声で話かけ、彼の隣に腰を下ろす。

「いつの間にお前居たんだ?」

「あなたが小さな子どもに穏やかな視線を送っていた所からかしら?」

ジョーダンとは違った色素の薄い瞳をぱちくりさせながらイライザは呟いた。

「声をかけてくれればいいのに」

 

 

「あなたが珍しく小さな子どもに泣かれない珍しい所が見れたから声をかけそびれちゃったわ」

「…昔からの癖なんだ」

ジョーダンは腕組みを止め、
イライザの手にそっと自身の手を重ねた。

「お前は何で俺と結婚しようと思ったんだ?俺は昔からの軍人気質は捨てられないし、面白みなんて何一つ無いのに」

「…ジョーダン、あなたの隣なら安心して人生歩めるかと思ったから。もちろん、あなたが好きというのも一つだけど」

ぎゅっとイライザも、ジョーダンの火傷跡が微かに残る大きな手を握りしめた。

ジョーダンは眉間の皺を幾分か和らげ、ふっと色素の薄い瞳を優しく細めてイライザの頭を撫でた。

「…小さな子どもと接して一つ分かったことがある。『家族』は大切だと思うし、温かい家庭を俺は作っていきたい」

「あたしだって同じ思いよ、ジョーダン」

「…だから、俺と家族を作って欲しい。あぁ、もう、慣れないことを言うもんじゃ無いな。イライザ、お前との子どもが…」

「…ふふ、不器用なんだから?」

「…悪いがこれが俺なんだ、イライザ」

「あなたとの未来は何度だって夢に抱いていたけれど…、家族が増えたらそうね、笑顔が絶えない家庭を作って行きましょう?」

「…あぁ、そうだな」

穏やかな昼下がり、
二人の間には温かな陽射しと幸せに満ち溢れた空気だけが包み込んでいた。

 

 

 

【花咲く色の散る行方】

 

 

(私はあなたの近くに居たい。だからこの『高み』まで来たんだよ?…テルミット、私の思いは届いているかな)

 


ヒバナ、レインボー部隊には慣れたか?」

「うん、FBI SWATの皆が居てびっくりしたわ!パルスも、キャッスルも。そしてテルミットに会えたのも。…彼女は、初めて見る顔だわ?」

ヒバナはくりっとした黒い瞳をテルミットに向けながら呟いた。

テルミットの視線が柔らかくなるのを、ヒバナは目の前で見てしまう。自分には向けられたことのない瞳だったから。

「アッシュか、彼女は破壊工作のエキスパートだ。最近、俺たちのチームに入って来てな。いい奴だよ。たまに融通利かないけど、俺にとっては誰よりも大切な奴なんだ」

「…そっか、私も皆に負けないように頑張って鍛錬しないと…」

ヒバナは哀しげな笑みを浮かべてテルミットを見つめた。

ヒバナにとって、テルミットは大事な友人であり、そして『それ以上』の感情を抱いた初めての相手だった。

「お前はお前らしく、強く居ればいいさ。俺が日本で研修受けた時のお前はまるで鬼のような女性だったからな」

「懐かしい話をするのね、テルミット!まったく。あ、アッシュさんとはどんな関係なの?!私に教えてよ!」

「…彼女か?アッシュは俺の恋人であり唯一無二の相棒さ。戦場では必ず一緒に行動するくらいには大切だ」

…それは、あなたが命をかけて彼女を守りたいと思っているからよ。

「そうなんだ、私にもいつか現れないかな。…私を見てくれる人!私だけを見てくれる人」

テルミットはヒバナの頭をぽんと軽く叩いて笑っていた。

「お前にも居るはずだよ、ヒバナだけを見てくれる奴が絶対にな。俺も頑張るから、お前もお前らしく頑張れよ」

…私はあなたのそんな所が好きだったよ。

「…うん、頑張るわ!テルミット」

 


演習場には風が吹いていた。
ヒバナの頬を撫でて、やがて彼女の瞳からは一筋の涙が零れていった。

 

 

【走り出す可能性]

エコーは目の前に座る相棒のヒバナを見つめて深い溜息をついた。

(…彼女は何て凛々しいんだろう。それに比べて僕は…)

日本から離れ、レインボー部隊に召集されてから早半年近く。他国の仲間たちの和に入ることは直ぐにヒバナのおかげで出来た。

しかし、日本に居た時から変わらない後ろ向きな考え方を未だに直すことがエコーには出来なかったのだ。

「エコー、あなたは日本を代表してテロリストを殲滅する為にレインボー部隊に召集されたんだから、自分自身に自信を持って?」

ヒバナは持ち前の明るさで様々な人と仲良くなるのが得意だ。目の前にいる同僚を励ます為にヒバナは自身の休みを使ってエコーを食事に誘った。

食事を摂りながらゆっくりと過ごす時間はエコーにとって唯一自分自身をさらけ出せる貴重な時間だった。

「僕はどうしても物事を良い方向に考えることが出来ない。日本に居た時からずっとずっと自分自身を変えたいとは思ってはいるんだ。だけど、その術を僕は…持っていないんだ」

カップに入っているコーヒーを口に含んでヒバナの顔を見つめた。ヒバナはその目線に答えるかのように黒い瞳を細めた。

「何の為に、私が一緒に日本から来たか分かってる?確かにエコー、あなたと同じSATの隊員として召集されたのもある。だけどそれ以上に、大切な相棒だからなんだよ。あなたはずっと独りで抱え込みすぎ。少しは相棒を頼りなさい!」

力強い言葉に、エコーはいつだって励まされていたことを思い出す。ずっとずっと、日本に居たときから変わらないヒバナの前向きな所が…。

…好きなんだ…。

「僕は自分自身好きじゃないし、あまり頼りにならないかもしれない。だけどヒバナ、戦場で君を守れるくらいまで強くなる。だからこれからも相棒として僕と共に在ってくれるか…?」

今はまだ口には出来ないそれ以上の感情は伝えられないけれどー・・・

 

 

ヒバナはニコリと微笑んでエコーの瞳を真っ直ぐに見つめる。

「私の相棒はずっとエコーだけだから!頑張ろうね、私も頑張るから!」

「…うん。ありがとう、ヒバナ

お互いに切っても切れない、強い絆がある事を二人は再確認することが出来た。

この先も。

二人はお互いの『可能性』を信じながら歩いて行くのだ。

 

 

【思い、想われる可能性】

 

 

「大丈夫か、ヒバナ
「ごめんね、体調管理が出来てなくて…」

エコーはヒバナの看病をする為に、彼女の自室へと赴いていた。軍医であるドクも、他の女性隊員たちも遠征に行ってしまったからヒバナが頼れるのは相棒のエコー1人だけだった。

ベッドで辛そうに横になるヒバナのおでこに濡れたタオルを乗っけてあげる。薬も飲んではいるが即効性があるものでは無いからしばらくは安静にしていないといけない。

「…構わないさ、君は日本にいた時から頑張り過ぎたんだから。その疲れとかが出たんだと思うよ」

エコーにとってヒバナは誰よりも大切な存在で、それはSATにいたときから変わらずレインボー部隊に召集されてからはより一層、彼女を想うようになった。

「ふふ、何だかあなたが近くに居ると安心する。エコー、私ね…」

ヒバナは近くに座るエコーに手を伸ばして、彼の手を握ろうとする。

「どうした?」
「あなたの…冷たい手が心地良い。少しだけ握っていても良いかな」

エコーの体温は低い。
普通の人よりも手は冷たいから熱で体温の上がっているヒバナにとっては心地が良い。

「『今だけ』だから…、優…」
「分かった、由美子」

エコーは小さく名前を呼ばれ、
ヒバナの手を優しく握り返した。苦しげな表情を浮かべるヒバナの頭を優しく撫でて眠るように促した。

 

 

(『優』なんて、久しぶりに君から名前で呼ばれた君がする。…僕はまだ君に気持ちを伝えられないんだ。まだ弱いから…)

自覚していた筈の、彼女を想う気持ちが弱くなる所か、どんどん強くなっていってー・・・

 


エコーは薬が効いて眠っているヒバナに顔を近づけて口付けを施した。それは触れるか触れないかの絶妙なラインだった。

「…好きだよ、由美子。僕はまだ君に伝えられない。ずるい僕を赦して」

眠る彼女には届かないであろう、エコーの想い。言葉、そして小さな温もり。

エコーは誰よりも大切な相棒の眠る顔を見つめながら想いを馳せていった。

 

【自覚する可能性】

 

 

(…ん…、身体が軽い…?)

風邪を引いて寝込んで、薬を飲んで眠りに落ちていたヒバナはベットから身体を起こす。

昼間だった外の風景は夕闇に包まれており、もう外は真っ暗だった。

ヒバナがベットの近くを見れば、
彼女の手を握りながら居眠りをするエコーが近くにいる。

「優、ありがとう…」

手を握りながら眠るエコーの名前を呟いてヒバナは彼を起こすために身体を揺らす。

「私は大丈夫だから起きて?…優?」

声をかけてもピクリともしないエコーにヒバナは小さく溜息を漏らしながら彼を自身が眠っていたベットへと横たわらせた。

「…看病してくれたんだよね、誰よりも人付き合いが苦手なあなたが一生懸命看病してくれた気持ちだけでも私には『充分』だよ…」

ヒバナはベットから抜け出して、眠るエコーの顔を見つめて呟いた。ヒバナは眠っている間に『夢』を見たのだ。

…相棒であるエコーが、自分に口付けを施してくる『夢』だった。妙に現実味があったのだが眠りに落ちていたヒバナにとって、それが本当に『夢』か『現実』なのかは分からなかった。

「私ね、あなたが強くなってくれればそれ以上に望むことなんてなかったのに。だけど、だけどね…」

眠るエコーの顔を見ながらヒバナは自身の手を彼の手にそっと重ねて静かに握り締めた。

「『優』、私はあなたを想ってる。相棒以上に一人の人として見てしまってる。…あなたにとって私はきっとただの…」

「…ヒバナ、いや…『由美子』、それは本当?」

眠っていたエコーは彼女の手を握り返して、閉じていた瞳を開いて真っ直ぐと見つめる。

「…っ、なんで起きちゃうの?」
「風邪は大丈夫か?…だいぶ顔色が良くなったみたいだ」

エコーはヒバナの手を強く握り、そして彼女を強引にベットへと引きづり込んでしまう。

「…僕のこと想ってくれてるって本当?由美子、お願いだ…教えて」

強引に引き寄せられたヒバナをエコーは背後から抱き締めて耳許で呟いた。

「い、いきなり何っ…」

「由美子、眠っている君にキスをした。自分の想いを我慢出来なかった。ずっとずっと君を守れるくらい強くなれたら伝えようと思っていたけど、我慢出来なかった。僕は最低だ」

…夢でもなければ、幻でもなく。

エコー自身が肯定してしまった『想い』、そしてヒバナ自身が自覚した『気持ち』は繋がっていく。

「…私はあなたを守って行くために、自分自身が強くいるためにここまで来たの。ねぇ、優。私はあなたに対しての気持ち自覚したばかりなの、だから今度は…」

ヒバナはエコーの顔に手を伸ばして、乞うように彼の黒い瞳を見つめて唇を近付ける。

…二人の刻が止まっていく。

ヒバナ自身がエコーに口付けをして、
そして抱き締め返したのだ。

 


「由美子…?」
「…私を好きになってくれてありがとう、優」

真っ赤な顔は一人の女性としての『表情』だった。

「嘘、僕のこと怒らないの?君に勝手に…」

「相棒の私を馬鹿にしないでよ?!…それ以上の気持ちを抱いたこと、後悔なんて絶対にしてないしこれからもしないから。『エコー』であるあなたも、『江夏優』であるあなたも…私にとっては大事な人だからね?」

自覚した想いは今も昔も変わらないくらい、ずっとずっと大事な『宝物』のようで。

エコーは声を震わせながらヒバナに触れていく。

「君を一人の女性として、そして相棒として見ていくから…。これからは僕が守っていく、 だから…」

 

 

自分なりに、ロマンチックに。

「『誓いのキス』、してもいいかな」
「…好きにしていいよ、エコー」

エコーは口元に淡い微笑みを浮かべて、共に在るヒバナの唇に自身の唇を重ねていく。

 

 

もう迷わない、もう逃げない。

あなたしか見ていないから。

世界で一番大切な人は、君だけだ。

(…愛してる、由美子)

 

 

【ブラックビアードは童顔に悩んでいる】

昨夜、上司から注意を受けたのは身だしなみについてだった。

『髭を生やし過ぎだ、良い加減に剃りなさい』

この髭が無くなったら、俺を守るものは何一つ無くなってしまうだろう。

しかし、剃らないと始末書だと脅された以上、剃らない訳には行かない。

「覚悟を決めろ、俺は男だ」

洗面台の鏡を見つめながら俺は自身の自慢でもあった黒い髭を見つめた。

コードネームの由来も全てはこの黒髭から始まり、ある俺の悩みを隠す最大の役割も果たしてくれていた。

「…さらばだ、相棒…」

久方ぶりに棚から取り出したシェービングクリームを髭に塗りたくり、シェーバーの電源をonにした。

…お別れだ、また会おう。

 

 

***

髭を剃ること約30分。

鏡の前にいる自分はコンプレックスである顔を持つ自分自身だ。

「はぁ、部屋から出たくない」

今日は昼間から同僚であるヴァルキリーと食事をする約束をしていた。

彼女は俺の髭の無い姿を見たことがない。

…きっと引かれるのかも知れない。

しかし約束の時間までもう少し。

彼女は俺の大切な相棒だから約束を破る訳には行かず。

お気に入りのジャケットを羽織って部屋から出る準備をする。

…出来るだけ顔を見られないように、マスクも忘れずに。

 

 

 


「ブラックビアード!こっちこっち!ってあれ?風邪でも引いた?」

「あ、あぁ…。そんな感じだ。ところでヴァルキリー、この宿舎の食堂で良かったのか?久しぶりの休みだったら車でも出したのに」

「いいのいいの!私はこの宿舎の食堂で食べるご飯が一番好きだもん。それにブラックビアードが一緒だったらどこでも楽しいよ」

…神様、ヴァルキリーは本当に可愛いです。

実は片思いなんですよ、俺の片思いなんです。

だからこそ、髭の無くなった俺を見られたくはないんだが…。

「そうか、それは光栄だよ。ヴァルキリー、先に食事を選んで来い。その、席で待ってるから」

「…?今日のブラックビアードは少し変だね。じゃあ、席から離れないで少し待っててね?」

「分かった」

ヴァルキリーは少しだけ心配そうに俺を見つめてくれる。

本当に可愛い顔と声で、もう悶え死にそうです。

遠くから見えるヴァルキリーの食事を選ぶ姿は、楽しそうだ。俺はそんなヴァルキリーを見てるだけで胸が痛い。

 

 

 


「お待たせ、ブラックビアードの分も一緒に持って来た!好きでしょ、オムライス!」

「わざわざありがとう…」

「冷めないうちに食べよ?ほら、マスク取らないとっ…」

「そうだな。マスク取らないと食べれないもんな…」

俺は無意識にマスクを取り、手を合わせて「いただきます」と呟いて目の前に座るヴァルキリーを見た。

すると、目が合ったヴァルキリーは真顔で俺を見つめてくるではないか。

「ブラックビアード…、髭が無い…」

「っ…!!み、見ないでくれ!」

「…もしかして、マスクしてたのは髭剃ったのを隠すためなの?」

やばい、ヴァルキリーの前だと注意力が低下することを忘れていたよ。

まずい、まずい。

彼女にだけは見られたくなかった。

「コンプレックスなんだ、髭が無いと実年齢より10歳も若く見られるこの顔が嫌いなんだ。髭を剃らないと始末書だと昨夜注意を受けたんだ」

ヴァルキリー、絶対に引いてるよな。

俺は怖くて彼女の顔を見ることが出来なかった。

しかし、次に待っていた言葉は意外なもので…。

「…ブラックビアード、かっこいいよ!髭無い方が私はかっこいいと思う。童顔に見えるのはまだ若い証拠だよ?だから、私から目を逸らさないで欲しいな」

相棒は俺を見て顔を赤らめながら、オリーブ色の瞳を輝かせていた。

「へ、変じゃないのか?」

「何でそんなこと思うの?…ブラックビアード、私ね、あなたのこと好きなの知ってた?」

…?!?!?!

ちょっと色々と思考が追いつかないんだが、ヴァルキリーが俺を…?

「…ごめん、知らなかった」

「だよね。私が食事に誘ったり戦場であなたを一番に守るのもブラックビアード、あなたが一番だからだよ?髭が無いと本当に誰だかわからない。他の人に素敵なあなたを見せたくない。ねぇ、あなたの気持ちも知りたいな」

食事はまだ冷めず、俺の心はさらに燃え上がり…。

「俺もヴァルキリー、ずっと君が好きだった。真っ直ぐで一生懸命な君が大好きだ」

「…両思い…だよね?」

「そうだな、そういうことだ」

「食事終わったら、車出して欲しいな…?このあと時間有ったら初デート、私としてくれませんか?」

可愛いヴァルキリーからのお誘いなら断る訳もなく、俺は嬉しくて嬉しくて、今までにない笑顔だったんだと思う。

「…喜んで、エスコートさせて下さい」

「っ…、かっこいいのは反則だよ!!」

「可愛いのも、反則だろ?」

「お互いさまだね?」

「そうだな」

冷めないうちにオムライスを食べよう。

髭が無くなって、コンプレックスである顔をかっこいいと言ってくれた目の前の彼女は、今日から俺の恋人です。

さぁ、何処に行こうか?

ワクワクとした気持ちと、新たな幕開けに胸が弾む。

大好きだ、
大好きだ。

ヴァルキリー、君を好きになれて良かった。

 

 

【彼を好きすぎる女神さまの話】

*『ブラックビアードは童顔に悩んでいる』の続編。ヴァルキリーちゃんメインの話。

 

 

 


「ヴァルキリー、何してるんだ?」

「ブ、ブラックビアード…、次のデートの行き先を考えていました!」

「何で敬語なんだ?」

「ひ、久々にブラックビアードの部屋に遊びに来たからかな?だって任務でずっと会えなかったから緊張しちゃって…」

私は今、お付き合いしているブラックビアードさんの部屋に久々に遊びに来ています。

顔が熱い、熱いよ〜〜(´;ω;`)

と、自分らしくないテンションなんです。

お付き合いを始めてから約半年、特殊部隊の隊員だからなかなかお出かけも難しいし、たまに喧嘩もしちゃうけど…。

仲良くお付き合いさせていただいているんです。

黒髭がないブラックビアードは相変わらず可愛い顔して、だけど見せる顔は男らしい表情ばかりで私はもう辛いです。

「俺もお前に久しぶりに会えて嬉しいよ、ヴァルキリー、隣に座れば?一緒に出掛ける先を決めないか?」

「う、うんっ…!隣失礼しますっ…」

「いつも以上に可愛い、見ていて飽きないな」

「っ…、恥ずかしい…」

「恥ずかしがる必要なんて無いのに!さ、どこに行きたい?」

隣に座ってスマホでホームページを一緒に見てくれてるブラックビアードが私の手を空いてる手で握ってくれてるんです。

…嬉しいな…。

「私の行きたい所でいいの?」

「あぁ、ずっと寂しい思いをさせていたからどこでも。君が行きたい所に俺も行きたいからさ。ヴァルキリーは何がしたい?」

「じゃあ、一緒に買い物行きたい!ショッピングモールでお揃いの物、一緒に買いに行きませんか?!」

あーー、もうっ…!!

緊張しちゃってまた敬語になっちゃった。

ブラックビアードも真顔で私を見ないで!恥ずかしい!顔燃えるから〜〜!!

「どう言うものが欲しいんだ?ヴァルキリーはどんなものが好きなのか、そう言えばそういう話あまりしたことなかったな」

「わ、私の好きな物?!」

「お揃いの物が欲しいなら雑貨が良いのか、アクセサリーがいいのか、色々あると思うぞ?まあ、いずれ結婚したいとは思ってるから、手始めにお揃いのマグカップとかはどうだ?…ってヴァルキリー、顔すごい真っ赤だぞ?」

「け、結婚前提のお付き合いなの…?!」

「俺はそのつもりで君をずっと思って来たし、告白だってしたんだが…。悪いのか?」

その言葉が嬉し過ぎて、私は固まってしまいました。

…どうしよう、めちゃくちゃ幸せです。

「悪くない、嬉しいから、その…驚いてたの!ブラックビアード、私もあなたが大好き。だから今度のデート、沢山楽しもう?そしてこれからも、私を好きでいてくれますか?」

ブラックビアードは握っていた手を一度離して、私を腕の中に閉じ込めてしまう。

うわ、うわー…///

私もブラックビアードも、緊張でドキドキしてる。だけど、同じ気持ちって嬉しいし、幸せだなぁ。

「好き、大好きだよ、可愛いメーガン」

「は、初めて名前で呼ばれたかも…!!」

「お望みなら、毎日名前で呼ぼうか?」

「私の心臓がもたないからっ…!!ブラックビアード、私もあなたのこと…」

とりあえず、真っ赤になった顔を隠すために大好きなあなたの胸に飛び込んで私も抱きしめ返して呟くよ。

 

 

 

「私も、あなたが大好きだよ!世界で一番大好き。これからも、この先も、この気持ちに嘘偽りはないから」

温かなブラックビアードの体温と、
愛しい匂いに包まれて私は幸せに身を任せていった。

次のデートでお揃いのマグカップを買いに行こう。

スケジュールは大好きなあなたとの予定で埋まって行くのです…。

 

朝、目を覚ませばリビングからは僕の大好きな味噌汁と焼き魚、そして炊きたてのご飯のいい匂いが漂ってくる。

その匂いを確認しながら眠たげに目を擦れば、台所で朝食を用意してくれていたのは僕の大事な人。

「優くん、おはよう。ご飯出来てるから、顔洗って冷めないうちに一緒に食べよう!」

「由美子、おはよう」

朝から可愛い笑顔で声をかけてくれるこの子は、僕の大切なお嫁さんです。

【江夏優はご飯がお好き。】

洗面台で顔を洗い終わり、リビングに向かえば由美子は椅子に座って僕を待ってくれていたのか、ニュースを見ていた。

「お待たせ、由美子」

「優くん、ご飯炊きたてだから美味しいよ?あと、今日の鮭も北海道から取り寄せした物で、それから…」

「僕の為?…ありがとうございます」

「だって優くん、いつも『美味しい』っ言いながら私の作ったご飯食べてくれるから嬉しくて」

「僕も由美子が毎日作ってくれてることに感謝しながら食べてるよ。さ、食べようか。いただきます」

「…め、召し上がれ」

僕は目の前に並べられた朝食をゆっくりと口に含んでいく。

お米を口に含めば、甘い味が口の中で広がり焼き立ての魚もいい塩加減だと思う。

本当に美味しい。

毎日食べても飽きない味が変わらず美味しいと思う朝は本当に幸せだ。

「…昔、同棲始めたばかりの頃を覚えているか?」

「あー、優くんインスタントばっかり食べてたよね!本当にあの頃は毎週末風邪ばかり引いていてさ。私の手料理を初めて食べてくれたとき、『こんなに美味いもの食べたのは初めてだ』って言ってくれたこと、今でも覚えてる」

「今じゃこんなに美味い朝ご飯を食べさせてくれる人が嫁さんだなんて、信じられないくらいに嬉しい。由美子、毎日ありがとう」

普段から僕よりも由美子の方が明るくて、優しくて、はきはきと話す。

…僕の口から感謝の言葉を述べるのは、何だかこそばゆい。

それは恋人から夫に変わっても変わりはなくて。

「…優くんは私にとって今も昔も変わりない、大切な人だよ。だからこそ、美味しいご飯を食べて毎日笑顔で朝はおはよう、夜はおやすみって言葉を交わしたい。不器用な優くん、私の旦那さんになってくれてありがとう」

気がついたらお茶碗のご飯も、
湯気の立っていた味噌汁も、
こんがりと焼かれた焼き魚も。

綺麗に食べ終わっていた僕がいた。

「な、何だか朝からごめん…、僕は不器用だからこんな時くらいにしか由美子に感謝が出来ない。兎に角!僕は由美子が好きだ、愛してる」

もう、顔が熱い…。

由美子、そんな可愛い笑顔で僕を見つめたいで。

「朝から嬉しい愛の告白をくれた優くん、私からも一つ、とっておきの告白をしてもいい?」

少しばかり顔を赤くしながら紡がれる言葉に、僕はきっと今までで一番なくらい顔がぐちゃぐちゃにして微笑んだ。

 

 

 

 

 

 


『優くんとの間に家族が増えるの。この先も、ずっとずっと。私と私たちの赤ちゃんと幸せな家庭を築いていこう』

僕は朝から幸せだよ。

美味しいご飯も、
交わす挨拶も。

最愛なる君からの嬉しい『告白』も。

穏やかな陽だまりが差し込むリビングで僕と由美子はそっと視線を交わしていった。

 

 

グラズの悩み

 

 

昔から自分から話かけたり、歩み寄るのが苦手だったグラズは宿舎の食堂でピンチに陥っていた。

(…なんでGSG9のモニカさんと二人きりなんだ?!んー…困った)

レインボー部隊に来たばかりのグラズは次の任務でIQこと、モニカ・ヴァイスと組むことになっていた。

作戦会議という名の親睦を深めるためにモニカはグラズを食堂に呼び出していた。

「グラズくん、まずは初めまして。私はGSG9のモニカ・ヴァイスです。よろしくね」

「…は、はい…」

「もしかして緊張してる?」

「いや、そんなこと…」

『そんな事はない』と言い切れなかった。

いつも自分を隠しているフェイスペイントも今はない。

コンプレックスである色白の肌は今にも緊張で真っ赤になりそうで、グラズは目の前から消えたくなった。

そんな様子を察したモニカは穏やかな目線でグラズの瞳を見つめた。

自分と同じような色彩を放つモニカのアイスブルーの瞳には優しい色が浮かんでいた。

「…人は誰でもコンプレックスとか悩みを抱えているものよ?私だって悩みがあるし、だからグラズくんも悩みがあるなら仲間を頼った方がいい。それに私たちは次の任務でバディを組むんだからさ!…仲良くなりたいの、話してみて?」

モニカの言葉にグラズは噛み締めていた唇を開いて小さく呟いていく。

「…俺は人と関わるのが苦手で、ずっとずっと一人が好きだったんです。唯一の趣味は絵を描くことで自分自身が自分らしくいられる時間だった。だからこの場所に来て絵を描き続けることが出来るのかも不安だった。…俺は良い歳してまだ臆病なんです」

グラズの言葉を聞いたモニカは笑みを浮かべて彼の頭を優しく撫でた。

「グラズくん、自分が自分らしくいたいならその考えは捨てちゃ駄目。絵を描きたいなら描けばいい。私は学ぶことが好きだからやめる事は絶対にしないわ?あなたが描いた絵を見せて欲しい、約束ね?」

モニカに頭を撫でられたグラズは少しだけ照れ臭さそうに瞳を細めて笑顔を浮かべた。

「…わかりました、モニカさん。俺、この部隊で頑張って行きたいし色んな人と関わって人間的にも成長したい。そして『自分が自分らしく』いる為に絵も描き続けます。俺はあなたに出会えて良かった、これからもどうか俺と仲良くしてもらえませんか?」

「当たり前じゃない、私たちは仲間なんだから!…改めてようこそ、レインボー部隊へ!」

新たなる門出、グラズは無限に広がる未来へ期待を浮かべて微笑んだ。

 

 

【江夏優は素直じゃない】

 

 

「今川さん」

「江夏くん、どうしたの?」

二人きりのオフィスは夕暮れ時の為か、真っ赤なオレンジの光が窓に差し込んでくる。

デスクワークをしていた今川は江夏に声をかけられて仕事の手を止めて振り返る。

「今川さんってさ、皆から慕われているでしょ?僕より歳下なのにさ。正直、あんたみたいな奴と組みたく無いんだ。さっさと辞めれば?」

夕暮れの光に照らされた江夏に嫌味を言われた今川は「いつものこと」と聞き流してため息をついた。

「江夏くん、私が嫌いなのは分かるけど子どもっぽいことを嫌味っぽく言うのは止めたら?だから昇進出来ないのよ、私より歳上のくせに」

今川は江夏に言い返し、再びデスクに視線を戻す。くだらない言い合いなんかするより、早く帰りたい。

今川は江夏を無視するかのように書類作成に励んでいく。すると言い返されて何も言えなくなった江夏は今川の背後から思い切り抱きついた。

「っ…!いきなり何するの?!」

「あんたが構ってくれないから、実力行使。今川さん、僕のこと嫌いでしょ?嫌いな奴から抱き締められて気持ち悪いよね」

「い、いきなり抱きついてくる奴がいるか?!もう、仕事の邪魔ばかりしないでよ、江夏くん離れて!」

「やだ、今川さんの嫌がる顔みたいからやめない。僕、あんたに嫌がることするのが好きみたい。だって今川さんの声とか顔、すっごく可愛いから」

江夏は今川を後ろから抱き締めたまま耳に口づけを施した。

「や、やだ、やめてっ…」

「今川さんは僕のものだ、僕がどんな思いで毎日あんたを見てるか分かるか?僕はあんたに構って欲しくて、こっちを見て欲しくて堪らないのに…!」

江夏は少しだけ苦しげに呟いた。そんな様子をみた今川は深いため息をつくのと同時に江夏の顔を両手で包み込んだ。

「江夏くんって馬鹿よね。もっと他にやり方があると思うよ、私はあなたの性格も気持ちも分かってるから何も言わない。江夏くん、私が欲しい?自分だけのものにしたい?」

「…叶うならな」

「だったら、簡単だよ?」

今川は江夏の手を掴んで思い切りデスクの上に彼を押し倒す。今川の黒い髪が江夏の顔にかかるくらい距離が近かった。

 

 

「江夏くん、私があなたを愛してあげる。嫌味も悪戯も全部構って欲しかったからだよね?可愛いなぁ、本当に」

「…今川さん、あんた…」

「…ねぇ、黙って?」

「んっ…」

今川は江夏の両手をデスクに押さえつけて彼の唇に貪るようなキスを仕掛けていく。

身体の体温が高まるのと同時に江夏はぼんやりと今川の顔を見つめて思考を巡らせる。

(…本当は好きで好きで、僕だけをみて欲しかったんだ。今川さん、あんたは僕だけのもので、そして僕も…)

あんただけのものだーー・・・。

江夏は今川の背中に腕を回して、彼女から与えられる熱の余韻に身を任せていった。

 


【惚気は最高の肴となる】

 

 

仕事が終わったギュスターヴは少し遅れていつも酒を飲むバーに足を運ぶ。自分たちの恩人であるジル、そしてその恩人の恋人であるエマニュエルが待っているこのバーは、GIGNの皆で打ち上げをする時によく使う。

ドアを開ければ、すでにワインを何本か開けているジルと呆れた視線を彼に向けるエマニュエルの視線がギュスターヴに向けられた。

「遅いぞギュスターヴ!!俺はすでに3本もワインをだな〜…」

「ジル、みっともない所をギュスターヴに見せないで!彼は仕事が終わったばかりなんだぞ!…済まない、私が見張っていたんだが…あなたの奢りだと聞いた瞬間に」

「構わないさ、彼は私の恩人だからね。エマニュエル、君も好きな物を頼むといい。君の大事な人のおかげで、私はずっと想っていた人と両思いになることが出来たんだから」

「そう。…分かった。ありがとう」

ギュスターヴはエマニュエル、そしてジルの目の前に腰を下ろして一杯酒を口に含む。

久しぶりに口に含む酒は美味しいと身体が喜んでいた。エマニュエルはジルを見て小さく溜息をついた。

「ジルがあなたたちに迷惑をかけたんじゃないかと少し不安だった。今日その事を私は謝りたくてジルについて来たんだが。…ジュリアンは?」

同僚がいない事に気がついたエマニュエルはギュスターヴに不思議そうな表情を浮かべて見せた。

「ジュリアンなら今日は実家に帰ると先に仕事を切り上げていったよ。エマニュエル、君の気遣いに感謝する。ありがとう」

「そう言って貰えると、少し気が楽になる。しかし今日は何故私たちは集まっているんだ?何かの会議でもおっぱじめるつもり?」

その言葉を聞いたジルは隣に座るエマニュエルの肩を豪快に抱き寄せた。

「俺とお前の惚気を酒の肴にする為に集まったんだ。ギュスターヴ、俺はお前らをくっつける為に頑張ったんだから惚気に付き合って貰うぞ?!な、エマニュエル?」

「の、惚気なんて無いだろう?!馬鹿じゃないの?!」

「こらこら、そんな風に大事な人を怒っちゃダメだぞエマニュエル。ジルは本当に君が好きなんだから。さて、私は君たちの関係を良く知らないんだが…、恋人同士なんだよな?」

ギュスターヴが二人を見つめると、ジルはニッカリと笑いエマニュエルの頭をぐしゃりと撫でた。

「…恋人同士『だった』。もう少しで夫婦になるんだ。な、エマニュエル?俺との間に子どもが産まれるんだぜ。幸せ過ぎて酒が進むよ」

「…それはおめでたいじゃないか、それでジルも禁煙していたのか。最近煙草を吸っていないと皆が騒いでいたから、なるほどな」

「…ジル!恥ずかしいからバラさないでくれないか?!落ち着いたら私から皆に話そうとしていたのに!ギュスターヴ、済まない。色々と話が飛び出して来て混乱しているだろう?」

エマニュエルはギュスターヴに申し訳なさそうな視線を向ける。しかし、ギュスターヴにとって嬉しい報告が聞けただけでも充分な肴になったのだ。

「エマニュエルがお母さんでジルがお父さんか、ふふ、すごい逞しいお子さんが産まれそうだ。もし何か困ったことがあればいつでも呼んでくれ。君は大事な仲間だからな」

「ありがとう、ギュスターヴ」

エマニュエルは目を細めてギュスターヴに微笑みを向けた。ギュスターヴはそんな彼女の様子を見て思ったのだ。

(…あんなに人当たりが強かったエマニュエルが柔らかくなったのもジルのおかげなんだな…)

元々プライドが高く、人当たりが強かったエマニュエルともこうして仲良く話せるようになったのも、親友であるジルのおかげだと痛感した。

「エマニュエルと出会ったばかりのとき、まさかこんな関係になるとは思わなかった。ギュスターヴ、俺はいつも思うんだ。大切な奴が出来た時点でそいつは運命の人間だってことを。心から大切にしてやらないといけない存在がいる時、そいつは自分を変えてくれる。俺にとってのエマニュエル、ギュスターヴにとってはジュリアンのようにな」

今まで口を閉ざしていたジルはギュスターヴの顔をまじまじと見つめて呟いた。ワインのボトルはすでに五本以上転がっている中でジルは真面目な表情で話していた。

「そうか、そうだな。ありがとう、ジル。そしてエマニュエルも元気な子どもを産むんだよ?ぜひ産まれたら会わせて欲しいな。ジュリアンと私で会いに行くよ」

「…それは光栄だ、ふふ、私は素晴らしい仲間に巡り会えたようだ。ギュスターヴ、どうかあなたもジュリアンと幸せになるんだ。私たちは何があってもあなたたちの味方だよ」

エマニュエルは膨らんでいるお腹を愛しげに撫でながらギュスターヴのブラウンの瞳を見つめて呟いた。

「さて、エマニュエルにギュスターヴ、まだまだ話は尽きないぜ?エマニュエルの可愛い所とか、お互いの恋人自慢大会の始まりだ!夜はまだまだこれからだ。ってギュスターヴ、お前笑いすぎじゃないか?」

「ふふっ、私は幸せ者だなぁと思ったんだ。こんなにも仲間に恵まれて仲間の幸せな惚気を聞くことも出来た。ありがとう、二人とも。今日は語り尽くそうか、何でも話すし何でも聞くよ。エマニュエルも辛くなったら言ってくれ。私の本業はメディックだからな」

「ありがとう、ギュスターヴ。ジル、私たちも幸せだとは思わないか?」

エマニュエルに聞かれたジルは頷いて満足げな笑みを浮かべて言葉を紡いでいく。

「そうだな、俺たちは最高の仲間、恋人に巡り会えた。この出会いは運命で必然なんだと思ってる。辛いことがこの先あったとしても絶対に乗り越えられるって俺は思ってるからな。エマニュエル、ギュスターヴ、これからもGIGNの仲間として友人として恋人として宜しく頼むぞ」

「あぁ、宜しく頼む…!」

ギュスターヴにとって、この温かいやりとりはかけがえの日々の宝物になっていったのだった。