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穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

霞む世界、儚くて

【霞む世界、儚くて】

 

「どうだ?…見えるか?」

「ボンヤリと。正確には分からないな…」

「…そう、か…」

病室のベッドの上で身体を起こし、近くに居たカプカンの顔を見てグラズは切なげに呟いた。


レインボー部隊の基地内にある軍病院で眼の手術を受けてから約一ヶ月あまりが経ったグラズは病室で毎日を過ごしていた。

色素の薄い彼の瞳は太陽に弱く、そしてかつての戦闘で受けた瞳の怪我が原因で視力が低下してしまったグラズは意を決して手術を受けて療養とリハビリをしていた。

「…まあ、視力が戻る可能性は正直低いってドクは言っていたし、前よりかは見えるから。ってカプカン、そんな顔するな。怖いよ?」

「…絵を描くのに支障は無いのか?」

カプカンはグラズの瞳を覗き込む。痛々しい手術の傷跡は薄くなってはいたものの、彼の瞳の中に残る傷は一生消えないものであろう。

「もう、筆を持つのは辞めようと思うんだ。見えにくい状態で描いた所で納得出来る作品はもう出来ない。カプカン、俺はレインボー部隊も辞めてロシアに帰るよ。父親運送業でも手伝おうと思ってな。使い物にならない駒などこの場所には要らない。きっとシックス司令官も…」

グラズの言葉を聞いたカプカンはグラズの胸倉を掴んで彼の瞳を強く睨みつける。カプカンの瞳には怒りの色がありありと浮かんでいた。

「お前はそうやってすぐに後ろ向きに考えるよな?馬鹿か?!…要らない人間などこの部隊には居ないし、第一お前は自身の生き甲斐を自分で捨てるのか?絵を描き、それを嬉しそうに見せてくれた今までのお前は何処に行ったんだ!?…見損なったぞ」

カプカンに言われた言葉に対して、グラズは唇を噛み締めながらやがて口を開き、彼の手首を掴んで胸倉から離れさせた。

「あんたに…!あんたに何が分かるんだよ!俺だってまだ辞めたくない、まだ狙撃手として皆を助けたい、前線に立ちたい、絵だってまだ未完成の作品が沢山あるんだよ!誰よりも何よりも俺自身が一番辛いこと、あんたなら分かってくれると思っていたよ…、カプカン、あんたに…何が…」

グラズはアイスブルーの瞳から涙をボロボロと零しながら子どものように泣きじゃくる。何よりも視力が戻らず、前線にも立てず、好きな事も出来なくなってしまう辛さを感じているのはグラズ自身なのだ。

カプカンは小さくため息を吐きながらグラズを己の胸元に抱き寄せて頭を優しく撫でてやる。

「…何だよ…」

「言い過ぎた、ごめん」

「…叶う事なら全部が元通りになればいいのに。今だって涙のせいで余計に視界が霞むんだ。もう戻らないのは分かってる、可能性として視力は下がる一方だって事も。だからもう、諦めたくない事も諦めるしか…」

グラズは涙を拭いながらカプカンの背中に腕を回して思いの丈を漏らす。カプカンはそんなグラズに一言言葉を返した。

「俺がお前を照らしてやる、グラズ、だからお前は今のままで居てくれ。お願いだ、俺はお前の事が大切なんだよ、何よりも…」

「…だから、あんな事…」

「グラズの絵を描く姿は綺麗だ、スコープを覗く姿は勇敢だ。そんなお前に惹かれている俺が居るのも事実だ。だからお前には今のままで居て欲しい、諦めて欲しくないんだ」

カプカンの言葉にグラズは涙が残る瞳を細めながら儚げな笑みを浮かべた。

「…少しだけ、もう少しだけ頑張って見るよ…、泣いてごめん。カプカン、明後日には退院出来るから一緒に風景が見渡せる場所について来て欲しい。あんたの為に一枚、描いてみるよ…」

「そうか、それは楽しみだ」

カプカンは病室の窓を見つめて空を見上げた。この空のような青さを持つグラズの瞳に視力が戻らなかったとしても、カプカンは彼の側を離れるつもりはない。

例え世界が霞んで見えたとしても、彼の一歩先を照らし共に歩き続けるのだから。