穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

酌み交わす

【酌み交わす】

寂れたバーのカウンターに座る大柄の男の背中を見つけたカプカンは声をかけて隣に座る。

「…相変わらずあんたはこのバーが好きなんだな」

「マクシムか、遅いぞ」

アレクサンドルはマクシムの顔を見つめて呟いた。今宵、アレクサンドルはマクシムを呼び出して酒を酌み交わす約束をしていた。

マクシムは少しだけアレクサンドルを睨みながら声を漏らす。

「俺だって暇じゃない。まあ遅れたのは悪かったが。しかし何でここにした?宿舎じゃダメなのか?」

アレクサンドルに尋ねれば、彼はマクシムを見つめて口を開く。

「…今日が何の日か分かるか?」

「…何かあったか?」

「マクシム」

「何だ?」

「…お前と初めて会った日だよ、今日は5月14日。お前の誕生日だ」

「すっかり忘れていたよ、この数年間、生きるか死ぬかの瀬戸際だったからな」

5月14日、それはマクシムの生まれた日であり、アレクサンドルとマクシムが出会ってから10年の節目を迎える大切な日だった。

「もう出会って10年か。…初めてお前に会ったとき、お前は全てを拒絶していたな。何もかも、全てを嫌っていた。まるで何も信じたくはないかのように」

「あの時は仕方なかったんだよ、一番酷い状態だったからな」

アレクサンドルはマクシムにウォッカの水割りが入ったグラスを差し出した。マクシムは酒にあまり強くはない。受け取ったグラスを手に持ちマクシムは瞳を細める。

「アレクサンドル、あんたには感謝しかないな。暗い底に居た俺に手を差し伸べてくれた。俺を此処まで導いてくれてありがとう」

「…っ、ば、馬鹿じゃねぇの…」

「…照れてるのか?」

「柄にもなくお前が可愛いことを言うから反応に困っちまった。大切な日だな、俺にとってもお前にとっても」

「あぁ、そうだな…」

酒の入ったグラスを酌み交わせば穏やかな視線だけが二人の間でゆっくりと絡み合って行く。

酒を酌み交わす大切な時間を、今日という日を、二人は大切に過ごしていったのだった。