穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

*過去作*


【君の為に誓いたい】

あの時、あの場所で死んだことは忘れないし忘れたいとも思わない。時が経てば古い傷は愛しい物へと変わっていく。

そう、これは俺とお前を繋いでくれた愛しい古傷なのだから。

 

 

 


病院で目を覚ましたのはテロリスト殲滅作戦から約一週間経った昼頃だった。テレフォード基地に併設されている医務室のベッドの上に俺は眠っていたそうだ。

「痛ってぇぇっ…、うわ、グロ…」

見慣れない管が刺さった腕を見て自分自身にどん引きしていた。あ、俺本当に死にかけていたんだ。

それが目覚めてからの第一声だった。

隣の部屋に待機していたGIGNの軍医・ドクが目覚めた俺を見て泣きそうな顔をしていたのははっきりと覚えている。

「良かった、本当に…!君が戦場で一時的に死んでしまった時は本当に部隊の皆が絶望の淵に立たされた状態だった。輸血に協力してくれたり、色々と皆が君の為に走り回った。スペツナズのグラズ君なんかは本当に泣き続けていたよ。ま、君が目を覚ましたことを一番に報告するのは『彼女』が良いかな?来てるから会ってやってくれないか」

あぁ、本当にこのお医者さんは目覚めたばかりの俺にまくし立てるように話すんだから。俺、まだ安静状態なんだけど?

ま、いいや。

「分かった。…部屋に入れてやってくれ、俺身体動かせないけどそれでも良ければ…」

「大丈夫さ、ミラ、タチャンカが目覚めたようだよ。私はお邪魔だからまた何かあったら呼んでくれ。隣部屋に居るから」

「あ、あぁ…」

ドクと入れ替わりに医務室に入って来たのは親友であるミラだった。スペインから遠くこの地にやって来た彼女とは息が合い、親友として親交を深めていたのだ。

ミラは無表情で俺が横になるベッドの近くの椅子に座り、俺を見つめてくる。畜生、カッコ悪い所をお前に見せたくなかったのに。

「よ、よぉ…」

顔だけなんとか動かしながらミラの無表情な顔を俺は見つめる。彼女の瞳は何か言いたげに静かに揺れていた。

「タチャンカ…、あんた、馬鹿じゃないの?」

第一声、彼女と顔を合わせた時に言われたその一言は時間が経った今でも鮮明に覚えて居る。

「…目が覚めたばかりの親友に、それは酷いんじゃ無いのか…?はは、まったく格好悪い所をお前に見せたくなかったのに。ミラ、ごめんな」

そっと動かせそうな手をぎこちなく動かして俺はミラの手を握る。無表情な彼女の顔は見る見るうちに泣き顔へと変わっていった。

「謝るくらいなら最初から無理なんてするな!馬鹿!私がどれだけあんたのこと心配したか…!!」

「…気の強いお嬢さん、俺の為に泣いてくれるの良いが目覚め立ては優しい言葉が良いな。だけどごめんな、お前に心配をかけるつもりは無くて泣かせたくもなかったんだ。ミラ、ただいま」

しっかりと握り返した手は機械を弄っているからと言って女性らしい柔らかな手には違いなかった。

「…おかえり、タチャンカ…」

親友の手の温もりを感じながらこの命を救ってくれた仲間の顔を思い出していく。きちんと退院したらお礼を言わないとな。

 

 

***

 

 

ヘレフォード基地の医務室から自室に戻れるようになったのは実に一ヶ月ぶりだった。リハビリも兼ねて、しばしの休暇を貰えた俺は医務室で何かと世話を焼いてくれたミラにお礼をしたくて彼女を呼び出した。

「あんたがあたしを呼び出すなんて、珍しいじゃない。LMGの改造なら後で…」

「そんな仕事絡みじゃねぇって、その、何だ。お前、俺が入院中に色々と世話を焼いてくれただろ?そのお礼がしたくて呼んだ。仕事以外でお前を呼んじゃ駄目なのか?親友だろ、俺たち」

「…っ、本当にあんたって鈍感ね!頭が固すぎるのよ、まぁ良いわ。それでこんな夜更けの寒空の下に呼び出して何があるのよ」

「お前に見せたいもんが有るんだ、ちょっとだけ丘の上に行くぞ。ミラ、寒いなら手を繋ぐか?」

「付き合っても居ない男女が手を繋ぐなんて破廉恥過ぎる!!あんたの手袋貸しなさいよ、馬鹿」

「そんなこと言うなって、ほら、手を繋ぐくらいで赤くなるなよ。お前って気が強いけど本当に可愛い奴だな」

「…冗談で可愛いとか言わないで。あたしにそんな言葉は…」

やべぇ。

妙な空気にしたかな、俺。

ミラが寒そうにしていたから手を差し出して『手を繋ぐか』と声をかけたらミラは顔を赤くするし。『可愛い』と呟いたら否定するし。

冗談なんかじゃなくて本気でそう思ったから呟いたんだ。あぁ、俺ってやっぱり鈍感な男だよ。

ミラ、お前はとっくに俺の中じゃ『親友』以上の存在になっていたのに気がつくのが遅かった。

…馬鹿野郎は自分自身じゃねぇか。

「…ミラ、お前に言いたいことがあるから着いて来て欲しいんだ。丘まで少し遠いから俺の手を握れ。寒い中お前の綺麗な手を冷やしたくは無いからな」

「…あたしの手は綺麗なんかじゃ…!」

「お前にお前を拒否する権利なんて無いんだ。ミラ、行くぞ。お前に見せたいものが見せられなくなっちまう」

「…勝手にしろ、馬鹿タチャンカ!」

親友が可愛く見えて仕方ない俺は怒り気味のミラの手を握り、見せたいものがある場所へとゆっくりと歩を進めていく。

 

 

***

「い、いつまで手を繋いでいるつもり?!離してよっ…!」

「嫌だ、お前が離しても俺はミラ、お前の手は離さないよ。もう少しでお前に見せたい物が見せられるから我慢しろ」

丘に着くまでの短い時間の中でミラはあまり言葉を口にせず、はたまた俺の手を離そうとするもんだから俺は離せないようにきつく握っていた。

会話がなくたって構わなかった。

大切なお前が、俺の手を握って背後に居てくれるだけで充分だったから…。

「ほら、見えるか?この街並み」

「…これはすごい…」

気がつけば目的の場所につき、丘に並んで街並みを見下ろせばそこに広がるのは天の川のような夜景だった。

「もうすぐこの街で祭りがあるみたいなんだ。夜更けだが街はその準備で賑わうみたいでな、この時期にしか明るい街並みをこの場所で見ることは出来ないんだ。ミラ、お前には心配ばかりかけたし面倒を見てくれたからそのお礼がしたくてこの場所に連れて来た。…どうだ?」

ミラは見たことのない光景に目を輝かせて小さく呟いた。

「…綺麗だよ、ありがとう」

「なぁ、ミラ、お前は俺があのまま生き返らず死んじまったらどうしていた?俺の死を悲しんでくれたか、それとも『煩い奴が居なくなった』とせいせいしてくれたか?」

俺はミラの横顔を見ながらぽつりと言葉を吐き出した。ミラはゆっくりと俺の方を見つめて呟いた。

「あんたはあたしの気持ちを何一つ分かってくれないんだね、タチャンカ、あたしはあんたが目覚めるまで何度もあんたの側で祈ったんだ、『お願い、この人を助けて』って。何でか分かる?!あたしはあんたを親友以上としてー・・・」

それ以上は俺から言わせろ、示しがつかねぇじゃないか。

彼女の腕を引き寄せて、小さく冷え切った身体を己の腕の中に閉じ込めた。

「ミラ、俺だってお前と同じ気持ちだってやっと自覚した。お前を親友以上…、一人の女性として見てるんだ。なぁ、俺は思った以上にお前が好きみたいだ。馬鹿で鈍感でお前よりも歳上な俺をお前は受け入れてくれるのか?」

こんな歳にもなって自身の気持ち、そして相手の思いに気がついてやれなかった自分が腹立たしい。

ミラはゆっくりと俺の背中に腕を回してか細い声で呟いた。

「…受け入れて欲しいなら誓ってよ」

「何を誓えばお前は俺の思いを信じてくれるんだ」

「もう二度、あたしに心配をかけるような真似をしないでよ…!!あたしにとってあんたは何よりもかけがえのない大切な人なんだから…!あたしはもう、大切な人を失いたくないの…!」

俺は彼女の経歴を思い出し、自分が死にかけたあの一瞬を酷く悔いた。俺はこんなにも自分を思ってくれていたミラを知らないうちに傷つけていたんだな。

なら誓うことはただ一つ。

「ミラ、絶対にお前を一人になんかしない。俺を思ってくれたお前に誓うよ、好きだ…、お前を離したくない。大好きなんだよ、ミラ、お前が大好きだ…」

口に出来れば簡単な誓いも自覚するまでに時間がかかってしまう。俺はお前が好きなんだ、だからお前に伝えたいんだ。

「タチャンカ、あたしもあんたが…」

スペインの女性ってやっぱり情熱的なんだな。ミラ、お前から唇重ねて来てくれるなんて思いもしなかった。

寒空の下、明るい街並みを見下ろせば今腕の中にいる大切な人に愛を誓う。俺は絶対にお前を一人にしないよ、大好きなミラ。

 

 

 

 


『あたしもあんたが大好きだ』

俺はその言葉を聞けただけで充分幸せなんだ。お前の隣で生きているこの瞬間が何よりも大切な宝物なんだ…。

ミラ、これからも俺の隣で笑っていてくれ。

お前には笑顔が一番だから。