穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

冷えた瞳から溢れて落ちる

ミラとルークの話。


【冷えた瞳から溢れて落ちる】


「坊や」

ミラは冷えた口調でルークの名を呼んだ。彼女は酷く怒っているとルークは被弾した腹部を押さえながら感じていた。

展開型シールドの裏まで何とか隠れたルークは隣に先に座るミラを見上げた。いつものような余裕綽々な彼女は其処に居らず、ミラはただただルークを見下していた。

「ミラさん、俺一応怪我人…」

「黙りなさいな、この駄犬」

「…応急手当くらいしてくれないと、俺死んじゃいますよ…」

「最低限の止血はしたし、実際に大した怪我を負ってはないでしょう?ねぇ、坊やは馬鹿なの??…駄犬な君が怪我をして誰かが悲しむと思ってるの?」

「…貴女は悲しんでくれないんですか?ミラさん、俺は貴女が居なくなったら悲しいし、貴女が怪我をしたら自分の命を捨ててまで貴女を…」

「私を救うって?…馬鹿でしょ、君」

「そこまで言わなくても…」

ルークがミラを再び見つめれば強気な瞳から涙がほろほろと溢れ落ちていくではないか。

ミラはルークを睨みながら声を荒げて己の想いを吐露していく。

「…私は自分の命なんてどうでも良いんだ、坊や、私は君のそういう自己犠牲を厭わない所がずっとずっと嫌いだった。遺されてしまう私の立場は?私は誰も失いたくは無いのに。…君は馬鹿だ、私を独りにしないで、死のうとするな…!」

ミラの生い立ちを思い出しながらルークは己の言葉を酷く後悔した。彼女は産まれた時に母親に捨てられずっと父親と共に暮らして来た。

彼女にとって身近にいる仲間は自身よりも大切な存在である。そしてその中でもミラとルークは特別な存在なのだからルークにミラが怒るのは当然だった。

 

 

「ミラさん、ごめん。泣き止んで…?」

ルークはミラの瞳に指を伸ばして涙をそっと拭う。ルークの青い瞳はミラを真っ直ぐと見つめていた。

「…軽率な事を言いました」

「本当に馬鹿でしょう、坊や、君って人は…」

「貴女を守りたいと思う気持ちに嘘偽りは無いけれど、貴女を置いてまで逝きたいとは思ってない。ミラさん、貴女と生き抜いてこの任務を遂行したいです…」

ルークの言葉にミラは唇を噛み締めながらそっと瞳を閉じてルークの顔を両手で包み込む。

「…君に魔法をかけてあげるわ」

その言葉と同時に降りて来た温かな彼女の体温はルークの柔らかな唇に染み込んでいったのだった。

ルークはつられるように瞳を閉じて彼女の唇の体温をゆっくりと受け入れて行く。

ミラは強く強くルークの事を思い、彼に想いを馳せて行ったのだ。


***


何とか任務を遂行して基地の宿舎に戻って来たミラとルークは屋上に居た。夕焼けのオレンジ色の光が二人を淡く照らす。

「ミラさん」

「…な、何よ…」

「…抱き締めても良いですか?」

「いちいち許可を取らないと坊やは何も出来ないの?!…勝手にして、勝手にすれば良いよ…」

「はい、ありがとうございます」

ルークはミラの身体を背後から強く強く抱き締めた。背中越しから伝わる体温と鼓動は彼が生きて此処にいる事を物語っている。

「…あの時、生きて居なかったら貴女をこうして抱きしめることも叶わなかった。ミラさん、俺は貴女が誰よりも想ってるし大切です。愛してます」

背後から抱き締めた状態でルークはミラの手を強く握り締める。ミラもそれに答えるかのようにルークの手を握り返す。

…声を震わせながらミラは口を開いて呟いた。

「…何度も言うようだけど、君の自己犠牲を厭わない所がずっと嫌いだった。だけど坊や、君の優しい所や真っ直ぐな所が私は…好きだよ。だからもう二度、私の前で無茶をするな!約束して」

「はい、もう二度と馬鹿なことはしません。貴女を悲しませることも、涙を流させることも。もう二度としません、ミラさん…。ずっと側に居て貴女と生きて行きたいです」

ルークの言葉は確実にミラの心に染み込んでいた。彼女を抱きしめるルークの力は強くなって行く。

返事の代わりにミラは瞳から一筋の涙を零してルークの広くて大きな手をより強く握り締めて瞳を閉じて行った。