穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

映画を見た二人の話。

田波さん×江夏くん


【映画を見た二人の話】

 

田波は職場の後輩である江夏を映画に誘って、今二人は男同士で泣ける恋愛物を見ていた。

映画館の中には田波と江夏の二人しか居らず、江夏はつまらなさそうにモニターを見つめていた。

あぁ、誘わない方が良かったかな?

田波は内心、つまらなさそうにしている江夏を映画に誘ったことを後悔していた。

見ている映画は少し前に流行った洋物純愛映画だ。チケットを貰って持て余していた田波は暇そうにしていた江夏を軽い気持ちで誘ったのだ。

『良いですよ、映画くらい』

田波の誘いに江夏は表情を変えずにコクリと頷いた。田波は持て余していた映画のチケット消化が出来る喜びを噛みしめるのと同時に、後輩である江夏を独占できる時間を楽しみにしていた。


田波は映画の一番の感動シーンである部分、メインヒロインと主人公の再会シーンになった時に隣の江夏を見た。

たまたま見ただけだった。

 

 


泣いていたのだ。


江夏自身、感情の起伏が両極端な人間だ。普段から仕事を共にしている田波ですら江夏が笑ったり泣いたりしているところを見たことがなかった。

田波はそっとハンカチを江夏に手渡した。

江夏は驚いたような表情を浮かべたがそっとハンカチを受け取り涙を拭う。田波はその姿に惹かれるように魅入ってしまった。

『…江夏…』

『な、んですか…』

『こっち、向いてくれないか?』

『…嫌です』

『どうして?』

『…尊敬する貴方に泣き顔を見られたくないから…』

二人きりの映画館、小声で会話しながらも田波は江夏の顔を見たくて仕方なかったのだ。

今、此処に居るのは二人だけなのだから。

田波は江夏の顔にそっと手を伸ばして彼の顔に触れて行く。ぴくりと震える江夏の顔をなぞるように田波は指先で触れて行く。

『やめてください…』

『…悪いけどやめない』

やがて田波は江夏の唇にそっと自身の唇を重ねて彼の言葉を封じた。驚きに見開かれた江夏の瞳はやがてゆっくりと閉じられていったのだった。

 

 


映画が終わり、映画館の外に出れば辺りは真っ暗だった。それはそうだ。深夜のレイトショーに江夏を誘ったのだから。

「…江夏」

「…何ですか?」

「怒ってるのか?…その、お前にキスしたことに対して」

「別に怒ってなんか…」

「感情の起伏が少ないお前の泣き顔なんて見ちゃったから我慢出来なかったんだ。江夏、俺はお前が…」


田波の言いかけた言葉に対して江夏はそれを遮るかのように口を塞ぐ。


江夏自身が口を塞いで田波の首に自らの腕を回してキスを堪能して行く。薄い唇から伝わる確かな熱は田波の唇にも確かに伝わっていった。


ゆっくりと唇を離した江夏は田波の顔を真っ直ぐと見つめて消え入りそうな声で呟いた。

「…田波さん、俺から言わせて下さい」

「何を…」

「…あなたに対する想いとか、そう言ったこと。全部言うから、俺から言わせて下さい…!」

江夏の必死さに田波は顔をくしゃりとさせて江夏の頭を優しく撫でてやる。

あぁ、こいつはどんな時も自分の好きな事には一生懸命だったよな。俺は知っている。

田波は江夏に優しい視線を向けて口を開く。

「…聞かせて?」

「俺は…、あなたにキスされても嫌じゃなかった」

「それで?」

「あなたは先輩で俺は後輩で。興味のないものに俺は感心すら持たない人間です。だけど俺はあなたと見た映画で涙を流した。田波さん、俺はあなたが好きだ。ずっとずっと好きでした」

「…俺も、同じ気持ちだよ」

江夏の言葉にそっと田波は微笑んだのだ。江夏はその笑みを見つめて安堵した表情を浮かべ、やがて瞳を細めて涙を零した。

田波はそんな江夏の涙を指で拭いながら彼の目元に口付けを施していったのだった。