穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

日常の話❽

日常の話⑧

フューズ×グラズ

『オルゴール』


「今日はいつもより不機嫌だね、どうしたの??」

ティムール・グラズコフは隣で作業に没頭しているシュフラット・ケシバイエフに声をかける。彼は作業しながらあからさまに苛立ちを露わにしていた。

そんな彼を心配したティムールはシュフラットを見つめて声をかけたのだ。シュフラットは作業用ゴーグルを外してティムールを見つめながら呟いた。

「…お前に直して欲しいと頼まれたオルゴール、部品が上手く組み込めなくて中々直らないんだ」

シュフラットは数週間前に、ティムールから一つのオルゴールを預かっていた。彼の実家にあった思い出の品であるそのオルゴールは、ゼンマイを巻いてもピクリとも動かない。

ティムールにとって、このオルゴールは大切な人…、自身の尊敬する父親から貰った大切なものだという。

街の修理屋でも『直せない』と言われたこのオルゴールを他に直せる人物を探していた時にシュフラットが修理を請け負ってくれたのだ。

「…シュフラットが直せないなら、もう諦める。ただどうしてもこのオルゴールの音色をもう一度聴きたいんだ…」

ティムールは機械に強いシュフラットが『やれるだけやってみる』と言ってくれた時に心から感謝したのだ。

可愛い後輩であるティムールの悲しい顔を見たくはないシュフラットはもう一度作業用ゴーグルをはめてオルゴールの細部を見つめていた。

「…ティムール」

「どうした?」

「…必ず直してもう一度お前に聴かせてやるから。だからもう少しだけ時間を…」

その言葉にティムールは瞳を細めながら口を開いて言葉を返す。シュフラットの言葉に嘘偽りはない。いつだって真っ直ぐな彼の言葉はティムールの心に届いていた。

「…いつまでも待つから」

「あぁ」

短く言葉を返したシュフラットは再び作業に没頭する為に作業台へと視線を落としていったのだった。


***


いつの間にかティムールはシュフラットの部屋で眠ってしまっていたようで、気が付けば時計の時刻は真夜中の一時を指していた。

ソファで居眠りしていたティムールが風邪を引かないようにシュフラットがタオルケットをかけていたようだ?

「…シュフラット…?」

「ティムール」

「寝てしまったみたいだ、ごめん…」

「…ティムール、これを…」

シュフラットはティムールに直していたオルゴールを手渡して嬉々とした表情を浮かべて呟いた。

「…直せたよ、お前の大事な物」

オルゴールを受け取ったティムールはそれをそっとテーブルに置いてゼンマイを巻いていく。

ゼンマイを巻き終わり、指を離せば懐かしいメロディーがシュフラットの部屋に響き渡っていく。

…ティムールは瞳から涙をぽろりと零しながらシュフラットの顔を見つめた。

「…ありがとう、シュフラット…」

「時間をかなりかけたからパーツ交換とメンテナンスも出来たよ。お前の大事な物を直せて本当に良かった。だから泣くんじゃない」

「…シュフラット、あんたには感謝してもしきれないよ。このオルゴールは故郷を離れる際に父さんが贈ってくれたものでね。中々帰れない俺のためにプレゼントしてくれたんだ。この音色を聴くたびに故郷を思い出す。本当にありがとう」

涙を拭いながら笑顔を浮かべるティムールを見たシュフラットは安堵の表情を浮かべた後、ティムールの身体を優しく抱き寄せながら彼の頭を撫でていく。

「…お前の為になら、何だって俺は…」

「シュフラット、あんたが居なければこのオルゴールの音色を聴くことは出来なかった。ありがとう…」

「…ティムール…」

「…ん?…っ……!」

シュフラットはティムールの唇を強引に奪いそっと口付けていく。その行為にティムールは目を見開いたがやがてゆっくりと瞳を閉じていく。

二人きりの部屋の中、響き渡るオルゴールのメロディーが彼らを包み込んでいったのだった。