穴龍の里

穴龍がr6sのSSをupする欲望の吐き捨て場。

無情にも届かぬ愛は

バックとジャッカル。

『無情にも届かぬ愛は』

 

夜が更けた基地の外で、セバスティアン・コテとリャド・ラミレス・アルハッサルは共にベンチに腰を下ろしていた。

物音一つしない静かなこの場所に夜風が吹いており、二人はお互いの瞳をただただ黙って見つめ合っていた。

バスティアンはリャドの顔を見つめながら彼に言葉を吐き出していく。夜に同化しているリャドの顔を月明かりが照らしている。

「…なぁ、リャド…」

「…何だ?」

バスティアンは言葉にしようか迷っていた思いがあった。それを口にしてしまえば『全て』が終わってしまいそうな気がしていたのだ。

「…あんたが本当に、本当に恋しいと思っている相手は…誰なんだ?」

その言葉を聞いたリャドは可笑しなものを見るかのようにセバスティアンに笑みを浮かべて呟いた。

「そんなことをお前に答える義務が俺にはあるのか?…無いだろう?家族でもなければ恋人でも親友でも同郷でもない。ただのセックスフレンドだ。快楽だけを求め合う、都合の良い関係だ」

バスティアンとリャドは身体だけを重ね合い、寂しさを埋め合わせるだけの都合の良いセックスフレンドだった。

二人きりで身体をベッドに沈めた夜は何度だってあった。しかしそこで交わされた言葉に愛はなかったのだ。

「リャド、あんたは可笑しい…」

「…俺がか?」

「そうだ、身体を重ねる度にあんた小さく知らない男の名前を洩らしていた。俺が抱いているのにも関わらず、あんたは俺の腕の中で俺の知らない男の名前を呼んでいたよ、壊れ物を扱うかのように、愛しげにな…」

「…それで?」

「あんたの兄貴の名前じゃないのか?…リャド、あんたが心から愛して恋しく思っている相手は殺された兄貴なんじゃないのか…!?」

バスティアンの悲痛な思いの丈にリャドは笑みを崩さずに彼の瞳をただただ真っ直ぐに見つめていた。

「…そうだな、俺は兄貴の為に生きて来た。大好きで愛しくてたまらない。胸が苦しくなるくらいに死んじまった兄貴に想いを抱いていたよ。あの人の為にずっと生きて来た。セバスティアン、正直に言ってやる。お前は死んじまった兄貴の代わりだよ。…ずっと伝えようと思ってた」

その言葉を聞いたセバスティアンは唇を噛み締めながらリャドを抱いた夜を思い出す。

汗ばんだ身体、
口から漏れる甘い声、
そして絡み合う夜の視線。

そして一度だけ重ね合った手のひらの熱はセバスティアンの身体だけではなく、心までを飲み込んでいったのだった。

「…そんなに、そんなに兄貴が恋しいのか?生きている俺よりも、もうこの世には居ない兄貴の方がいいのかよっ…!!」

「あぁ、そうさ。俺の生きている意味はな、兄貴に想いを死ぬまで抱き続ける為さ。誰かに与えられる寵愛も愛情も全部全部いらないんだ、俺には兄貴だけ居ればいい…」

「…そうか、なら…」

リャドの言葉を聞いたセバスティアンは口を開いて懐から銃を取り出してリャドの額に銃口を押し当てながら吐き捨てるように呟いた。

「…大好きな兄貴の所に行けるように俺が殺してやる。リャド、俺だってあんたを愛していた。心から愛していたんだ…」

「…所詮それは勘違いさ。同情だ、あんたは兄貴を忘れられない俺の味を知ってしまった。『禁断の果実』の味を知っちまったのさ。…なぁ、早く俺を殺してくれ。もう疲れたんだ、兄貴も俺と一緒に居たいって言ってる。早く殺して楽にしてくれ…」

リャドのセバスティアンの銃を持つ手に自ら手を重ねて乞うように彼を見つめた。夜が支配するこの場所で、リャドは揺れるセバスティアンの瞳を痛々しいくらいに真っ直ぐ見つめて居た。

 

 

「…あんたを、リャド・ラミレス・アルハッサル、あんたを心から愛していたよ…っ…」

「…セバスティアン…」

 

バスティアンは怯むことなくリャドの額に銃口を押し当てて引き金を引いてしまった。リャドは絶命する数秒前に、彼の名前を呼んで聞こえないくらい小さな声で言葉を漏らしていた。


『ありがとう』

それがリャドと交わした最期の言葉だった。倒れ込んだリャドの遺体をセバスティアンは見つめながら銃を降ろす。

気が付けばセバスティアンの瞳からは一粒の涙が頬を伝って落ちていく。その涙はもう二度と目を覚ますことのないリャドの顔に落ちていった。

「…なぁ、俺はどうしたら良かった?こんな事、本当は望んでなんかいなかった。リャド、俺はできる事ならあんたを幸せにしてやりたかった。ただ、それだけなのに…」

今更、もう遅い。

全てが遅過ぎたのだった。

この想いは二度と届かなければ、二度とリャドの耳に入ることはないだろう。こんなにも届かぬ愛はいとも簡単に、無情にも儚く散って行くなんて。

 

「…リャド、またあんたに逢えた時、今度はちゃんと一人の人間として最初からあんたを…愛してやりたい。だからあんたも、また俺に逢えたら俺だけを…」


『愛してくれ』


バスティアンは喉仏に銃を押し当てて躊躇いもなく引き金を引いたのだった。血飛沫が上がり、セバスティアンの遺体はリャドの身体の上に崩れ落ちるかのように重なっていった。

無情にも届かぬ愛は永遠に眠る二人の中に溶けて行き、儚くも穏やかに揺れる月明かりに同化して散っていったのだった。


END.

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